ずとまよ、遂に山陰へ上陸す……。今や音楽チャートの中心を担うずっと真夜中でいいのに。が次に選んだアクションは、過去最大となるホールツアー!都市部はもちろんのこと、これまで訪れていなかった地方都市含めた新たな場所を居住地とすべく動き始めた今回のライブが意味するところは、ずとまよ印の音楽畑を更に広げることが前提にあると見て良いだろう。
2020年は『やきやきヤンキーツアー』、2021年は『果羅火羅武ツアー』……。そして今回のツアータイトルは『やきやきヤンキーツアー2 〜スナネコ建設の磨き仕上げ〜』と題され、これまで荒ぶってきたヤンキーたちが定職に就き、建設現場で汗を流す未来の話をイメージして作られたものとなった。もちろんチケットは全公演が即完。当日は地元民のみならず、他県からも多くのファンが大集合。ガチャガチャを大量購入する人、全身を最新のずとまよグッズであしらった人(タイトルの通りグッズもヤンキーチックなものが多いので、端から見ると不良に見えるのが笑える)で早くも賑わいを見せる会場である。
会場に入るとどこからともなくトンカントンカンと謎の異音が鳴り響いていて、同じく会場に足を踏み入れた人はステージに目を向けて「何だあれ!?」と声を上げている。ふとステージに目を向けるとびっくり仰天、そこにあったのはまさしく建築現場。子供横断注意の黄色い立て札、片側交互通行の際によく見るヘルメットを被って旗を振る人の電光板……。更に上部には『㈱スナネコ建設』と書かれた看板とクレーン車までが鎮座し、何やら背後には円盤状の装置が据えられている。楽器類が置いてあるので辛うじてライブ会場だと分かるが、これまで多くのライブを観てきたつもりの僕でさえ「マジで何これ……?」と言ってしまうほどのカオス感。ただこの過剰なまでの舞台演出もまた、ずとまよのライブの恒例でもあるのだ。
興奮に包まれる我々をよそに、17時30分になると定時の合図のおぼしき建設現場のメロディーが流れ、作業が中断。従業員が次第に帰っていくと同時に、少しずつ暗転していく会場である。「一体どんな感じで登場するんだ?」と思っていたところ、どこからともなく鳴り響いたのはバイクのエンジン音。しばらくするとステージ袖からビカビカの暴走族バイクと共にバンドメンバーが登場し、メンチを切りながら各々の配置についていく。よく見るとバンドメンバー全員が髪をガッチガチに固めていて、顔にはアイシャドウ、服装は『永遠深夜』『研磨上等』などと書かれたレザーで不良チック。驚くべきはバンドメンバーの数であり、ギター・ベース・ドラムの他、パーカッション・キーボード・トロンボーン・トランペット、そしてお馴染みとなったOpen Reel Ensembleのオープンリール隊2名の、なんと総勢9人もの大所帯!そのあまりの密集ぶりに、最後に登場したACAね(Vo.G.Vibraphone.扇風琴)の存在が見えなくなってしまう程。
気になるライブの幕開けは、なんと既存曲のメドレー!重鎮バンドのファンサービスとして時たま行われることのあるこの試みだが、まだまだずとまよは若手筆頭株。更には『冒頭からメドレーをする』との極めて挑戦的な姿勢は、あまりに虚を突かれた代物でもあった。まずは気怠げな“JK BOMBER”で徐々に雰囲気を作っていくと、“こんなこと騒動”では管楽器の演奏が耳をくすぐる。かと思えば“ヒューマノイド”では大量のレーザービームが放射されまくる攻撃力抜群の演出が、“はゔぁ”では歪みエフェクターによる激烈ギター……。この至福の空間は実際の時間にして十数分だったと思うが、あまりの密度の濃さに既に興奮は最高潮に。フロアには早くも多くのサイリウムの海が広がっていた。
最新EP『虚仮の一念海馬に託す』が最もサウンドの振り幅を効かせた作品であること、冒頭からメドレーという衝撃的な展開を見せたこと、また「ライブで研磨を続けていきたいと思っています」という後半のACAねによるMCからも分かる通り、今回のツアーはずとまよがこれまで積み上げてきたライブの在り方を、よりブラッシュアップさせて見せる試みが取られていた印象が強い。ゆえにセットリストに関しても、これまでライブの定番となっていた“脳裏上のクラッカー”や“正しくなれない”といった楽曲が遂にセトリから外れたり、既存曲も新たなアレンジが加えられていたりと、これまで以上に予測不可能な代物となった。
中でも驚くべきは、その演出の豪華さ。元々ずとまよのライブはACAねの脳内にあるイメージを具現化するべく、ハチャメチャに金をかけたセットで知られる。今回も同じくその演出効果に驚かされることとなったのだが、大きな注目部は『背後の円盤』と『電光板』の2点。まず前者はクルクルと換気扇チックな円を常に描いているのだが、その色が千変万化する仕様で目にも楽しく、中央部は『JUMP!』や『勉』『愛愛』といった歌詞の一節を担ったりも。また後者については、基本的には親が子供の手を引いたイラスト(イメージは以下)が映し出されているのだが、サビになると歌詞をそのまま投影したり、このふたりの映像が片手にサイリウムを持った姿に変化したりと面白い。ちなみに楽曲の演奏時には、必ず演奏曲のタイトルが映し出されるようになっていたのも◯。総じて、ずとまよのライブに初めて来た人でも大いに楽しめる工夫が凝らされていた。なおこれまで通り素顔を明かさない特性上、ACAねの顔には特殊なブラックライトが常に当てられており、その表情は終始全く見えることはない。またバンドメンバーは今回のツアーを象徴してか、全員が髪を逆立てて特攻服を着ていて、コンセプト通りの流れだ。
メドレーが終わると、ここで一旦のブレイク。初めて口を開いたACAねはいつも通りのウィスパーボイスで「ここは高さ70メートル。われわれ株式会社スナネコ建設は、日夜高所作業を頑張っています。今はわれわれが作ったこの装置の、試運転中です……」とボソリと説明。その裏ではOpen Reel Ensembleのメンバーが火花を散らしながら円盤を調整している。ただACAねはその仕事ぶりには満足していないらしく、メンバーの吉田匡に「まっさん、そこちゃんと磨いといて」と檄を飛ばす場面も。その発言に対して全員が「ヘイっ!」と返事することから見ても、ACAねがこの会社のリーダー株であることは間違いないようだ。当の本人のACAねはと言うと、「コロナ禍で荒ぶっていたやきやきヤンキーたちは数年を経て、定職に就きました……。アタイはトップのACAねだよ。よろしくな」と自己紹介。今日はあくまでもこのキャラクターで行くようだが、その口調はかなりの棒読みで、タメ語と敬語が混在していたり、話しながらフフっと笑ってしまったりと、無理している感も垣間見えるのが面白い。
ここまでメドレーが続いてきたが、続く“馴れ合いサーブ”からまたひとつ熱量は上がり、更なる興奮へと導かれていく。人と人との複雑なコミュニケーションを卓球に例え、にわかにACAの怒りをも感じさせるこの楽曲。電光板にはヘルメットを被った作業員がブンブンと旗を振る映像が投映され、ファンもそれに合わせてサイリウムやずとまよしゃもじ(グッズ売り場で販売中)を振り回していく最高の空間だ。気付けば背後の円盤もカオスな色合いで発色し、その勢いの凄まじさから火花も散っている。そんなカオス極まりない中でACAねはサビのラストで「歌って!」と煽り、円盤の中心に浮かんだ『愛愛』を叫ぶ我々である。……かと思えば、なんと後半では横浜銀蝿の”ぶっちぎりRock‘n Roll“や“ツッパリHigh School Rock‘n Roll”を彷彿とさせる古風なギターサウンドが鳴り響き、背後の円盤の中心にはツイストを踊るヤンキーの姿がモノクロで投影!横浜銀蝿がそもそもヤンキーイメージの代表格バンドではあるが、今回のコンセプトがなければずとまよとの親和性はほぼゼロだった訳で……。このポップとコテコテロックの対比に爆笑してしまったのは、僕だけではないだろう。
「ヤンキー……凄いなって思います。自分のやりたいことを、一瞬で考えて一生懸命にやっていて。私はそんな考え方が、けっこう好きで」と、何度も『ヤンキー』という言葉をツアータイトルに用いてきた意味をゆっくり話してくれたACAね。ここからはまさしくヤンキーの猪突猛進的なサウンドが耳をくすぐる、ロックチューンの連続だ。まずは『爆裂注意』との危険信号が映し出された”残機“では、ACAねが1メートル半はあろうかという長いライトセーバーを暗闇の中で振り回し、《試したいわ》《絶体絶命な》といった歌詞の数々がモニターに映し出され、大合唱を作り出していく。
かと思えばずとまよの名前を広く知らしめた契機となった”秒針を噛む“では、サビ部分の《このまま奪って隠して忘れたい》のフレーズを全員の手拍子で歌う試みで大いに沸かせてくれた。これはコロナ禍で声が出せなかった際にライブで行われた手法の再現でもあるが、ACAねは当時の記憶を辿るかのように「左から右に」「右から左」とウェーブの手拍子を変則的に手動していて楽しそう。その後半には待ちに待った大合唱パートも用意されており、モニターに「歌う(Sing a Song!)」の文字とマイクが映し出されての大合唱。思わず涙腺が緩む気持ちにもなったが、当の本人は「じゃあ次は変な声で」「もっと変な声出せると思います」とツンデレモード。このアドリブ加減もまた、ずとまよのライブの魅力である。
アドリブと言えば、この日行われた一風変わったコーナーにも触れておきたい。着席指示が出たフロアをよそに、ステージに立ったACAねの元にスタッフが渡したのは巨大なサイバー銃。ふと見ると背後には左から青・黄・赤の風船が吊り下げられており、その真下に紐が伸びて標的が3つ置かれている。ここでACAねが「銃を撃って、割れた風船の中に次の曲が書いてあります。その曲をテーマに沿っていろいろ変えながらやっていきます……。どの曲になるか、どんな感じでやるかはバンドメンバーも知りません。お楽しみに」と今回の趣旨を説明、我々もそうだが、何よりバンドメンバーが「何やるの……?」と固唾をのんで見守っているのが新鮮だ。
結果選ばれたのは、黄色の風船。風船からタラリと垂れた幕に書かれていたのは、ずとまよ初期のバラード曲”Dear. Mr「F」”!普段ライブではほぼ演奏されないレア曲の出現に、にわかに盛り上がりを見せる会場である。残すはACAねが宣言していた『どんな感じでやるか』という部分だけだが、ビブラフォンの前に陣取ったACAねは含み笑いをしつつ「水木しげる(ゲゲゲの鬼太郎で知られる)さんの出身地の鳥取なので……。テーマは妖怪にします」と一言。ここだけ見ればまだイメージ出来るところだが、ここからがACAねによる無茶振りの時間。なぜならACAねはここからオープンリールの吉田悠・吉田匡のふたりに対し、鬼のようなアドリブを指示したのだから。以下、雰囲気的に抜粋。
「悠さんは目玉のおやじです。まっさんは息子なんだけど、最近は仕事もせずに引きこもりで……。目玉のおやじは本当は、息子に稼業を継いでもらいたい気持ちがある。でも息子はずっと断っていて、ひとりで生きていきたいと思っています。そこで目玉のおやじは『いつまでもそんなことしてちゃダメだ!』って言うんです。息子に。でも、……うーん、ちょっとそこからの流れは考えてみてほしいです。とにかくまあ、そんな感じで。……あっ、始まりは目玉のおやじの『おい、鬼太郎ー!』から始めます。あと最初はゆっくり妖怪っぽい感じで、後半に盛り上がる感じにしたいです。……質問のある人は?」
そう。何が面白かったのかと言えば、ここでACAねが語った台本があまりにも抽象的だったのである。すかさずまっさんが手を挙げ「えっと?俺が親に反抗してて、引きこもってて……?」と台本への疑問を投げかけていくも、ACAねは「うん……?うん。そんな感じで、あとは適当によろしくお願いします……」と完全にチョイスを委ねてしまう。楽曲全体をアドリブで決めているため難易度が激ムズなのは想像に難くないのだが、特にこのシナリオの主人公たるふたりはメチャクチャに焦っており(当たり前)、最終的にはワケの分からないまま本番へ。座って観ている我々も本当にイメージがつかないので、まるでお笑いの劇場に来ているようなワクワク感がある。
そうして始まった“Dear. Mr「F」”は盛り上がらないはずはなく……。ふたりが演劇(鬼太郎と目玉おやじがステージ上で大喧嘩)を全力で行う反面、背後のACAねは丁寧に歌い、それを聴く我々は笑いを噛み殺しながら歌に集中するという謎の三すくみ状態がとにかく面白い。また先述の『妖怪っぽい感じ』には“ゲゲゲの鬼太郎のテーマ”の冒頭部分を取り入れたり、ヒュードロドロといった効果音を鳴らしたりとそのアドリブ力にも圧倒された次第だ。そしてACAねのご要望通り、後半には楽器隊が全員で熱量高い即興セッションを取り入れることで盛り上がりを見せ、ずとまよ屈指のバラード曲がロックテイストに変化する一面も見せてくれた。一方でオープンリールのふたりは全力で動き回ったあまりハァハァ息を切らしていたのだけれど、本当に良くやってくれたなと……。
着席型になり、一旦ブレイクした会場。そもそも着席になること自体がレアなずとまよライブだが、紫の照明がバッと点いた瞬間、再び勢いを取り戻すのは信頼感の証。第二部の幕開けを飾ったのは今夏のフジロックにて新曲として披露された“海馬成長痛”で、オープンリールのビョンビョンと鳴るサウンドと、TV♡CHANYが制作したキャラクターたちがダンスを繰り広げる映像で一気にライブ色へ。またライブ定番の“彷徨い酔い温度”では、なんとBPMを曲中に変化させる新たな試みが。時に1.5倍速、時に0.5倍速とACAねがサイリウムを振るタイミングに合わせてどんどん曲の印象が変わっていく様は圧巻で、ラストの《ララララン》の大合唱さえもコントロールする作りには脱帽だ。同じくライブ定番の“お勉強しといてよ”に関しても、モニターに《焼き焼きだ》と《ヤンキーヤンキーだ》と今回のツアーを象徴する歌詞が並び、その都度演奏をピタリと止めて合唱を促すずとまよバンドである。
ハイライトは、誰もが待ち望んでいたであろうあの新曲。「やりたいことをやれなかったり、なかなか動けずに何日も経ったり。そんな瞬間がよくあります。でもそんな怠惰な時間っていうのは、実は生きていく上で大事なんじゃないかと思っていて……」と語ったACAねは「鼓舞ソングです……!」と締め括ってこの楽曲に遷移。曲はもちろん、現在絶賛放送中のTVアニメ『ダンダダン』主題歌にもなっている“TAIDADA”だ。矢継ぎ早に繰り出されるリリック、密度の濃いサウンドに翻弄されつつ聴こえてくるのは、辛い中でも前を向こうとする日陰者の思いだ。《全身演じきってよ全開でその程度?》というフレーズ含め、怠惰な自分を鼓舞するように楽曲はとてつもない速さで駆け抜けていく。MVでも同様のシーンがあったけれども、サビでは全員が早くも《せい》部分で腕を挙げたりジャンプをする連帯感もあり、いつの間にかステージ袖からは着ぐるみ型のうにぐりくん(ずとまよ公式キャラクター)も登場!もはや何が行われているかも分からないカオスな状況で、楽しみを分かち合っていく。
いつしかライブはクライマックスへと突入。もはや恒例となったサビ部分のジャンプが、モニターの『3 2 1 JUMP↑』の案内と共に興奮を高めた”あいつら全員同窓会“、アッパーなサウンドが鼓膜を揺らした“勘冴えて悔しいわ”。そして多くのファンが「どの曲を最後に持ってくるんだ……?」とワクワクしていた中で最後に選ばれた楽曲は、ライブアンセムたる“ミラーチューン”!ACAねが「みらみらミラーチュン?」と呟いて始まったこの楽曲、開始時から上部を指差し続ける彼女の動きに注目していた我々である。だが《3 2 1 ミラーチューン》と歌われる開幕と共に、上部にミラーボールが出現!更にはステージにも至る所に小型のそれが設置されており、一気にディスコの雰囲気に浸る会場である。照明もミラーボールも、更には背後の円盤も含めてビッカビカに光りまくる中、まさしく鏡に映せば赤面必至の各々のダンスで楽しむファンの構図が美しい。またモニターには《yey》の文字が頻りに映し出されていて、その表示に合わせてVサインをする人、拳を突き上げる人……。それぞれの楽しみ方で最大限の盛り上がりを体現していて思わずウルッと。一方で演奏が終わると万感の拍手に迎えられた彼らは「ありがとうございました。ずっと真夜中でいいのに。でした……」と呟くのみに留まり、そそくさと退散するその対比も最高だった。
“ミラーチューン”が終わると、すぐさまアンコールを求める音が鳴り響く会場。ただ他のライブと違うのは、ファンが鳴らすのが手拍子ではなく大半がしゃもじであるため、その音が爆音なこと。バシバシと叩かれる音に陶酔していると、オープニング同様またもバイクに乗った形でずとまよメンバーが再度呼び込まれる。着席状態にあるファンを眺めつつ、一方のACAねは「家にいると、いろんなことを考えます。良くないことも……。でもライブをやるたびに楽しくて、ライブに来てくれる人たちのお陰で生きてるなあって、本当に思います。いつもありがとうございます……」とこの日一番のストレートさで心境を語る。インタビューもほぼなく、楽曲内ではミステリアスな表現に終始するACAねの言葉がこうして直接届くのも、やはりライブならではだ。
以降は含みのある柔らかな楽曲“虚仮にしてくれ”をファン全員が着席した状態で鳴らしつつ、対照的に「行けんの!?目ぇ覚めてんの!?」と無理矢理ヤンキー風にファンを立ち上がらせた“嘘じゃない”を続けて披露し、アンコールの緩急を完璧に支配したACAね。突然リコーダーの演奏が鳴り響くと、次なる楽曲はライブアンセムのひとつである“正義”。ちなみに毎公演ごとにイントロが自由化することでも知られるこの曲。米子公演ではリコーダーのイントロはGRe4N BOYZの“キセキ”になり、ACAねは歌詞を思い出しつつ《2人寄り添って歩いて/永久の愛を形にして》と熱唱。《アリガトウや ah/愛してるじゃ まだ》の『ah』と『まだ』部分ではファンにマイクを向けてレスポンスさせる一幕もあり、心底楽しそうなACAねである。
そうして鳴らされた“正義”は、言わばずとまよの集大成とも言える盛り上がりを記録。歌詞の複雑さ、サウンドの振り幅……。また知らず知らずに踊ってしまう根本としての楽しさが、この楽曲には全て詰まっていたように思う。様々な演出もこの日一番で、背後の円盤はギュルギュルと高速回転しているし、照明はビカビカ。更にモニターには《近づいて遠のいて 探り合ってみたんだ》といったフレーズの数々がまるで「歌ってくれ!」と言わんばかりに発色し、気付けば全員が飛び跳ねる最高の空間に変貌していた。その中心で歌うACAねはラスサビ前に「マブダチだーっ!」と叫んで完全燃焼を図っていて、ふと僕の隣を観ると女性が泣きながら「ワー!」と満面の笑顔で踊り狂っていた。本当に素晴らしい光景だったと思う。
これで終わりかと思いきや、最後に駄目押しするのがこの日のずとまよ。「スナネコ建設のエンディングテーマです。勘ぐれいヤンキーバージョン!」と語ってラストに選ばれた楽曲は“勘ぐれい”で、ソウルフルなベースから後半に向けて演奏が激しくなるニューモードでの披露となった。最終部では色付き傘をさしたACAねが『ボンボボーン』のレスポンスもバッチリ決まり、最終部では色付き傘をさしたACAねが「天上天下、真夜中独尊……」と呟いて上から雪が落ちてくるという、まるで時代劇のような美しさでもって、楽曲は終幕。
そしてこの日のクライマックスは、メンバーが全員ハケた後、ACAねがバイクに乗って去っていくという格好良い演出!……のはずが、ここでまさかのトラブル。バイクのエンジンが全くかからないのだ。何度もエンジンをかけようとするACAね、ただその本体はびくともしない対比にファンが爆笑していると、袖から焦ったスタッフが大集結。最終的にはスタッフ総出でACAねの乗ったバイクを押し、ACAねが「ありがとうございます……。すいません……」と小声で謝りながら、BGMではブオーン!パラリラパラリラ!な爆音が鳴るという、爆笑必至の思わぬラストとなった。
振り替れば、ずとまよはデビュー当初から売れ続けてきたアーティストだ。ことライブだけを見てもデビューアルバム以降チケットがソールドアウトしない公演はないし、昨年のフジロックではトリ前のスロットで多くの音楽好きにもアピール。一方でアーティストにとって膨れ上がる声は、ともすれば大きなプレッシャーになる。「次はどんな凄いライブが観れるんだろう」「ずとまよのライブはやっぱり最高」……。今回のツアーは言わばそんな多くの声に後押しされての、巨大な代物だった。
しかしながら、結論から言えばずとまよは最強だった。新たな音楽性を模索した『虚仮の一念海馬に託す』を筆頭に、これまでの代表曲を惜しみなく投下した今回のライブは間違いなく過去イチを更新!また地方都市のホールツアーとしてここまでのクオリティのライブをする人も、今後一切現れないと思う。凄さを更新し続け、それが天井に達してもそこからまた上へと伸びていく今のずとまよは無敵である。本当に素晴らしいライブだった。記憶を消して、もう一度始めから観たいと思うほどの。
【ずっと真夜中でいいのに。@米子 セットリスト】
JK BOMBER (メドレー)
こんなこと騒動 (〃)
ヒューマノイド (〃)
はゔぁ (〃)
馴れ合いサーブ (〃)
残機
秒針を噛む
ばかじゃないのに
クズリ念
Dear. Mr「F」
海馬成長痛
彷徨い酔い温度
お勉強しといてよ
TAIDADA
あいつら全員同窓会
勘冴えて悔しいわ
ミラーチューン
[アンコール]
虚仮にしてくれ
嘘じゃない
正義
勘ぐれい
スナネコ建設 鳥取、ありがとよ
— ACAね a.k.a ネス湖のてっぺん (@zutomayo) 2024年12月7日
帰り道もご安心にね
ぬりかべも、ヤンキーなダーボババアも見張ってたし、目玉おやじが頭の上にいた pic.twitter.com/DRPEwwP6fs