廃校再生プロジェクト
小さな歴史観光拠点に
岐阜県美濃市教育委員会が、市内の旧片知小学校を活用し、2018(平成30)年にオープンした「美濃和紙用具ミュージアム ふくべ」。美濃和紙づくりのための用具をはじめ、さまざまな昔懐かしい民具を展示公開しています。
かつて和紙産業で
栄えた美濃の町
清流長良川とその支流の板取川が貫流する美濃市エリアは、良質な水に恵まれ、原料の楮(こうぞ)が古来栽培されていたことから、和紙の一大産地として発展しました。江戸時代になると障子紙などの需要が急増し、和紙商家が立ち並ぶ美濃の町は繫栄を極めたといいます。
全国の伝統和紙の中でも、美しさと品格が高く評価されている美濃和紙。繊細で柔らかな風合いながら、強靭な耐久性を備えているのが魅力です。とりわけ最高峰の本美濃紙は、その手漉き技術が国重要無形文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されるなど、国内外で高く評価されています。美濃市では、1300年以上も受け継がれてきた美濃和紙の技術と文化を継承し、新たな需要創出や観光活性化に活かす取り組みが推進されています。
美濃和紙づくりに欠かせない
用具を収集
美濃和紙づくりを支える大切なものが用具です。手漉き和紙は、気の遠くなるような工程を経て出来上がります。楮(こうぞ)を蒸す、皮をはぐ、水にさらしてゴミを落とす、釜で煮出す、繊維をほぐす、紙を漉く、乾燥させる、裁断し選別する。これらすべての工程でさまざまな用具が使われますが、そのひとつひとつにも用具職人の熟練の技が必要とされます。
美濃市は、先人たちがふるさとに住み暮らした時代を語り継ぐため、2009(平成21)年から3年ほどかけて、市内に点在する民具を民俗資料として収集しました。特に簀(す=紙漉きに使う網)や桁(けた=簀をはさむ枠)など和紙用具を重点的に収集。これは和紙づくりの技術だけでなく、和紙用具づくりの技術も後世に伝えるべき重要な“地域資源”であるという考えからです。市民から寄贈された約5,000点の民具の中には、江戸時代から昭和時代初期につくられた、歴史的価値の高い和紙用具が多数含まれていたそうです。
和紙の里にある廃校が
ミュージアムに生まれ変わる
収集した貴重な和紙用具を展示公開するミュージアムを整備し、美濃和紙の歴史や文化を伝える新たな観光拠点をつくりたい。そんな想いで美濃市が活用することにしたのは、児童数の減少で2002(平成14)年度に廃校となった旧片知小学校の校舎です。廃校後は地域交流・生涯学習センターとして使われていました。「廃校を活用した小さな歴史観光交流拠点及び美濃和紙産業を支えた用具類の支援拠点整備計画」が内閣府に認定されたのは2017(平成29)年です。地方創生拠点整備交付金と地方創生推進交付金あわせて約3,000万円の交付が決定。自治体負担約5,000万円とあわせた総事業費約8,000万円で、校舎改修工事や展示設営が行われました。
旧片知小学校があるのは、美濃市の中心市街地から車で15分ほど北部に向かった下牧地域。豊かな山林と清らかな川に恵まれ、古くから和紙づくりが盛んに行われていたエリアです。この廃校が選ばれた大きな理由は、和紙の里にあるという立地にほかなりません。地域住民の大半は1970年代前半頃まで美濃和紙の生産者だったので、和紙用具のミュージアム整備に理解があったそうです。このエリアには、すでに観光拠点としてよく知られる「美濃和紙の里会館」があります。生産地に第2の観光拠点を設け、中心市街地とあわせた広域の美濃和紙観光周遊ルートを形成したいという狙いもありました。
広々とした空間構成は
廃校活用のメリット
こうして2018(平成30)年に誕生したのが「美濃和紙用具ミュージアム ふくべ」です。ネーミングの由来は地域の山、瓢ヶ岳(ふくべがたけ)。2階の展示エリアに、和紙用具を中心とする約700点の民具がずらりとディスプレイされたさまは、なかなか壮観です。
簀(す)の材料となる竹ひごをつくる刃を固定する「簀葉こき台」や、楮(こうぞ)を細かくする機械「ビーター」など、展示品には大型のものが少なからずあります。そこでメインの展示エリアは教室の引き戸を取り払い大空間に。空間を広々と活用できるのは、スペースのある廃校ならではといえます。展示品以外の数千点に及ぶ収集民具も、2階と3階の教室をバックヤードとし、すべて収蔵することができました。
和紙用具以外の民具も多彩に展示されています。昭和初期の一般家庭の中の様子を再現した展示室、ミシンや鍋釜など生活を支えた道具類の展示室、養蚕の糸車や脱穀機、鋤(すき)、のこぎり、竿など農林漁業を支えた用具類の展示室があり、昔の人々がどのように暮らしていたかがしのばれます。
岐阜県内の小学生が
社会科見学に訪れる
ミュージアムは岐阜県内の小学校の社会科見学に利用されています。県の伝統工芸である美濃和紙とその用具について学べるため、毎年たくさんの小学生が訪れています。石臼を回す、洗濯板を使って洗濯するといったチャレンジスポットが各所にあり、昔の暮らしの一端を体験できるのも、こちらの施設ならではの特徴です。校舎1階のラウンジには、さまざまな小学校の児童から寄せられた感想文が飾られていました。
ミュージアムの管理は(公社)美濃市シルバー人材センターに委託。同センターに所属するスタッフの方々が数名常駐し、来訪者の案内役もしています。美濃和紙の生産者がたくさんいた時代を知っており、用具の知識も豊富な世代の方々なので、丁寧な解説が聞けると評判です。スタッフの松岡嘉三さんは、まさに紙漉き職人の家のご出身。用具の収集や展示設営にも尽力した功労者です。「このあたりの集落の家は、ほとんどが昔は紙漉きをしていました」と思い出を話してくれました。
校舎1階は、今も地域交流センターとして使用されています。毎日のように近隣の高齢者の方々が集まり、校庭でグラウンドゴルフをしたり、旧職員室でトランプをしたりしているそうです。高齢者ふれあいサロン「ふくべ会」の開催場所でもあります。一方、入口スペースにはボルダリング用の小さなクライミングウォールがあり、子どもたちが無料で登れるようになっています。瓢ヶ岳(ふくべがたけ)がボルダリングの名所であることにちなみ、県の補助金を受けて設置されました。歴史観光拠点でありながら、地域住民の憩いの場でもあるという廃校活用の好例です。
美濃和紙
用具ミュージアム
ふくべ
外部リンク
美濃市教育委員会
人づくり文化課 文化財係
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449