インターライ方式 看取りケアのためのアセスメントとケアプラン
看取りケアのアセスメントとケアプランをこの一冊で!
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看取り介護加算などで高齢者施設での看取りが推進される中、介護の現場にはさらに質の高い看取りケアへの対応が期待されている。本書は国際的なケアアセスメントツールであるインターライシリーズの「看取りケア」版。アセスメントの記入要綱(マニュアル)とケア指針(CAP)で構成され、記入要綱に沿ってアセスメントすると、アドバンス・ケア・プランニングが実践できる。看取りケアに関わる医療・介護スタッフ必携の一冊。
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日本版の序/interRAI Assessment System Palliative Careの開発によせて
日本版の序
インターライ方式について
インターライ方式は,20カ国の研究者(フェロー)で構成されるinterRAI(インターライ:本部は米国)がICF(国際生活機能分類)の理論的枠組みに準拠して開発した国際標準のアセスメントツールである。具体的には,身体機能や障害を表す「心身の機能と構造」およびADLや活動の範囲等を表す「活動」のみならず,生活や人生の各場面への関わりを捉える「参加」の側面までをカバーしている。したがって,アセスメント項目は専門職者のそれぞれの視点に偏らない包括的なものとなっており,アセスメント担当者が福祉職の場合には医療的知識を補い,医療職の場合には福祉的知識を補う。そのうえ共通の言語によって構成されているので,職種間での情報の共有を容易にする。
もう1つの特徴は,全ての利用者に対して,ケアに役立つ情報を網羅的に把握できないので,利用者の評価(アセスメント)が階層的になっている点である。例えば「注意がそらされやすい」の項目がチェックされると,せん妄の可能性があるので,せん妄に対するケア指針(Clinical Assessment Protocols;CAP)を確認したうえで,ケアプランを作成するようになっている。
以上のように,インターライ方式は,利用者のケアニーズを見落としなく把握するための「アセスメント表」と,課題を分析するための「指針(ガイドライン)」によって構成されている。
インターライ方式は,世界の約40カ国で利用されており,日本においてはinterRAIフェローの池上直己(慶應義塾大学名誉教授,インターライ日本理事長)らにより,施設版(MDS2.1)と居宅版(MDS-HC2.0)が刊行された。そして次いで2011年には,これらの版を統合した『インターライ方式ケアアセスメント』が医学書院より刊行された。同書を本書と併せて利用すれば,多職種協働によるシームレスなケア体制を構築することができよう。
看取りへの対応
介護施設や居住系サービス(グループホーム,サービス付高齢者向け住宅,有料老人ホーム等)における看取りニーズが高まっている。これに対応するために,国は2006年に看取り介護加算を新設し,施設や事業所における看取りへの対応が促された。さらに,2021年度介護報酬改定で施設等での看取り対応として「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の推進」が組み込まれ,介護現場はACPガイドラインに沿った対応が迫られている。
ACPとは,「あなたが大事にしていることや望んでいること,どこで,どのような医療・ケアを受けたいかを,自分自身で前もって考え,周囲の信頼する人たちと共有しておくこと」(厚生労働省,2023年)を指し,「人生会議」という言葉でも広まりつつある。しかし,介護や医療の現場では慢性的なマンパワー不足もあって,加算基準への形だけの対応にとどまっていることが多いのが現状である。今後はさらに,ACP推進のための具体的なアクションが求められるが,そのためには現場に即した看取りのケアとACP推進のための手法が不可欠である。
本書は,看取りにおいて必要な対応を,緩和ケアの観点から編集している。日本において緩和ケアは,一般にがん患者を対象として緩和ケア病棟で提供されるケアとして位置づけられているが,緩和ケアはがんに限らず,すべての看取り場面において必要な対応である。こうした理由により,本書は原題と異なり,『インターライ方式看取りケアのためのアセスメントとケアプラン』とした。
本書においては,高齢者施設以外の看取り事例についての解説もあるが,これらは,介護施設においても参考にすべきである。たとえば,利用者に痛み・呼吸困難・褥瘡などがあれば,どのように対応するかを知識として習得すべきである。知識はこうした医療面への対応にとどまらず,残された家族に対する支援の方法などについても解説されている。
本書のもう1つの特徴は,必要な知識を教科書としてではなく,利用者をアセスメントすることによって,実践的に学べるように工夫されている点である。たとえば,看取り場面では褥瘡ができやすいが,褥瘡ができた場合の対応方法が具体的に説明されている。こうした知識を介護現場で蓄積し,活用することによって,利用者とその家族に対する看取りのケアの質を高めることができる。
ちなみに介護現場では,「アセスメント」という用語を,利用者を突き放し,寄り添うことを否定するような対応として受け取る傾向もある。だが,アセスメント表に従って体系的にアセスメントすることによって,はじめて利用者とその家族のニーズと思いに寄り添ったケアプランを作成できる。
したがって,ニーズを体系的に把握することは,決して利用者の意向を軽視することではなく,むしろ正しく意向を把握するためにも必要な対応である。ちなみに,アセスメント表には,項目A10「本人のケアの目標」があり,評価する際は「サービスを受けることによって実現したいことはありますか」といった尋ね方が示されている。そして,目標が「残りの人生を自宅で過ごし,痛みをなくしたい」であれば,それをスタッフの解釈を入れずに,そのまま回答欄に記入するよう記入要綱で指示されている。
また,呼吸困難や痛みがあれば,それについてアセスメントを行う日を含めて過去3日間に何日,どの程度で,どのような痛みであったかをそれぞれ評価するように求められている。このように緻密に評価することによって,対応後に呼吸困難や痛みがどの程度緩和されたかを正確に把握することができる。
以上のように,本書を活用することによって,ACPに適切に対応し,利用者と家族の意向に沿った適切なケアの提供が可能となろう。翻訳するにあたって,介護施設に照準を置いたが,居宅における看取りの質を高めるためにも活用できる。
本書の特徴
本書は,アセスメント表,CAP選定表,アセスメント表の記入要綱(利用マニュアル),およびCAP(ケア指針)により構成されている。
①アセスメント表
A~Qの17セクションから構成されている。基本情報(年齢,性別,診断名,本人のケア目標,予後についての認識など),健康状態(痛み,呼吸困難,疲労感など),栄養状態,皮膚の状態,認知,コミュニケーション,気分と行動,機能状態(ADLやIADL),治療とケアプログラム,意思決定と事前指示(最期を過ごす場所への希望など)などが包括的に含まれている。
②アセスメント表の記入要綱
アセスメント項目の意図や回答に対する記入例などの事例が詳細に書かれ,アセスメントがスムーズに進むように工夫されている。
③CAPとCAP選定表
アセスメントにおいて,支援を必要とする機能低下や問題を見つけるための「トリガー」と呼ばれる項目にチェックが入ると,さらに詳細に検討すべきCAPの領域が決まる。8種類あるCAPには,それぞれ必要な支援を行うためのガイドラインが書かれており,ガイドラインに沿って課題を見つけ,ケアプランに反映していく。この仕組みは,多様なニーズの中から行うケアの焦点を決めることが難しい看取り介護の現場の状況に即している。CAPにおいて,それぞれに対応策が網羅的に書かれているためページ数が多いが,各利用者において対応すべきCAPの数は限られており,また該当した場合も,必ずしもすべてに対応する必要はない。
なお,本書の原版には,看取りケアが数日にとどまる場合に対応したアセスメント表も用意されているが,日本の介護現場には該当しないと判断し,日本版出版において割愛した。
最後に,本書のアセスメント項目の多くは,居宅・施設の利用者を対象としたインターライ方式と同じ評価項目を用いているため,この方式を利用していれば,人生の最終段階に差し掛かった場合に,シームレスで継続的なケアを実現できる。なお,これまでにインターライ方式によるアセスメントを行ったことがない場合でも,アセスメントの方法からケアのガイドラインまでこの1冊で包含されているので,看取り場面に限って活用することもできる。
本書の活用場面
①介護施設への入所者に
入所や入退院のタイミングでアセスメント表をもとに話し合い,記録を残すことで,心身の状況の変化に伴うACPの修正や追加が可能となる。施設入所時から定期的にアセスメントすることで,ACPの加算に対応した取り組みを行うことができる。その後,看取り期を迎えた場合には,アセスメントと対応するCAPに従って質の高い看取りのケアプランを作成できる。
②看取り期を迎えた利用者に
看取り期を迎える利用者にアセスメントを行い,CAPに基づいたケアプランを作成することが,マニュアルの基本的な使い方である。該当するCAPがない場合は,各CAPの中の「全体のケア目標」を確認し,本人や家族の希望に沿ってケアを振り返るとよい。
③認知機能が低下している利用者に
認知症の利用者の希望を聞き出すことは難しいことがある。しかし,本アセスメントの項目では,単に何かができるできないではなく,F1「日常の意思決定を行うための認知能力」によって判断する。F1の選択肢は「0.自立」「1.限定的な自立」「2.軽度の障害」「3.中等度の障害」「4.重度の障害」「5.昏睡」の6段階から選ぶ。特に,「2.軽度の障害」の具体的な説明として「意思決定はできるが,特定の(繰り返す)状況においては判断力が弱く,合図や見守りが必要である」となっている。このような日常生活のスタッフの関わりとその反応から,利用者の希望を把握することができる。
④高齢者施設での看取り介護へ向けての導入用の研修ツールとして
看取り事例が生じたとき,あるいはこれまでの自施設での看取り事例を参考に,アセスメント結果からCAPを読み込んでケアの振り返りを行うと,効果的に学習できる。アセスメントの結果,対応するCAPが明らかになれば,そのCAPをもとにケアプランを作成・実施・再評価を繰り返すことでPDCAサイクルが実現できる。
⑤離れて暮らす家族との情報共有ツールとして
子どもや血縁者が遠方居住などにより面会頻度が限られたなかでは,利用者本人の日々の変化や情報共有は容易ではない。アセスメント表の活用により,利用者の経時的な変化や様子が明示され,家族との情報共有が容易となる。
⑥臨地経験のない初学者の看護学生が,緩和ケアを理解する教材ツールとして
看護学教育モデル・コア・カリキュラム(文部科学省,2017)において,「人生の最終段階にある人々に対する看護実践」を学ぶことが求められている。そのなかで,学修目標として,「人生の最終段階にある人の価値観や人生観,死生観を引き出し,終末期の過ごし方を考え,援助関係の築き方について説明できる」「人生の最終段階にある人の疼痛のアセスメント及びコントロールの方法について理解し,苦痛緩和のためのトータルケアを説明できる」などがあり,これらの目標を達成できる具体的な方法は,教育機関に委ねられている。本書を用いることによって,初学者の看護学生が一連のプロセスを演習することができ,人生の最終段階にある利用者を総合的・全人的に理解しながら看護援助の方法を学ぶための教材ツールとして有効に活用できる。
なお,日本版出版にあたっては,日本の介護現場に即した表現の工夫,事例の加筆修正,日本国内のガイドラインなどを反映させている。
参考文献
・ 日本緩和ケア医療学会(2023).緩和ケアってなに?
https://www.kanwacare.net/forpatient/whatis/(2024年6月10日確認)
・ National Institute on Aging(2022). Providing Care and Comfort at the End of Life.
https://www.nia.nih.gov/health/end-life/providing-care-and-comfort-end-life
(2024年6月10日確認)
・ 文部科学省(2017).看護学教育モデル・コア・カリキュラム
https://www.mext.go.jp/b-menu/shingi/chousa/koutou/078/gaiyou/__icsFiles/afieldfile/2017/10/31/1397885_1.pdf(2024年6月11日確認)
謝辞
本書を刊行するにあたり,interRAIメンバー各位,特に日本独自のマニュアル発刊にご高配いただいたJohn N. Morris先生,インターライ日本の委員各位,および翻訳にご協力くださった林上真由美氏,早尾弘子氏に感謝する。
2024年11月
池上 直己
NPOインターライ日本理事長
慶應義塾大学 名誉教授
interRAI Assessment System Palliative Careの開発によせて
緩和ケア(Palliative Care:PC)の対象者には,全く異なる2つのグループがある。1つは,ケアの快適性を求める末期患者である。症状を認識して対処することで,苦痛を最小限に抑え,機能を最大限に発揮することが最も重要である。一方で,末期患者ではなくても,痛みや抑うつ,息切れなどの症状で幸福感が損なわれ,頻繁に機能的な能力が制限されている人がいる。このような患者のケアには,異なるアプローチが必要である。症状の原因を明らかにし,病気を治したり,進行を抑えたりするための可能性を探る必要がある。同時に,患者の緩和ケアのニーズにも対応しなければならない。通常,患者の症状の重さとその改善のしやすさが,ケアの積極性を決定する際に影響する。すべてのケアの決定は,臨床ケアチーム,患者とその家族の協力を得て行われる。
interRAI Assessment System Palliative Care(以下,インターライPC)は,緩和ケアを受けるすべての成人の強み,嗜好,ニーズを包括的に評価するために開発された。カナダ,チェコ,アイスランド,オランダ,スウェーデン,スペイン,アメリカでの試用を経て,2003年に第1版がリリースされた。他のインターライ方式と同様に,アセスメント対象期間の基本は3日間(必要に応じて)である。
2001年にインターライは,すべてのアセスメントに共通の項目と定義を含むようにする大規模な改訂事業に着手した。たとえば,インターライのすべてのアセスメントには,痛みの頻度と痛みの強さに関する同一の項目が含まれている。また,インターライPC版のような特有の項目も,コア項目で使用されている測定方法,用語,回答セットと一致するように更新された。
インターライPCは,施設ベースと在宅ベースの両方で使用することを目的としている。このアセスメントフォームには2つのバージョンがある。まず,インターライPCは完全なアセスメント形式で,インターライPCホスピス版(訳注:日本版では省略)はPCのアセスメント項目の一部から構成され,予後が短い人に適している。これらの異なるアセスメント表がいつ,どのような状況で使用されるかについては,一定の基準はなく,どちらがより適切であるかはケアチームの判断による。このマニュアルには含まれていないが,インターライ方式には,うつ〔訳注:CAP3「疲労感」(⇒p.114)参照〕,ADL,認知機能,気分,痛みに関する標準スコアを算出することもできる。
インターライシリーズは,さまざまな医療環境下での患者の状態やニーズの評価,対応,モニタリングに使用でき,医療・社会サービス統合情報システムである。インターライPCは,ホスピスや在宅などの環境にかかわらず,緩和ケアや看取り期のニーズを持つ人のために特別にデザインされている。
目次
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日本版の序
interRAI Assessment System Palliative Careの開発によせて
第1章 アセスメントの利用に際して
はじめに
アセスメントの基本原則
本書の使用方法
インターライ方式看取りケアのためのアセスメント表
CAP選定表
第2章 アセスメント表の記入要綱
A.基本情報
B.相談受付表
C.健康状態
D.栄養状態
E.皮膚の状態
F.認知
G.コミュニケーション
H.気分と行動
I.心理社会的幸福
J.機能状態
K.失禁
L.薬剤
M.治療とケアプログラム
N.意思決定権と事前指示
O.支援状況
P.終了
Q.アセスメント情報
第3章 CAP(ケア指針)
CAPの使い方
CAP1 せん妄
CAP2 呼吸困難
CAP3 疲労感
CAP4 気分
CAP5 栄養
CAP6 痛み
CAP7 褥瘡
CAP8 睡眠障害