「LINEヤフーらしい、 強靭でしなやかなガバナンスを」 社外取締役・髙橋祐子|LINEヤフー株式会社

「LINEヤフーらしい、 強靭でしなやかなガバナンスを」 社外取締役・髙橋祐子

リーダーズ

LINEヤフーでは、2023年10月1日の新会社発足以降も、経営体制のアップデートを進めています。
2024年6月18日に開催された定時株主総会では、取締役選任に関する2つの議案がいずれも承認・可決されました。その結果、社外取締役比率が67%と過半数を超え、コーポレートガバナンスの強化を進めるための新たな経営体制に移行しました。

今回、新たに社外取締役(独立役員)監査等委員に就任したのは、公認会計士のバックグラウンドを持つ髙橋祐子さんです。日本を代表するグローバル企業などで多様な職務を経験し、現在、複数の企業で社外取締役を務めています。

これまでのキャリアや仕事に対する価値観、LINEヤフーの強みや課題について、どのように考えているのか。そして、社外取締役として今後どのように経営に貢献したいと考えているのかをうかがいました。

髙橋 祐子さん(たかはし ゆうこ)
LINEヤフー 社外取締役(独立役員)監査等委員
1992年、センチュリー監査法人(現あずさ監査法人入所)。1996年、公認会計士登録。2001年、㈱電通入社後、経理局長、㈱電通グループ執行役員などを経験。2021年、髙橋祐子公認会計士事務所を開設。2022年1月、17LIVE㈱社外監査役(現任)。2022年3月、㈱電通グループ取締役。2023年、ヒューリック㈱社外取締役(現任)。2023年、マイクロ波化学㈱社外取締役(監査等委員)(現任)。上智大学法学部卒業、英国ウォーリック大学大学院修士課程修了。
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グローバル企業とのM&AやPMIの経験を通して学んだこと

――これまでどのようなキャリアを歩んできたか、教えてください。

大学では法律を学び、卒業後は一度、法律事務所に就職しました。しかし、その後、公認会計士の仕事に興味を持つようになり、資格を取得し、大手監査法人の国際部に勤めました。その後、イギリスの大学院で組織論を学びました。振り返ると20代の頃は迷いながら、自分探しをしていたような気がします。

帰国後、広告・マーケティングに加えて、スポーツやエンターテインメントなど、幅広く展開していた広告代理店の電通に興味を持ち、中途入社しました。
電通では財務領域での経験や知識を生かして、クライアントのIR(Investor Relations・投資家向け広報)支援、国内グループ会社や海外グループ会社の経営管理などに携わりました。また、営業として、現場の最前線での経験も積みました。

入社当初から、いつか電通の持っている強みやアセットを海外に展開するグローバル化に貢献したいと思っていました。その後、電通のM&A(合併・買収)の支援、M&A後のPMI(統合による効果の最大化を目指す一連のプロセス)の役割を担うようになりました。

――キャリアにおけるターニングポイントになったのは、どんな場面でしたか?

2013年、電通がイギリスの上場会社イージス社を買収したタイミングです。この買収によって当時、数パーセントだった電通の売り上げ総利益に占める海外売り上げ比率が一気に上がって50%超となり、本格的にグローバル化が進みました。会社にとっての大転換期であり、私のキャリアにおいても重要なターニングポイントになりました。

そのプロジェクトにおいて、私はファイナンス領域の日本側のPMI責任者を任命されました。ですが、これほど大きな会社との統合作業をどう進めていくのか、正解が自分の中にありませんでした。
また当時、電通内でも海外事業に携わるメンバーも少数で、特に管理部門となると、多くが未経験という状況でした。
一方で、イージス社はイギリスの上場会社で、約180カ国で数百社の会社をすでに統治してきた経験がありました。つまり、こちらが買収した親会社でありながら、グローバル経営に関しては、イージス社側に圧倒的なノウハウがあるという状況でした。

そこで、「親会社、子会社」という関係性ではなく、「これから真の意味のグローバル企業になっていくために必要なことは教えてほしい」というスタンスで臨みました。

幸い、イージス社のファイナンスチームのメンバーも皆さん優秀で、真のプロフェッショナルでしたので、非常に多くのことを学ぶことができました。CFO(最高財務責任者)も40歳ほどの若いリーダーで、頼もしいリーダーシップを発揮してくれました。

――異文化のビジネスコミュニケーションで苦労されたことはありましたか?

イージス社も、親会社が日本の企業ということで、「どんなことを言われるのだろう?」と不安を抱いていたようでした。欧米企業だと彼らもイメージがつきやすいのでしょうけど、「東洋の日本の企業が来るぞ」ということで、当初は戦々恐々としていたようです。

早い段階で、そのような不安を解消するためのディスカッションを行い、「いろいろ一緒に作っていきましょう」という話をしてからは、相手側も安心し、様々な取り組みに協力してくれるようになりました。
イギリスにはパブでビールを飲む文化があります。私は当時イギリスに赴任したわけではないのですが、なるべく現地に行って、パブでのコミュニケーションも活用したことで、チームビルディングがうまくいったと思います。

欧米では、会計士から事業会社に移るというのがファイナンスに携わる人の一般的なキャリアパスのひとつとなっています。私も日本でいわゆるBig4といわれる監査法人に勤務し、イギリスに留学経験もありました。そういった共通点があったことも、コミュニケーションが円滑に進んだポイントかもしれません。

――このPMIを通じてどのような学びを得ましたか? またLINEヤフーに生かせるエッセンスはありますか?

今、当時の仕事を振り返ってみて感じることは、多様性が組織にとっていかに大切かということです。
現在、多様性の重要性が当たり前のように言われ、「いろんな人が集まった方がいいものが生まれる」と、よく言われます。その通りですが、私は「多様性が、なぜ大事か」というと、何よりも「多様性が、組織を強くする」と思うのです。
私も当時、「なぜいちいち説明しなければいけないの?」「相手はなぜわかってくれないの?」と思ったこともありました。
日本人同士とか、同じ会社の社員なら言わなくてもわかることを説明しなければならず、説明してもなかなか理解してもらえないこともありました。ですが、「なぜわからないのだろう?」、「こう説明すればよいのかな?」と、一生懸命、課題解決の方法を考えました。
日本人同士だと1で済むところを10ぐらいのプロセスを経て行ったわけです。
結果、そのプロセスそのものが、私自身を強くしてくれましたし、それによって組織もチームも強くなり、成長できたと感じるのです。

現在、旧LINEと旧ヤフーという異なる組織が一緒になろうとしている状況は会社にとってさらに強くなるチャンスだと私は思います。乗り越えなければならない壁も多いのは確かですが、「今、ステップアップするところにいるのだ」と感じて取り組むことで、前向きになれるのではないでしょうか。

――成長過程での苦労が、より組織を強くする、ということでしょうか?

はい、そのような経験によって組織が強くなるのは間違いないと思います。

一般的に、PMIでは、成約直後から「100日でやらなければいけないMust Have」といった作業計画やスケジュールがあります。私自身も、そういった初期段階で集中的に行うプロセスをリストアップして実施しました。

ただ、本当は100日が終わってからの方がもっと重要です。
狭い意味でのPMIは長くても1~2年ほどで完了することが多いのですが、規模によっては、10年くらいかけて達成するものではないかと振り返って思います。
初期段階で整えたタスクが、本当の意味で実施できているのかはもちろん、どんどん変化する会社の状況や課題に応じたアップデートができているのか。しっかり長いスパンで、PMI責任者を設定して、継続して進化させていくことが大事ではないでしょうか。

多様な視点とバランス感覚を持って、最適な解を求めることが重要

――仕事をする上で大切にしている価値観はありますか?

まず、私自身の仕事のスタンスとして、「仕事は基本、断らない」。そして、「目の前にある仕事を120%でやる」。この2つを大切にしています。

「仕事を断らない」のは、出会った仕事には必ず意味と縁があると思っているからです。そこで学ぶこと、出会う人を大切にすることで、次につながってきたように思います。また120%にも理由があります。100%では、相手の期待は超えられません。
しかし、そこに20%が加わることで、LINEヤフーのミッションにもある、「WOW」や「!」を生み出せると思っています。20%を生み出すために、一生懸命考えて、自分なりのクリエイティビティを発揮することで、付加価値のある仕事をしたいと思っています。

――現在は、経営者として、難しい判断を求められることもあるかと思います。その際、意識していることはありますか?

「中庸」という考え方が、私のよりどころになっています。これは儒教の教えにも出てきますし、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが説いた概念としても知られています。
中庸というと、「ほどほど」または「妥協案」のように捉える方もいるかもしれません。ですが、アリストテレスは「何事も偏りや不足を避けることが徳」であり、「勇気とは無謀と臆病の間の『中庸』の状態」と述べています。

これだけスピード感や多様性がある現代社会では、わかりやすい答えや正解が1つということはないでしょう。
世の中を便利にすることと、地球環境を守ることなど、本当に難しいバランスが求められます。重要なのは、多様な考え方と価値観のバランスを取って、その時々に最適な解を見つけ出し、実行すること。今、人間に求められている重要な能力の1つだと思っています。

取締役会のような場でも、その考え方や能力が求められていると思っています。様々なステークホルダーの利益・不利益を考え、最適な解を出すことが大事なのです。
それぞれの会社にとっての最適解は違いますから、それは非常に難しいことです。

当社の場合は、複雑な資本関係や様々な事業ポートフォリオがあり、リソースの配分も難しい問題です。また、長期と短期の視点も重要で、現場の方に目の前の課題解決に全力で取り組んでもらっている一方で、取締役会はさらにその先を見据えた視座を持つ必要もあります。リスクテイクを含め、その全てを考慮した上で、最適解をピンポイントで見つけ出すような作業を心掛けています。

事業ポートフォリオが幅広く、事業そのものが社会的に大きな意味を持つ

――LINEヤフーのサービスで使っているものはありますか?

LINEもヤフーも以前からよく使っています。朝起きたら、まずYahoo!ニュースを見ます。LINEは欠かせないコミュニケーションツールで、ないと困ってしまいますね。
PayPayももちろん使います。また、時間ができた時、京都などへ小旅行することもありますが、その際はホテルやレストランの予約で一休をよく使います。

一ユーザーとして日々、LINEヤフーからは様々なサービスが誕生しているのを感じていました。また、一ビジネスパーソンとしては、統合や合併のニュースを見ていましたから、勢いがあって、動きのある会社だなというイメージを持っていました。

――強みについては、どのように認識されているでしょうか?

国内最大級の顧客基盤を持ち、日常生活に欠かせない情報コンテンツ、コミュニケーション、コマースに加え、決済ツールもあって、非常に事業ポートフォリオが幅広いです。ポテンシャルが高い、その事業環境はスピーディーに変化していますが、皆さん、持久力を発揮して、先手先手を打ちながら対応されています。
最近ではAIの進化も目覚ましいですが、今後もうまく活用していくのでしょう。
その意味ではLINEヤフーが目指すライフプラットフォームがすでに構築されていますし、進化させようとしています。 さらに日本だけではなく、アジアにも展開していて、拡大に向けて取り組んでいますよね。

LINEヤフーの事業そのものが人々の生活に密着し、社会的にも大きな意味を持っています。それだけに社会的責任も大きいわけですが、それ自体が経営者や社員にとってモチベーションの源泉になっているのではないでしょうか。

どんな会社もそれぞれパーパス(存在意義)があり、社会的に意味があることを行っています。ですが、これだけのダイナミズムを持って、社会的なインフラとして機能している会社はそんなに多くはありません。入社を希望する方にとって魅力的なポイントになっていると思います。

――では、今後の課題はどのように感じていらっしゃいますか?

巨大な競合がいるなかで、LINEヤフーらしいユニークネスを持ち、規模だけではない戦い方をしていく必要があります。究極的にはしっかり利益を上げて、結果を出し、世の中のためになりたい。そのために、どう戦うのか、競争力の源泉は何かを、私としても取締役会で真剣にディスカッションしていけたらと思います。

そのためには取締役会がしっかり機能することが重要です。特に社外取締役が過半数となり、それだけ多様な知見を持つ人たちが集まっています。様々な意見を出し合いながら、会社の成長のために良いソリューションを出していければと思います。

LINEヤフーらしいガバナンスを強靭かつ、しなやかなものに

――今後の抱負についてお聞かせください。

さきほどお話しした、「中庸」の考え方を忘れずにいたいと思います。私の強みは、突き詰めると、長い間、事業会社で利害の対立する課題解決に粘り強く取り組んできた経験です。

専門分野は財務、会計、監査領域ですが、そこにとどまらず、グループ経営、組織運営、人材のマネジメントなども、正解のない世界で一生懸命取り組んできました。
LINEヤフーでマネジメントを行う皆さんも、社員の皆さんも、日々難しい判断や決断に直面していることを理解しているつもりです。取締役としてその感覚を持ち続け、最適なサポートや助言をしていきたいと思っています。

日本企業のコーポレートガバナンスは、ここ数年で大きく進化していますが、まだまだ発展途上です。地道な取り組みが必要で、時間もかかるでしょう。
LINEヤフーにとってどのようなガバナンスが最適なのか。ボードメンバーや担当部署、投資家の皆さんと対話を重ねながら、LINEヤフーらしい強靭かつしなやかなガバナンスを構築できるよう尽力していきたいと思っています。

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取材日:2024年7月24日
※記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。

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