CDP対談(2018年11月) | 環境関連のエンゲージメント | キリンホールディングス

CDP対談(2018年11月)

2018年11月に来日されたCDPのCEOとキリンホールディングスのCSV戦略担当役員が2度目の対談を行いました

CDP Chief Executive Officer
ポール・シンプソン氏

キリン株式会社 取締役常務執行役員(当時)兼 キリンホールディングス株式会社 常務執行役員(CSV戦略担当、グループ環境総括責任者)
溝内 良輔

2018年11月27日、環境情報開示システムを提供する国際的な非営利団体であるCDPのCEOポール・シンプソン氏が来日された機会をとらえて、キリンホールディングスのCSV戦略担当役員と2度目となる対談を行いました。

サプライヤーカンファレンスの開催

溝内常務:昨年に引き続き、お会いできて光栄です。
昨年の対談でシンプソンさんから、「サプライヤーへの取り組み」という、とても重要な課題をご提言いただきました。キリンはこれに向けた第一歩として、先週まで2週間をかけてサプライヤーカンファレンスを開催し、ビジネスと人権に関する国連の原則に基づいて改訂した「キリングループのCSRサプライヤー行動規範」の説明を行いました。招いたサプライヤーは約250社、参加者も合計500名を超えましたので、本社の会議室に一度には収容しきれず、4回に分けての開催となりました。
ポール・シンプソン:素晴らしいニュースですね。大変、感銘を受けました。キリンのサプライヤーとなると、数も多いでしょうし、規模も様々でしょうね。
溝内常務:大小さまざまです。そのため、例えば大きなサプライヤーでは温室効果ガス排出量の削減が進んでいても、小さなサプライヤーではまだまだといった問題があります。大きなサプライヤーにだけに取引を絞れば随分と楽なのでしょうが、小さな企業が地域経済と密接につながっていることを考えれば、そうすべきではないと考えています。どう支援していくかが課題です。
ポール・シンプソン:おっしゃる通り、小規模なサプライヤーはサポートや情報を必要としています。持続性を担保していく上で、キリンの取り組みから学ぶことは多いはずです。
御社は、CDPウォーターセキュリティーでもAリストを取り、高いレベルを実践されておられますね。

水力発電など、再生可能エネルギーの活用

溝内常務:昨年もお話をしましたが、オーストラリアでは水は希少資源ですから、レベルは高いと思っています。一方、日本は水が豊富なため水資源の重要性が十分に理解されない面はありますね。
ポール・シンプソン:水と言えば、御社は水力発電由来の電力を活用されていると聞きました。
溝内常務:一部の工場で、アクアプレミアムと呼ばれているCO2排出量がゼロの水力発電由来の電力を利用しています。ただ、これには割増料金が掛かります。再生可能エネルギーの活用には、コスト問題の解決が必要です。

ポール・シンプソン:一方で、多くのミレニアム世代の消費者は、IPCC※1の報告書等により問題の深刻さを認識しています。彼らは、信頼できる企業から購入したいと考えていますので、価値を共有してくれると思います。
溝内常務:ニュージーランドのクライストチャーチでは、再生可能エネルギーを100%使用した持続可能なクラフト・パブ・ブルワリーの稼働を開始しています。原料はその地域で調達し、工場から出るビール粕や食品廃棄物は動物飼料や肥料として利用しています。ちょっとした循環経済ですね。
ポール・シンプソン:興味深いコンセプトですね。海外の大手ビールメーカーでも、再生可能エネルギーを使った工場の稼働が始まっています。

TCFDへの賛同

溝内常務:我々も目標に向けて着実に進んでいきたいと思っています。
CDPプラットフォームは、その上でとても強力です。今年からCDPの質問書が「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD※2)」の提言を反映したものとなったことで、私たちはTCFDへの賛同を表明するためのステップを実行しやすくなりました。おそらく、近いうちに賛同表明まで踏み込めると考えています。(対談後の2018年12月14日に、日本の食品会社として初めてTCFDへの賛同を表明済み)
ポール・シンプソン:TCFDについては、あらゆる企業が取り組みを進めていますが、まだ完全にやり遂げたところはありません。そこで、TCFDと協力して、CDPに新たに関連する25の質問を追加しました。これはまだ強制ではありません。多くの企業にTCFDに参加するきっかけを提供したいというのが狙いです。
溝内常務:キリンはCDPの質問書を通じて理解を深め、環境報告書2018年版では、まだ試行段階ですがTCFDの試行結果について開示を行うことができました。今後、シナリオ分析により財務的影響の評価や移行戦略などを検討する必要があります。簡単な作業ではありませんが、市場に対してレジリエンスを実証することは重要だと考えています。

ポール・シンプソン:私たちのチームも取り組みましたので、大変な作業であることは想像できます。しかし、TCFDの根底にある考え方は、長期的に企業の経営を改善し、変化の激しい環境でリスクを管理できるようになることだと思います。
溝内常務:同感です。その点で、IPCCの最近の報告書はとてもショッキングでした。弊社は温室効果ガスの削減について相当高い目標を設定したつもりだったのですが、地球温暖化を止めるには目標をさらに高くする必要があると感じました。
ポール・シンプソン:気候変動はすでに重大な影響を発生させています。2019年は、G20が大阪で行われますが、多くの国々はこのことを理解していると思いますので大きなテーマとなるでしょう。
溝内常務:日本の場合、省庁がイニシアティブを取ってTCFDのワークショップを開催するなどして普及を図っています。GPIF※3もTCFD普及に向け、イニシアティブをとられていると感じています。
ポール・シンプソン:素晴らしい取り組みです。日本は間違いなく、TCFDの受け入れが進んでいる国の一つだと思います。
溝内常務:ESG投資の規模は、世界の中では日本は依然として規模は大きくありません。しかし、GPIFの主導もあり、拡大すると確信していますし、多くの日本企業も同様に考えていると思います。
シンプソンさんは、このトレンドの最大の貢献者の一人です。そのリーダーシップには感謝しています。今後も協力できることを大変楽しみにしています。
ポール・シンプソン:我々の仕事は、ひとえにキリンのような企業が「環境問題への取り組みは重要なことであり、当社はこれを熱心に進めます」と言っていただくことで成り立っています。そして、御社は非常に野心的な目標を持ち、実際に実行に移し、CDPでもAリストを取っておられます。是非、今後も協力関係を深めたいと思います。

  1. IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Changeの略。
    人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織。
  2. TCFD:The Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略。
    世界主要国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省などの代表が参加する国際機関であるFSBが、気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し開示することを目的として、2017年6月に自主的な情報開示のあり方に関する提言を公表しました。世界44カ国513団体が賛同を表明しています。(2018年9月26日One Planet Summit時点、TCFD公表)
  3. GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)のことで、日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っている。