作業療法をはじめよう 第2版
COPM・AMPS・ESIスターティングガイド
クライエントとともに、ここから作業療法をスタートしよう
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好評を得た『COPM・AMPSスターティングガイド』から16年。クライエントの作業を評価する必要性は益々強調されている。題名も新たにした今回の改訂では、COPMとAMPSに加え、作業遂行の観察評価の重要性から、社会交流を評価するESIも加えた。CO-OPを含む多様な15の事例も収載。作業療法の初学者、学生をはじめ作業療法評価の専門性を知りたいすべての人に、作業評価の考え方と実施方法を紹介する。
編集 | 吉川 ひろみ |
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発行 | 2024年10月判型:B5頁:176 |
ISBN | 978-4-260-05664-9 |
定価 | 4,400円 (本体4,000円+税) |
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序文
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第2版 はじめに
私がCOPM(カナダ作業遂行測定)を知ったのは1993年です。何をしたいかをクライエントに聞くというこの評価法の力を実感したのは,COPMを使って,さまざまなクライエントの声を聞いたときです。
AMPS(運動とプロセス技能評価)講習会を受講したのは1997年です。クライエントが馴染みのある課題を行うところを観察するというこの評価法を知ったときから,世界の作業療法士たちと共有する作業療法を行う力をすでにもっていたのだと感じました。
AMPSの開発と普及を進めてきたCenter for Innovative OT Solutions(CIOTS)は,ESI(社会交流評価)とOTIPM(作業療法介入プロセスモデル)を開発し,クライエント中心で作業中心の真のトップダウンアプローチを促進してきました。
机と椅子しかない部屋で白衣を着た作業療法士が,クライエントに質問しても,クライエントの健康と幸福に近づく作業を知ることはできません。COPMを正しく使えば,クライエントを作業的存在として理解することができ,クライエントの力を奪うことなく,回復をもたらす作業をクライエント自身が行っていく道筋が生まれます。
クライエントにとって馴染みのない道具や環境で,クライエントの動作を観察しても,クライエントの日常生活がうまくできるかどうかはわかりません。AMPSの観察の視点を正しく使えば,何ができて何ができないか,どうすればできそうかがわかります。
コミュニケーションに問題があるという人の社会交流について,ESIの観察の視点を使えば,何が,どのように問題なのかがわかります。
本書のメインタイトルは,『作業療法をはじめよう』としました。COPMとAMPSとESIは,作業療法をはじめる原動力となることでしょう。『作業療法がわかるCOPM・AMPSスターティングガイド』を出版してから16年がたち,本書はその改訂版です。
COPMが開発されたのは1990年で,開発メンバーのほとんどが退職し,専用のウェブサイト(https://www.thecopm.ca/)から,世界に向けてマニュアルや評価法を販売し,ニューズレターを発行しています。日本語マニュアルと評価表も,このウェブサイトから購入できます。
AMPSとESIを開発し講習会を運営していたCIOTSは,新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を受け,2024年に閉鎖されました。AMPSとESIの講習会再開の目処が立たない状況は続いています。しかし,本書に掲載した技能項目は,世界的な作業療法の教科書『Willard and Spackman's Occupational Therapy』の第14 版(2023 年),アメリカ作業療法協会の『Occupational Therapy Practice Framework:Domain and Process』の第4版(2020年)でも紹介されています。つまり,遂行技能の項目名は世界の作業療法士たちの共通語となりつつあります。
世界作業療法士連盟の作業療法の声明(2010年)では「(作業療法の)成果はクライエントが決め,多様であり,参加や作業参加から得られる満足,あるいは作業遂行上の向上において測定される」とあります。これは,COPMで知り得たクライエントの作業の満足とAMPSやESIで測定し得る遂行上の向上を意味しているとも読み取れます。
COPMとAMPSを知ってから,作業療法士はよい仕事だと心底思えるようになりました。作業を聞いて遂行をみることは,作業療法に欠かせない要素です。評価も介入も成果も記録も作業で示し続ければ,作業療法は誰にとってもわかりやすい大事な仕事になります。病気や障害よりも,生活機能をみようという流れは,他の分野にも広がりつつあります。作業療法は,その名のとおり,クライエントの作業に着目して,クライエントの作業がうまくできるようにすることを専門としています。COPMとAMPSとESIの知識を得て,この知識を使う技能を修得することで,作業療法士としての自信が高まり,世の中の人たちが作業療法をわかりやすいと感じるようになるでしょう。リハビリではなく作業を,障害ではなく作業遂行を,クライエントとともに語り,環境を整え,経験を分かち合う作業療法士が増えることを期待して,本書をまとめました。
2024年8月
吉川ひろみ
目次
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編集・執筆者一覧
第2版 はじめに
初版 はじめに
第1章 好きこそものの上手なれ──幸せを感じる作業を見つけるCOPM
1 COPM開発の背景
2 クライエント中心から協働関係へ
1 作業遂行と結びつきのカナダモデル
2 クライエント中心の可能化のモデル
3 可能化の基盤
4 カナダ実践プロセス枠組み
5 作業参加のカナダモデル
6 協働関係に焦点を当てた作業療法
7 カナダ作業療法相互関係実践プロセス
8 コアップ
3 COPMの実施手順
第1段階 作業の特定
第2段階 重要度の評定
第3段階 作業の選択
第4段階 作業の遂行度と満足度の評定
第5段階 遂行度と満足度の再評価
4 介護者とのCOPM
5 COPMから始まる作業療法
COPM Q&A
文献
第2章 習うより慣れろ──できてる加減を測るAMPSと遂行分析
1 AMPS開発の背景
1 遂行の質
2 遂行技能
3 項目反応理論を使用した評価
2 遂行技能項目
安定している(スタビライズ, Stabilizes)
傾かない(アラインズ, Aligns)
位置づける(ポジションズ, Positions)
手を伸ばす(リーチズ, Reaches)
身体を曲げる(ベンズ, Bends)
持つ(グリップス, Grips)
指先で扱う(マニピュレーツ, Manipulates)
両側で扱う(コーディネーツ, Coordinates)
動かす(ムーブズ, Moves)
持ち上げる(リフツ, Lifts)
歩く(ウォークス, Walks)
持ち運ぶ(トランスポーツ, Transports)
力を加減する(キャリブレーツ, Calibrates)
滑らかに動く(フローズ, Flows)
疲れない(エンデュアーズ, Endures)
ペースを保つ(ペーシズ, Paces)
注意がそれない(アテンズ, Attends)
目的に沿う(ヒーズ, Heeds)
選ぶ(チュージズ, Chooses)
使う(ユージズ, Uses)
気をつけて扱う(ハンドルズ, Handles)
情報を集める(インクワイアーズ, Inquires)
始める(イニシエーツ, Initiates)
続ける(コンティニューズ, Continues)
順序よく行う(シークエンシズ, Sequences)
止める(ターミネーツ, Terminates)
探して見つける(サーチズ/ロケーツ, Searches/Locates)
集める(ギャザーズ, Gathers)
空間を整える(オーガナイジズ, Organizes)
片づける(レストアーズ, Restores)
ぶつからない(ナビゲーツ, Navigates)
気づいて反応する(ノーティス/レスポンズ, Notices/Responds)
調節する(アジャスツ, Adjusts)
問題が起きるのを防ぐ(アコモデーツ, Accommodates)
問題を繰り返さない(ベネフィッツ, Benefits)
3 遂行分析
1 遂行分析と活動分析の違い
2 作業分析
4 トップダウンアプローチ
1 介入モデル
2 クライエントの作業中心の介入
5 遂行分析とAMPS
1 インフォーマルな遂行分析
2 AMPS実施手順
3 スクールAMPS
AMPS・遂行分析 Q&A
文献
第3章 ひとりじゃない──社会交流を測るESI
1 ESIの背景
1 観察可能な最小単位のつながり
2 社会交流課題の種類
2 社会交流技能項目
始める(アプローチズ/スターツ, Approaches/Starts)
終わる(コンクルーズ/ディスエンゲージズ, Concludes/Disengages)
はっきり話す(プロデューススピーチ, Produces speech)
ジェスチャーを使う(ジェスティキュレーツ, Gesticulates)
滑らかに話す(スピークスフルーエントリー, Speaks fluently)
相手に向かう(ターンズトゥワーズ, Turns towards)
目を合わせる(ルックス, Looks)
距離をとる(プレイシズセルフ, Places self)
触れる(タッチズ, Touches)
制御する(レギュレイツ, Regulates)
質問する(クエスチョンズ, Questions)
返答する(リプライズ, Replies)
開示する(ディスクロージズ, Discloses)
感情を示す(エクスプレスエモーションズ, Expresses emotions)
反対の意思を示す(ディスアグリーズ,Disagrees)
感謝する(サンクス,Thanks)
話を移行する(トランジションズ, Transitions)
返答のタイミング(タイムスレスポンス, Times response)
話す長さ(タイムスデュレーション, Times duration)
順番を守る(テイクスターンズ, Takes turns)
合った言葉を使う(マッチズランゲージ, Matches languages)
明確にする(クラリファイズ, Clarifies)
交流しやすくする(アクノレッジ/エンカレッジズ, Acknowledges/Encourages)
共感を示す(エンパサイズ, Empathizes)
目的に沿う(ヒーズ, Heeds)
問題が起きるのを防ぐ(アコモデーツ, Accommodates)
問題を繰り返さない(ベネフィッツ, Benefits)
3 作業療法士に必要な社会交流技能
4 ESIの実施手順
5 社会交流を改善する作業療法
文献
第4章 旅は道連れ世は情け──作業療法の流れ
1 作業療法プロセスを説明する理論
1 作業療法介入プロセスモデル
2 作業療法実践枠組み
3 コアップアプローチ
4 作業療法教育における作業療法プロセスの位置づけ
2 中心にあるのは作業
1 作業のトランザクショナルモデル
2 作業参加のカナダモデル
3 行動の背景となる理論
4 エビデンスに基づいた実践
5 リーズニング
文献
第5章 いつでもどこでも作業──事例
キャッチボールに挑戦
オシャレな靴
「楽しかった」の積み重ね
教室の中の休憩所
自分の思いを伝える
コミュニケーション力をつける
悲願の就職
両親のために働き,朝食を作りたい
2分の1成人式での写真撮影
他人の世話にならずに暮らしたい
プレゼントをあなたに
ハート形の料理
一人暮らしのゴールに向かって
病院でも銭太鼓の先生
元校長の誇り
付録
あとがき
索引
書評
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作業の遂行分析に基づく作業療法をはじめるための実践書
書評者:山根 伸吾(令和健康科学大教授・作業療法学)
本書は,初版である『作業療法がわかるCOPM・AMPSスターティングガイド』が2008年に発刊されてから,実に16年振りの改訂版となる。
初版は,COPMとAMPSの詳細な実施方法や,その背景となる理論や実践をする際に想定されるリアルなジレンマに対するQ&Aまでを含み,クライエント中心の作業療法を実践したい作業療法士にとって,わかりやすく,非常に力強い書籍であった。今回の改訂では,書名にあるESIが加わっただけではなく,この16年の間に生まれたモデルやそれに基づく実践についても記述されており,わかりやすさはそのままに,さらにボリュームを増して,読み応えのある一冊となっている。
私はAMPS講習会の講師を務めているため,その立場から特に注目したのはAMPSとESIの技能項目について,例えばCoordinatesを「両側で扱う」,Organizesを「空間を整える」,Produces speechを「はっきり話す」,Transitionsを「話を移行する」といったように,初めて日本語で表記をしたという点である。これまで日本語表記を避けてきたのは,AMPSやESIの技能項目が,英語そのものの意味とも異なるAMPS・ESI上での用語であるため,他の語にすることで概念が曖昧になることを危惧してのことであった。しかし,この英語での技能項目の表記が,日本の作業療法士にとって馴染みにくい要素の一つになっていたことも十分に考えられるだろう。今回の改訂版での日本語表記への決断は,日本の作業療法士に広く,遂行分析の視点を伝えたいという想いの表れだと推察する。
新たなAMPS認定評価者を輩出することは2024年11月現在停止されているが,遂行分析は作業療法実践において強力なツールであり,そのことを具現化したAMPSの功績は非常に大きい。AMPS認定評価者でなくとも,本書にはAMPSと同じ技能項目を用いたインフォーマルな遂行分析も掲載されており,遂行分析の視点を実践に取り入れやすくしてくれるだろう。全ての作業療法士の皆さんに,作業に焦点を置き,作業の遂行分析に基づく作業療法をはじめてほしいと思う。それこそが『作業療法をはじめよう』とタイトルを付けた編者からのメッセージであると感じている。
なお,第5章には15の作業療法の事例が掲載されている。読み進めるなかで,自分にできるだろうかと逡巡したら,こちらをめくり「作業療法っていいな,こんな作業療法士になりたいな」と,凛とした気持ちを持ってもらいたい。
クライエント中心の実践の意義がわかる作業療法入門書
書評者:仲間 知穂(YUIMAWARU株式会社代表取締役)
作業療法における基本的な概念として「クライエント中心の実践」があります。本書『作業療法をはじめよう 第2版―COPM・AMPS・ESIスターティングガイド』は,その実践を支える知識と技術を網羅した一冊です。COPM,AMPS(Assessment of Motor and Process Skills),そしてESI(Evaluation of Social Interaction)という三つの評価ツールを中心に,作業療法士にとって重要な基礎と実践的な知見が検討されています。
◆COPMとクライエント中心の実践
COPMは,クライエントが自分にとって重要な「作業」を探究し,その実行に向けて主体的に関与していくプロセスを支援するツールです。私自身も臨床現場でCOPMを活用し,生活を変えていくことに受け身であったクライエントが,自らの課題に取り組む姿勢に変わる瞬間に立ち会ってきました。クライエントと協働的に「作業ができること(作業の可能化)」の実現に向けアプローチする作業療法において,クライエントの作業を理解することは最も重要なプロセスといえるでしょう。
本書の特筆すべき点は,面接という難しい実践について,事例を豊富に紹介しながら,面接中のクライエントのニーズや価値観を知る方法が丁寧に解説されていることです。クライエントの言葉に耳を傾け,真のニーズを知るための具体的な面接技術が,詳細なコメント付きで紹介されており,初心者にとっては基礎技術の習得に,経験者にとってはスキルのブラッシュアップに最適で,実践的なガイドだと感じます。
◆作業遂行分析の重要性と臨床への応用
作業遂行分析は,クライエントがどのように作業を行うかを評価し,作業療法の計画を立てる上で極めて重要な技術です。本書では,臨床現場で混同されがちな「作業遂行分析」と「活動分析」の定義を明確に整理し,これらを臨床現場で効果的に活用するための技術を紹介しています。
具体的には,作業遂行分析に関連する評価ツールとしてAMPSやESIがイラスト付きでわかりやすく解説され,それぞれの評価がどのようにクライエントの目標達成に貢献するかが示されています。これにより,作業遂行分析が単なる評価の枠を超え,クライエントの生活の質向上に貢献する手段であることが理解できるでしょう。
◆ガイドブックの域を超える臨床的にわかりやすい内容
本書はタイトルどおり,評価ツールを使い始めるためのガイドブックとして書かれていますが,実際にはそれを超える価値があります。COPMや作業遂行分析を臨床で使いこなすために必要な理論や知識体系がまとめられており,作業療法士としての基盤を築くための一冊といえます。
クライエント中心の実践の意義を再確認させながら,実際の臨床で評価ツールを活用するための技能を提供してくれる本書を,これから作業療法を学ぶ皆さまには,まず手に取っていただきたいと思います。