商品説明
現代宗教文化研究叢書 5
アジアの社会参加仏教 ― 政教関係の視座から
櫻井義秀・外川昌彦・矢野秀武 編著
定価:7,040円(本体価格6,400円+税)
判型:A5 上製
頁数:442
ISBN:978-4-8329-6812-7
Cコード:C3014
発行日:2015-03-31
●本書の特徴
グローバリゼーションが進展し,社会が大きく変貌しつつある現在,人々のつながりや絆を再構築する宗教の役割が注目されている。本書は,そうした今日的な宗教の役割を考える狙いから,アジア諸国における仏教の社会的役割の多様な実態を明らかにし,また,その実態を規定する各国特有の政教関係(政治と宗教の関係)を検証する。本書では,まず「はじめに」のなかで,近年脚光を浴びる「社会参加仏教(Engaged Buddhism)」という概念を手がかりに理論的な考察が示され,近代以降の世界における社会と宗教の関係や,国家と宗教の関係を捉える諸論点が整理される。「第1部 東アジア」「第2部 東南アジア」「第3部 南アジア」では,各地域の諸国における宗教事情・仏教事情に関して,法や行政制度の変遷についての情報,統計情報,フィールド調査で得られた情報などが提供され,それら諸情報に基づいた議論が展開される。「宗教と社会」学会創立20周年記念企画テーマセッションから生まれた,宗教研究の最新の成果にして,比較研究の地平を切り開く1冊!
●目次
はじめに………櫻井義秀・外川昌彦・矢野秀武
1 社会参加仏教(Engaged Buddhism)について
2 宗教の社会活動と政治
3 アジアの政教関係と国家の介入
4 本書の概要
〔第1部 東アジア〕
第1章 東アジアの政教関係と福祉――比較制度論的視点………櫻井義秀
1 はじめに
2 宗教文化の構造と政教関係
3 福祉制度の確立と多元化
4 東アジア諸国の政教関係と宗教による社会事業
5 おわりに
第2章 近代日本の政教関係と宗教の社会参加………小島伸之
1 はじめに
2 近代国家日本の統合原理
3 日本型政教関係
4 帝国憲法下の仏教・神社の社会参加
5 「宗教団体法」と政教関係
6 戦後の宗教法制
7 おわりに
第3章 妹尾義郎と新興仏教青年同盟の反戦・平和運動………大谷栄一
1 問題の設定
2 近代日本の仏教徒の社会参加の特徴と通史
3 新興仏教青年同盟の概要
4 新興仏教青年同盟の反戦・平和運動
5 若干の結論
第4章 現代中国の宗教文化と社会主義………長谷千代子
1 はじめに
2 公的言説における諸宗教の関係性の変化
3 民間における新たな仏教観
4 中国の市民宗教?――まとめに代えて
第5章 チベット問題をめぐる宗教と政治――ダライ・ラマの非暴力運動との関わりから………別所裕介
1 はじめに――ダライ・ラマにおける非暴力の水準
2 仏教王権政治からの脱却――ダライ・ラマのローヤリティと民主化
3 中国政府との交渉――チベット問題をめぐる政教関係
4 おわりに――民族のための真理か、人間性のための真理か
第6章 戦後台湾の社会参加仏教――佛光山を事例に………五十嵐真子
1 はじめに
2 台湾仏教と佛光山
3 「人間仏教」の実践としての佛光山の活動
4 おわりに
第7章 韓国の政教関係と社会参加仏教の展開………李賢京
1 韓国の宗教概況――「宗教人口統計」を中心に
2 韓国の社会変動と宗教政策の変化
3 韓国社会と社会参加仏教の展開――「メンター」の台頭と仏教の対応
〔第2部 東南アジア〕
第8章 東南アジアの政教関係――その制度化の諸相………矢野秀武
1 東南アジア諸国の概況
2 政教関係の留意点
3 東南アジア大陸部の国々と上座仏教・大乗仏教
4 東南アジア島嶼部の国々とイスラーム・キリスト教
第9章 タイにおける国家介入的な政教関係と仏教の社会参加………矢野秀武
1 本稿の目的と概要
2 タイの政教研究の概要
3 国家体制理念におけるタイの政教関係
4 タイ国憲法における宗教関連条項
5 行政組織と宗教行政事業
6 国家仏教・公認宗教論と協同的(Cooperative)政教関係
7 公定宗教と三つの型――公設型・公認型・公営型
8 まとめと展望
第10章 タイの「開発僧」と社会参加仏教………櫻井義秀
1 経済発展から民主的ガバナンスの時代へ
2 公共圏へ参与する仏教と距離を置く仏教
3 開発僧はどこから来てどこへ行くのか
第11章 ミャンマーの社会参加仏教――出家者の活動に注目して………藏本龍介
1 はじめに
2 出家者の社会参加活動(1)――出家者の政治的活動
3 出家者の社会参加活動(2)――出家者による在家者向けサービス
4 社会に参加しない出家者たち
第12章 ベトナムの政教関係――戦争と社会主義の下で………北澤直宏
1 はじめに
2 南北統一以前――社会参加仏教誕生の背景
3 南北統一後の社会主義政権――公認宗教制度の展開
4 公認宗教制度による軋轢
5 おわりに
第13章 インドネシアの政教関係と仏教の展開………蓮池隆広
1 はじめに
2 インドネシアの仏教復興の歩み
3 インドネシアの宗教政策と仏教
4 華人の伝統と公認宗教のはざまで
5 仏教の組織化とスハルト後の展開
〔第3部 南アジア〕
第14章 南アジアの政教関係――宗教とセキュラリズムの相克………外川昌彦
1 南アジアの政教関係の概況
2 南アジア諸国の宗教別人口の特徴
3 インドの概況
4 パキスタンの概況
5 バングラデシュの概況
6 周辺諸国の概況――スリランカ・ブータン・ネパール・モルディブ
第15章 スリランカの民族紛争と宗教――ソーシャル・キャピタル論の視点から………田中雅一
1 はじめに
2 ソーシャル・キャピタルとしての宗教再考
3 スリランカの人口構成
4 シンハラ・ナショナリズムの展開
5 武装闘争への道
6 排外的仏教
7 LTTEにおける新たな宗教実践
8 ソーシャル・キャピタルからカリスマへ
9 おわりに
第16章 近現代インドの仏教に見る「社会性」――B・R・アンベードカルの仏教解釈から現代インドの仏教改宗運動まで………舟橋健太
1 「世俗国家」インドと仏教改宗
2 インドにおける「社会参加仏教」、カテゴリー、留保制度
3 アンベードカルの「仏教」解釈
4 現代インドの改宗仏教徒と仏教改宗運動
5 「社会的認知」を求めて
第17章 バングラデシュの政教関係とマイノリティ仏教徒………外川昌彦
1 概況
2 バングラデシュにおける宗教政策の変遷
3 民主化以降の政教関係
4 マイノリティ仏教徒
第18章 政治的締めつけと文化的創造力――ネパール在住チベット難民ポップ歌手と仏教………山本達也
1 社会的存在としてのチベタン・ポップ歌手
2 ネパールの政教関係がチベタン・ポップ歌手に与える影響
3 マントラCDと新たな宗教的意味づけ
あとがき
索引
執筆者紹介
●著者紹介
櫻井 義秀(サクライ ヨシヒデ)
生年 1961年
現在 北海道大学大学院文学研究科教授
専門 宗教社会学,東アジア宗教文化論,タイ地域研究
〈主著〉
『東北タイの開発と文化再編』北海道大学図書刊行会,2005年(単著).
『東北タイの開発僧』梓出版社,2008年(単著).
『社会貢献する宗教』世界思想社,2009年(稲場圭信と共編).
『統一教会』北海道出版会,2010年(中西尋子と共著).
『現代タイの社会的排除』梓出版社,2010年(道場良子と共編).
『越境する日韓宗教文化』北海道大学出版会,2011年(李元範と共編).
『日本に生きる移民たちの宗教生活』ミネルヴァ書房,2012年(三木英と共編).
『アジアの宗教とソーシャル・キャピタル』明石書店,2012年(濱田陽と共編).
『タイ上座仏教と社会的包摂』明石書店,2013年(編著).
『カルト問題と公共性』北海道大学出版会,2014年(単著).
外川 昌彦(トガワ マサヒコ)
生年 1964年
現在 広島大学大学院国際協力研究科准教授
専門 文化人類学,南アジア地域研究,宗教社会学
〈主著〉
『ヒンドゥー女神と村落社会』風響社,2003年(単著).
An Abode of the Goddess, Manohar Publication, 2006(単著).
『聖者たちの国へ』NHKブックス,2008年(単著).
『宗教に抗する聖者』世界思想社,2009年(単著).
『南アジアの文化と社会を読み解く』慶應義塾大学出版会,2011年(分担執筆,鈴木正崇編).
『死者の追悼と文明の岐路』三元社,2012年(分担執筆,大稔哲也・島薗進編).
『宗教とツーリズム』世界思想社,2012年(分担執筆,山中弘編).
『叢書・激動のインド1 変動のゆくえ』日本経済評論社,2013年(分担執筆,水島司編).
『現代インド1 多様性社会の挑戦』東京大学出版会,2015年(分担執筆,田辺明生・杉原薫・脇村孝平編).
矢野 秀武(ヤノ ヒデタケ)
生年 1966年
現在 駒澤大学総合教育研究部教授
専門 宗教学,タイ上座仏教研究,宗教社会学
〈主著〉
『岩波講座・宗教9 宗教の挑戦』岩波書店,2004年(分担執筆,池上良正ほか編).
『現代タイにおける仏教運動』東信堂,2006年(単著).
『世界の宗教教科書』大正大学出版会,2008年(翻訳,分担執筆).
『グローバル化するアジア系宗教』東方出版,2012年(分担執筆,中牧弘允/ウェンディ・スミス編).
『情報時代のオウム真理教』春秋社,2011年(分担執筆,井上順孝責任編集,宗教情報リサーチセンター編).
『タイ上座仏教と社会的包摂』明石書店,2013年(分担執筆,櫻井義秀編).
『90分でわかる! ビジネスマンのための「世界の宗教」超入門』東洋経済新報社,2013年(分担執筆,井上順孝編).
『タイを知るための72章』明石書店,2014年(分担執筆,綾部真雄編).
小島 伸之(コジマノブユキ)
生年 1970年
現在 上越教育大学大学院学校教育研究科准教授
専門 憲法,日本近代法史,宗教社会学
〈主著・論文〉
『情報時代のオウム真理教』春秋社,2011年(分担執筆,井上順孝責任編集,宗教情報リサーチセンター編).
「特別高等警察による信教自由制限の論理」『宗教と社会』14号,2008年.
「近現代日本における『教育の中立性』」『比較憲法学研究』26号,2014年.
大谷 栄一(オオタニ エイイチ)
生年 1968年
現在 佛教大学社会学部准教授
専門 宗教社会学,近現代日本宗教史
〈主著〉
『近代日本の日蓮主義運動』法蔵館,2001年(単著).
『近代仏教という視座』ぺりかん社,2012年(単著).
『ブッダの変貌』法藏館,2014年(末木文美士・林淳・吉永進一と共編).
長谷 千代子(ナガタニ チヨコ)
生年 1970年
現在 九州大学大学院比較社会文化学府・研究院准教授
専門 文化人類学,宗教研究
〈主著〉
『文化の政治と生活の詩学』風響社,2007年(単著).
『民族表象のポリティクス』風響社,2008年(分担執筆,塚田誠之編).
『現代中国の宗教』昭和堂,2013年(分担執筆,川口幸大・瀬川昌久編).
別所 裕介(ベッショ ユウスケ)
生年 1972年
現在 広島大学大学院国際協力研究科助教
専門 文化人類学,チベット・ヒマラヤ地域研究
〈主著・論文〉
『聖地巡礼ツーリズム』弘文堂,2012年(分担執筆,星野英紀・山中弘・岡本亮輔編).
『中華人民共和国と少数民族』勉誠出版,近刊(分担執筆,毛里和子・澤井充生・田中周編).
“Competition for the Mountain Landscape”, Journal of Research Institute, vol.51 (Current Issues and Progress in Tibetan Studies), 2014.
五十嵐 真子(イガラシ マサコ)
生年 1965年
現在 神戸学院大学人文学部教授
専門 文化人類学(宗教,植民地経験,台湾)
〈主著〉
『現代台湾宗教の諸相』人文書院,2006年(単著).
『戦後台湾における〈日本〉』風響社,2006年(三尾裕子と共編).
『台湾における〈植民地〉経験』風響社,2011年(分担執筆,植野弘子・三尾裕子編).
李賢京(イ ヒョンギョン)
生年 1979年
現在 東西大学日本研究センター研究教授
専門 宗教社会学,日韓宗教比較
〈主著・論文〉
『日本に生きる移民たちの宗教生活』ミネルヴァ書房,2012年(分担執筆,三木英・櫻井義秀編).
『韓流・日流』勉誠出版,2014年(分担執筆,山本浄邦編).
「『閉じた』ディアスポラ信仰共同体としての葛藤と『開かれた』信仰共同体としての可能性」『日本研究』61号(韓国外国語大学校日本研究所),2014年.
藏本 龍介(クラモト リョウスケ)
生年 1979年
現在 東京大学大学院総合文化研究科学術研究員
専門 文化人類学,ミャンマー地域研究
〈主著〉
『静と動の仏教』佼成出版社,2011年(分担執筆,奈良康明・下田正弘編).
『アジアの仏教と神々』法藏館,2012年(分担執筆,立川武蔵編).
『世俗を生きる出家者たち』法藏館,2014年.
北澤 直宏(キタザワ ナオヒロ)
生年 1984年
現在 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程
専門 ベトナム地域研究
〈主著・論文〉
『アジアにおけるシャーマニズムと社会変容』松香堂書店,2010年(小島敬裕・前川佳世子と共編).
「〝解放″後のベトナムにおける宗教政策」『東南アジア研究』50巻2号,2013年.
「[書評]黄蘊編『往還する親密性と公共性』京都大学学術出版会,2014年」『東南アジア研究』52巻1号,2014年.
蓮池 隆広(ハスイケ タカヒロ)
生年 1969年
現在 専修大学非常勤講師
専門 宗教学,インドネシア地域研究
〈主著〉
『新しい追悼施設は必要か』ぺりかん社,2004年(分担執筆,国際宗教研究所編).
『宗教の事典』朝倉書店,2012年(分担執筆[「東南アジア島嶼部」の項目],山折哲雄監修,川村邦光・市川裕・大塚和夫・奥山直司・山中弘編).
『世界は宗教とこうしてつきあっている』弘文堂,2013年(分担執筆,山中弘・藤原聖子編).
田中 雅一(タナカ マサカズ)
生年 1955年
現在 京都大学人文科学研究所教授
専門 文化人類学,南アジア民族誌
〈主著〉
『供犠世界の変貌』法藏館,2002年(単著).
『癒しとイヤラシ』筑摩書房,2010年(単著).
『軍隊の文化人類学』風響社,2015年(編著).
舟橋 健太(フナハシ ケンタ)
生年 1973年
現在 龍谷大学現代インド研究センター研究員(人間文化研究機構地域研究推進センター研究員)
専門 文化人類学,南アジア地域研究
〈主著〉
『来たるべき人類学3 宗教の人類学』春風社,2010年(分担執筆,吉田匡興・石井美保・花渕馨也編).
『講座・生存基盤論3 人間圏の再構築』京都大学学術出版会,2012年(分担執筆,速水洋子・西真如・木村周平編).
『現代インドに生きる〈改宗仏教徒〉』昭和堂,2014年(単著).
山本 達也(ヤマモト タツヤ)
生年 1979年
現在 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科客員研究員(人間文化研究機構地域研究推進センター研究員)
専門 文化人類学,南アジア芸能研究
〈主著・論文〉
『宗教概念の彼方へ』法藏館,2011年(磯前順一との共編).
『舞台の上の難民』法藏館,2013年(単著).
「マントラを商品化する」『宗教と社会』20号,2014年.
(本書刊行時の情報です)