今週は米ビルボードによる2023年度年間チャートが発表されました。このブログでは11月22日水曜に米ソングチャートを中心とした米の動向を、23日木曜にはグローバルチャートの動向を、それぞれ紹介しています。
そして、この年間チャートと同一の集計期間を対象とした【2023 ビルボード・ミュージック・アワード】が、現地時間の11月19日に発表されました。今回はこの賞を基に、感じたことについて記載します。なお同賞については、以下”BBMAs”と記載します。
BBMAsの結果、およびノミネーションについては下記をご参照ください。
【2023ビルボード・ミュージック・アワード】ファイナリスト発表、テイラー・スウィフトが最多候補に #BBMAs https://t.co/NKcvh0zEIY
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2023年10月27日
【2023 #BBMAs】全受賞アーティスト&作品リスト、モーガン・ウォレンが今年最多11部門受賞 https://t.co/ReQ4i8DR1d
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2023年11月20日
今回のBBMAsではカントリー歌手のモーガン・ウォレンが最多11部門を受賞し、最多ノミネートを果たしていたテイラー・スウィフトは10部門を獲得。テイラーはドレイク(今回5部門を受賞)共々、BBMAsの歴代最多受賞歌手となりました。
さて、BBMAsはK-POPの存在感が高まっています。ノミネーションの記事にもあるように今回初めてK-POP部門が創設され、その4部門はNewJeans、BLACKPINK、Stray Kidsおよびジョングクさんが受賞しています。この新設は、K-POP作品のアルバムチャートにおける上位進出等を踏まえれば自然なことだと考えます。
一方、このK-POP部門新設については一部から非難の声が上がっているとのことです。
2022年には「アメリカン・ミュージック・アワード」がK-POP部門を新設したことに続き、ビルボードが同部門を作り固定席を割り当てたということは、ある意味で「K-POPの地位が高くなったと考えられる」という意見がある一方で、この動きに関して一部では「逆差別ではないか」という意見が浮上。根拠として「K-POP部門」という名前でK-POPを限定し、主要部門の受賞を阻止するための策略ではないかというものだ。
この記事は、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんによるnote(→こちら。自分のブログエントリーを取り上げていただき、この場を借りて感謝申し上げます)でも触れられているのですが、実はこの指摘は以前も取り上げられていました。下記は11月6日付のDanmee(ダンミ)による記事ですが、Yahoo!JAPANのトップページにも掲載されていたと記憶しています。
これら記事の元になる一部ファンの非難そのものについては、該当しないと断言していいでしょう。
BBMAsは集計対象期間のチャートから、基本的に上位5つ(一部部門は3つ)の作品もしくは歌手がノミネートされるようになっています。このことは冒頭で取り上げたBBMAsのノミネートリストと、米ビルボードによる2023年度各種年間チャートを比べていただければ解ります(米ビルボード 最新の年間チャートはこちら)。
ただ、部門の中には5位(もしくは3位)までに入っていない作品や歌手もノミネートされていることがありますが、これはおそらく前回までのBBMAsで選ばれた作品や、集計期間の大分前にリリースされたものは含まないという前提ゆえと思われます。たとえば今回のBBMAsにおいてトップ・ロック・アルバム賞はザック・ブライアン『American Heartbreak』が受賞していますが、米ビルボードによる2023年度のトップ・ロック・アルバムチャート(→こちら)ではベテラン歌手のベストアルバム等過去作品が上位に入っているもののノミネートされていません。
その前提を踏まえてみてみると、トップ・デュオ/グループ賞はとても興味深く感じるはずです。年間チャート(→こちら)では3位にフリートウッド・マックが入っていますがノミネーションには含まれず、代わりにチャート6位のK-POP歌手、FIFTY FIFTYが入っています。仮にK-POP部門がK-POPを除外する目的で新設されたのだとしたら、ジャンルを問わないトップ・デュオ/グループ賞でのFIFTY FIFTYノミネート入りは矛盾となります。
K-POPファンが米ビルボードを非難するという行動は、以前もみられています。特に2023年度米ビルボードソングチャートのダウンロード指標におけるチャートポリシー(集計方法)の変更に伴いJIMIN「Like Crazy」が首位から急落したことで、米ビルボードに対する非難や不信感が増大しました。
この点は上記エントリーにおける【⑧ ダウンロードの他指標との乖離、そしてチャートポリシー変更】という項目にてまとめています。チャートポリシー変更については2023年度初週におけるテイラー・スウィフト「Anti-Hero」の施策反映および翌週のダウンロード指標急落が変更(議論)の契機と捉えていますが、この変更自体は理にかなっているというのが私見です。
そのチャートポリシー変更がJIMIN「Like Crazy」首位獲得の翌週に行われたことも非難を大きくしたものと捉えていますが、問題は米ビルボード側がチャートポリシー変更の説明をきちんと行っていない、すなわちチャート管理者(責任者)として毅然とした態度を示していないことにもあるのではないでしょうか。この点も含め、Danmeeの記事を用いた形で私見をポストしていますので、こちらでも掲載します。
Yahoo! JAPANトップに掲載されたこちらの記事ですが、K-POP部門の新設は世界の影響度を踏まえれば自然な流れでしょう。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
他方、部門新設で『韓国のアーティストが、本賞・大賞に値する非ジャンル部門いわゆる「主流」から排除されるかもしれない』という見方には該当しないと断言します。 https://t.co/UnZLQ5XitG
元来、ジョングク feat. ラトー「Seven」の米ビルボードソングチャートにおける動向(引用ポスト参照)は、グローバルでの大ヒットと大きく異なります。主流部門はあくまで米でのチャート動向に基づくものです。https://t.co/wvyYKZMcLk
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
米ビルボードソングチャートにおいて上位に進出を果たしたK-POP作品のほとんどは、高い所有指標に基づく瞬発力、もしくは従来持続性の乏しい所有指標が継続してヒットしたことに基づくヒットであることが大きく、接触指標群(ストリーミングやラジオ)のヒットが課題となっています。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
そのK-POPでは今年に入り、FIFTY FIFTY「Cupid」やNewJeansの作品にて接触指標が強く、状況は変わりつつあります。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
一方で高い所有指標ばかりが目立つ曲は継続的なヒットが難しく、米ビルボード側のチャートポリシー変更により所有指標が目立つ曲のヒットはより厳しくなりました。接触指標は重要です。
米ビルボードに懐疑的な見方をする方は、”米ビルボードのせいでK-POPのヒット規模が小さくなった”と捉えているのではと感じます。"BILLBOARDCORRUPT"というハッシュタグの存在もその一種でしょう。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
しかしながら、米ビルボードによるチャートポリシー変更は自然なことというのがチャートを追いかける者としての見方です。今年春の変更については下記エントリーにて記載しています。尤も、米ビルボードが毅然とした説明を行うことも必要です。https://t.co/ur6BnDKYGv
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
またK-POPアクトがグラミー賞で好成績が収められないことについて、賞側を非難する動きもみられますが、そちらに対しては接触指標群拡充の重要性をブログにて提示しています。https://t.co/30qQJry6BR
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月7日
K-POPにおいてはFIFTY FIFTY「Cupid」の米ビルボード年間ソングチャート100位以内エントリーやNewJeansのソングチャート複数週ランクインに代表されるように、第4世代女性ダンスボーカルグループが接触指標でのヒットに至っている一方、男性ダンスボーカルグループは基本的に接触指標が強くない状況です。男性歌手が所有指標に特化していることについては、下記コラムからその背景を知ることができるかもしれません。
韓国内でボーイズグループの活躍がガールズグループに比べて劣勢を見せている原因は、まず「戦略の違い」にある。
ファン活動に金を惜しまないコアなファン層(ファンダム)が厚く堅固なボーイズグループは大衆よりもファンダムにアピールする「ファンダムマーケット」戦略に固執する。
独特な世界観を設定し、メンバーの華麗なパフォーマンスが目立つ複雑で格好いいメロディー、世界観を表す難解な歌詞などでファンダムにアピールするため、彼らの世界観を知らないライトユーザーや大衆にとっては近寄りがたい。ファンダムだけでグループの維持が可能になると、大衆からはますます遠い存在になってしまう。
(中略)
ガールズグループのファンダムは10代、20代の男性が多いが、彼らは飽きっぽく、アイドルのためにお金を使わないという固定観念がある。そうなると当然、ガールズグループはファンダムよりも大衆にアピールする戦略をとらなければならない。
「ボーイズグループはファンダム、ガールズグループは大衆性」というのが、K-POPシーンの不文律のように伝えられているのはこのためだ。
ところが、BLACKPINKやTWICEを筆頭に、第3世代(2010年代にデビューしたグループ)からはガールズグループにも強力なファンダムが付き、アルバム販売面でもボーイズグループと対等なレベルまで成長していった。
ガールズグループが大衆とファンダムを同時に満足させる間、ボーイズグループはいつのまにか「彼らだけのリーグ」に止まってしまったのだ。
K-POPは歌手のコアファンの方々においても、音楽チャート分析がJ-POP歌手(コアファン含む)以上に長けている印象がありますが、ならばチャートポリシー変更等の背景も冷静に分析し、どうやって米ビルボードで接触指標群を高めるかを考え、ライト層を拡げるための取組を実行したほうが好いでしょう。
その熱量の素晴らしさがマイナス感情の増幅にもつながることで、米ビルボードへの非難("BILLBOARDCORRUPT"以上に強烈なハッシュタグ)も生まれていると考えます。ネガティブな状況発生時に防御するというのは人間の本能だとして、それが非難行動を行っていいということはありません。コアファンの方々による言動や行動は、世間全般の歌手に対する印象を左右し得ると考えるに、冷静な視野を維持してほしいと願います。
同時にメディアにおいても、あたかも煽りかねない表現の使用(特に記事タイトルにおいて)は慎むべきです。また取材可能な立場であるメディアがネットの声を拾い上げる一方で、その声を基に追及等をしようとしないのではないかという疑問も抱いています。このことは、たとえばノミネーションが発表されたばかりの日本レコード大賞においても強く感じています。
メディアはネットの声を用いて疑問を提示することが目立ちますが、ならば疑問を直接ぶつけたほうが迅速な改善につながるのではないでしょうか。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年11月23日
昨年の日本レコード大賞では東京中日スポーツ(中日スポーツの関東版)の方が審査委員に名を連ねているゆえ、尚の事です。https://t.co/d9XeFS4Yat https://t.co/EtdxbqTaNl
米ビルボード自体の責任者としての態度、コアファンの熱量の用い方、そしてメディアにおけるプライドよりもアクセス数を狙った行動…一部ではあるとして、しかしいずれも改善が必要であり、それが叶うことでエンタテインメント業界は健全な発展に至ると考えます。今回取り上げた声等は米韓そして日本のものであり地域は異なりますが、この課題は国や地域を問わないはずです。