The Grasping Hand 日本語版(グラスピング・ハンド)
手・上肢の構造と機能
手の解剖を美麗な写真と独創的視点で解説し尽くす、手の外科医のための解剖学書
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1,100例以上の新鮮なご遺体の手や腕を解剖し、これまでにない独創的な視点で手の組織や構造について解説する解剖書。手と上肢の臨床を知り尽くした世界の第一線で活躍する術者たちの記述を、原書でも編集を務めた玉井誠氏が監訳となり、出版する。解剖学的な知識にとどまらず、臨床上のパールや集学的知識を盛り込んだ手の外科医のための解剖学書。日本語版がついに完成!
原著 | Amit Gupta / Makoto Tamai |
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監訳 | 玉井 誠 / 村田 景一 |
発行 | 2023年03月判型:A4頁:488 |
ISBN | 978-4-260-05083-8 |
定価 | 24,200円 (本体22,000円+税) |
週刊医学界新聞のインタビュー記事も併せてご覧ください。
「The Grasping Hand──解剖写真で手の機能と構造を理解する」(玉井誠,村田景一)
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序文
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日本語版の序(村田 景一)/原書編集者の序(玉井 誠)/原書編集者・監訳者の序(玉井 誠)
日本語版の序
ここにお届けするのは2021年にルイビル大学(米国ケンタッキー州ルイビル市)整形外科のDr. Amit Guptaと(現)西18丁目・手のクリニック院長の玉井誠先生により世界に向けて編集・出版された手外科にかかわる医療関係者向けの教科書『The Grasping Hand-Structural and Functional Anatomy of the Hand and Upper Extremity』の日本語版である.Dr. Guptaは以前,ルイビルにあるChristine M. Kleinert Institute for Hand and Microsurgeryにstuff surgeonとして在籍されており,いまから20年ほど前に誠先生もハンド・フェローとしてそこに在籍されていた.筆者も同時期に同施設のハンド・フェローとして勤務していたこともあり,原著の章の執筆をご依頼いただいた.また,日本人として原著の章を執筆したのは誠先生を除いて筆者だけであることもあり,今回,日本語版の共同監訳をご依頼いただいた.
本書のアイデアは,筆者がKleinert Instituteに在籍していたころにはすでに存在していた.ルイビル大学の故Prof. Robert Aclandのラボに通って,誠先生が解剖し,撮影された写真がDr. Guptaの目に留ったのが,そのアイデアの始まりと聞いている.誠先生が撮影した新鮮および固定屍体標本を用いた詳細で鮮明な解剖写真を用いて,世界中の経験豊富な手外科医に各分野の執筆を担当していただき,世界にも類を見ない手と上肢の構造と機能に焦点を当てた解剖学書を完成させるというものであった.本書の名称は,過去にDr. Guptaが,同僚であったDr. Simon Kay,Dr. Luis Schekerと一緒に作成して出版された名著『The Growing Hand』(絶版)になぞらえて『The Grasping Hand』とすることは,Dr. Guptaの心のなかで,かなり早期に決まっていたそうだ.
筆者はKleinert Instituteに在籍中,臨床研修の合間に新鮮屍体を用いた解剖研究に興味をもち,足繁く新鮮解剖実習室に通っていた.そのころからとなりで誠先生の緻密な解剖技術とプロフェッショナルともいえる写真撮影技術を拝見し脱帽していた.筆者が2004年にルイビルを離れたのち,Dr. Guptaは資料の整理や手外科の各分野の専門家の慎重な選択などに尽力され,18年後の2021年にめでたく英語版が出版となった.
いままでに出版された手外科解剖の優れた教科書はいくつか存在する.洋書ではEduardo A. Zancolli著『Atlas of Surgical Anatomy of the Hand』,JR Doyle, MJ Botte著『Surgical Anatomy of the Hand & Upper Extremity』などが有名で,筆者も所蔵しており,いまでもよく参照するが,残念なことに両書ともすでに絶版となっている.わが国では上羽康夫先生による『手――その機能と解剖』も緻密な図と正確な解説があり,優れた教科書である.
一方,この『The Grasping Hand』は,豊富な解剖屍体の写真を使用した教科書として,ほかにはないきわめて貴重な情報が満載されている.理解しやすいように作成された図だけではなく,新鮮な屍体標本の写真を見ながら,神秘的ともいえる複雑な解剖構造を確認することは,正確な診断と適切な治療,手術やリハビリテーションを施行するために必須である.手外科にかかわる医療関係者の方々には,ぜひとも本書に掲載された素晴らしい解剖写真と詳細な解説を熟読して知識を習得し,理解を深めていただきたい.
最後にこのような執筆・監訳の貴重な機会を与えていただいたDr. Gupta,玉井誠先生,我々に新鮮屍体解剖の貴重な機会を与えていただき,その重要性をご教示いただいたルイビル大学新鮮解剖実習室のProf. Robert Acland(故人),そしてご多忙にもかかわらず各章の専門的な分担翻訳をお引き受けくださった手外科医ならびにハンド・セラピストの諸先生方と,出版に関して多大なご援助をいただいた医学書院のスタッフの皆様に感謝の意を表する.
2022年10月
村田 景一
原書編集者の序
“探求の旅”に出ようと思い立ったのは,約20年前のことである.筆者らは,手・上肢の解剖について,構造ならびに機能的側面から詳細に解説した教科書を必要としていた.当時,筆者は幸運にもルイビル大学の新鮮解剖実習室で,Dr. Robert Aclandと一緒に仕事をする機会を得ていた.また,世界中からやって来るたくさんのハンド・フェローたちが行う手術を,間近で観察できるという贅沢な身分にあった.
Dr. Aclandと筆者は,当時ハンド・フェローの1人であったDr. Makoto Tamaiが行う精細な解剖に,強い感銘を受けた.そして,彼に“解剖書を制作するためにもう1年滞在して解剖に専念してほしい”と申し出たところ,嬉しいことに,彼とその父,Dr. Susumu Tamaiの承諾を得ることができた.
Dr. Makoto Tamaiは,次の1年間を,たくさんの屍体標本を相手に,細心の注意を払って入り組んだ解剖の剖出を行い,それらを写真に収めることに費やした.彼の帰国後は,筆者が仕事を引き継ぎ,さらにはノートン病院の支援により,新しい解剖実習室をスタートさせた.こうして蓄えた標本の写真は,16,000枚を超えていた.筆者は,写真を分類し,世界中の手外科あるいは研究仲間や同僚に送付し,これらの写真を使って,“一章分の原稿”を書いてほしいと依頼した.
本書のために,傑出した仕事をしてくれたすべての執筆者に感謝を述べたい.Dr. David Slutskyには,Thieme(原著の出版社)を紹介して下さったことに感謝したい.Thieme のMs. Snehil Sharmaには,本書の完成まで,多大な労力を費やしてくれたことに感謝している.ルイビル大学の新鮮解剖実習室にも,心から感謝している.また,我々は,ご遺体を科学のために提供してくださった多くの人々に深く感謝しなければならない.さらに,ノートン・ブラウンスボロー病院のOrthopedic and Hand Education CenterにあるBioskills Labにも感謝を述べたい.
1978年に,Dr. Eduardo A. Zancolliと,彼の著書『The Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery』によって灯された火は,“探求の旅”の原動力となった.その火は,手外科における筆者の師たち,Prof. G. C. Das,Prof. Frank Burke,Dr. Ueli Buchler,Prof. Harold Kleinert,Prof. Robert Acland,Dr. Joseph Kutz,Dr. Thomas Wolff,Dr. Tsu-Min Tsai,Dr. Luis Scheker,Dr. James Kleinert,そしてDr. Steven Mc-Cabeらへと受け継がれていた.
彼ら,特にケンタッキー州ルイビル市のKleinert Kutz and AssociatesとKleinert Instituteの同僚には,私がこの歴史的なプロジェクトに着手し,本書を出版することを応援してくれたことに感謝している.また,Louisville Arm and Handの仲間たちには,この努力への支援と協力に感謝している.特にDr. Russell A. Shatfordには,長年の親交とともに,彼が与えてくれた建設的な批評や,膨大な量の校正から,多大な恩恵を受けている.
この本を,なぜ,『The Grasping Hand』と名付けたのか?
サンスクリット語で書かれた古代ヒンドゥーの書には,こう記されている.“インドリヤス”とは,我々がそれを通じて万物を認識したり,外部環境に対して作用を行うための“媒体”である.“インドリヤス”には,“ジュナネンドリヤ”と“カルメンドリヤ”が含まれる.人は,“ジュナネンドリヤ”がつかさどる5つの感覚器官である“眼・耳・鼻・舌ならびに感覚器としての皮膚”をとおして,環境から発せられる情報を知覚し,それを“アートマ(魂)”が普遍的な知識へと昇華させる.そして,“カルメンドリヤ”は,それがつかさどる5つの行為器官である“手・足・口・生殖ならびに排泄器官”をとおして,“掴む・歩く・話す・生殖・排泄”といった行為を行うのである.つまり,「“手”による“掴む”という動作」は,上肢に備わった機能として,人体が行う最も基本的な5つの行為の1つに数えられている.
これが,本書の名前,『The Grasping Hand』の由来である.
賢者Charakaは,手の機能をGrahana(受ける,まとめる,集める)とDharana(持つ)と定義した.賢者Saankhyaは,Aharana(受ける)と,Aadaana(持つ)と定義した.古代において手の機能が,このような形で学問的な探究の対象となっていたことは驚くべきことである.ただし,手を用いて握ったり動かしたりするという動作を行う際に,その機能には上肢全体が関与している.このため,本書は,“手”のみではなく上肢全体を対象とした.
Dr. Eduardo Alfredo Zancolli,ご子息のDr. Eduardo Rafael Zancolliと,ご令孫のDr. Eduardo Pablo Zancolliに,本書の「推薦の序」を執筆していただいたことに感謝を述べたい.この素晴らしいご家族は,手の解剖学的研究への献身をもって,世界中の多くの手外科医に“ひらめき”を与えてこられた.そして今後も,さらに多くの手外科医に,“ひらめき”を与え続けるであろう.
本書の出版にあたり,妻のBhavna,娘のNikiとその夫のMarc,そして孫のRoshanに感謝したい.彼らの愛と援助なしに,本書を完成させることはできなかったであろう.
本書は,献身の賜である.本書をつくるために,筆者は人生の20年を費やした.叶うならば,すべての読者にこの本を楽しんでほしい.そして,本書が手・上肢の構造と機能についての理解を深める助けとなれば幸いである.
Amit Gupta, MD, MSOrth, MChOrth, FRCS
訳:玉井 誠
原書編集者・監訳者の序
It ain't necessarily so!(必ずしも,そうとは限らない!)”
Dr. Robert Aclandのこの言葉は,我々,Christine M. Kleinert Institute for Hand and Microsurgeryのハンド・フェローの誰もが,彼のスコットランド訛りで聞いた,あるいは彼の茶色いエプロンに書かれた文字を目にして,記憶に残しているはずである.
Dr. Aclandは,1983年以来,ルイビル大学の新鮮解剖実習室の主任を務めており,筆者は2000年末から2003年はじめまでの2年と3か月を,実習室で新鮮標本の解剖を行いながら,彼と楽しく時間を共有する機会を得た.彼のライフ・ワークである“Video Atlas of Human Anatomy”の制作現場に立ち会い,時に撮影のトリック(動く心臓弁や,宙に浮かぶ子宮など)の種明かしをしていただいたことや,筆者が解剖した標本を用いてビデオを撮影していただいたことは,何にも増して素晴らしい経験であった.
冒頭の彼の言葉は,解剖中の標本に,予期せず解剖書や論文の記述とは“異なる所見”を発見したときに,筆者がその存在を許容することを助けてくれた.
2001年末,フェローシップが後半に入ったころ,Dr. Amit Guptaから,「1年間滞在を延長して,解剖を続け,本にまとめないか?」との申し出を受けた.断れるはずがない.当初は反対していた父を説得し,在籍していた奈良県立医科大学整形外科学教室の先生方に大変なご迷惑をかけ,家族を日本に帰すなど,多大な犠牲を払って解剖に明け暮れた.
解剖の大部分は,クリニカル・フェローとして働きながら,診療の合間に行わなければならなかった.2年目は,シニア・フェローとして十分な時間を研究に使うことができるようになったが,解剖中にも緊急手術に呼び出されたりしていた.標本は低濃度のホルマリンの灌流による病原体の不活化ならびに“軽い防腐処理(light embalming)”が行われていたが,硬い組織は硬く,軟らかい組織は軟らかいという新鮮組織の性質は残されていた.このため,組織が乾燥して,変性・変色することを防ぐために,標本を水に浸しながら解剖し,次の解剖まで生理食塩水に沈めて冷蔵庫内に保管していた.大学の地下にある窓がない解剖実習室で,夜中に解剖をしていて停電にあい,数十体のご遺体の眠る暗室に閉じ込められたのは忘れられない思い出である.2003年3月,撮影したすべての写真をDr. Guptaに託し,“Kleinert Institute”に別れを告げた.
そして完成したのが,本書である.
本書は,手と上肢の“リアル”な解剖を学びたいと希望するすべての人に読んでいただきたい.手と上肢の解剖を知ることは,特に手外科医とハンド・セラピストにとって,きわめて重要である.解剖を詳しく知れば知るだけ,自信をもって直面する問題に立ち向かい,これを解決することができるだろう.
本書には,筆者が解剖して撮影した写真が数多く掲載されている.さらに,足りない部位を補うために,Dr. Guptaが,いくつかの重要な解剖を行ってくださった.本書は,臨場感あふれる解剖を見せるために,解剖を行いながら“リアル・タイム”に撮影された写真をできるだけ多く掲載することにこだわった.これらの組織は,前にも述べたように新鮮さを保っており,写真においても“リアル”な色と質感を確認していただけるのではないかと思う.
解剖の普遍性を見せるということに関しては,解剖された標本の写真を用いる方法は批難を受けるかもしれない.なぜならば,限られた検体数では標準的あるいは平均的な解剖学的特徴を提示することは困難であり,また,解剖の“仕方”によって構造物の“見た目”は変わってしまうからである.
たとえば,手関節の関節包靱帯のコラーゲン線維の束は,外側を分厚い疎性結合組織,内側を滑膜によって覆われた関節包の中に埋没されており,さらに靱帯と隣接した構造物,たとえば支帯や腱鞘などとの間には線維性の交通が存在する.したがって,解剖を行う限りにおいては,浅層の組織や,ほかの構造との間のすべての交通を温存して構造を剖出することは,不可能なのである.構造の形態は,切除される部分の大きさにしたがって変化してしまう.そこで,読者には筆者が冒頭に掲げたDr. Aclandの言葉を思い出していただきたい.
「必ずしも,そうとは限らない!」
たとえ,解剖の手技により見た目が変わってしまっても,あるいは教科書や解剖書に載っていない構造が写真に写っていても,それらがそこに存在する事実に変わりはないのである.
何はともあれ,本書を,友人,Kleinert Instituteのすべてのフェローとスタッフ,待ち望んでくださっていたすべての人々にお届けできることを大変嬉しく思う.
出版にあたり,この名誉ある仕事にかかわるチャンスをくださったDr. Amit Gupta,執筆してくださった世界の手外科のエキスパートたち,Christine M. Kleinert Institute for Hand and Microsurgery,ならびにUniversity of Louisville Body Bequeathal Programと,特に筆者の3年間の米国留学を援助し,本書の完成を喜んでくれた父・玉井進と母・愛子,そして長い留学期間中の心の支えとなってくれた,妻・亜希子,長男・由良,長女・真由に,心から感謝したい.
本書が,すべての読者にとって,手と上肢の解剖をより深く理解する助けになれば幸いである.
玉井 誠
目次
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Section I 序説
1 手の解剖の歴史
Section II 構造と機能に関する基礎項目
2 手の構造と機能
1 はじめに
2 把握動作
3 表面解剖
4 骨格の構築
5 筋と腱
6 手の運動
7 感覚と固有知覚
8 指運動の制御
9 把握
10 結語
3 感覚と固有知覚
1 感覚
2 固有知覚の生体力学
4 関節感覚と固有知覚
1 はじめに
2 ヒトの手の関節における神経支配
3 関節感覚と固有知覚
4 意識下関節感覚
5 無意識下関節感覚
5 手と脳
1 はじめに
2 運動系
3 体性感覚系
4 体性感覚系と運動系の可塑性
6 骨格筋の構造と機能
1 概要
2 筋の構造
3 分子解剖学
7 骨・関節の超微細構造
1 骨
2 軟骨
3 靱帯
4 関節包
8 血管と微小循環
1 手の基部から指尖部までの血行
2 動脈・静脈のサイズの違いと微小循環の血管網
3 物質代謝のための微小循環の解剖学・生理学の概要
Section III 手・上肢の全体の解剖と機能
9 上肢の神経
1 腕神経叢の鎖骨上分枝
2 まとめ
10 腕神経叢
1 はじめに
2 神経解剖
3 血管解剖
4 リンパ系の解剖
5 後頚三角
6 腕神経叢展開術
7 症例1:成人外傷
8 症例2:分娩麻痺
11 上肢の血管解剖
1 上肢の血管解剖
2 腋窩動脈
3 上腕動脈
4 尺骨動脈
5 橈骨動脈
6 上肢の静脈
7 上肢の深部静脈
8 上肢のリンパ管
Section IV 手・上肢の局所の解剖と機能
12 肩関節
1 はじめに
2 肩鎖関節
3 肩甲上腕関節
4 関節窩,関節唇,関節包
5 腱板
13 上腕の解剖
1 上腕骨
2 上腕皮膚の神経支配
3 上腕の筋
4 上腕の神経
5 筋皮神経(第5・6頚神経)
6 正中神経(第6頚神経~第1胸神経)
7 尺骨神経(第8頚神経・第1胸神経)
8 橈骨神経(第5頚神経~第1胸神経)
9 上腕の動脈
10 上腕の表在静脈
11 まとめ
12 外科的進入路
13 上腕骨への前方アプローチ
14 上腕骨への前外側アプローチ
15 上腕骨への後方アプローチ
16 拡大後外側アプローチ
14 肘関節
1 肘の統合された層状解剖
2 関節部の解剖
3 肘関節の形態が肘のアライメントに及ぼす影響
4 内反/外反安定性に寄与する構造
5 肘関節後外側脱臼に抵抗する構造
6 内側深層の解剖
7 上腕二頭筋腱
8 外側側副靱帯複合体
15 前腕筋膜および支帯
1 筋膜に関する全般的考察
2 前腕の筋膜系
3 結語
16 前腕の解剖
1 骨格系
2 筋系
3 動脈系
4 静脈系
5 神経系
6 リンパ系
17 前腕骨間膜
1 前腕骨間膜の解剖
2 運動学
3 生化学および生体力学
18 手根管
1 はじめに
2 解剖
3 境界
4 内部
5 手術解剖
19 小指球エリア:尺骨神経管の解剖
1 尺骨神経管の解剖
2 筋解剖
3 神経解剖
4 血管解剖
20 手関節の解剖
1 手関節を構成する骨
2 外在靱帯
3 橈骨舟状有頭靱帯
4 長橈骨月状靱帯
5 橈骨舟状月状靱帯
6 短橈骨月状靱帯
7 背側橈骨手根靱帯
8 内在靱帯
9 背側手根間靱帯
10 舟状月状骨間靱帯
11 月状三角骨間靱帯
12 舟状三角靱帯
13 舟状大菱形小菱形靱帯
14 豆状骨の軟部組織付着部
21 橈骨遠位部と手根骨の血管分布
1 はじめに
2 橈骨遠位端の血管解剖
3 手根骨の血管解剖
4 血管柄付き骨移植
22 手根骨骨間の血管分布
1 はじめに
2 月状骨
3 有頭骨
4 舟状骨
23 手関節の機能
1 はじめに
2 手関節の運動学
3 手関節の力学
24 遠位橈尺関節の解剖
1 回旋能を有する遠位橈尺関節
2 伸筋支帯
3 三角線維軟骨複合体
4 考察
25 遠位橈尺関節の機能
補足“ligamentum subcruentum”と“TFC”について
26 手の筋膜,支帯,微小筋膜腔
1 前腕から指への構造物の誘導
2 運動の制御
3 荷重の伝達
4 繋留
5 連結
6 制限あるいは拘束
7 筋の起始ならびに停止部の枠組み
8 血管の保護とポンプ作用
9 減摩機能
27 母指
1 骨格系
2 筋系
3 動脈系
4 静脈系
5 神経系
28 屈筋腱と屈筋腱鞘
1 屈筋腱
2 屈筋腱鞘
29 伸筋腱
1 はじめに
2 指より近位の伸筋群
3 手指の伸筋群
4 指の屈曲コントロールにおける伸筋群の役割
5 指の伸展コントロールにおける伸筋群の役割
6 結語
30 骨間筋
1 解剖と生体力学
2 機能
3 まとめ
31 虫様筋
1 はじめに
2 詳細な解剖
3 神経支配
4 機能
5 病的徴候
32 手のコンパートメント
1 はじめに
2 コンパートメントのモニタリング
3 コンパートメントの開放
4 結語
33 手の中の間隙
1 はじめに
2 爪郭腔と指腹腔
3 浅在性潜在腔
4 滑膜腔
5 深在性潜在腔
34 手根中手(CM)関節
1 はじめに
2 母指手根中手(CM)関節
3 第2手根中手(CM)関節
4 第3手根中手(CM)関節
5 第4手根中手(CM)関節
6 第5手根中手(CM)関節
7 まとめ
35 中手指節(MP)関節
1 MP関節の表面解剖
2 神経血管の解剖
3 母指MP関節の解剖
4 神経血管の解剖
36 指節間関節
1 はじめに
2 近位指節間(PIP)関節
3 遠位指節間(DIP)関節
4 指運動の生体力学
5 まとめ
37 爪と指腹
1 はじめに
2 発生学
3 解剖学
Section V 付記
38 画像と解剖
1 はじめに
2 手関節疾患の画像診断
3 解剖学的考察
索引
書評
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先例を見ない強烈な衝撃。極めて優れた解剖学書!
書評者:大山 峰生(新潟医療福祉大教授・作業療法学)
本書を手に取ると,まず目に入るのが「The Grasping Hand」という文字である。本書は解剖学書であるが,なんと斬新なタイトルであろう。タイトルには執筆者の深い思いが込められているものであるが,読者の方々はこのタイトルから何を感じとるであろうか。
手は人の進化の過程の中で重要な器官として存在し続け,中でも手の把持機能は人が生活する上で欠かせないものとして発達し続けてきた。初期においては環境に適応するために支持物を掴んで移動することを可能にした。次には,粗大な把持機能から個々の指の独立運動を獲得したことにより,精密な把持や道具の使用など,より高度な作業を可能とした。特に,道具の使用は手の延長として機能し,生存競争において優位性をもたらした。そして現代では,われわれは当たり前のように手を利用しているが,多くの動作において手が主役となって生活を支え,その手を効果的に使うために肩,肘,前腕,手関節運動が制御されていることを実感する。こうした観点から改めて本タイトルを見つめ直してみると,手の把持機能は果てしなく長い時間の経過の下に進化し続けてきた究極の賜物であり,「The Grasping Hand」というタイトルは手の基盤となる機能を示しているのみならず,この一語で手の重大さや尊厳までを表現しているといっても過言ではない。名づけの由来はどうあれ,原書編集者であるAmit Gupta先生ならびに玉井誠先生の手に対する敬意と情熱が直接的に伝わってくる感覚を覚える。
このような感覚を抱きつつ本書のページをめくると,その瞬間,先例を見ない強烈な衝撃を受け,本書が期待どおり極めて素晴らしい解剖学書であることがわかる。神経,血管をはじめとする微細な組織までが丁寧に解剖され,リアルに触れられるかのような見事な新鮮解剖写真がふんだんに掲載されている。これらの美しい写真は読者を魅了するばかりでなく,鮮明だからこそ得られる的確で緻密な情報があり,それは新たな視点を見出すのに役立つ。また,解剖写真の質が低下しないようにと気遣われた用紙の最低限の厚さや紙質,各要所で取り入れられた図解の説明,表面解剖と内部構造との関連性の提示など,いずれにおいても読者にわかりやすく伝えたいという執筆者らの願いと責任感がうかがえる。そして,現存する手の機能の進化を証明するかのように上肢全ての関節や筋,神経,血管の詳細な解剖が展開されるとともに,運動学,生理学,脳科学的な知見まで網羅され,その機能や意義についての理解も深めることができる。極めつけは,領域に応じて選抜された専門家が最近の知見まで深く掘り下げて解説していることから,臨床家にとって必要とする知識がタイムリーに確認できる書となっていることである。特に術中の写真を用いた解説は,より実践的な知識技術の獲得に有意義なものとなっている。
本書の冒頭では,偉大な外科医であるKleinert先生ならびにAcland先生から原書編集者らが得た学びについて述べられている。それは,精一杯働くことの価値,謙虚さ,忍耐力,不屈の精神,準備の大切さであるが,本書は執筆をとおして,これら全ての教えに見事に応えており,その証となっている。この教えは,全ての手外科医やハンドセラピストなどのメディカルスタッフにとって共有すべきものであり,今後手に携わろうとする方々も含め,より多くの読者に,ぜひ,その証をご覧いただきたいと思う。