ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が手掛けた「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」2021-22年秋冬メンズコレクションでは、歌手マイケル・ジャクソンにインスパイアされたアイテムが披露されたが、ドキュメンタリー『Leaving Neverland』における児童虐待疑惑の影響でブランド自体に対する批判も高まっている。これに対し、ブランド側も正式にコメントを発表した。
マイケル・ジャクソンに着想を得るデザイナーやブランドは、なにもヴァージル・アブローだけではない。昨年11月には「ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)」が、そして2021年には「シュプリーム(Supreme)」がオマージュを捧げたコレクションを発表したほか、「バルマン(Balmain)」も2021年春夏メンズコレクションでマイケル・ジャクソンの影響を受けたアイテムを制作。
ドキュメンタリー『Leaving Neverland』は5月25日~30日にアメリカのHBOで放送され大きな話題となったが、ラジオ局がジャクソンの楽曲放送を取り止めるなど、様々なボイコット運動を誘発している。
数日前、ヴァージル・アブローは「Complex」と「The New York Times」に対し、コレクション制作の時点でドキュメンタリーについては何も知らなかったと話した。アブローによると、「彼はその優れた部分で世界中に受け入れられていると思って」おり、そうした点でマイケルをしのぶ目的があったという。
議論が過熱したことを受け、5月25日に「ルイ・ヴィトン」側も正式な声明を発表した。デザイナーの意図は「ポップアーティストとしてのマイケル・ジャクソンを語ること」にあり、「皆が知っている彼の対外的な人生のみを取り上げたもので、そうした部分は多くの歌手やデザイナーに影響を与えている」。
しかし一方で、「ドキュメンタリーによって、あのショーが感情的なリアクションを引き起こすことは理解できる」ともアブロー。「児童虐待や暴力、人権に反する行為は、いかなる形であれすべて非難されるべきだ」。
「ルイ・ヴィトン」のマイケル・バーク(Michael Burke)会長兼CEOも、「ドキュメンタリーで提起されている問題は本当に恐ろしいと感じている。子供の保護と健康は『ルイ・ヴィトン』にとって非常に重要だ。こうした問題に対して全力で取り組んでいきたい」と補足している。
2021-22年秋冬のメンズコレクションでは、ショー会場の内装やインビテーションのほか、シューズやスパンコールつきのトップ、マイケル・ジャクソンのイラストが描かれたTシャツなどが披露されたが、ブランドがこれらの商品を実際に生産する可能性は低い。
今回のことで特に「ルイ・ヴィトン」が懸念しているのは、やはりブランドイメージの低下だろう。SNSでは、一度"炎上"するとすぐに広がり、事態の収拾が難しくなる。最近では、人種差別的な商品を販売したとして激しく批判されるラグジュアリーブランドが相次いだ。
ポリモーダ(Polimoda)のストラテジー&ヴィジョンアドバイザー、リンダ・ロッパ(Linda Loppa)は、「今日の社会にはこうした"炎上"が後を絶たない。今回の『ルイ・ヴィトン』の件もその一例だと言えるだろう。それがより大きな議論を開いていくのなら建設的だ。しかし、あまりに行き過ぎるようなら、クリエイティビティの妨げになってしまう可能性もある」と警鐘を鳴らす。