『NHKスペシャル 世界に響く歌 日韓POPS新時代』の関連データを紹介し、私見を記す - イマオト - 今の音楽を追うブログ -

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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『NHKスペシャル 世界に響く歌 日韓POPS新時代』の関連データを紹介し、私見を記す

昨日放送された『NHKスペシャル 世界に響く歌 日韓POPS新時代』(NHK総合)ではYOASOBIの海外チャートの動向や海外ライブの密着、またNewJeansへのインタビューやプロデューサーであるミン・ヒジン氏への独占インタビューもあり、見応えのある内容といえます。

また番組ではヒットの分析を多角的に行うべく複数の音楽関係者に取材していますが、YOASOBI「アイドル」のヒットを解説していたのが音楽ジャーナリストの柴那典さんである等、その人選も説得力があったと感じています。

 

意地悪な見方かもと前置きしますが、昨年の『NHK紅白歌合戦』にてYOASOBI「アイドル」がハイライトとなり、NewJeans等K-POPやJ-POPのアイドル/ダンスボーカルグループがダンサーとして大挙参加したことは、『NHKスペシャル』の放送も背景にあるかもしれません(とはいえ、その狙い以上に大きな話題に成ったと考えます)。またデジタル未解禁歌手の紅白不出場については、デジタルの重要性を考慮したともいえそうです。

 

さて今回、番組を観ながらXにてつぶやいた内容を転載します。番組そしてYOASOBI「アイドル」やNewJeans「Ditto」等がヒットした背景を知る一助にしていただきたいと思い、過去のブログエントリーを紹介しました。またそれ以外にも私見を記します。

 

 

まずはグローバルチャートについて。番組冒頭にて"Billboard Global 200 最高7位"と表示されていましたが、そのチャートを以下に紹介。なおGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.にてYOASOBI「アイドル」が首位を獲得したことについては番組側が触れませんでしたが、日本のメディアが"グローバルで1位"と紛らわしい表現を用いていたことが散見される状況にあって、『NHKスペシャル』はフェアだと感じた次第です。

 

一方で、グローバルチャートについてはK-POPとJ-POPの開きが大きくなっています。このことについては2023年度の年間チャート紹介時に詳しく分析しています。

上記ポスト内リンク先ではNewJeansや、『NHKスペシャル』にも登場したLE SSERAFIM等のK-POP第4世代女性ダンスボーカルグループによる作品について、接触指標群のロングヒットに伴い年間チャート上位進出を果たしたと記しました。番組ではBTS「Dynamite」(2020)が米ビルボードソングチャートを制したことも紹介していますが、同曲や翌年の「Butter」は所有指標の高位置安定が大きく影響したと捉えています。

ビルボードは近年、所有指標についてのチャートポリシー(集計方法)を段階的に変更。接触指標が強い、すなわちストリーミングやラジオで広く聴かれ社会に浸透した曲が真の社会的ヒットといえるような形を採っています。この変更が熱量の高いファンダムからの非難を招いていますが(ただし米ビルボードの説明不足という点は否めず、その点は改善が必要です)、そのチャートポリシー変更自体は支持できるものです。

グローバルチャートと米ビルボードソングチャートとの差も踏まえるに、特に米ではアジアの作品が接触指標で強くなることが極めて難しいと捉えています。『NHKスペシャル』ではK-POPやJ-POPに親しみを持つ方がインタビューに応じたものの、特にラジオ業界においてはアジアの作品を好まない方が今も多いのではと感じます。ゆえに番組にて、そのような方に対しても印象を伺うことが必須だったでしょう。

ただし先述したBTSは、接触指標が強くなかったとしても米にK-POPムーブメントを起こした立役者であることは間違いなく、最終的にラジオでもスマッシュヒットに至った点は注目すべきと考えます。それがストリーミングやラジオといった接触指標群でK-POP全体の認知を徐々に高め、昨夏のアルバムチャートにてNewJeans『Get Up』が映画『バービー』サウンドトラックに勝った結果につながったともいえるでしょう。

 

K-POPのデジタル展開の速さに対して、日本のフィジカルへのこだわりはグローバル進出の遅れにつながっています。

著作権法改正そしてコピーコントロールCD(CCCD)導入において共通しているのは、時代に合わせてCDが売れなくなってきた一方でデジタルの兆しがみえてきたそのタイミングで、CDの売上を守ろうとした音楽業界の旧態依然の態度でした(また著作権法改正のニュースをほぼ報じてこなかったメディアも問題です)。エンタテインメント業界全体が柔軟さを欠いたことへの振り返りを、今後番組で取り上げてほしいと願います。

(ちなみにコピーコントロールCD導入や著作権法改正においては、音楽業界側の"消費者は潜在的犯罪者"という姿勢も透けて見えたと感じています。今のK-POP、また最近では一部J-POP歌手において、写真や動画の活用をコアファンに認める動きが目立っていますが、それと真逆の姿勢がJ-POPの柔軟化を遅らせた一因と考えていいでしょう。)

 

今回の『NHKスペシャル』で取り上げてほしかったことは他にも。

YOASOBIは作品やコンセプト(の作り方)のみならず、SNS時代に即したエンゲージメントの確立に長けています。そして音楽チャートへの意識もJ-POPの中ではかなり高い方です。YOASOBIサイドにその点を問うことはJ-POPのグローバルへの開拓につながることでしょう。番組を観た(どの歌手かに関係なく)コアファンのチャートへの意識も高めたはずです。

YOASOBI「アイドル」が世界的ヒットになったことは間違いありません。アニメ関連曲のヒットも目立っていますが、K-POPがデジタルの積極的な活用や国をあげての意識向上という"面"に対し、J-POPはデジタルにおいて足並みが揃わず意識の差もあることでグローバルヒットが相次いで輩出されず、いわば"点"に過ぎないと考えます。その点を面にするためのアイデアを『NHKスペシャル』側がもっと提示してよかったはずです。

日韓の意識の差の背景には、先述したCDへの悪い意味でのこだわりや根底にある姿勢、音楽業界やメディアがデジタルに明るくなろうとしない歌手に問いただすことをしなかったこと、さらには噂されていた悪しき問題が長らくそのままにされてきたことやメディアによる厚遇と冷遇といった対応の差等、日本の悪しき考え方や慣習の放置があるものと捉えています。

それがあまりにも長く続いてしまったことで"仕方ない"という考え方や"変わるはずがない"という思考が日本全体にこびりついたというのが厳しくも私見であり、K-POPへの非難においては柔軟な変革を続ける韓国に対する日本の変わらなさへの苛立ちを、なぜかK-POP側に転嫁させるという態度もともすれば存在するかもしれません。その目線を日本の変革への注視や後押しに移すことが必要だと考えます。無論、自省(を促すこと)も大事です。このブログでの提案は、変革が可能であると見込んで記しているものです。

 

 

最後は自分の考え方の提示となりましたが、遅きに失したとしてもJ-POPのグローバルヒット輩出の可能性はゼロではありません。YOASOBI「アイドル」を起点に、音楽に限らずエンタテインメント業界全体が変わること、そして音楽を享受する一人ひとりの考え方も前向きに変わることを強く願います。