低周波音分科会
Low-Frequency Sound subcommittee
1984年に発足した低周波音分科会は、INCE/Jの分科会の中でも長い歴史を有しており、現在は、大学・研究機関の研究者、企業の研究・開発部門の研究者・技術者、行政機関の環境政策部門の職員など、種々の分野からの40名のメンバーで構成されている。メンバーの多様性を反映してその活動分野も幅広く、各種の機器・設備・交通機関等からの低周波音の発生メカニズムやその低減技術の研究・開発、低周波音の測定方法の研究・開発、低周波音の伝搬予測方法の研究・開発、低周波音による影響やその評価方法の研究、低周波音による苦情への対応、さらには低周波音を利用した新技術の開発など多岐にわたっている。
低周波音分科会では2~3回/年の分科会会議を開催しており、各メンバーの研究活動の報告とそれに関する意見交換、低周波音に関する様々な情報交換を行っている。時にはメンバー以外の講師を招いての講演や、低周波音に関連した研究施設の見学なども行い、メンバーの知見を広げる一助としている。
2024年度委員
主査 | 土肥 哲也 | (一財)小林理学研究所 |
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幹事 | 岩吹 啓史 | 中日本高速道路(株) |
尾崎 徹哉 | リオン(株) | |
委員 | 井上 保雄 | 法政大学 |
岩永 景一郎 | (一財)小林理学研究所 | |
岩根 康之 | 飛島建設(株) | |
上田 麻理 | 神奈川工科大学 | |
魚崎 耕平 | (一財)日本気象協会 | |
大石 力 | (有)環境調査設計 | |
大島 俊也 | 元(一財)空港振興・環境整備支援機構 | |
岡田 健 | (株)エス・アイ・テクノロジー | |
岡田 恭明 | 名城大学理工学部 | |
沖山 文敏 | ||
落合 博明 | (一財)小林理学研究所 | |
上明戸 昇 | (株)建設環境研究所 | |
菊地 勝浩 | (株)ジェイアール総研サービス | |
北村 敏也 | 山梨大学工学部 | |
工藤 信之 | 元東京農工大学 | |
倉片 憲治 | 早稲田大学 | |
国松 直 | 元(独)産業技術総合研究所 | |
坂本 慎一 | 東京大学生産技術研究所 | |
佐久間 哲哉 | 東京大学 | |
塩田 正純 | SCCRI静穏創造研究所 | |
高橋 幸雄 | (独)労働者健康安全機構 | |
田鎖 順太 | 北海道大学 | |
角田 晋相 | (株)錢高組 | |
西村 昌也 | ジェイアール東海コンサルタンツ(株) | |
福原 博篤 | (株)エーアール | |
藤田 恵美 | (株)日立製作所 | |
藤橋 克己 | 前田建設工業(株) | |
堀江 侑史 | (公社)日本騒音制御工学会 | |
町田 信夫 | 日本大学理工学部 | |
松田 礼 | 日本大学理工学部 | |
明見 正雄 | 東日本旅客鉄道(株) | |
山田 伸志 | 元山梨大学 | |
劉 金雨 | 神奈川大学 | |
特別委員 | 石井 晧 | 千葉県環境評議会 |
増田 大美 | 環境省 水・大気環境局 | |
石井 篤志 | 環境省 水・大気環境局 | |
東海林 大輔 | 環境省 水・大気環境局 |
The Low-Frequency Sound subcommittee, which was established in 1984, has a long history among the INCE/J subcommittees and is composed of 40 members.
The fields of activity are as follows.
1 : Research and development of low-frequency sound generation mechanism from various devices, equipment, transportation, etc. and its reduction technology.
2 : Research and development of low-frequency sound measurement method.
3 : Research and development of low-frequency sound propagation prediction method.
4 : Research on the effects of low-frequency sounds and their evaluation method.
5 : Research on complaints from low-frequency sounds.
6 : Development of new technology using low-frequency sound.
The Low-Frequency Sound subcommittee holds subcommittee meetings two to three times a year to report on the research activities of each member, exchange opinions on them, and exchange various information on low-frequency sounds. Occasionally, we also visit research facilities related to low-frequency sound.
低周波音分科会の活動状況と低周波音に関する動向
1.低周波音分科会の活動状況
我国で低周波音問題が発生したのは1970年頃のことである。当初は工場・事業場からの超低周波音による建具のがたつき等の物的苦情が苦情の多くを占めていたが、1980年頃までに、工場事業場で超低周波音の対策が進み、苦情件数は減少した。環境庁では1976年から低周波音(当時は低周波空気振動と呼ばれた)の実態調査を開始し、1984年12月にそれまでの調査結果をとりまとめて公表している。
日本騒音制御工学会は1976年の5月に設立された。毎年秋に開催される研究発表会では7~8件/年程度の低周波音に関する発表があった。
低周波音分科会は1984年12月に主査:山田伸志教授、委員11名、顧問3名で発足し、1985年2月に第1回分科会を開催した。以降年3回程度の割合で現在までに通算65回の分科会を開催し、情報交換・意見交換を行っている。また、環境庁の調査への協力も行っている。
以下に、分科会の活動状況と低周波音に関する動向を述べる。
1986年からは低周波音の測定方法についての検討を行い、1991年4月、第6回技術部会分科会報告会にて「低周波音及び超低周波音の測定方法(案)」を提案し、学会誌にも掲載した。この時点では低周波音の周波数重み特性の国際規格であるG特性はまだ決まっておらず、平坦特性・LSL特性・LF1特性、G1特性(現G特性)・G2特性・ISPL特性などが併記された。
1993年、新幹線の高速化に伴い高速列車のトンネル突入時に発生する低周波音による苦情が増加し、環境庁では1994年から低周波音に関する調査を再開した。分科会では、1991年頃から衝撃性の低周波音に関する検討を開始し、1996年1月には「発破による音と振動」(山海堂)を低周波音分科会編として出版した。1997年頃からは低周波音の実態・伝搬・計測方法等について検討を行った。
一方海外では、1995年にISO-7196 で超低周波音の周波数重み特性であるG特性が規定された。環境庁では、調査委員会の結果をもとに2000年12月に「低周波音の測定方法に関するマニュアル」を公表した。マニュアルではG特性音圧レベルと1/3オクターブバンド音圧レベルを測定する。これにより、統一した方法により低周波音の測定データが得られるようになった。
近年、低周波音に関する関心の高まりや家屋の遮音性能向上等により、心身に係る低周波音苦情が急増している。苦情発生源の多くは近隣の工場・店舗等に設置された機器(固定された発生源)である。これら苦情発生個所の室内で観測される低周波音は、20Hz ~100Hz程度の周波数域に主要成分を持つものが多い。これらの苦情は室内で問題が発生しており、苦情発生個所で観測される低周波音は音圧レベルの変動が小さく、20~100Hzの周波数域に主要成分がある。分科会では、2001年頃からこの種の低周波音に係る苦情事例の紹介や、苦情の対処方法・評価方法等について海外の動向も含め検討を行っている。2004年6月に環境省より「低周波音問題対応の手引書」が公表された。手引書は音圧レベル変動の小さい固定発生源からと思われる低周波音苦情が寄せられた場合を対象としているが、その中で、発生源側と苦情者側の対応関係を確認することの重要性と、苦情の原因が低周波音によるものか否かを判断するための目安の値(参照値)が示された。
低周波音分科会の活動状況と低周波音に関する動向を表-1に示す。
表-1 日本騒音制御工学会低周波音分科会の活動状況と低周波音に関する動向
- 1970年頃~
我国で低周波音問題発生。 - 1976年
環境庁、低周波空気振動実態調査を開始。 - 1976年5月
日本騒音制御工学会設立。 - 1984年
環境庁、低周波空気振動調査結果を公表。 - 1984年12月
低周波音分科会発足。 - 1985年2月
低周波音分科会第1回分科会を開催。 - 1985年~
既存の基礎研究結果・フィールド調査結果の整理。 - 1986年5月
第4回技術部会分科会報告会にて報告。 - 1986年~
低周波音の閾値、影響、評価、対策事例、測定方法等について検討。 - 1987年7月
第5回技術部会分科会報告会にて報告。 - 1986年~
低周波音の測定方法について検討。 - 1991年4月
第6回技術部会分科会報告会にて報告。
「低周波音及び超低周波音の測定方法(案)」を提案。 - 1991年~
衝撃性低周波音に関する検討。 - 1992年
発破関係の方々との情報交換を行う。 - 1993年
「工業火薬協会規格;爆発騒音レベルと低周波音測定方法」の検討。 - 1993年
新幹線の高速化により、低周波音問題が再燃。 - 1994年~1997年
環境庁「低周波音影響評価調査」に協力。 - 1995年
ISO-7196、超低周波音の周波数重み特性(G特性)規定。 - 1996年1月
「発破による音と振動」出版。 - 1996年5月
技術部会分科会技術報告会にて報告。 - 1997年~
低周波音の実態、伝搬、諸外国の動向等について検討。 - 1998年3月
平成9年度研究会(第4回研究会)にて報告。 - 1999年~
低周波音の計測方法について検討。苦情現場の視察を行う。 - 2000年~
低周波音の閾値、許容レベル等について検討。 - 2000年12月
環境庁「低周波音の測定方法に関するマニュアル」公表。 - 2001年~
低周波音の評価方法について検討。 - 2002年3月
環境省「低周波音対策事例集」公表。 - 2002年~2003年
環境省「低周波音対策検討調査」に協力。 - 2002年~
低周波音の苦情事例と対処方法について検討。 - 2004年6月
環境省「低周波音問題対応の手引書」公表。 - 2006年2月
65回の分科会を開催。委員28名、特別委員7名。
2.低周波音関係の学会発表
日本騒音制御工学会研究発表会における低周波音関係の発表件数の推移を図-1に示す。図は5年間の発表件数の合計で示してある。これによると、1976年から1985年は8~9件/年の発表があったが、1986年から2000年は発表件数が減少している。最近5年間は発表件数が再び増加しているが、2000年に環境庁より「低周波音の測定方法に関するマニュアル」が公表されて低周波音に関する関心が高まったこと、2002年から研究発表会が年2回になったこと等によると考えられる。
図-2に研究発表会における低周波音関係の内容別発表割合の推移を示す。これによると、1976年から1985年は対策に関する発表が、1986年から1990年は実態に関する発表が、1996年から2000年は影響評価に関する発表が多かった。最近の5年間は各項目について概ね均等であった。
なお、本内容は平成18年度春季研究発表会*にて発表したものの一部である。
図-1 低周波音関係の発表件数の推移
図-2 研究発表会における低周波音関係の内容別発表割合の推移
- *(文献)落合: 低周波音の現状と課題.日本騒音制御工学会春季研究発表会講演論文集,2006.4,pp.1-6