「キャプテン翼」(1981年~1988年)は、マンガ史に残る大ヒット作である。
しかし、その続編であった「ワールドユース編」(1994年~1997年)は残念ながら連載が打ち切りになってしまい、決勝戦までを描いて一応の完結をみたものの、準決勝のオランダユース戦はカット、終盤は駆け足の展開であった。
サッカーの競技人口の増加に寄与し、日本のサッカー史にも残る大ヒットマンガであり、海外でもアニメが大人気で数々の名選手にも影響を与えた名作の待望の続編にも関わらず、「ワールドユース編」はなぜ連載打ち切りになってしまったのか、その理由について本記事では考察してみる。
キャプテン翼ワールドユース編(全12巻セット) (集英社文庫) [ 高橋陽一(漫画家) ] 価格:8,580円 |
理由(1):サッカー人気の低迷
まずは、作品の内容ではなく、連載の環境のひとつである日本のサッカー人気の推移から、打ち切りとなった理由をみていこう。
無印版の「キャプテン翼」が連載されていた1980年代は日本にサッカーのプロリーグはなく、スポーツニュースでサッカーが取り上げられることも今と比べると、はるかに少なかった。
なにせ、無印版の「キャプテン翼」では、翼のママに
「ねえ ロベルト…
ワールドカップって なんなの?」と質問させて、
「ワールドカップとは」という説明文を作中に入れなければならないほど、多くの日本人にサッカー・ワールドカップは浸透していない状況だったのだ。
それが、1993年に日本プロサッカーリーグ・Jリーグが開幕すると、日本にサッカーブームが到来。
ブームの中で、日本代表のワールドカップ初出場に対しての期待も膨れ上がっていった。
その勢いで、日本代表はワールドカップのアジア最終予選も突破する手前までいったものの、残念ながら、最終節のロスタイムによる失点のため、ワールドカップ本戦への初出場を逃してしまい(ドーハの悲劇)、日本と世界の差を痛感することとなった。
さて、その状況で連載が始まったのが「ワールドユース編」である。
ワールドカップ初出場を逃した日本代表の代わりに、マンガの中とはいえ、翼くんたちにアジア予選を勝ち抜いて、世界と戦い頂点に立って欲しいという、世間のニーズがあるとジャンプの編集部が考えたものと推察される。
無印版のJr.ユースには予選が存在せず、いきなり欧州・南米の強豪と対戦したのに対し、「ワールドユース編」では実際の大会と同様にアジア予選が行われたのは当然といえる。
しかしながら、Jリーグ開幕当時のブームは90年代後半になると、やや落ち着いて沈静化。
一方で、ドーハの悲劇で世界の壁に阻まれた日本サッカーをしり目に、野球の野茂英雄投手はメジャーリーグに挑戦し大活躍(1995年)。
「ワールドユース編」の連載中(1994年~1997年)、ジャンプ編集部の期待に反し、サッカー人気は低迷したのだった。
作品の内容以外のところで、世間のサッカーへの興味の低下が、連載打ち切りの要因の一つと考える。
理由(2):全日本ユースの立ち位置のあいまいさ
上記の通り、ドーハの悲劇が「ワールドユース編」連載の契機の一つであったことは想像に難くないし、その片鱗は「ワールドユース編」の導入部に見て取れる。
そのため、ワールドユース本戦出場を目指して、アジア予選を戦う展開となるのだが、ここであるジレンマが発生する。
現実のサッカー日本代表の状況を投影するのであれば、翼たち全日本ユースの立ち位置は、一度もアジア予選を突破したことがない(連載当時)サッカー発展途上国の立ち位置であるべきである。
しかし、「キャプテン翼」作中で、翼たちはJr.ユースで優勝して世界一を経験しており、 世代としてはチャンピオンチームである。
「ワールドユース編」での全日本ユースについては、アジア予選の突破の可能性について、高いのか低いのか明言されていない。
対戦したタイユース、サウジアラビアユース、中国ユースと比べて、どちらが格上のチームなのか、ということは、描かれていない。(FIFAランキングみたいなものは出てこない)
前作の無印版を見返すと、
小学生編:前年優勝の修哲小を中心とした優勝候補筆頭のチーム
中学生編:公式戦三年間無敗で、強豪の挑戦を受ける絶対王者の立場
Jr.ユース編:ハンブルグJr.に惨敗、イタリアJr.ユースに試合をボイコットされ、大会出場チームの中でも格下の扱い
と、主人公チームの立ち位置が明確になっている。
ところが、「ワールドユース編」では、主人公チームの立ち位置は不明。
次の試合に勝ち目があるのかどうか、示されていないので、感情移入がしづらい作りになってしまっている。
翼たち全日本ユースは、アジア予選突破が困難なサッカー発展途上国のチームなのか、アジア予選突破が有力視される強豪チームなのか、どちらかはっきりさせるべきだったのではないかと考える。
残りの理由については、次回に続く。