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運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版
徒手療法がわかるWeb動画付

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臨床あるあるの疑問や理由が解剖学ですっきり解決! 実際の徒手療法がWeb動画で見てわかる! 頸椎症由来の頭痛はなぜ起こるのか? 投球動作を解剖すると? くり返す足関節捻挫後の不安定感にはどう対応すればよいか? 遭遇頻度の高い運動器疾患のメカニズムや痛みの原因、運動療法の選択を症例にそって解説。筋・神経の構造や動きを把握することで、痛みの原因や治療法が解明されます。実践的解剖学、待望の改訂です。

編集 工藤 慎太郎
発行 2024年03月判型:B5頁:248
ISBN 978-4-260-05438-6
定価 5,280円 (本体4,800円+税)

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第2版の序

 2012年に本書の第1版が発刊されてから,12年の時が過ぎた.運動器の構造自体はそうたやすく進化しないが,理学療法の臨床は12年経過するとかなり進化している.それにあわせて,理学療法士に必要とされる「人体の地図」も進化させなければならない.
 この12年で運動器理学療法において大きく進化したこととして,“超音波画像”の使用が挙げられる.これまで,理学療法の対象となる構造は,体表から触知できる範囲に限られていたが,超音波画像により可視化できる深部構造も対象とするようになった.さらに,臨床において,運動器の動態がリアルタイムで可視化されることによって,医師との協働が加速した.このような背景から,私たちの臨床は進化し,これまでよくわからなかった病態が明らかになったり,なんとなくやっていた徒手療法に明確な意図をもてるようになったりしている.この進化をいかに第2版に盛り込むことができるのか.改訂には苦心した.

 本書は,“よくある一症例”をシナリオとして提示し,その病態に基づく理学療法を,運動器の構造と機能の観点から紐解いている.シナリオの作成過程では,この12年間の担当症例の記憶を呼び起こしながら,必要なことを整理していった.この過程で,その構造の重要性を再認識でき,治療がうまくいくことがたびたびあった.
 治療の成否に一喜一憂し,患者と対峙する緊張感は,理学療法士として20年が経過しても変わらない.教員となり,臨床に向き合う時間は減っているが,“理学療法が好きだ”という想いは,12年前よりも濃く,鮮明になっている.

 本書の斬新さは,勉強したことや研究成果により患者が良くなるという成功体験と,理学療法が好きという想いの積み上げにより醸成されるのではないかと考えた.そこで,運動器理学療法の臨床に必要な知識をわかりやすく整理するスタイルは変えずに,患者の理学療法に必要な新しい知識や研究成果を取り入れ,Web動画で具体的な運動療法を積極的に提示することを心がけた.
 第2版が,運動器疾患に悩む患者を助ける理学療法士に役立つことを強く願っている.

 12年間の間に私を取り巻く環境は大きく変化した.名古屋から大阪に異動し,家族ができ,研究室も大きくなり,かかわる臨床の先生方も年々増えてきた.それだけ多くの方に支えられてきたことに感謝している.特に,川村和之先生と森田竜治先生には多大な支援を頂いている.これに,医学書院の金井真由子氏を加えた3名に,この場を借りてお礼を申し上げたい.
 最後に,仕事で留守の多い私を許してくれている妻 美知,長男 圭一郎,次男 蒼士に感謝を捧げたい.

 2024年1月
 工藤慎太郎

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1 頸椎症
 1.なぜ,肩甲骨内側面の痛みが生じたのか?
 2.なぜ,後頭下筋群へのアプローチで,頭痛が改善したのか?
 3.なぜ,アライメントの改善に半棘筋のトレーニングが有効だったのか?

2 胸郭出口症候群
 1.腕神経叢の絞扼部位はどこか? また絞扼される条件として何が考えられるか?
 2.なぜ,鈍痛と冷感が生じるのか?
 3.なで肩(不良姿勢)と症状との関係は?
 4.胸郭出口症候群に対するリハビリテーションのアプローチを機能解剖学的に考察すると?

3 腱板損傷
 1.なぜ,自らの力では右手を上げられないのか?
 2.なぜ,関節包面に腱板損傷が生じたのか?
 3.なぜ,肩峰下滑液包炎を発症したのか?
 4.なぜ,棘下筋の萎縮が生じたのか?
 5.なぜ,肩甲骨アライメントの修正が有効だったのか?

4 肩関節周囲炎
 1.なぜ,肩関節肢位を変えて可動域を測定したのか?
 2.なぜ,夜間痛が生じるのか?
 3.なぜ,下垂位外旋が制限されているのか?
 4.なぜ,鈍痛が生じたのか?

5 多方向性不安定症
 1.どういう時に肩関節は外れるのか?
 2.なぜ,前方不安定感が生じたのか?
 3.不安定感を制動する筋は何か?
 4.なぜ,小円筋や棘下筋のリラクセーションで症状が減るのか?

6 野球肘
 1.なぜ,肘関節内側に不安定感が出現するのか?
 2.なぜ,肘関節内側が痛くなるのか?
 3.なぜ,肘関節外側が痛くなるのか?
 4.野球肘に対する運動療法は?

7 上腕骨外側上顆炎
 1.パソコンとテニスは痛みと関係があるのか?
 2.疼痛の原因は?
 3.上腕骨外側上顆炎と前腕回旋制限との関係は?

8 橈骨遠位端骨折
 1.なぜ,母指と示指にしびれが出たのか?
 2.なぜ,手関節橈側部痛が生じるのか?
 3.手指屈曲運動時に腱の引っかかりが生じるのは?
 4.前腕回外時の尺側部痛の原因は?

9 脊椎圧迫骨折
 1.脊柱のアライメントと機能解剖
 2.なぜ,下肢関節の易疲労性が強くなったのか?
 3.なぜ,尿失禁が多くなったのか?
 4.脊椎圧迫骨折後に対するリハビリテーションアプローチは何を考えるべきか?
 5.なぜ,腰痛を合併したのか?

10 大腿骨近位部骨折
 1.大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折で損傷しやすいのはどこか?
 2.なぜ,骨折部位によって手術方法が違うのか?
 3.なぜ,歩行時に股関節外側部痛が生じるのか?
 4.なぜ,外転筋力の改善で,鼡径部内側の疼痛が改善したのか?
 5.なぜ,膝関節の屈伸を繰り返すことで大腿外側部痛が改善するのか?

11 変形性股関節症
 1.臼蓋形成不全と変形性股関節症の関係は?
 2.なぜ,トレンデレンブルグ歩行が出現したのか?
 3.なぜ,股関節可動域が制限されたのか?
 4.なぜ,大腿直筋周囲へのアプローチが有効だったのか?

12 後十字靱帯損傷
 1.なぜ,後十字靱帯損傷が起きたのか?
 2.なぜ,膝関節運動で後外側部に疼痛が生じるのか?
 3.歩行時の不安定感の原因は?

13 腸脛靱帯炎
 1.なぜ,ランニングによって腸脛靱帯炎になったのか?
 2.なぜ,大腿筋膜張筋と大殿筋のリラクセーションを行ったのか?
 3.なぜ,外側広筋のリラクセーションで,腸脛靱帯の疼痛が消失したのか?

14 半月板損傷
 1.なぜ,半月板が逸脱するのか?
 2.なぜ,鏡視下内側半月板縫合術を行ったのか?
 3.なぜ,術後に自動運動での完全伸展が不可能なのか?
 4.なぜ,階段昇降時に膝蓋大腿関節の上外側部に疼痛が出現したのか?

15 前十字靱帯損傷・内側側副靱帯損傷
 1.前十字靱帯の構造と機能は?
 2.なぜ,屈曲時に大腿骨内側上顆に疼痛が生じるのか?
 3.なぜ,pivot-shift testが陽性になるのか?
 4.不安定性を代償する筋は何か?

16 変形性膝関節症
 1.なぜ,立ち上がり動作時に膝の内側が痛いのか?
 2.なぜ,膝が伸展しないのか?
 3.なぜ,下腿三頭筋のトレーニングにより疼痛が軽減したのか?

17 前距腓靱帯損傷
 1.なぜ,前距腓靱帯は損傷しやすいのか?
 2.なぜ,前脛腓靱帯に圧痛が生じるのか?
 3.なぜ,足関節前面に疼痛が生じるのか?
 4.不安定性を代償する筋は何か?

18 足底腱膜炎
 1.足底腱膜の構造と機能は?
 2.踵骨付着部の疼痛の発生機序は?
 3.なぜ,内側縦アーチの支持で疼痛が軽減したのか?
 4.足底腱膜炎に対する運動療法は?

19 外反母趾
 1.なぜ,外反母趾になるのか?
 2.なぜ,前足部に疼痛が生じるのか?
 3.外反母趾に対する運動療法は?

索引

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運動器疾患の疑問を解剖学からひもとくという臨床思考が学べる一冊
書評者:小野 志操(運動器機能医科学インスティチュート代表)

 本書の編集である工藤慎太郎先生,執筆者の一人である森田竜治先生と私は同門であり,臨床・研究・教育の第一線でご活躍されておられるお二人は,共に後輩でありながら尊敬する理学療法士です。

 好評であった初版を一層進化させた本書では,疾患ごとに症例に生じた症状について,その発生要因や評価するべきポイントを,解剖学的視点からわかりやすく詳細に解説されています。臨床で運動器疾患を診ている理学療法士や作業療法士の多くが悩む「どの組織を治療ターゲットにするべきか?」,そして「どう治していくべきか?」を明確にするためには,解剖学的視点から病態を考察していくという「臨床的思考過程」が欠かせません。

 われわれが対象とする運動器疾患の病態には,静的構造体である解剖学的構造に動的負荷が加わることが関与しています。このことは,Culmann’s craneに代表される荷重を受けた主応力の作用方向によって骨梁構造が決まるということや,軟部組織の機械的刺激により骨形態が変わるというWolfの法則からも明らかです。つまり,解剖学的構造や形態の一つひとつに意味があり,力学的変化に影響を受けるということです。

 解剖学的構造を理解することで,「どのように組織に負荷がかかるのか?」が理解できるようになり,「どのように評価すると症状が再現できるのか?」も理解できるようになります。このことは運動器疾患の症状と病態を理解する上でとても重要なポイントであり,治療ターゲットを絞り込むために必須となります。

 本書の特長は,症例提示を通して,症状とその発生要因を解剖学的構造からひもとくだけでなく,治療に必要な技術につなげられるところにあります。詳細な解剖とその機能がオールカラーで図示されており,解剖学的構造を視覚的にイメージしやすくなっています。その上で,写真とWeb動画で具体的な治療技術についても学ぶことができます。

 初学者の理学療法士や作業療法士には,本書を手に取って実際の臨床と対比させながら反復して「思考」することをお勧めします。本書では一貫して,症状の発生要因は何か,解剖学的にどのように解釈したか,そして症状消失に至った要因は何か,について記載されています。これらの「思考過程」が臨床家には必要なのです。

 エビデンスの基となっている文献も記載されていますから,これらも併せて読むことで,論文から得られた情報をどのように解釈して臨床に反映させているのか,という筆者たちの「臨床的思考過程」も学んでいただきたいと思います。

 「全ては患者さんの笑顔のために」本書を大いにご活用されることをお勧めします。


整形外科医こそ読むべき,日々の臨床をアップデートさせる起爆剤
書評者:面谷 透(東京先進整形外科院長)

 本書は,整形外科医をはじめとする医師こそ読むべき書籍であると考えています。

 整形外科では,どうしても手術適応かそうでないかが焦点となりがちです。手術適応にならない場合には保存治療が行われますが,その一つとして適用される理学療法をあらかじめ想定し,実際に行われている内容を十分に把握している医師がどれだけいるでしょうか。

 近年,運動器領域においては,エコーを活用した診療が急速に普及・発展しています。エコーの強みは,リアルタイムな画像評価・診断だけでなく,エコーガイドで注射を行えることにあります。従来から行われていた関節内や腱鞘内への注射を,画像的な根拠とともに正確に行えるようになったことで,診断能は格段に向上しました。また,組織間を液性に剥離するハイドロリリースという手技は,エコーガイド下だからこそ行えるようになった新しい治療法です。こうしたエコーを活用した運動器診療を医師が行えるようになったことで,医師と理学療法士は以前に比べて急速に接近し,集学的なアプローチにより患者さんの診療を行う機運が高まっています。

 そうした他職種が連携した運動器診療を実践する上で,本書は最高の教科書であるといえます。本書は,一般的な教科書のように知識が羅列されているのではなく,診療の現場でよく出合う疾患・患者像を取り上げた上で,それらにまつわる疑問に答える形式で進んでいきます。それぞれの要素が有機的にリンクし,各症例の診療を行うための文脈が形成されています。まるで工藤慎太郎先生のリハビリテーションをそばで見学し,患者さんへの説明を隣で聞いているような臨場感が味わえます。

 注目すべきは,解剖学的な解説の奥深さです。工藤先生のライフワークである臨床解剖学のエッセンスが随所に織り込まれ,診療のステップが論理的に展開されていきます。また,理解をサポートするイラストは秀逸で,視覚的な強い納得感を与えてくれます。

 本書が,現在の運動器診療をアップデートさせる起爆剤になることは間違いありません。本書をきっかけとして,一人でも多くの患者さんに恩恵がもたらされることを祈念しております。


「解剖学」を運動器疾患に対する適切な「技術」へと発展させた一冊
書評者:林 典雄(運動器機能解剖学研究所所長)

 このたび,工藤慎太郎先生の編集による『運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版』が出版されました。今回の改訂では,図や写真がフルカラーとなることで,読者の理解を高めると同時に,工藤先生グループによる基礎ならびに臨床研究を踏まえた新しい知見が盛り込まれ,さらに充実した内容へと進化しています。また,具体的な治療技術について,Web動画を通して解説されており,適切な運動器診療を志す理学療法士,作業療法士,トレーナー等にとっては,格好の指南書となる書籍へと生まれ変わりました。

 書籍は改訂されて本物といわれます。初版を世に問うた後も,さらに探究し,真実を求め,研究知見を積み重ねた者にしか,改訂への強い思いは生まれてきません。そして,その作業を成し遂げた工藤先生ならびにご執筆の先生方に敬意を表します。

 さて,初版が出版された2012年の最大の出来事は,人工多能性幹細胞(iPS細胞)を開発した山中伸教授が,ノーベル医学・生理学賞を受賞したことではないでしょうか。山中教授による「0から1を生んだ発想と努力」が,現在行われている全ての再生医療や新薬開発の礎になっているわけです。一方で,われわれ凡人にとって「0から1を作る作業」はなかなかできることではありませんが,すでにある「1」を踏まえながら次のステップへと進む努力はできるはずです。運動器診療に携わるわれわれにとって,多くの先人が残してくれた最も重要な「1」が解剖学だと,私は思います。その解剖学を,臨床的な解剖学に落とし込むのが「2」の作業,そして解剖学的な病態に対する適切な技術へと発展させる「3」の作業は,臨床に立つ者としての義務ではないかと考えるわけです。本書は,まさに「1」から「2」へ,そして「3」へと展開する,運動器理学療法の道標となる書籍ではないかと思います。

 人体を構成する骨の形には意味があります。靭帯の走行にも意味があります。筋の形態,付着場所にもすべて意味があります。その意味をじっくり考えると,ヒトが動くための機能解剖学へと発展します。そして,ヒトがよりよく動くために変化してきた構造の中で,少しばかり無理強いされた部位で病態が生じると考えると,運動器診療のポイントが見えてきませんか? そんなヒントや答えが載っているのが本書です。

 ぜひ一度,手にとり,じっくり読み込み,日々の運動器診療を見つめ直してみてはいかがでしょうか?

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