【事例】赴任したばかりの学校で「校則の見直し」を全校活動にできた理由とは。現職教員が語る。
カタリバでは、2019年より「みんなのルールメイキング」に取り組んでいます。生徒が中心となって先生や関係者と対話しながら校則・ルールを見直す活動で、生徒が身の回りの課題に気づき、当事者意識を持って行動する力や、社会参画意識を高めていくことを目指すとともに、生徒を中心とした学校づくりに取り組んでいます。
2024年10月現在、450校以上の小・中・高校にてルールメイキングが取り入れられている一方で、「自校でも取り組みたいが、どのように進めていけばいいかわからない」と悩む先生方の声がカタリバに多く寄せられています。
そこで、個人の熱い想いから、赴任したばかりの学校でルールメイキングに取り組み、全校の活動に発展させた齋藤健司(さいとう・けんし)先生にインタビュー。周囲の先生や生徒をどのようにして巻き込み、どんなルールメイキングを進めていったのか、そして生徒たちに見られた変化などについて聞きました。
齋藤健司(さいとう けんし)/愛知県豊田市立逢妻中学校教員
2023年に豊田市立逢妻中学校に赴任。校則改定を目的にするのではなく、生徒の成長を目的としてルールメイキングの活動を始める。有志の生徒を中心とした校則検討委員会を立ち上げ、約半年ほどの活動を経た昨年度末には複数のルール改正が行われることが決定した。教員に対しても、全校生徒に対しても、活動の過程を開かれたものにしていることが特徴的である。
予測不能な社会をたくましく生きる
生徒を育むために
──昨年4月に新たな学校へ異動され、すぐにルールメイキングを始められましたが、何かきっかけがあったのでしょうか?
実は、2023年4月に逢妻中学校に異動する数ヶ月前からルールメイキングに興味を持ち、調べていたんです。カタリバのオンラインイベントに参加し、ルールメイキングに先進的に取り組んでいる愛知県内の高校の教員の方々の話を聞きました。
その後、その高校に直接伺って詳しい話を聞かせていただいたり、東海エリアのルールメイキング・カンファレンス(ルールメイキングに取り組む教員が有志で開催した対面型交流イベント)に見学に行ったり。そうする中で「ルールメイキングに取り組む機会があったらこうしたい」と、自分なりにイメージを固めていました。
──ルールメイキングのどういう点に興味を感じたのですか?
今の社会は変化が激しく、予測不可能な時代といわれています。子どもたちにはそんな社会をたくましく生きてほしい。それには、本当の意味で自律した人に育つことが大切だと考えています。
ルールメイキングは、子どもたちが教員や関係者と校則・ルールについて話し合いながら、「対話を通して納得解をつくるプロセス」を学ぶ取り組みです。現行の学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」を実現するうえで、これ以上のものはないと思ったんです。
──そんな中、今の中学校に異動となりルールメイキングを始められたんですね。具体的にどのように活動したのでしょう?
まずは2023年の夏休みに、カタリバのルールメイキング・スタートアップ研修に参加して進め方を学び、自分なりの6ヶ月計画を立てました。その3日後、学校向けに提案書を作成し、生徒指導主事に協力を依頼。その足で教頭にもお話ししたところ、2人とも賛同してくださりスタートすることができたんです。
齋藤先生がルールメイキング・スタートアップ研修で作成した6ヶ月計画と、実際に行った活動。(2023年12月実施のルールメイキング教員向け勉強会で、齋藤先生が使用された資料をもとにカタリバ作成)
「やりたい」という思いをもつ
先生と生徒を募ってスタート
──ルールメイキングに一緒に取り組む先生と生徒は、どのように集めたのでしょう?
教員については、生徒指導主事が職員会で説明し、さらに私が資料を作成して配るなどして呼びかけて、最終的に7名の有志の教員が集まってくださいました。
生徒は全校アンケートで希望者を募り、20名が応募してくれました。生徒会に入っている子もいれば、不登校傾向の子、外国ルーツの子など、個性豊かな子どもが集まってくれました。
──「有志」という形を選んだのには理由が?
大人も子どもも、命じられてやらされるよりも、自分で「これがしたい」と思ったほうが一生懸命やれるじゃないですか。先述した視察に伺った高校さんでも有志の教員5〜6人で進められていたので、このスタイルが進めやすいのだろうと思いました。
──活動中、定期的に「ルールメイキング通信」を作成して先生方に配ったそうですが、どういう意図からでしょう?
最初は有志の教員を集めるために、活動の目的やスケジュールなどをまとめたものでした。でも、「有志の教員が内輪だけでやっている」という感じにしたくなかったのと、広く情報開示して知ってもらうことはマストだと思っていたので、教員全員に向けて定期的に活動報告として配信したんです。
先生方に配布した「ルールメイキング通信」の一部
──生徒も「校則検討委員会通信」というのを作っていますね。
1号目は私が生徒に「作ってみる?」と声をかけたんですが、2号目からは生徒が自ら「今回は私が書きます!」と手を挙げてくれるようになりました。全校生徒が見るチャットツールに配信し、さらにお昼の放送でも生徒が活動報告をしました。
「東海エリアの交流会に参加してきました」とか「新聞に載りました」みたいなことも随時報告していたので、興味を持ってくれる人が増え、校内での認知度を高めることに役立ったと感じています。
生徒が作成した「校則検討委員会通信」の一部
子どもたちがこれほど変化するとは
想像もしていなかった
──1年間の活動の中で、特に印象に残っている出来事はありますか?
2つあって、1つはルールメイキングの活動の土台となるグランドルールを決める際に議論になったことです。「私はこの言葉を入れたい」「いや、それはいらない」と生徒同士が激しい言い合いになり、担当の教員が間に入ろうとしたら、「先生、少数派の意見も大事にするって言ったじゃん!」と猛抗議。「君、なんかいつもと違うやん!」と驚きました(笑)
子どもたちが真剣に意見を出し合っている姿は、体育祭や合唱コンクール、部活ぐらいでしか見たことがなかったので、ルールメイキングでそれが起こったのがすごくいいなと思いました。
議論の末に決定した「グラウンドルール」
もう1つは、バッグの自由化について販売店の方に意見を聞いたときのことです。会議の後、子どもたちに「どうだった?」と聞くと、「社長さんが『今バッグを換えられると在庫が余って困る』って言っていた」と。
やっぱり販売されている方や物を作っている方の意見も聞かないとあかんなと実感しましたし、子どもたちがそういう視点を持てたのは良いことで、ルールメイキングならではだと思います。
──ルールメイキングを進めていく上で苦労した点は?
苦労とはあまり感じていないのですが、強いて挙げるなら準備でしょうか。学校には定期テストや学校行事など多くの予定があるので、その中でみんなに動いてもらうには、具体的な計画とイメージが必要です。私はそれをカタリバさんの研修を通して持つことができました。
だから実際に走り出してからは本当に苦労がなくて……。教員も子どもたちも一生懸命やってくれて、私が思い描いていた通りにスイスイ進んでいった感じなんです。年度末には全校生徒にルールメイキングの結果を発表するなど着地もしっかりできて、本当にみんなが素晴らしかったです。
──校則検討委員会として活動したことで、子どもたちに何か変化はありましたか?
能動的になったと感じています。たとえば、1年生は最初、会議であまり発言しませんでした。でも、徐々に自分から手を挙げるようになり、3年生への反対意見も堂々と言えるようになっていきました。
ほかにも、委員会での活動がきっかけで生徒会役員に立候補した子や、学校外のルールメイキングのイベントにすすんで参加するようになった子も。子どもたちがこれほど主体的に動くようになるとは想像していませんでした。
今年の3月に開催した東海ルールメイキング地域生徒大会にも参加した
イベントレポート:https://rulemaking.jp/report/2350/
「自分たちで学校を作っている」という
達成感を感じてもらえたら
──2023年度の活動は年度末で終了し、今年また新たに校則検討委員会を立ち上げたそうですね。
今年も全校生アンケートで募集したのですが、去年1・2年生だった子たちの9割が「楽しかったから今年もやります」と手を上げてくれました。
また、新たに加わった生徒の中には特別支援学級の子も。アンケートに「去年の活動を見ていて僕もやりたいと思った」と書かれていて感動しました。去年、頑張ってやって良かったと感じています。
──ルールメイキング経験者として、これから学校に取り入れる場合に何が必要だと思いますか?
第1に教員のパッションでしょうか(笑)。こちらの熱意ややる気を伝えることは、とても大切だと思います。しかし、ただ「やりたいんです」だけでは、周囲の教員も困ってしまいます。
ルールメイキングの知識を持ってしっかり計画を立て、周囲の教員や子どもたちから「それでどうするの?」と聞かれた時に「来月はこれ、再来月はこれをやります」って言えることが重要だと思います。
──今後ルールメイキングで取り組みたいことはありますか?
来年度から新しい制服、体操服になるので、その着こなしなどを子どもたちと一緒に考えるのもいいかなと思っています。
また、校則を改定する際の手続き方法が生徒手帳に明文化されていない場合、校則を変えるハードルが高くなるケースが多いと聞きます。私も有志の教員もこの学校にずっといるわけではありませんから、子どもたちがルールを変えたいと思ったときに、「こういうプロセスを踏めば提案ができる」というような条件整備をしておくと面白いのではないかと勝手に思ったりしています。
とはいえ、私にとってルールメイキングは、目の前の子どもたちを成長させるためのツールの1つで、子どもたちがやりたいことが最優先です。
子どもたちが主体的に活躍している姿を見るのは喜びですし、その中で学校を居心地が良い場所と思ってくれたらうれしいですね。さらに、「自分たちで学校を作っている」という満足感や達成感を感じてくれていたら、1人の教員としてこれ以上うれしいことはないと思っています。
みんなのルールメイキングでは、生徒主体の校則見直しや学校づくりに関心がある教員や探究学習で生徒が校則をテーマに取り組んでいる学校が無料で参加できる「ルールメイキング・パートナー」を運営しています。
登録には学校承認は不要で、教員個人での申込みが可能です。定期開催しているオンラインイベントに参加できるほか、カタリバ職員との個別相談、情報収集のみでもご利用いただけますので、お気軽にご登録ください。
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かきの木のりみ 編集者/ライター
東京都出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、編集プロダクション3社にて各種紙媒体の編集を担当。風讃社にて育児雑誌「ひよこクラブ」の副編集長を4年間担当後、ベネッセコーポレーションにてWebタイアップや通販サイトなどの企画、制作、運営に携わる。2011年より独立。
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