2回にわたって、島根県雲南市「うんなん暮らし体験プログラム」をご紹介してきましたが、実際に、この街への移住は数値でみても進んでいます。昨年平成27年度(2015年度)一年間の移住は43世帯。そのうち、Iターンが38世帯、Uターンが5世帯という結果。人口約4万人の中山間部で、これだけの移住世帯を記録しているのはかなりの数と見てよいでしょう。なぜ、いま雲南市に移り住む人が多いのでしょうか?移住が進む地域では、行政側でどのようなサポートを行っているのか。また「移住に向く人、向かない人」にはどんな違いがあるのでしょうか?今回は雲南市の「うんなん暮らし推進課」にお話を聞きました。
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雲南市の移住・定住サポートには、平成27年「うんなん暮らし推進課」を新設し、①定住支援スタッフの配置、②空き家バンク制度を拡充。中でも「それまで3名だった定住支援スタッフを5名に拡大したことは、移住相談への手厚いサポートをするうえで効果を発揮している」と雲南市 政策企画部 うんなん暮らし推進課の奥田 清課長は説明します。

 

近年では、「移住コンシェルジュ」といった専属の相談員を設ける自治体も登場してきました。雲南市ではコンシェルジュの名前はつかないものの、定住支援スタッフが移住相談の窓口として一貫して一人のスタッフが一人の相談者に対応できるサポート体制を実現しています。

 

人材を呼び込むための体験プログラムや田舎ツーリズムをはじめ、就業・就農などを含めた移住相談、そして空き家バンクの管理や住まいのサポートなども定住支援スタッフが手掛けます。

 

よく役所は“縦割り”といわれますが、雲南市での移住・定住相談は、生活に必要な相談を一人の専門スタッフが可能な限り対応するため、「実際の移住のための手続きなども手助けしてもらえて助かった」という移住者の声も多く寄せられています。

 

こうした移住相談の窓口を一本化している自治体は、やはり移住者にとって移り住みやすい地域になるはずです。

 

お話しをうかがった雲南市の奥田清課長(左)と</br>同じく雲南市 定住支援スタッフの須藤和裕さん(右)

お話しをうかがった雲南市の奥田清課長(左)と同じく雲南市 定住支援スタッフの須藤和裕さん(右)

もちろん、こうした移住者の多い地域では制度的な側面でも、工夫がなされています。例えば雲南市では、「空き家改修事業補助金」を設け、UIターン者やUIターン者に提供する空き家の所有者向けに改修費用の1/2以内、上限50万円の補助金を提供しています。

 

「空き家を再利用する際に、まず必要となるのがトイレ・台所・風呂といった水回りの改修です。その部分をサポートする意味合いで、県の補助金制度とは別に市の補助金制度として採用しています。平成28年度(2016年度)からは中学生以下のお子さんがいる子育て世帯には補助上限額を100万円まで引き上げました」(奥田課長)

 

また、空き家バンクへの登録件数を少しでも増やせるように「空き家片付け事業補助金」も平成27年度から新設しています。これは、空き家バンクに登録するために住居の片付けをサポートするもの。対象経費の1/2以内、補助上限額が5万円。高額な補助額ではありませんが、空き家バンクへの登録促進には地道に効果を発揮しているといいます。

 

雲南市では、平成23年度(2011年度)に空き家の全件調査も行っています。当時のデータでは調査件数が871件、うち安全性の面の確認がとれ所有者が空き家バンクへの登録意向を示したのが85件。継続・保留物件が149件という結果でした。

 

地方の空き家活用が進まない理由には、相続の問題はもちろんのこと、空き家の敷地内にある仏壇やお墓の処理に関するケースが少なくありません。こうした問題は専門家に相談することで解決することもあり、継続・保留物件として全件調査後も継続的に相談や実態把を進めているといいます。必ず空き家の所有者にバンク登録の情報などが行き渡るよう、「固定資産税の通知封書の裏に空き家バンクの情報を載せる」などちょっとしたアイデアで登録件数を増やす取り組みもされています。

 

また、移住希望者に多いのが「農のある暮らし」へのニーズです。自分たちの食べる野菜などを育てたいというちょっとした農地の利用です。地方では遊休農地が多くあるのですぐに手にできそうなものですが、実はこれにも意外な問題があります。農地の権利取得には本来「農地法」により下限面積50アールが定められています。1アールが約100m2ですから、50アールというのは想像を絶する広さ。

 

雲南市では、平成21年の「農地法改正」を受け、権利取得が可能な下限面積を独自に引き下げ20~30アールでの所有権移転を可能にしています。さらに、平成24年(2012年)からは「空き家バンク」に登録された空き家に付随する遊休農地1アール以上のセット売買を可能にしました。これにより、移住者が求める身の丈の「農のある暮らし」を実現しやすくなっているのです。

 

定住情報サイト「ほっこり雲南」では空き家バンク情報なども掲載

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移住で一番の問題になってくる就業についても、雲南市ではUIターン者向けの無料職業紹介所を開設。また「ふるさと島根定住財団」が提供する職業紹介サービスや若者と県内企業をつなぐ「ジョブカフェしまね」とも連携し、充実した就業情報を提供しています。

 

今年平成28年度にスタートした「UIターン人材確保事業」では、人材誘致も積極的に展開。奨励金などをプラスして不足する「介護職員」を募集しています。手に職のある人にとっては、こうした人材誘致事業にアンテナを張っておくと、移住しやすい環境を手にすることもできそうです。

 

移住で希望の多い就農については、雲南市では市内での農業研修先を紹介したり、研修者には1年~2年の研修期間中、12万円/月額の補助金制度も準備されています。ただし、この就農に関しては「農業だけで身を立てる難しさ」も存在しているといいます。専業農家を営むには投資金額も1000万円は下らず、そもそも市内に専業農家自体が少ないのが現状。

 

「市としても、半農半Xの環境づくりも模索しています。例えば農閑期には市内の酒蔵で酒造りに従事するなど、専業でなくとも農業に従事できる事例づくりを今後サポートしていきたいと考えています」(奥田課長)

 

田畑は多くても、専業農家は雲南市でも少ない(写真はイメージ)

田畑は多くても、専業農家は雲南市でも少ない(写真はイメージ)

こうした様々な制度や移住に関する専門スタッフのサポートは移住への環境を整えてくれます。しかし、そこから移住者が積極的にトライしなければならないのはやはり「地域とのつながり」。そこは避けて通ることができず、移住を成功させるかどうか最も重要な点だと奥田課長は続けます。

 

「移住に向く人、向かない人、というのをあえて言うのだとすれば、地域の人と積極的にコミュニケーションできるかどうかという当たり前の点にかかってきます。隣人がだれだか分からないという都会の暮らしとは違って、プライバシーがある程度なくなるというのは地方で暮らす以上受け入れるべきもの。そしてできればそれを楽しんでいただきたいです。地域行事は確かに大切で参加してもらいたいですが、なかなかそれも仕事があったりすると難しい面もあります。ただ、必ずすべて出席しなければいけないということでもなくて、普段から地域の人とコミュニケーションがしっかりと取れている事が重要となります」(奥田課長)

 

定住支援スタッフの須藤和裕さんは、地域とのつながりは「どれだけ相談できる人を持てるか」だとも言います。

 

「ちょっとしたことで相談できる人が地域にいるかどうか。それが“住みやすさ”に変わってくると思います。ですので、相談者の方や体験プログラムを利用される方には、制度や就業の面だけでなく、どれだけIターンの仲間や地域の人、どれだけの人とつないでいけるかを重要視してサポートをさせていただいてます」(須藤さん)

 

雲南市では、これまでもUIターン者交流会を積極的に行っていますが、今年からは移住者と地域をつなぐイベントなども提案しているといいます。

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人が人を呼び、また人をつくる。移住者と地域がつながるには、その間はやはり「人」でしかありません。そのため、雲南市では、次世代を担う人材育成にも力を入れています。

 

ソーシャル起業や地域の課題解決につながる仕事づくりを志す若い人材育成を目指し、平成23年から開講しているのが「幸雲南塾―地域プロデューサー養成講座」。平成26年(2014年)には同塾の卒業生をメンバーとして、地域の課題解決につながる活動・企業を支援する「NPO法人おっちラボ」が誕生。平成28年には6期生が受講をし、訪問介護の事業展開するチームも生まれました。

 

幸雲南塾は、年6~7回の講座に参加できることが条件で、市外からの受講生も多く受け入れています。こうした活動に参加をすることで、自然と地域の絆を深め、移住につながるケースも少なくないといいます。若い世代の方にとってはこうした期間限定のプロジェクトで楽しみながら、自分と地域の関係性を計っていくのも一つかもしれません。

 

次回は、「NPO法人おっちラボ」が運営するシェアオフィス「三日市ラボ」をご紹介し、二地域居住の可能性についても考えてみます。

 

雲南市が開催する「幸雲南塾―地域プロデューサー養成講座」。写真は平成27年度の受講生たち

雲南市が開催する「幸雲南塾―地域プロデューサー養成講座」。写真は平成27年度の受講生たち

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更新日: / 公開日:2016.09.12