ヨシムラ
稀代の名車──Z。その誕生はすべてのマシンの指針になり、実に多くの名車を誕生させた。そして、新しいものが誕生すればするほど、原点は古くなっていかざるをえない。Zのエンジンさえも終焉を迎える。Z750FXの存在感は、Z2系エンジンに見事、最後の花を添えたかのようである。
Zの血統を見事に受け継いだZ750FX
カワサキ、4ストローク・ナナハンヒストリーは、Z2から始まった。開発者たちが妥協を許さずに作り上げた世界初の空冷並列4気筒DOHC750ccエンジンを搭載したマシンは、発売前から空前の人気で受け入れられ、73年のデビューと同時に数々の伝説を作り上げていった。が、そのZ2も何度かのマイナーチェンジを経て77年のZ750FOUR-D1を最後に、市場から姿を消すこととなった。
そして、カワサキの次期国内モデルのフラッグシップとして登場したのが、Z750FXだった。“フェックス”の愛称で呼ばれたこのナナハンはAMAの覇者Z1000MkⅡのスタイルを継承、角張ったフォルムでZ2とは別モノの姿をしていたが、その心臓部であるエンジンはZ2を継承しており、Zの血統を見事に受け継いでいたのである。さらにFXは4本マフラーを2本出しにし、キャスターを26度から25.5度に、トレールを90mmから87mmに変え、フロントに剛性を持たすなどしてハンドリングの変更、高速走行の安定性を確保するなどそれまでのZに比べ、走高性能は格段な進歩を遂げていた。
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Z2系エンジンは最高のフォルムに包まれて終結する
カワサキはマッハ以来流体をイメージさせる丸みを帯びたデザインをほどこしていたが、78年発売のZ1R以降さまざまなバイクを直線的デザインに変えていった。Z750FXも同様で、Z2のイメージを払拭するがごとく、直線基調のスクエアデザインを取り入れている。車体の方は、キャスター、トレールを変更し、4本マフラーは2本に、「全天候型ブレーキ」と言われた不等ピッチのドリルドディスクを前後に装着するなど、大幅に装備を見直した。また、外装も、足着きを考慮したシート、フラッシャーと車幅灯兼用のハザードランプ、ニュートラルセレクターなど充実。また、8ヶ月後の9月にリリースしたZ750FX(D3)はトランジスタ点火を搭載。クラス最高の70psを叩き出すなどZシリーズ中もっとも充実し、もっとも走る1台に仕上がっていた。
しかし、時代はより軽量でコンパクト、そしてより速いナナハンを求めた。ライバルメーカーがCB750F、GSX750Eという強豪たちを続々と投入してくるなか、FXは武骨で硬派な存在であったのだ。やがて、そんな時代の流れを受け入れ、カワサキのナナハンは軽量のZ650のエンジンをベースにした軽快なマシンへと移行し、国内フラッグシップの役目を終えることとなった。これにより、Z2のエンジンも市場から消え、完全に一つの時代が終わったのだった。しかし、この時代に生まれた類まれなZのエンジンスタイルは、その後も脈々と進化を続け、今もなお走り続け、その伝統を守っている。
Z750FXが発売になった1979年(昭和54年)の出来事
東名日本坂トンネル事故で死者7名焼失車両173台/三菱銀行猟銃人質事件・男が警官2人行員2人を射殺して立てこもる/東京サミット/カーター大統領来日/ヨーロッパ初の女性首相サッチャー首相誕生/インベーダーゲームピークに/上越新幹線誕生/日本初のワープロ誕生/「ナウい」「ダサイ」/ヤングジャンプ創刊/NHK南極から史上初のテレビ中継
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マシンギャラリー
「Z750FX」のスペック一覧
全長×全幅×全高 | 2,180×900×1,190(mm) |
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軸間距離 | 1,495mm |
車重 | 246kg |
エンジン形式 | 空冷4ストローク DOHC並列4気筒 |
エンジン排気量 | 746cc |
ボア×ストローク | 64×58(mm) |
圧縮比 | 9.0 |
最高出力 | 70ps/9,000rpm |
最大トルク | 5.7kg-m/8,500rpm |
変速機型式 | 5段リターン |
潤滑方式 | ウェットサンプ |
オイルタンク容量 | 3.7L |
タイヤサイズ | (F)3.25-19 (R)4.00-18 |
燃料タンク容量 | 17.8L |
最小回転半径 | 2.40m |