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オープンダイアローグ 私たちはこうしている

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オープンダイアローグは面白そう、でもどこから始めたらいいのか分からない――。

そんな疑問にまっすぐに答えたのが本書です。
具体的な声のかけ方・応答例から、対話セッションの進め方や臨場感あふれる実事例まで、著者と仲間たちがいま実際に日本の臨床現場で行っていることを包み隠さず紹介しました。
対話を開く「工夫」や「アイデア」に満ちた本書を頼りに、オープンダイアローグの「はじめの一歩」を踏み出しましょう!

森川 すいめい
発行 2021年09月判型:A5頁:196
ISBN 978-4-260-04803-3
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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  • 序文
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はじめに

 北欧の国のひとつフィンランド。その最北部、西ラップランド地方のトルニオという小さな街に、「ケロプダス」という名の精神科の病院があります。
 1984年8月27日、その病院は対話主義を宣言をしました。
 その日、最初にふたつのことが決められました。
  ・その人のいないところでその人の話をしない。
  ・1対1で話さない。
 のちにその取り組みは「オープンダイアローグ」(開かれた対話、対話を開く)と呼ばれるようになりました。
 そしてこのふたつの決定は、「オープンダイアローグの土台」として今も大切にされています。

 1992~97年のあいだにケロプダス病院に相談した75名(精神病状を有するとされた人たち)への調査が行われました。かれらの8割は精神病状の残存がなく、学業やフルタイムの仕事に復帰しました。抗精神病薬を内服したことのある人は24%で、内服を継続する人は20%でした。この調査はその後も続けられ、2015年までの調査でも同等の結果が報告されています。
 このような数字を、にわかに信じがたいと感じる人も多いかもしれません。現代精神医療においては、幻覚や妄想とされるものに強く影響された状態で病院にいらっしゃる方のほとんどに抗精神病薬が勧められ、内服治療を長期に継続することが大切だと教わります。仕事や学校に戻るのも容易ではないのが現状なのです。
 しかしながら私は直感的に、このようなことは起こりうるとも感じていました。
 そこで、まずはどのようなものなのか実際を知ろうと、2015年夏に、友人たちとケロプダス病院を訪問しました。何か私の知らない魔法のようなものがあるのかもしれない、特別な治療方法があるのかもしれないと思って。
 秘密を知りたくて扉をあけた向こう側に見えた世界。そこにあったのは、人を人として尊重した、ただの対話でした。最初に現場を見たときにこう感じたのでしたが、私はそれでもまだ何か特別なものがあるに違いないと思って、結局ケロプダス病院には2回、フィンランドには合計11回訪問し、そのあいだにオープンダイアローグのトレーニングも受けてトレーナーの資格を得るほどに熱中しました。
 そしていま思うことは、やはり「オープンダイアローグとはただの対話だ」ということです。魔法のような方法も、特別な技法も、どこにも存在しませんでした。実直なまでのただの対話。しかし同時に、その対話実践にはさまざまな工夫や経験が蓄積されていました。

 フィンランドで始まった対話実践をどうしたら日本の現場で実現させることができるのか――。
 ケロプダス病院を訪問したメンバーたちと、このことについて何度も話し合いました。それぞれの場所で実践を重ね、「オープンダイアローグ」というものの意味を理解する試みを続けてきました。こうして4年以上かけて出来上がったのが本書です。

 この本の全体の構成は次のとおりです。
 序章にはオープンダイアローグの誕生背景を書きました。歴史的背景を知ることは、オープンダイアローグ理解の助けになると思います。
 第1章、第2章は、概念的な話になります。対話をよく知る方にとっては当たり前のことかもしれませんので、具体的なことを早く知りたいという方は第3章から読み始めてください。細かく目次を分けていますので、読みたい項目だけ読んでくださってもわかるように書いたつもりです。
 第3章から第7章は、具体的な実践の工夫例を書いています。オープンダイアローグには、対話の場をどのように開いていくかについて、さまざまなアイデアが蓄積されています。あくまでも“例”であり、このやり方が正しいということではありませんが、みなさんの実践現場でも役立つことがいくつかあると思います。

 本書は、「どうしたら日本の現場で実現できるか」の問いに、自分たちの取り組みを紹介することによって答えようとしたものです。困難を抱える人たちの役に立つことを願っています。

* Five-year experience of first-episode nonaffective psychosis in open-dialogue approach: Treatment principles, follow-up outcomes, and two case studies. Psychotherapy Research. March 2006, 16(2):214-228

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はじめに

序章 オープンダイアローグはこうして生まれた
  診断と治療だけでは助けにならなかった
  オープンダイアローグの根源
  ケロプダスがオープンダイアローグを知らなかった頃
  オープンダイアローグが生まれた日
  Need-Adapted Treatmentと何が違うのか
  ビルギッタの一言
  ゴールは「対話そのもの」
  医学から対話へ
  まずは病棟で話を聞くことから
  話したい場所で聞く
  最初の調査
  オープンダイアローグは1日で誕生する
  Column 「私たちのやり方を真似しないでください」

第1章 ふたつの土台
  実際の「対話セッション」の様子1
 1 その人のいないところでその人の話をしない
  申し送りも相談も「その人のいるところで」
  「支援する/される」という力関係が対話を阻害する
  困っているそのスタッフが「本人」
  子どものことで相談している家族が「本人」
 2 1対1で話さない――専門スタッフは2名以上
  専門職の意見が一致しないことが大切
  ひとりで対話をする工夫――私のやり方
  Column 7つの原則をどう考えるか

第2章 つねに意識しておきたいこと
 1 一人ひとりが特別
  「接遇」以前のこととして
  話す機会を公平にする
  優劣のない関係性を守る
  「現場で決めていけないこと」だけを決める
  垂直の関係性を意識する
  相手の考えはつねに自分の理解を超えている
  「理解しようとする」態度そのものが助けになる
 2 ポリフォニーを意識する
  不安が声を押さえ込んでしまう
  自分の楽器を持ってジャズのセッションに参加する
  スタッフもまたひとりの奏者として
 3 不確かさの中に留まる
  すぐに答えに飛びつかない
  こう言って不確かさに留まる――私のやり方
  プロセスを信頼する
 4 透明性を保つ
  自分がどう思ったか話す「責任」が専門職にはある
  質問さえ脅威になる
  リフレクティングと透明性
  専門職がひとりのときにはどうするか
  Column 話すスペースをつくる

第3章 対話の場を設定する
 1 いつ行うか
  即時に応答する
  電話を受けることに集中できる体制をつくる
  電話口にはシフト表――その場で決める
 2 誰を招くか
  招待するという感覚
  4つの質問をしてみる――ソーシャルネットワークが見えてくる
  最初から参加も、途中から参加も
  対話の場に医師が参加することは少ない
  担当スタッフはずっと同じ
 3 準備はしない
  事前の打ち合わせ、事後のカンファレンスはしない
  すべては「その場」で考える
  「いないところで話す」必要があったらどうするか
  対話中はメモをとらない
 4 どこに座るか
  本人が話したいと思う場所にする
  輪になって話す
  座る席を選んでもらう
 5 時間はどうする
  60分でさえ難しい……
  対話のあとに対話が続くことが大事
  必要があれば連日開く
  時間差で対話する
  Column 精神科訪問看護を利用してみよう

第4章 セッションを始めよう!
 1 オープニング
  チェックインを確認する
  自己紹介を2回するくらいのていねいさ
  対話の場を温めるための準備運動
  最初に経緯と期待を聞く
  2回目以降はどう聞くか――私のやり方
 2 全員の声を聞く
  なぜ全員に聞くのか
  それぞれの必然性に従った「公平」
  ひとりで話したいと言われたら――私のやり方
 3 リフレクティング
 4 クロージング
  細心の注意が必要
  最初に終わりの時間を確認する
  残り15分でどうするか
  最後は本人たちの声で終える
  むずかしい対話場面の終え方
  次を決めることでチェックアウト
  Column 統合失調症の患者数はさらに減る

第5章 対話を促進させる工夫
 1 話すことと聞くことを分ける
  たとえばこんな言い方をする
  話す順番の決め方
  誰が話者なのかを明確に示す
 2 話したいことを話せるように
  臨床でよくある場面
  ジャッジされたら二度と話さなくなる
  話したいことと話したことは違うかもしれない
  話を聞くことで精神状態が不安定になるとは?
 3 話し手が自分の声を聞くのを助ける
  話していることをいちばん聞いている人は誰か?
  間にはさまざまなものが生まれる
  沈黙に戸惑ったら聞けばいい
  聞いたことを繰り返してみる
 4 精神医学的問題をどう扱うか
  診断名はいったん脇に置く
  妄想は結果
  最初の3回は抗精神病薬を処方しない
  ケロプダス病院での薬の位置づけ
  抗精神病薬をやめるときは慎重に
  睡眠薬は最初から数日間処方することがある
  「そのように感じたのはいつからですか?」
  Column 暮らす場所によって薬の量は変わる

第6章 リフレクティングを身につける
  実際の「対話セッション」の様子2
 1 リフレクティングはなぜ必要なのか
  専門職の意見は聞きたいが……
  リフレクティングという工夫
 2 リフレクティングの基本的な考え方
  内的会話と外的会話
  「話す」と「聞く」を構造的に分ける
 3 リフレクティングに役立つ小さな工夫
  やってはいけないこと
  アバウトネスではなくウィズネスで
  話された言葉をそのまま使う
  話されなかったことは話さない
  ちょうどよい差異を意識する
  リフレクティングチームの話は短めに
  参加者は聞いていなくてもいい
  2回目の中断があったらリフレクティングはやめる
  視線は合わせない
 4 リフレクティングの始め方と終え方
  始めるタイミングは?
  ていねいな言葉で始める
  本人たちの声で終わる
  Column あるリフレクティング

第7章 対話的な組織になるために
 1 対等に対話をする試み
  先生と呼ぶのをやめてもらった
  スタッフ間での会議を対話的にした
  私自身が対話のトレーニングを行った
 2 組織としてのチャレンジ
  仲間づくり
  対話トレーニングプログラムをつくった
  話し合い続ける
  Tolerance of Uncertainty(あきらめない)
  Column 1回目は意思決定をしない会議

おわりに
著者紹介

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●雑誌で紹介されました
《今年出版されたメンタルヘルス分野の書籍の中で最も話題を呼んだ一冊である。……解説者の斎藤が提唱する「対話実践」の視座は、単に精神医療の改革にとどまらず、今日の心理臨床全般の在り方にも創造的なリフレクティングをもたらすだろう。それゆえ、さまざまな臨床の現場で長年支援にたずさわってきたような、いわゆるベテランの専門家にこそ本書は読まれるべきではないかと思う。》――黒木秀俊(九州大学教授・精神科医)
(『臨床心理学』第125号/2021年9月より)

 

 

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