「点字つきさわる絵本」は、点字だけでなく、絵の部分も触れるようになっている隆起(りゅうき)印刷を施してある絵本です。
偕成社が初めて「点字つきさわる絵本」を出版したのは、1979年、デンマークで出版された絵本の翻訳『これ、なあに?』でした。その後も同じシリーズで『ちびまるのぼうけん』『ザラザラくんどうしたの?』を刊行しました。版を重ねていましたが、製作上の事情があり、1998年頃から品切れの時期が続いていました。
これらの絵本は、点字や隆起している部分がつぶれないような製本、リング綴じとなっています。リング綴じはコストがかかるため、それから後の「点字つきさわる絵本」の出版にあたっては、製本を工夫する必要がありました。
30年以上前から、ボランティアグループの方たちによる手作りの「点字つきさわる絵本」や、市販の絵本に塩ビの透明シートで点字を貼り、さらに絵の形に切って貼った「てんやく絵本」といった見えない子どもたちのための絵本はありましたが、市販の「点字つきさわる絵本」の出版は、なかなか増えていきませんでした。
左『はらぺこあおむし』(東京 むつき会製作) 右『海をかっとばせ』(大阪 てんやく絵本ふれあい文庫製作)
そんな状況のなか、2002年に出版社、印刷会社、盲支援学校の先生、書店員などさまざまなメンバーが集まり、「点字つき絵本の出版と普及を考える会」が発足。製作に関するさまざまな情報を共有して、こういった本を増やしていこうという活動が始まりました。
この会の発足後、偕成社では上記の『これ、なあに?』『ちびまるのぼうけん』を復刊、また新しく『てんじつきさわるえほん ノンタンじどうしゃぶっぶー』『てんじつきさわるえほん じゃあじゃあびりびり』『点字つきさわる絵本 はらぺこあおむし』(2017年春重版予定)を出版しています。
Q 隆起印刷は、どうやってするの?
A 4色のカラー印刷をした上に、シルク印刷を施します。シルク印刷はインクは透明が多いですが『これ、なあに?』のように黒や『ちびまるのぼうけん』の青などもあります。
Q どうして製本が難しいの?
A 絵本の製本の最後の段階では、大きな圧力をかけて、本の回りを断裁しなくてはいけません。しかし普通の本と同じように圧力をかけると、点字など隆起印刷の部分がつぶれたり、反対側のページがへこんでしまったりします。そのため、圧力のかけ方の工夫が必要で、特別の型を作ったり、1冊ずつていねいに断裁するなどの手間がかかります。
断裁の必要のない蛇腹製本や、リング綴じ製本といった方法もあります。リング綴じ製本はコストが高いのですが、蛇腹製本は比較的安価にできます。しかし折りたたんでいるだけなのでバラバラと広がってしまう怖れがあります。
Q カラーの絵と隆起印刷がずれているのは、どうして?
A 見えない子がさわってわかりやすいようにというくふうをしているからです。たとえば『てんじつきさわるえほん ノンタンじどうしゃぶっぶー』で、各ページに出てくる赤い自動車が縦になったり、斜めになったりすると、同じ自動車だと認識しにくい、という盲支援学校の子どもたちの意見があり、隆起印刷部分は、表紙も含めて常に「横向きの自動車」にしました。また『てんじつきさわるえほん じゃあじゃあびりびり』の犬の絵では、足が重なっていると4本とわかりにくので、隆起印刷部分は4本の足を離しています。
このように、ずれているのには全て理由がありますので、どうしてなのかな? と考えてみるのもおもしろいことです。
Q 点字の大きさや位置は決まっているの?
A 大きさは読みやすい大きさにほぼ決まっています。ですから限られたスペースに点字をいれなくてはいけない場合、文字を小さくするように、点字を小さくすることはできません。
位置はどうしてもここ、とは決まっていませんが、ページを開いたときに、いろんな位置にあると探しにくいので、なるべく同じ位置に置くようにしています。縦組みや斜めにしても読みにくいので『てんじつきさわるえほん じゃあじゃあびりびり』では、印刷文字はいろいろレイアウトされていますが、点字は各ページ左下に印刷しています。
『はじめての点字』(石井みどり 作 平井伸造 写真)より
Q 点字で原文にはない説明をいれたりすることはあるのですか?
A ときによってあります。文には書かれていないけれど絵に描かれていて、それが絵の隆起印刷だけではわかりにくいとき、説明の点字をいれる場合もあります。『じゃあじゃあびりびり』は、特に読む側と読まれる側のコミュニケーションイメージがたいせつな絵本です。色をイメージすることで、より絵本の世界が広がることを願い、原文にはない色についての説明を左上に点字でいれました。(例:こんいろのはいけいに きいろいじゃぐち)
「点字つきさわる絵本」と聞くと、点字はわからないし、見えない人だけのものだろう、と思いがちです。でも「さわって読む絵本」という新しいジャンルの絵本なのです。見える子どもたちにとっても「さわる」ということは実に多くのことを感じさせてくれるものです。見えない子と見える子が、一冊の絵本を一緒に楽しむことができる、豊かな可能性を秘めた絵本、ぜひ手にとってさわって読んでみてください。