ゴルフの歴史は用具の歴史とも言われます。それはゴルフクラブやゴルフボールの進化がルールやゴルフスイングにも大きな影響を与えてきたからです。ボールを少しでも遠く、思ったところに飛ばすために先人たちは様々な工夫を凝らしてきました。先の曲がった木の棒はやがてチタンやカーボンといった先端素材に変わり、ただの石ころや木の球だったゴルフボールもいまや高分子化学や航空力学の結晶です。パーシモンヘッドとヒッコリーシャフトの時代から現代まで用具に合わせて変遷してきたスイングの歴史を振り返ってみましょう。
ヒッコリー時代はリストターンで振り遅れを解消
巷ではゴルフスイングに関する様々な理論が溢れています。時には互いに矛盾するような言説を耳にすることもありますが、一概にこちらが正しくてあちらが間違いなどと決めつけることはできません。なぜなら、ゴルフスイングそのものが用具の進化とともに少しずつ変遷しているからです。
しなりやすいヒッコリーシャフト
19世紀に登場し、20世紀前半までゴルフクラブにはヒッコリーのシャフトが使われていました。
ヒッコリーはクルミ科に属する樹木で、それまで使われていた堅い果樹の枝と違い、スキー板や洋弓などに使われていたほど弾力のある木材です。しなりやすく折れにくい性質はゴルフクラブにはうってつけで、ヒッコリーシャフトの登場ではじめてゴルファーはフルスイングすることが可能になったと言われています。また、力の加減もしやすいため当時のゴルファーは14本よりも少ない本数でプレーを楽しんでいました。ただし、しなりやねじれの度合いが大きいヒッコリーシャフトには、ゆったりしたリズムで振らないとクラブヘッドが遅れてフェースが開いたまま当たる短所もありました。これを解消するために編み出されたのがリストターンを積極的に使う打ち方です。
リストを使ってヘッドを走らせる
リストターンとはドアノブを回すときのように、右肘から先を内旋させ、左肘から先を外旋させる動きのことでアームローテーションとも言われています。
インパクト前後にリストターンを入れることでグリップが反時計方向に回転、クラブヘッドを走らせると同時に、クラブフェースをローテーションさせてボールをしっかりつかまえて飛ばすことができます。
また、この時代に流行った左手の甲を正面に向けて握るフックグリップは、左腕を外旋させやすい握り方です。
スチールシャフトの弱点を補うインサイドアウト軌道
ゴルフ用具史上で最大の変革といわれているのがスチールシャフトの発明です。
世界初のスチールシャフトが登場したのは1914年。しかし、ボールがあまりに飛びすぎるという理由から直ぐには使用が認められず、USGA(米国ゴルフ協会)が使用を許可したのは12年後の1926年のことでした。
従来のヒッコリーとスチールの間にはゴルフというゲームを変えてしまうほどの性能差があったのです。
つかまり過ぎたスチールシャフト
当然のことながらスチールシャフトの登場はゴルフスイングにも大きな変化をもたらしました。当時のスチールシャフトはヒッコリーシャフトより50gも軽い上に、しなりもねじれも小さいため、クラブヘッドが戻るスピードが圧倒的に速くなったのです。その代わり従来のようにリストターンを使う振り方では、インパクトでクラブフェースが返りすぎてボールが左方向に飛んでしまいました。これを防ぐ方法はダウンスイングをインサイドから下ろし、フォローをアウトサイドに出す振り方(インサイドアウト)でした。インサイドアウトの軌道で振れば、右方向に打ち出されたボールが途中から左に曲がる球筋になるのです。
グリップはフックからスクエアに
PGAツアーで64勝、メジャーで9勝を挙げた当時の第一人者「ベン・ホーガン」も1957年に著したレッスン書「モダン・ゴルフ」で、ダウンスイングでクラブヘッドをシャローに(浅い角度で)下ろすことを推奨していますが、これはまさしくインサイドアウト軌道でドローボールを打つ方法です。また、インパクトでクラブフェースが左を向きやすい従来のフックグリップで握るとボールが最初から左に飛びやすいため、スクエアグリップやスライスグリップが主流となりました。なお、ホーガン自身もチーピン(左に打ち出して急激に左に曲がるボール)を解消するために握り方をフックグリップからスクエアに直したそうです。
スチールシャフトにマッチし、再現性の高いショルダーターン
20世紀後半にはリストターンを抑えてショルダーターンを使うゴルフスイングが主流になりました。
ショルダーターンは肩を90度回す
「ショルダーターン」とはその名の通り肩を深く回すことで作られる大きな捻転差を利用してヘッドスピードを稼ぐ打ち方です。トップオブスイングで両肩が右に90度、腰は45度回るのが理想とされています。
ショルダーターンのメリットは、腕の筋肉よりも大きい背中の筋肉を使うため、より大きなパワーを生み出せると同時にスイングの再現性が高くなることです。また、リストターンによる過度の球のつかまりがなく、ヒッコリーに代わって台頭したスチールシャフトに合った打ち方とも言えます。
ショルダーターンでは上体を前傾させて肩を回転させるため、トップオブスイングとフィニッシュの手の位置が高くなり、スイングプレーンよりアップライトになりました。アップライトなスイングは長いインパクトゾーンでボールを捉えられるので方向性が安定するメリットがあります。
高い球を打つための逆Cの字フィニッシュ
ショルダーターンの注意点は、肩の回転が不十分な場合にクラブを腕で振り上げてしまいアウトから下りてスライスが出やすくなることです。これを防ぐには肩を十分に回し肩のラインに沿ってクラブを上げること。そうすればクラブをインサイドから振り下ろすことができます。
一方、この時代はゴルフコースの建設ラッシュが続き、砲台やハザード越えなどトリッキーなグリーンが増えました。これに対応して高い弾道を打つため、フィニッシュで体を大きく反らす逆Cの字フィニッシュも、もてはやされました。
ゴルフクラブに仕事をさせるボディターンが登場
クラブヘッドの素材が劇的に進化したのは1980年頃からです。ドライバーはそれまでのパーシモンからメタル、チタンへと変化し、製造技術の進歩とともに体積が大型化。同時にアイアンもマッスルバックから大型のキャビティバックが主流となりました。
ゴルフクラブの飛距離性能が大幅に進化
クラブヘッドの大型化による恩恵のひとつがフェース面の反発性能の向上です。シャフトもスチールよりもさらに軽いカーボン製が登場し、ゴルフクラブの飛距離性能は大幅に進化しました。一方、ゴルフボールも従来の糸巻きタイプからソリッドボールに置き換わり、鍛え上げたエリートプレーヤーでなくとも道具の力を借りて飛ばせる時代が到来したのです。
体全体をバランスよく使うのがボディターン
1970〜80年代、パーシモンヘッドのゴルフクラブと糸巻きゴルフボールの時代に活躍した選手は、フットワークによる体重移動を積極的に使い、フィニッシュで体を大きく反らすダイナミックなスイングでボールを飛ばしていました。
しかし、現代のゴルフ用具では、より再現性の高いスイングでゴルフクラブやゴルフボールに効率よく仕事をさせることが飛距離アップにつながると考えられており、その結果、過剰な腕の振りやフットワークを抑えつつ、体幹を中心に振るボディターンが主流になりました。ボディターンはリストターンと対比して語られることが多いため、腕の振りをまったく使わないスイングと誤解されがちですが、実際には体全体をバランスよく使って振るスイングです。
大型ヘッド向きのフェースの開閉を抑えたスイングが主流に
スイングの主体がリスト(手首)からショルダー(肩)、ボディ(身体・胴体)へと移っても変わっていないことがあります。それはゴルフクラブを正しいスイングプレーン上で動かすことです。
オンプレーンで振るという概念
オンプレーンで振るという概念を世に広めたのはベン・ホーガンの名著「モダン・ゴルフ」でした。ホーガンは同書で両肩とボールを結ぶ 1 枚のガラス板をイメージして、ゴルフクラブや腕をそのガラス板の内側で動かすように説いています。
バックスイングの際にクラブを手で振り上げたり、ダウンスイングで腰を回す前に手を下ろしたりすると、ゴルフクラブは仮想のガラスを突き破ってしまいます。ガラス面すなわち正しいプレーン上でゴルフクラブを動かすには、腕ではなく体の回転でスイングしなければなりません。
大型ヘッドはフェースの開閉を抑える
出版されてから60年も経つ「モダン・ゴルフ」がいまもゴルフスイングのバイブルとして読み継がているのは、ホーガンのスイングが現在のトッププレーヤーと比較しても美しく完成されているからです。ホーガンと現在のトッププレーヤーのスイングの最大の違いはリストターンの比重です。コンパクトなパーシモンヘッドと比べて大型でシャフト軸線から重心までの距離が長く慣性モーメントの大きな現代のクラブは、バックスイングでクラブフェースを開くと開いたままでインパクトしてボールが右に飛んでしまいます。そこで、できるかぎりリストターンを使わず、フェースの 開閉を抑えたスイングが主流となっているのです。
まとめ
ゴルフはあらゆる球技の中でも用具の比重が大きいスポーツです。そしてゴルフクラブやゴルフボールの進歩に合わせてゴルフスイングも変遷してきました。特にいまどきのゴルフクラブはミスヒットに強く 、 楽に振っても飛ばせるようになってきています。したがって、腕の力を使って目一杯振り回す打ち方よりも、体幹に近い大きな筋肉を使う再現性の高いスイングを心掛けた 方が結果を出しやすいと 言える でしょう。