2012.03.01
雑誌協会が2008年に発行した『これで雑誌が売れる~雑誌売り名人が明かす秘訣と工夫~』は、雑誌の販売環境が厳しさを増す中にあって、書店店頭で雑誌販売を強化するために活用できる事例が多数掲載されています。
編集プロジェクトメンバーの一人だった梶原治樹・扶桑社販売部担当部長は、2012年2月8日に開催された「出版ビジネススクール」のセミナー「雑誌販売手法の“最前線”」で、この冊子について触れ、「4年近くたってみ読み返してみると、新たな発見を感じる。ぜひ雑誌販売に携わる書店さんや出版社・取次会社の方などに読んでもらいたい」と述べました。以下、同会場でのコメントを抜粋し、ご紹介します(文/高橋憲治)
(以下、梶原氏談)かつて、雑誌は「黙っていても売れていくもの」でした。しかし、市場環境が激変し、Webメディアなどによる情報大爆発時代が起こる中にあっては、今までのやりかただけではいけないでしょう。雑誌も書籍やほかの商材と同様に、手をかけて売っていくことが求められていると私は思います。逆に言うと、販売手法を工夫することで、雑誌はまだまだ、売れる機会を作れるのではないか、と。
この『これで雑誌が売れる』という小冊子は、2007年に、当時文藝春秋取締役の名女川勝彦さんがリーダーとなり、各出版社の雑誌販売担当者などを集めてプロジェクトを結成。書店様や販売会社様にアンケートをお願いし、「雑誌を売るテクニック」を多数教えていただきました。そして、それらの事例を小冊子としてまとめ、2008年に5万部を発行し、配布させていただきました。
発行からすでに4年以上経過し、いまも雑誌市場は下落を続けているのですが、それでもこの冊子を読み返すと、新たな発見が今でも見つかり、この情報は決して古びていないものだ、私は思っています。
私がなるほどと思ったのは、「新しい雑誌が入荷したら、すぐに『次号予告』を見る」という事例でした。なぜだろうと思ったら、「次の号の内容を見て、これはいけそうだと思ったらすぐに定期改正をし、次号の配本を確保する」ということで、なるほど、予告がこういう風に使われているのかと。
それから、「雑誌の特集に関連する書籍やムックを一緒に並べる」という話もありました。売場管理のことを考えると簡単にはいかないのかもしれませんが、私が書店さんを回らせていただいて、面白い売り場を作っているなと興味を引く書店さんは、たいてい雑誌と書籍の混在陳列をやっていると思います。
それと、「選択と集中」というご意見もありましたね。自らの店の客層をきちんとつかんだうえで、売れそうな号は期間を延長したり追加注文してでも徹底的に売る、売れない、店に合わないと思ったら販売期間内でも潔く返品するという・・・出版社の立場からすると、これはあまり言いたくない事例かもしれませんが(笑)。でも、それだけ雑誌をきちんと書店さんが単品管理をして、中身にも目を光らせる、ということが何より大事なことなんだろうと思います。
「なるべく地域の商店会の幹事などを引き受ける」という、一見すると関係ないだろうと思うものもありましたが、これも地域の人たちとのコミュニケーションをしっかり取ることで、雑誌の定期購読などにつなげていく、という話でしたね。地域の書店さんの多くが実践されていることかもしれませんが、改めて読むと「なるほど、そうだよな」と思いますよね。
いま、書店さんは厳しい環境の中に置かれていて・・・雑誌一点一点に手をかけたくてもかけられない、という悲鳴に近い声を私もよく伺います。しかしそれでも、特に中小規模の書店さんにとって、雑誌はやっぱり今でも売り上げの生命線です。出版社の立場としては、売れるものを作る、というのは当然のことではあるのですが、それと同時に、書店で雑誌売り伸ばしをしていくための様々な手助けをしていく、その一つとして、こういった販売事例の共有といったことも必要なのではないかと感じています。
残念ながらこの小冊子は大変好評で、現在「品切れ重版未定」となっていましたが(笑)、今年に入ってから雑誌協会のホームページからPDFデータをダウンロードすることができるようになりました。よろしければ、書店で雑誌販売に携わる方々や、出版社、販売会社の方々など、一人でも多くの方にお読みいただければと思います。そして、「なんだこんなの、大したことねーや、俺のほうが全然すごいね」と思う雑誌売り名人が一人でも多く現れていくことを期待しております。