考えることが楽しくなる。「上原研究室」で身につけたアルゴリズム的な思考力を、自分たちの専門分野に生かしていきたい。 | 北陸先端科学技術大学院大学インタビュー特設サイト
上原研究室

考えることが楽しくなる。「上原研究室」で身につけたアルゴリズム的な思考力を、自分たちの専門分野に生かしていきたい。

  • 上原隆平教授

    上原隆平教授

    東京都出身。コンピューティング科学研究領域。アルゴリズムをはじめとする理論計算機科学を研究。計算折り紙の第一人者としても知られている。
  • 後藤大河さん

    後藤大河さん

    2022年入学

    愛知県出身。博士前期課程。研究テーマは「正四面体と正八面体の共通展開図の作成」。
  • セン・ムタクさん

    セン・ムタクさん

    2019年入学

    中国安徽省出身。博士後期課程。研究テーマは「BC木の効率の良い列挙アルゴリズムとその応用 」。

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の上原研究室を選んだ理由は?

後藤さん

一番の理由は上原教授の人柄ですね。入学後しばらくしてから研究室を見学しに行ったのですが、実績のある先生にも関わらず、僕たちのような一回りも二回りも下の世代の学生とも同じ目線で話してくれるんですよ。先生自身が取り組んでいる研究の話をとても楽しそうに話しているのを見て「ここだ!」と思いました。

上原教授

私に限らず、我々の分野は総じて若手研究者に対するリスペクトが強い印象ですね。実際に若くして活躍している数学者も多いですし、知識よりも発想力が物を言う世界なので、あんまり偉そうにできないんですよ(笑)。

センさん

上原研究室のことはオープンキャンパスで知りました。以前から様々な分野で応用できるアルゴリズムそのものに関心があって、グラフアルゴリズムの研究を行っている上原教授の話には興味深いものがありました。見学時にメンバーが真剣な表情でパソコンに向かっているのを見て「集中して研究に取り組める素晴らしい環境だ」と感じたのも、上原研究室を選んだ理由のひとつです。

現在はどのような研究を行っていますか?

後藤さん

複数の立体を折ることができる共通展開図において、正四面体と正八面体が折れる展開図をアルゴリズムで作成することができるのか。その解明を目指した研究を行っています。すでにほぼ正四面体と立方体の共通展開図が存在することを示している上原教授のアドバイスもあり、いまだ未解決であるこの研究にチャレンジすることになりました。

センさん

BC木というデータ構造の中で、ある特定条件を満たしたデータを全て列挙するというグラフアルゴリズムの研究を行っています。アルゴリズムは様々なデジタルテクノロジーの分野で応用でき、世の中の現実的な問題を解決に導いてくれる。そんな性質にワクワクしながら研究に取り組んでいます。

上原研究室の魅力を教えてください。

センさん

国内外を問わず様々な研究者と交流するチャンスが多い所ですね。上原教授が研究活動の一環として海外を訪れる際には、研究室のメンバーを引き連れていくことも多くて。豊富な研究実績に加え、画期的なテーマに取り組む研究者との対話が、私たちにとって有益なものであることは言うまでもありません。

上原教授

研究者というのは、今まで誰もが解いたことがない問題を解いて、それを世の中に発表する所まで持っていかないといけません。なので、新しく入ってきた学生にはかならず「研究者の卵として、研究成果を外部で発表することを目標にしてください」と伝えています。発表の場で他の研究者と交流を図り、その人となりや研究成果などを間近で見聞きすることが、自身の経験や成長につながると考えているんです。

後藤さん

僕が感じるのは研究室全体の雰囲気の良さ。分からないことがあっても相談がしやすいし、先輩や先生のアドバイスによって、思考する能力が鍛えられている気がします。

上原教授

学生にも色んなタイプがいて、希望する研究テーマがはっきりとしているケースもあれば、ざっくりとアルゴリズムを研究しに来たというケースもある。どちらが良いというわけではなく、それぞれの目標に合わせてサポートするのが私の役目だと思っています。数学や情報科学はもちろん、機械工学や化学、経営、経済の分野から入ってくる学生もいるので、そういった意味では型にはめすぎない広い視野での指導も大事かなと。研究によって新しい考えを生み出すのは決して楽なことではありません。そういった部分を楽しめる環境づくりは、これからも心がけていきたいですね。

研究をする上で心がけていること、また自分自身の成長を感じる瞬間は?

後藤さん

機械工学を専門分野にしてきた僕にとって、数学や情報工学といった分野は未知の領域。それこそアルゴリズムの王道書と言われる分厚い教科書を何周も読んで、ようやく論文の内容だったり、ゼミ内での話の内容だったりが理解できるようになりました。もし、僕と同じように「周りのレベルについていけない」と焦りを感じている人がいたら、努力を続けていれば報われる日が来ることを伝えてあげたいですね。不思議なことに前の日に理解できなかったページが、次の日になると理解できていることがあるんですよ。

上原教授

後藤くんはある時期を境にものすごく成長したんだよね。ゼミで発表する様子を見るとそれは一目瞭然で、アルゴリズムの性質をちゃんと理解した上で、自信を持って研究内容を説明しているのが伝わってくる。人前で発表する経験を積むことで、少しずつコツを掴んでいったんじゃないかな。

センさん

僕は最近、博士前期課程の時に作った発表用のスライドを見て成長を感じました。グラフアルゴリズムの解釈と研究方法があまりにも未熟で(笑)。それと上原研究室に入る前と後では、考え方もだいぶ変わったと思います。というのも研究室に入った当初は、いかにして難しい問題を解くかが目標だったのですが、研究を進めていくうちになんだか違うなと思うようになって。最後の答えを求めるのではなく、そのプロセスを考えることこそが研究者であるということを上原研究室で学びました。

上原教授

学生には考えることを諦めない、心の強さを身につけて欲しいと思っています。研究者は半年や1年、場合によっては2年、3年と、同じ問題をずっと考え続けることになります。そしてその問題は、必ずしも知識の蓄積が解決してくれるものではありません。教科書や論文などのインプットがなくても、ボーッとしているだけで浮かんでくることもある。私はよく自転車に乗っているときに思いつくのですが、そのたびに気持ちがワクワクするんですよね。研究は楽しく続けるのが一番。研究者の卵である学生さんには、まずは日々の研究に思考する楽しさを見出して欲しいです。

卒業後の進路について。将来はどのような職種を目指していますか?

センさん

アルゴリズムの開発を手がける研究職を目指しています。希望するのは大学や研究機関。様々な分野にアルゴリズムを応用することで、社会的な問題を解決していきたいと考えています。

後藤さん

機械系のエンジニアになるかITエンジニアになるか、どちらにするか悩んだ上で、最終的にハードウェアの設計・開発に携わるエンジニアとして機械メーカーを志望しています。ものづくりの世界への憧れによって、結果としては大学で専攻した分野に後戻りする形になりましたが、僕自身は決して遠回りしたとは思っていません。数学的な考え方はどの分野でも通用するもの。上原研究室で得た数多くの経験やスキルを、工学の分野に生かしていきたいですね。

上原教授

じつは私自身も、修士課程を修了したあと2年ほど会社勤めをしていました。就職したことで自分が本当にやりたいことに気づき、大学に戻って理論系の研究を始めるわけですが、やっぱりそうした経験があるからこそ、楽しい気持ちで研究を続けられている気がします。ここが自分の居場所であることを自覚できると言うのかな。後藤くんも結果的には後戻りする形になったけど、ものづくりの楽しさを噛み締めながら設計や開発に従事できるはず。ここで身につけたアルゴリズム的な思考力も、就職先できっと役立つだろうと思っています。

それでは最後に。ここだけの話、上原教授に伝えたいことはありますか?

センさん

あります。コロナ禍で開催されなくなったお茶会を復活させてください!

上原教授

よし、やろうか。研究室にみんなで集まって、お菓子をつまみながら、ボードゲームをしたりしてね。私も息抜きにもなるし、ぜひ再開させよう。

後藤さん

昔、先生が「研究者には体力が必要」って言ってたじゃないですか。先輩から数年前までは白山登山が夏の恒例行事だったと聞いているので、そっちも復活させてください。

上原教授

たしかに論文を書き上げる時も、最後は体力が物を言うからね。今年の夏はみんなで登ろうか。