上野駅は、1883年(明治16年)に開業以来、何度も大掛かりな改修工事を繰り返してきました。2021年5月現在も工事は進行中で、昨年には新しい「公園改札」と「公園口」が誕生しました。
度重なる工事によって駅構内は複雑な構造になりましたが、その一方で歴史を物語る建造物も残っています。そんな上野駅の今昔を紹介します。
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周辺の地形の影響を受け、駅構内は7層に
上野駅は、JR駅としては全国でも屈指の多層構造を持つ駅となっています。具体的には、地上が1階、中2階、2階、3階。そして地下1階、地下3階、地下4階(地下2階はない)。
地下鉄など他の鉄道会社の路線を含まずに7層に及ぶ構造になっており、これはもう、特異的といっていいでしょう。慣れないうちは迷路のような感覚を覚えるかもしれません。
しかし、この上野駅ダンジョンは、実際のところはさほど複雑ではありません。各層が比較的単純な構造だからです。
地上1階は、中央改札口と中央コンコース、常磐線など行き止まり終着駅型の宇都宮線と高崎線、常磐線の地平ホーム(13~17番ホーム)。そして改札外にはアトレ上野など。
中2階は、1~12番ホームへの中央乗り換え通路と、不忍改札。2階は1~12番の山手線と京浜東北線、宇都宮線、高崎線、常磐線、上野東京ラインなどの高架ホーム。また、入谷改札から入谷口への通路も2階になります。
3階は、乗り換えコンコースとなる大連絡橋通路と公園改札、公園口通路と入谷改札、そして飲食店やショップが並ぶエキュート上野となっています。
地下1階は、1階中央コンコースから地下3階新幹線コンコースへ続く踊り場。地下3階は、新幹線コンコース、地下4階が新幹線ホーム(19~22番)です。
上野駅がこうした多層構造になったのは、駅の立地が影響しています。およそ140年前、開業した当時の上野駅は、駅舎のすぐ際(きわ)にまで上野の山が迫っていて、水平方向への拡張がしにくい状況だったのです。
そのため、1910(明治43)年に現在の山手線ホーム増設のときも、山肌を削るようにして、ほかのホームより高い場所にホームを新設しています。
また、改札口が地上1階の中央改札、中2階の不忍改札、3階に入谷改札と公園改札というように複数の階に設けられていることも、こうした立地と周辺の地形の影響を受けていることを物語っています。
「公園改札」と「公園口」は別の場所?
一般的に駅は、改札口を出たら北口と南口、もしくは東口と西口に分かれるということが少なくありません。つまり駅は、改札口と「北口、南口」などの出入り口が別のものとされているのです。
それが、駅の規模が大きくなればなるほど、複雑になります。7層構造の上野駅の場合、4ヶ所の改札口と9ヶ所の出入り口があります。そんな駅構内には、ちょっと分かりにくく感じることがあります。
中2階の不忍改札を出てまっすぐ歩くと不忍口、途中で右へ進むと山下口。3階の入谷改札を出るとすぐ正面がパンダ橋口、入谷通路を歩いた先には東上野口と入谷口。3階大連絡橋通路には公園改札と公園口。
1階の中央改札の場合は、改札口を出たところは中央広場で、ここから広小路口、正面玄関口、浅草口へ通じています。
ここまで説明を読んで、何か気がつくことがありませんか? そうなのです、中央改札には「中央口」がないのです。その理由は分かりませんが、改札口と出入り口には違いがあることは明白です。
一般的に、「駅の中」といった場合は「駅構内」を指します。駅構内には、自動券売機などがあり、自由に立ち入ることができるエリアと、乗車券や入場券を持っていないと立ち入れないエリアがあります。
出入り口は駅構内と駅の外との境界であり、改札口は駅構内の自由に立ち入りできる場所と乗車券などが必要なエリアとの境界となっているのです。
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「公園口通路」なのに「公園口」がない理由とは
上野駅3階には公園口通路がありますが、ここからは上野公園側へ出られません。
ここには駅東側へ通じる入谷改札があるだけです。この入谷改札を出たところがパンダ橋口となっていて、ここからパンダ橋を渡って上野公園側へ向かうようになっています。
では、公園改札と公園口はどこにあるのかというと、同じ3階の大連絡橋通路につながっています。
なぜこのようになっているのかというと、上野駅の改修工事を行った結果なのです。上野駅改修工事は現在も進行中ですが、そうした工事の一環として、2020年3月、現在の公園口が新設されました。
かつては、駅3階の公園口通路は東側に入谷改札、上野公園側に公園改札がありました。一方、大連絡橋通路は改札口には通じておらず、ホームとホームをつなぐ連絡通路にすぎなかったのです。
この大連絡橋通路に、新しい公園改札と公園口は設けられました。これに伴い、公園口通路にあった旧公園改札は閉鎖され、現在はトイレになっています。公園口に臨む道路も改修され、駅前はロータリーとなりました。
その結果、それまでは道路と信号で分断されていた公園口と上野公園がつながり、公園口が上野公園と一体化したスペースになったのです。
幻の18番ホームが伝える「昭和」の日本
上野駅には、高架ホーム、地平ホーム、地下ホームあわせて1番ホームから22番ホームまでがあります。
高架ホームは京浜東北線北行き、山手線内回り(1・2番)、山手線外回り、京浜東北線南行き(3・4番)、宇都宮線、高崎線、常磐線、上野東京ライン(5~12番)。地平ホームは上野駅始発の常磐線、宇都宮線、高崎線、常磐線特急(13~17番)。地下ホームは東北、上越、北陸方面への新幹線(19~22番)。
こうして数えると、18番ホームがないことに気がつきます。かつて新幹線が開業していなかったころ、上野駅には地平ホームに18・19・20番ホームがありました。これらのホームでは、在来線の特急・急行列車が発着していました。特急だと東北本線「はつかり」「やまびこ」、上越線「とき」、信越本線「あさま」「白山」、羽越本線「いなほ」などです。
しかし、東北・上越新幹線の開業にともない、これらの特急・急行は次第に姿を消し、それに伴ってホームも廃止されていきました。地下に新幹線ホームを建設する関係から、まず20番線が1980(昭和55)年、続いて19番線が1983(昭和58)年に廃止となります。
新幹線地下ホーム工事に影響がなかった18番ホームはその後も残りました。主として団体列車の発着に用いられていたため、ここから修学旅行などに出発(あるいは到着)した学生は少なくないでしょう。
しかし、東北・上越新幹線の開業に伴って修学旅行列車も激減。そして18番ホームは1999(平成11)年に列車ホームとしての使用を中止。この時点ですでに新幹線ホーム19~22番が稼働していたため、「18番」は欠番となったのです。
ただ、18番ホームは取り壊されたわけではないので、ホーム跡は現存しています。
18番ホームは、集団就職の列車が到着するホームでもありました。
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)で、堀北真希演じる「星野六子」が青森から集団就職で上京、蒸気機関車で上野駅に到着するシーンがありました。
また、NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)で、有村架純演じる「谷田部みね子」が上京し、最初に踏んだ東京の第一歩が、この上野駅18番ホームです。
広小路口のガード下には「あゝ上野駅」の歌碑があります。井沢八郎の1964(昭和39)年のヒット曲で、集団就職列車の情景を描いた歌詞で知られます。
この碑のプレートに描かれた情景は、蒸気機関車をバックに学生たちが歩いてくる、というもの。学生たちの頭上には「18」の数字。つまり、集団就職の学生たちを乗せた蒸気機関車が18番ホームに入線したことをあらわしています。
昭和30年代から40年代、東京の企業や商店などが労働力を求め、それに応じた東北地方などの中卒や高卒の人々が集団で上京。東京でそれぞれの職に就くといった雇用形態がありました。当時は地方の農村地帯には若者が就職できる企業も多くなかったという事情もあります。
東京の生活にあこがれて上京するのではなく、生活のため仕方なく故郷を旅立つ。中卒や高卒という10代の少年少女たちの胸には厳しい決意と覚悟、そしてふるさとへの思いがあったはずです。
集団就職の際、上京に用いられた交通機関は、当時の国鉄(のちのJR) が仕立てた臨時夜行列車でした。まだ日本が貧しく、個人で東京まで列車を利用するのがぜいたくだった時代です。列車の運賃などは企業が負担することも多く、ほとんどの若者がこの臨時列車で上京したようです。
第99代内閣総理大臣の菅義偉も、かつて秋田から集団就職で上京したひとりです。この列車に乗ってきた人々が、日本の高度成長期を支えたのです。こうして上京した若者たちの、東京での第一歩が「上野駅18番ホーム」なのです。集団就職列車は1975(昭和50)年に運行を終了しました。
上野駅の物件を探す おすすめ特集から住宅を探す東北方面からの玄関口だった
かつて、地方から上京するのはかなりハードルが高い行動でした。そうした精神的距離のほか、地方から東京へ移動する時間もかなりかかっていました。
1965(昭和40)年に運行された特急「ゆうづる」は、青森~上野間の所要時間が12時間25分でした。現在の東北新幹線「はやぶさ」は上野~新青森間を3時間あまりで結んでいるので、所要時間はおよそ4分の1になっています。
東京と東北地方の時間距離は、かつては非常に長いものだったのです。上野駅は、ある世代の人々にとって、「ふるさとへの玄関口」となっています。その背景にはこうした事情もあったのです。
更新日: / 公開日:2021.07.19