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ハンドボールのオフェンス戦術/ホームメイト
オフェンスのチームプレーは、シュートを投げ込むプレーヤー1名と、それを手助けするプレーヤーひとり~数名で成り立ちます。手助けするプレーヤーは「アシスト」とも呼ばれます。
オフェンスのいずれの戦術にとっても基本となる考え方は、自分や味方プレーヤーが「プレー」できる位置に着けるようにする、ということ。パスを受けたり走ったりと「プレー」ができるよう、スペースを作ることを狙います。そのために、相手ディフェンスを引き付けたり惑わしたり、動きを制限したりする多数の方法が考案されています。
ここではチームプレーに欠かせない「アシスト」や「スクリーン」という用語を紹介しつつ、オフェンスの具体例として約10パターンの戦略を紹介します。
アシスト
アシストとは、自分がシュートを打つのではなく、他のプレーヤーの動きを手助けすること。鋭いパスや相手ディフェンスの予想を裏切るようなキレのある動きで、味方プレーヤーのシュートチャンスを作るなど、自チームの得点獲得に貢献することです。チームプレーであるハンドボールにおいては、どのような戦術を用いる場合でも、アシストをいかにうまくできるかが重要なカギを握ります。
アシストには、味方プレーヤーが走り込む少し先のスペースへパスを投げる「リードパス」や、ディフェンダーの動きを封じて味方プレーヤーがスムーズに通れるフリースペースを作り出す「スクリーン」など様々な方法があります。特にコンビプレーによるオフェンス戦術は、シュートを打つプレーヤーと、それをアシストするプレーヤーとで成り立つため、アシストの精度を上げることも重要です。
クロスプレー
2人のオフェンスがクロスするような道筋を通って動くこと。「ポジションチェンジ」や「スクリーン」など、様々なコンビプレーで見られる動きです。
例えば、オフェンスAをディフェンスCがマークし、オフェンスBをディフェンスDがマークする、という2対2の状況にある場合。まず、ボールを持っているオフェンスAがセンター位置からディフェンスC・Dの間へ切り込みます。サイドに位置するオフェンスBは、同時に前へ踏み出すと、ディフェンスDがマークに来ます。ここでオフェンスBはそのまま前へ進むと見せかけて向きを切替え、Aの後方をクロスするように素早く回ってAからパスを受けてシュートを投げます。このクロスプレーにより、ディフェンス側のマークに混乱が生じさせることができるのです。クロスプレーを成功させるには、こうしたフェイントを有効に使うことがポイントのひとつです。
スクリーン
スクリーン(screen)=幕という意味の通り、ひとりのプレーヤーが他の味方プレーヤーの動きをスムーズにさせるよう、ディフェンダーの前に立ってその動きを阻止したり視界を遮ったりするような幕となること。
例えば、ボールを持ったオフェンスAがディフェンスCの前へドリブルを仕かけ、同時にオフェンスBがディフェンスCの前へ進んでスクリーンをかけます。スクリーンのおかげでCはAのほうへ進めず、オフェンスAがさらにゴール側へ切り込み、もうひとりのディフェンスDを引き付けます。ディフェンスDが寄ってきたら、オフェンスBはスクリーンを外してあいたスペースへ走り、Aからパスを受け取り、シュートへと運ぶなどのプレーが可能です。
スクリーンはオフェンス2人がクロスするような動きをするのも特徴。ディフェンスの陣形に対応していろいろに応用できます。
センタースリー
現代のハンドボールでは基本とも言えるオフェンスシステムのひとつ。横に2ラインに並んだようなフォーメーションで、前列中央にポストプレーヤー、その両側にライトサイド、レフトサイドが位置。後列は「バックプレーヤー」と呼ばれるセンターバック、その左右にライトバック、レフトバックの3人がポジショニングします。
センタースリーは幅広いコンビプレーや戦術を展開できます。例えば、バックプレーヤーが3名いるのでミドルシュートや中に切り込んでのシュートなどが自在に狙えます。サイドから角度の少ないシュートを投げ込むことも考えられます。ダブルポストへのフォーメーションチェンジもたやすくできます。また、どんなディフェンス陣形にも対応しやすいのもメリットです。コートを隅まで使えるイメージで、ディフェンダーを左右に揺さぶりながら攻撃できるとベターです。
速攻
攻撃も守備も年々スピード化が進んでいるハンドボールにおいて「速攻」と言えば、素早いカウンター攻撃のこと。パスカットや相手のシュートミスで自チームのボールを獲得したら、相手がディフェンスの陣形を整える間を与えず、すぐにオフェンスを仕かけるものです。
速攻を成功させるには、マイボールを確保したらすぐに相手チームのコートへ走り込むことが肝心。少ないパス数でとにかく速く攻め込みます。
ただし、マンツーマンでディフェンスを行なっているとき、「自チームのボールになった」と確実に判断できるまでは「速攻」に走り出るのは危険です。特にセンター位置を守るディフェンダーは、攻撃への切替えを慎重に見極める必要があります。そこで、シュートを打たれたりマークを外されたりしてしまったサイドのディフェンダーが、速攻の第一陣として飛び出すことが多くなっています。
ダブルスカイプレー
ゴールエリア(6mラインより内側)内にコートプレーヤーは踏み込めませんが、空中でラインを越えることは許されています。こうして空中でパスやシュートをするプレーが「スカイプレー」です。空中でボールを持ったプレーヤーが他の味方プレーヤーへそのままスカイプレーでパスをして、パスを受けたプレーヤーが再びスカイプレーによってシュートをすることを「ダブルスカイプレー」と言います。2人が連続してスカイプレーをする他に、3人が連続してスカイプレーでパスをつないでシュートへつなげることもあります。試合中に実行されると、歓声が沸く花形プレーのひとつです。
スカイプレーではシュートを投げたプレーヤーはもちろん、シュートを打たずにパスを出したひとり目や2人目のプレーヤーも、ジャンプのあとでゴールエリア内に着地しても反則にはなりません。
ダブルポスト
オフェンスシステムのひとつ。通常、オフェンスは2ライン状になり、前列中央にポストプレーヤー、その両サイドに2名、後列に3名、というフォーメーションがよく取られます。しかし、このポストプレーヤーを2名にするのが「ダブルポスト」。中央のラインを挟んで左右にポストプレーヤーが位置をとり、この2名よりもサイド側に他の4名がポジショニングします。
ダブルポストのフォーメーションは、主にオフェンス対ディフェンスが3対3の場面を作りたいときに用いることが多いようです。メリットは、ポストプレーヤーへのパスのバリエーションが増えること。ディフェンスラインを下げるにも役立ちます。ただし、通常なら後列のいるプレーヤーが、ダブルポストシステムでは不在であり、縦に厚みのない横長の陣形になるため、パスを回しにくいなどのデメリットがあります。
テンポシュピール
ハンドボールでは、点を獲られたあとは一度センターラインにボール戻し、そこから試合を再開します。これを「スローオフ」と言い、スローオフは相手チームのプレーヤーが味方側のエリアにいても実行できるので、相手が戻りきる前にスピーディに攻撃を仕かけることがあり、これを「テンポシュピール」と言います。クイックスタートやリスタートといった意味があるハンドボール用語です。
テンポシュピールは素早い攻撃で相手を惑わす他、試合のリズムに変化を与えるなどの効果もあります。しかし、体力を消耗しやすいなどのデメリットもあります。
テンポシュピールを試合中にどれくらいの頻度で用いるかはチームの考え方によって異なり、国際大会でもほとんど用いないチームから、多用するチームまで様々です。
パラレルプレー
2人のオフェンスが平行するようなフォーメーションを保ちながら、移動して攻めるオフェンス側の戦術。オフェンス対ディフェンスが2対2や3対3の状況になったシーンで、かつ、相手ディフェンス2人が平行なラインを作っているシーンで特に役立ちます。
例えば、ボールを持っていないオフェンスAがディフェンスC・D の中央に切り込むように走り出し、その途中でボールを持っているオフェンスBからパスを受けます。オフェンスBはパスを出したあと、Aと平行するように前へ走り出します。ディフェンスC・D がオフェンスAに引き付けられるように中央へ寄ってきたら、AはBにパスを出します。ディフェンスC・Dが中央へ寄った分、スペースが空きます。Bはパスを受け取ったらこのスペースを通って、シュートへと持ち込みます。
ブレーキングスルー
相手のディフェンス陣形の中に切込み、攻撃の突破口を開くこと。ボールを持っているプレーヤーがフェイントで相手ディフェンダーを抜いたり、オフ・ザ・ボールのオフェンスプレーヤーが相手ディフェンダーの視野から外れて中へ入り込んだりするなどの方法があります。このとき、相手ディフェンダーの内側を抜くことを「カットイン」、外側を抜くことを「カットアウト」と言います。
例えば、オフェンスAが正面にいるディフェンスCをフェイントで抜き、ディフェンス陣形をブレーキングスルーするとします。そのあとは自分でシュートを投げる他、味方のオフェンスBにパスを回すなど様々な攻撃ができます。こうしたフェイントの技術やフットワークの良さを磨き、ブレーキングスルーのパターンを多く身に付けておくことが成功のポイントです。
ポジションチェンジ
「ポジションチェンジ」とは、オフェンス対ディフェンスが2対2や3対3などの状況になったシーンで役立つ、オフェンス側の戦術です。オフェンス2人がポジションを入れ替えながら行ないます。
例えば、オフェンスAとBが横に平行にならんでディフェンスと対峙し、相手のディフェンス2人のならびに段差があれば、その段差をめがけて、ボールを持っているオフェンスAが攻め込みます。そして、フェイントでディフェンスCとDの間を抜くと見せかけます。その間に、オフェンスBはオフェンスAとクロスするようにAの後ろを回って走り込みます。ディフェンス2名のラインから外れた位置にオフェンスBが来たら、オフェンスAがBにパスを出し、キャッチしたBがそのままシュートへ持ち込みます。先に切り込むオフェンスAが2人のディフェンスをいかに引き付けられるかがポイントです。
ローリングオフェンス
オフェンスのプレーヤーが数人連続して中へ切込みながら、パスを受け取ったりシュートを狙ったりする戦術のことを「ローリングオフェンス」と言います。オフェンスのプレーヤーが各ポジションを循環するように「ローリング」して陣形を保ちます。
代表的なものは、陣形が8の字型になるようにコートプレーヤーが回りながらパスを出す「8の字戦法」。ポスト位置でシュートを仕かけたり、サイドからシュートを放ったりします。他、ローリングオフェンスはオフェンスの6人全員ではなく、バックプレーヤー3人によるものや、ポストプレーヤーやライトサイド、レフトサイドの3人によるものもあります。
ローリングオフェンスはマークを外すことや、オフェンスのバリエーションとして展開するのに有効です。ただし、動きが横流れになりやすいことから、ゴール方向への縦の切込みやシュートの威力が弱まりやすい点などに注意が必要です。