金木犀が香り、紅葉が色づき始める頃、都会の喧騒から離れて趣きある旅館で読書をするには、最適な季節です。今回は、そんな読書の秋にこそ訪れたい、文豪が愛した宿を5軒ご紹介。お気に入りの一冊を鞄に入れて、文豪の面影を感じる旅へ出かけてみましょう。
目 次
1.歴代の文豪が愛した天城の老舗温泉宿で、読書に浸るひととき
おちあいろう(静岡県/伊豆・天城湯ヶ島)
伊豆・天城湯ヶ島温泉に佇む「おちあいろう」は、明治7年に創業した登録有形文化財に登録される老舗温泉旅館。名だたる文豪に親しまれ、明治には田山花袋、島崎藤村、大正には川端康成、梶井基次郎、昭和初期には若山牧水、北原白秋などに愛された宿です。
お部屋は全部で14室。黒柿や紫檀等の銘木を用いた格式高い本館の客室と、数寄屋造りの明るく柔らかな風情漂う「眠雲亭」の客室から選べます。なかでも本館2階の狩野川沿いの趣あふれる「【青水沫 露天風呂付】」は、小説家・林芙美子が滞在したお部屋。100%源泉掛け流しの半露天風呂を配し、小説『温泉宿』では「菊の間」として登場します。
館内には、歴代の文豪の蔵書とレトロなおもちゃを陳列した、ノスタルジックな「読書室」が備わります。文豪が愛した宿で読書をすれば、普段とは違った世界観に浸れるかもしれませんね。
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おちあいろう
静岡県/伊豆・天城湯ヶ島
2.島崎藤村が執筆した湯河原の温泉宿で、職人技に出会う体験
島崎藤村ゆかりの宿 伊藤屋(神奈川県/湯河原)
湯河原温泉の万葉公園入口に佇む「島崎藤村ゆかりの宿 伊藤屋」は、明治21年に創業した老舗旅館。島崎藤村が名作『夜明け前』の原案を練った宿として知られ、遺稿・愛用品が今も残ります。他にも初代三遊亭円朝や黒田清輝、有島武郎などの文人墨客が愛用した歴史ある旅館です。
全13室のお部屋は、どれも居心地の良い設え。なかでも「【本館52番】大正初期建築の書院造り」は、明治天皇の侍従長・徳大寺公爵が滞在するために造られた、登録有形文化財に登録される貴重な客室です。当時のままのガラス窓が広がり、今では珍しい手の込んだ組子の建具や透かし彫りの欄間など、昔の職人技に出会えます。
湯河原に来たからには、温泉も楽しみたいですね。天然岩を贅沢に使った24時間入浴可能な内風呂と、四季折々の風情が楽しめる開放感のある貸切露天風呂で、至福のひとときを過ごしましょう。
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島崎藤村ゆかりの宿 伊藤屋
神奈川県/湯河原
3.夏目漱石が愛した道後温泉の老舗旅館で、俳句に触れる旅時間
道後温泉 ふなや(愛媛県/道後)
日本三古湯のひとつで、約3,000年の歴史をもつ道後温泉。この地で江戸時代に創業してから約390年以上続く「道後温泉 ふなや」は、夏目漱石や正岡子規など、名だたる文豪に愛された老舗旅館です。漱石の名作『坊っちゃん』は、この宿が舞台だとか。玄関横の句碑には、滞在の喜びを表現した俳句が刻まれています。
上質な寛ぎの空間に配慮した全58室のお部屋の中でも「俳句ラウンジスイート」は、自然や季節を大切にしてきた俳人の生き方を表現した設え。青を基調とし、和とモダンを融合したデザインが、特別なひとときを演出してくれます。檜風呂では名湯を気兼ねなく堪能でき、日々の疲れも癒されることでしょう。
館内には、正岡子規の俳句から名付けた渡り廊下「もみじ橋」があり、建物の外には1,500坪の広大な自然庭園が広がります。俳句に触れ、自然の息吹を感じる旅時間は、忘れがたい思い出となるでしょう。
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道後温泉 ふなや
愛媛県/道後
4.司馬遼太郎ゆかりの地・倉敷に佇む旅館で、伝統建築と懐石料理を堪能
旅館くらしき(岡山県/倉敷美観地区)
天領となった倉敷の姿を色濃く残した、倉敷美観地区の中心部に佇む「旅館くらしき」。江戸時代に造られた砂糖問屋の母屋と米蔵の3棟を再生した全8室の料理旅館は、伝統建築と職人技をそのまま活かした、趣きある造りです。
2階に位置する「< 巽の間 > 和室+洋寝室 築260年の米蔵」は、約260年前の米蔵を改装した、屋根裏部屋を感じさせる和室のあるお部屋。多くの文豪や芸術家に親しまれ、棟方志功や司馬遼太郎にも愛用された、人気の客室です。ベッドルームから望む鶴形山は、館内のベストビュー!
お食事は、お庭の見えるレストランで宿自慢の懐石料理を。四季折々の旬食材を活かした料理は味わい深く、季節ごとに訪れたくなります。ランチタイムには数量限定の御膳などがいただけるので、こちらもぜひ味わってみて。
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旅館くらしき
岡山県/倉敷美観地区
5.志賀直哉の代表作が生まれた城崎の旅館で、温泉と読書を満喫
城崎温泉 登録有形文化財の宿 三木屋(兵庫県/城崎温泉)
奈良時代から多くの人々に愛されてきた歴史ある城崎温泉。その中心部に位置する創業300年の「城崎温泉 登録有形文化財の宿 三木屋」は、志賀直哉の代表作『城の崎にて』が生まれた老舗温泉旅館です。
昭和2年に建てられた登録有形文化財に登録の木造建築は、風情を残したまま大規模リニューアル。ロビー横に設置された「ライブラリーラウンジ」には、城崎温泉の出版レーベル「本と温泉」に関わるブックディレクターがセレクトした本が並びます。落ち着きのある照明とゆったりとしたソファに、読書がはかどりそうですね。
お部屋は、木造の温かみと和の情緒あふれる8タイプの全16室。和洋室、庭園側和室、特別室など、歳月を重ねながらも由緒正しき格式を感じられる設えです。昭和に建てられた志賀の愛用客室は、宿泊者がいなければ見学可能(宿泊客のみ対象)。文豪の面影を感じながら、温泉と読書を満喫しましょう。
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城崎温泉 登録有形文化財の宿 三木屋
兵庫県/城崎温泉
近代の代表作を読んだことのある人もそうでない人も、宿に泊まれば、ほんの少し文豪が近い存在になるかもしれません。秋の気配が訪れる時期に、文豪が愛した宿で文学を味わってみませんか。
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