動物園情報
動物園のイノベーション「行動展示」/ホームメイト
旭川市旭山動物園(以下、旭山動物園)が起こした動物園のイノベーションとして、近年、特に熱い注目を集めているのが、「行動展示」と呼ばれる見せ方です。スター動物のいない北国の小さな動物園に、年間300万人もの人を集める要因となり、現在、全国へとその手法が広がっていっている行動展示とは何かを紹介しましょう。
従来の動物の展示方法
「行動展示」を紹介する前に、まず、従来の動物の展示方法についておさらいしましょう。大きく3つに分かれます。
分類学的展示
「分類学展示」は、サルはサル舎、クマはクマ舎といった同類の動物を並べて展示し、種の多様性を比較するのに適しており、最も伝統的な展示方法のひとつです。形態的特徴に注目させて解説するため形態比較展示とも言われています。
地理学的展示
「地理学的展示」とは、アフリカ園やアジア園というように,野生動物の生息する地域ごとに動物を展示する方法です。よく見られるのは,キリンとシマウマ,ヌー,ダチョウなどを同一の放飼場で混合展示をしている例です。東京都多摩動物公園やよこはま動物園ズーラシアなどは、まずこの地理学的展示を根底に置き、建設されています。
生態的展示
地理学的展示をさらにピンポイントで示して、ライオンはアフリカのサバンナ、アムールトラはアジア東部のタイガ地帯というように、野生動物をその生息地ごと展示する方法が「生態的展示」です。現在、アメリカやヨーロッパの動物園で多く採用されているもので、比較的新しい展示方法です。
これらの展示方法には、来園者の側から見たときに、共通の難点があります。動物たちがあまり動かないことです。
展示目的という観点から見ると、分類学展示は博物館的、地理学的展示はジオラマ的であり、動物は動くよりも静止しているほうが、その展示目的にかないます。
では、生態的展示はどうかというと、自然環境を再現して展示するため、動物たちは自然に近い動きをするはずですが、野生動物が四六時中動いているかというとそうではなく、むしろ狩りなどをする必要がなければ動かないことの方が多く、実態としては、動物の動きよりも"佇まい"をみせる展示方法になっているのです。
動物の本来のすごさ、美しさ、尊さを見せる「行動展示」
旭山動物園が、動物園のイノベーションとして取り組んだ「行動展示」は、「動物のすごさ、美しさ、尊さを伝える」ことを何より目的にした展示方法です。これは、動かすために曲芸をさせるといった、人間が見たい行動を動物に押し付けるものではなく、その動物が本来持っている「走る・飛ぶ・泳ぐ・捕食する」といった"動く瞬間"のすごさ、美しさ、そして尊さを来園者に見てもらうために、動物本来の動きを"引き出す"展示方法なのです。
例えば、ペンギン。ペンギンといえば、ずっとじっとしている、歩いたとしてもヨチヨチ歩きといったイメージが強い生き物ですが、野生のキングペンギンは、イカやタコなどの餌を捕るために、何と300m以上も潜水します。そして、地上の姿からは想像もできませんが、水の中では、回遊魚と見間違えるほどの猛スピードで泳ぐのです。旭山動物園の「ぺんぎん館」では、360度見渡せるアクリルの水中トンネルで、その本来の姿を現したペンギンたちに出会え、ペンギンはまさに水の中を飛ぶ鳥だということが実感できます。
また、アザラシは本来、「マリンウェイ」と呼ばれる上下に行ったり来たりする動きを見せる生き物であり、それを動物園でできるようにし、その動きを見てもらうために考案されたのが、アクリルでつくられた円柱型の水槽です。
行動展示は、広い場所でなくても、それぞれの動物たちの"動く瞬間"に出会うことができる展示方法でもあり、ある意味、日本の動物園にとっては、工夫次第で取り組みやすい展示方法と言えるかもしれません。
今、全国にその動きは広まっていますので、近くの動物園で行なわれている例があれば、ぜひ、一度、体験してみて下さい。