原作:髙見啓一(鈴鹿大学准教授)
イラスト:高木
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悪の組織ZAIMのモンスター製造工場(悪の組織の原価計算)が、勇者軍に滅ぼされてからしばらく後・・・。地方都市のビルに彼らの姿はあった・・・。

戦闘員A 「株式会社ZAIM・・・?」
戦闘員B 「なんすかこの看板?」
戦闘員C 「あはは。『会社』だってさ。ウケる!」
統領 「冗談ではない。これを見ろ。」

ビルには「株式会社ZAIM」の看板が掲げられていた。名刺をすっと差し出すZAIM統領であった。

戦闘員A 「『株式会社ZAIM 代表取締役』と書いてありますね。」
戦闘員C 「統領が社長ってことか、ガラじゃねえなあ(笑)」
戦闘員B 「よかったじゃないっすか。これで一国一城の主っすね。」
統領 「いや・・・会社名の前をよく見よ。」

統領の名刺や看板に書かれた株式会社ZAIMの文字の上には「伝説の勇者グループ」と書かれている。

戦闘員B 「なんすか?これ?」
統領 「ワシら(株)ZAIMは株式会社であり、伝説の勇者(株)の子会社なのじゃ。」
戦闘員C 「株式会社?子会社?」

読者諸君へ。「株式会社」や「子会社」の仕組みについては、後の話で詳しく説明するのでご安心あれ。ひとまず本編の続きをお楽しみください。

統領 「まず株式会社について説明が必要じゃな。株式会社には会社のオーナーである『株主』がいて、株主が『取締役』を決めておるんじゃ。」
戦闘員A 「取締役ってのは経営者ってことですね。だからオーナーが決めるんですね。」
統領 「そう。以前のZAIMはミスターX様がオーナーで、ワシが雇われていたわけだ。」
戦闘員C 「奴隷のような扱いだったよな(笑)」
戦闘員B 「・・・で、そこから何が変わったんすか?」

登場人物紹介を忘れていたが、戦闘員Aは「真面目」、戦闘員Bは「恐妻家」、戦闘員Cは「統領に対してタメ語」という特徴があるので、覚えておいてくれたまえ。

統領 「新たにミスターX様ではなく、勇者たちの会社・・・おっと『勇者様』と呼ばねばならぬな。伝説の勇者株式会社がZAIMの筆頭オーナーとなったのじゃ。」
戦闘員A 「勇者も『悪の力を世界統治に利用したい』って言ってましたもんね。」
戦闘員B 「本当に支配されちゃったのか・・・。」
戦闘員C 「正義が悪を利用する時代なんだな。何が正義だかわかんねえや。」

思いもかけず「深い!」と好評だった前作の最終回。「絶対的な正義」という旗印の恐ろしさを、本作でも括目し、実感いただきたい。

戦闘員A 「で・・・統領、子会社というのは何ですか?」
統領 「勇者たちも『伝説の勇者株式会社』という会社を経営しており、その会社が(株)ZAIMの株式を保有したというわけじゃ。オーナーとなった伝説の勇者(株)が『親会社』で、支配されている(株)ZAIMが『子会社』となる。」
戦闘員B 「つまり勇者たちの支配下に入ったわけっすね。」
戦闘員C 「やっぱり奴隷ってことだ(笑)」
統領  ジロリ

この点、世の中の子会社が全てこうだというわけではないので誤解なきよう。

統領 「ただ、親会社と子会社は『支配関係』であることは事実であり、間違いない。勇者様の機嫌をそこねたら、ワシが取締役から解任されることは当然あり得る。」
戦闘員A 「先行きが不安ですね。『正義』の名のもとに軍隊が編成されるとか・・・。」
戦闘員B 「やばい紛争地域に派遣されたりするのかな・・・。母ちゃんコワイヨー・・・。」
戦闘員C 「核兵器とか作らされるんじゃねえのか?『平和利用だ』とか言いながらさ(笑)」

正義が支配する世の中に不安を覚える戦闘員たちであった。

戦闘員B 「いまにして考えると、絶対的な悪がいて、毎週正義の味方にやっつけられて・・・それを庶民がTVで笑って見てられる世界は平和っすね。」
統領 「うむ!毎週毎週『パピプペポー』と言っておればよい。生傷は絶えんけどな(笑)」
戦闘員C 「ハハハッ!それもカンベンだぜ(笑)」
戦闘員B 「まあ今も、株式会社でちゃんと給料も出るみたいだし、母ちゃんも喜んでたし、気にしなくてもいっかあ~。」
戦闘員C 「そうそう。適当に酒飲んで、適当に仕事して、株式会社は気楽に行こうぜ~。」
統領 「コラ!仕事はしろ(怒)では今夜は、ガード下の焼きとん屋に繰り出すとするか♪酒はサラリーマンにとっての『絶対的な正義』じゃからな!」

不安な顔はどこへやら、すっかり株式会社のサラリーマンらしく、夜の街へと消えていく統領たち。ただ1人だけ今夜は酔えそうにないようだ。

戦闘員A 「・・・絶対的な正義か・・・。」

次回予告

世界情勢が不安定さを増す中、将来を憂えた戦闘員Aは「簿記2級」に挑むのであった。試験範囲改定の背景にある「時代の要請」とは?
次回「簿記2級の改定 ~戦闘員Aよ、時代の要請に応えよ!~」お楽しみに!