農林水産業者の朝
[奈良県桜井市]
「細きこと糸の如く 白きこと雪の如し」と
「日本山海名物図会」(1754年刊)に謳われた三輪そうめん。
奈良時代の頃からそうめん作りが行われていたとされる三輪地方(奈良県桜井市)で
工程のすべてに人の手が加わる伝統製法を守り続ける
(株)三輪そうめん小西の製造現場を訪ねました。
左:小西大士さん、右:小西幸夫さん
PROFILE
(株)三輪そうめん小西の代表・小西幸夫さん(1950年生まれ)は、創業約100年の同社3代目。19歳から手延べそうめんを作り続けて53年。奈良県三輪素麺工業協同組合の理事長を務める。工場長の小西大士さん(1984年生まれ)は幸夫さんの次男。料理人の修業を経て、21歳から同社でそうめん作りに携わる。現在、従業員は12名。
限りなく細く長く。
2日がかりの丹精込めた
手延べそうめん作り
夏の風物詩として知られるそうめんですが、製造の最盛期は冬。12月上旬のある朝、小西幸夫さんと大士さんは、まだ外が暗い3時45分に作業を始めました。まず、こね機に小麦粉を入れ、塩水を加えます。2日間かけて製造するため、塩加減は当日と翌日の気温や温度などを見計らいながら調整します。「この塩加減を決めるのが、全工程の中で一番大事。そうめんの味やコシは、塩加減に大きく左右されるからです」と幸夫さん。長年の経験が判断材料になっているといいます。
こね機で麵生地を30分以上こねます。小麦粉と水をこねることで形成されるグルテンが働き、粘りや弾力が出てきます。部分的に硬すぎたり柔らかすぎたりせず、均等の弾力になるようにするため、機械を止め手でさわって確かめることもしています。硬い生地を柔らかい生地に混ぜ合わせたり、時には少し水を足したりと微調整します。
こね上げた麺生地を麺圧機に移し、30分ほど回転させながら熟成させます。熟成によって生地がなめらかになり、グルテンも落ち着くそうです。
その間に、製造所とつながっている自宅で朝食タイム。まだ早朝ということもあり、食事はパンとフルーツなど、簡単なもので済ませることが多いそうです。
麺生地に圧力をかけて延ばしながら太い板状に切り出し、手作業で採桶(さいとう)と呼ばれる丸い桶に巻き込んでいきます。「まだ麺圧機がなかった父の若い頃は、足で踏んで平らにしていたと聞いています。当時と比べると、手延べそうめん作りも機械化が進んで、だいぶ作業効率が上がったのではないでしょうか」と大士さん。
板状の麺生地を重ね合わせ、ローラーに数回通して圧延を繰り返します。平たい板状から丸い棒状へと変わってきました。
麺生地を4つのローラーに通し、細く延ばしながら綿実油(めんじつゆ:ワタの種子から採った油)を塗り、採桶に巻き込みます。
覆いをしてしばらく熟成させます。この熟成にも麺のコシの秘訣があると考え、作業工程の合間合間に4回の熟成時間をとっています。
麺生地のくっつきや乾燥を防ぐため、ハケでまんべんなく油を塗ります。そして直径15ミリメートルのローラーに通し、細ひも状にしていきます。この工程を「油返し」と呼びます。
徐々に細いロールを使用し、採桶への巻き込み、熟成を繰り返す「こより」という工程を行います。段階的に細めていくのは、麺のコシに大きく影響するグルテンにできるだけ負担をかけないため。ここでは最終的に直径5.5ミリメートルのローラーを使用しました。
さらによりを掛けて細くするため、掛け巻機という機械を使います。麺が重ならないよう、開いた2本の棒に延ばしながら8の字形に掛け付けていくと、細さは直径3ミリメートルから4ミリメートルほどになりました。
麺を2本の棒に掛けたまま、風呂と呼ばれる長持状の木箱に入れて数時間熟成させます。
同じ頃、2階では別の作業が行われていました。このフロアには、前日に製造し、約2メートルにまで引き延ばして乾燥させた麺が、ハタと呼ばれる干し具にびっしりと掛けられています。最初の麺生地がこれほど細く長くなるとは驚きです。この時間には麺が完全に乾燥しているので、仕上がりに問題がないか検品します。
麺をカッターで製品規格の19センチメートルに裁断し、再度検品します。
裁断した麺を1束50グラムの重量に計量し結束します。鳥居印の結束帯紙は三輪そうめんの証です。
一方、1階では掛け巻作業後に風呂の中で熟成させた麺を、60センチメートルほどの長さまで引き延ばす小引きという作業を行っています。引き延ばしたら再び風呂に入れ、2時間以上熟成させます。
このようにたくさんの手間ひまをかけて出来上がる三輪そうめん。材料は小麦粉、塩、水、綿実油のみ。シンプルだからこそ、奥行きのあるおいしさには、作り手の優れた技とチームワークが不可欠です。(株)三輪そうめん小西のみなさんは、万葉の昔からこの地で培われてきた伝統製法に最新設備を組み合わせ、日々真摯にそうめん作りに取り組んでいます。
季節や料理ジャンルを問わず
楽しめる三輪そうめん
しっかりとしたコシがあり、茹でのびしにくい特徴をもつ三輪そうめん。冬は好みの具をのせ、温かいだし汁を注いだ、にゅうめんがおいしい季節です。和食に限らず、洋食や中華に取り入れるのもおすすめ。奈良県三輪素麺工業協同組合のHPには、そうめんブイヤベース、そうめんペペロンチーノ、麻婆茄子あんかけといったレシピが並びます。ぜひ四季折々の食卓で、三輪そうめんを味わってみてください。
*三輪そうめんはGI産品です。GI産品とは地理的表示法に基づき、伝統的な生産方法や生産地の気候風土が品質などの特性に結びついていると判断され、その名称が知的財産として登録・保護された産品のこと。GIマークが目印です。
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449