ハイラックスチャンプ、知ってますか？【九島辰也】

文●九島辰也　写真●九島辰也、トヨタ

　トヨタ・ハイラックスチャンプというクルマをご存知でしょうか。日本で売られていないモデルなので、すぐにその姿を思い浮かべる人は少ないでしょう。タイで生産されタイで販売されているピックアップトラックです。読者の中には「ジャパン・モビリティ・ショー2023」に展示されていたので記憶に残っている方もいるかもですね。いずれにせよかなりマニアックな一台です。

　そんなクルマをベースにカスタムしてもらいたいという依頼を受け、先日イベントにショーカーを展示しました。「フィールドスタイル2024」というアウトドアをテーマにした催し物です。場所はAichi Sky Expo。セントレア空港のすぐ隣になります。

　依頼してきたのは、トヨタ自動車のバリュー・チェーンという開発部門にある組織で、市場に出たクルマの可能性に対していろいろとトライアルをするチームです。今回はハイラックスの特別仕様車Z”Revo ROCCO Edition”を題材にその可能性にチャレンジしたモデルを展示しました。自由な発想のもとユニークな提案をしているので、今後も注目です。

　では、ハイラックスチャンプをどんな風にカスタムしたかというと、ご覧のようになりました。いただいたテーマは「未完成」。カスタムに余白を残し、観た人にイメージを膨らませてもらおうという考えです。なるほど、それはグッドアイデア。通常であれば大胆に手を入れるところをその手前で止めるのですから、個人的にも興味があります。化粧プレートに「MICAN」と書いてあるのは、「未完」を意味します。

　カスタムの内容は白かったボディをブラックにオールペンし、タイヤとホイールを替えました。タイヤはお馴染みBFグッドリッチのオールテレイン。サイズはライトトラックの荷重を鑑みて225/75R16としています。まぁ、実際に公道を走るものではないので、そこまで厳密に設定しなくてもいいんですけどね。それとメッキのサイドミラー、イエローライトのフォグランプを取り付けます。この辺は最低限のカスタムマナーかと。メッキミラーはトレーラーヘッドのイメージ。イエローライトは60年代のフランス風ですかね。なかなかわかってもらえないでしょうが。

　そしてメインとなったのは幌。通常であればFRPでバキッと架装するところですが、なんたって未完成ですからあえて幌にしました。ヒントになったのは学生時代足に使っていた720型ダットサントラック。そのロングベッドに幌をかけていたのを根拠とします。あの頃は家の近所にテント屋さんとかあったんですよね。東京の商店街にも。なのでちょくちょく足を運んで相談していました。

　で、今回幌を手がけてくれたのは林テレンプさん。名古屋にある自動車の内装をメインにした大手サプライヤーです。そこが想像以上の細かい作業をしてくれました。細かい骨組みは軽量なプラスチック素材で、分解すれば持ち運び可能。どこでも組み立てられます。しかも、幌のシワの位置なんかも計算して作られています。いやはやお見事。仕事が丁寧過ぎ。幌のリアエンドの角度もそこに入れる文字の大きさもいろいろと提案してくれました。感謝！

　幌以外のカスタムは名古屋のWHAコーポレーションが協力してくれました。以前RAV4を思いっきりカスタムしたことがありますが、その時にもタッグを組んだ仲間です。今回も完成イラストを渡すとリアルに再現してくれました。センスの良さが光ります。なんたって素材は商業用トラックですからね。それをプライベートカーとしても使えるようにするにはセンスが必要です。

　出来上がったクルマは意識の高いバイクショップやタイヤ屋さんに使ってもらいたいと思い、横にハーレーダビッドソンX350とBFグッドリッチを並べました。それ以外にはお花屋さんやお米屋さんの配達用なんかにもいいかなと。このクルマはカスタムの一つのヒントでしかありませんが、こんな感じのトラックが街中を走っていたらカッコイイですよね。きっと二度見しちゃいます。

　それにしてもいい感じに仕上がったと思っています。これまでも全国のシボレーディーラーで売られたカマロジオバンナエディションやショップのデモカーなんかをプロデュースしてきましたが、クルマをカスタムするのは本当に楽しい。ぜひみなさんもガンガン手を入れてください。

　ちなみに、ハイラックスチャンプの日本での発売は今のところ未定。排ガス規制や衝突安全などハードルはいくつかありそうです。でもみなさんからの反響が大きければ変わるかな。このカスタムトラックがそんな要因の一つになれば幸いですね。