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先人のスゴ技で賢く食品保存! Vol.1 ~シメとヅケ~

先人のスゴ技で賢く食品保存! Vol.1 ~シメとヅケ~

■食品の傷みを抑える、昔ながらの食品保存法

スーパーの買い物から自宅に帰ってきて、まずすることといえば何でしょう? 購入してきた生鮮食品を、とりあえず冷蔵庫に入れて低温保存していませんか? しかしここで立ち止まって考えてみます。もし仮に冷蔵庫がなかったら、生鮮食品をどうやって長く保存したらいいのでしょうか? 生の肉や魚などは腐敗が進んで、翌日にはもう食べられなくなっているかもしれません…。

その答えは、先人たちが築いてきた豊かな保存食文化の中にありました。冷蔵庫が普及するまで、人々は自然の力を借りたさまざまな知恵と工夫を駆使し、食品を常温で長期保存して日々の食事をまかなっていたのです。そのアイデアは、もちろん現代日本の食生活にも応用が可能です。そこで今回は、先人が考えた昔ながらの食品保存法にクローズアップ。身近にある調味料などを使って食品を「締める」「漬ける」ことで、より長く、よりおいしく食を楽しむ工夫を紹介します。

■食品が傷む原因と、傷みを抑止する保存法

食品が傷んで食べられなくなることを、食品の変質といいます。変質の理由は大きく2種類に分かれますが、変質の大部分を占める理由は、細菌やカビなどの微生物による腐敗です。微生物は、条件が揃うと急速に増殖しますが、増殖を促進させる要素には次のものがあります。

温度

低温、中温、高温帯でそれぞれ増殖する微生物がいます。日常の生活環境の中では、中温(発育可能温度10~45℃)で増殖する微生物が最も多く存在します。

水分

微生物の細胞には75~85%の水分があり、生命を維持する代謝反応を行うために水分を必ず必要とします。

水素イオン濃度(pH)

多くの微生物はpH5.6~9.0の弱酸性・中性・弱アルカリ性で多く増殖します。ほとんどの食品が同じpHを示すため、温度や水分などの条件が整うと、食品中で急激に微生物が増殖します。

浸透圧(塩濃度)

大部分の微生物は、食塩濃度0.9%の環境を好みます。この数値は、生理食塩水と同じ濃度です。

酸素

微生物の種類によって、増殖に酸素が必要なものから酸素があってもなくても増殖するものまで存在します。

栄養素

ほとんどの微生物は、炭水化物やたんぱく質、無機塩類、ビタミン類などの栄養素を取り込んで増殖します。

微生物による食品の変質を防ぐには、上の6つの要素の作用を抑えることが必要です。その方法は低温保存や加熱殺菌などさまざまなものがありますが、今回ご紹介する、調味料で「締める」「漬ける」方法もその一つです。「シメとヅケ」によって、食品から微生物が生命を維持するのに欠かせない水分を抜いたり、pHを酸性に寄せて微生物を死滅させたりすることができます。

(ひとくちメモ)

・食品の変質の理由として挙げられるもう一つの理由が、油脂や油脂を多く含む食品の化学的な変質です(変敗とも呼ばれます)。酸素や水分、光、熱などの条件が揃うと、食品は匂いや味の劣化、着色や毒性を帯びるなどしてしまいます。こうした変質を抑えるには、低温保存や光の遮断、酸素流入を抑えるなどの方法があります。

■「シメとヅケ」、その具体的な方法

今回のテーマである「シメとヅケ」は、日本人にはなじみの深い材料を用いて行う、先人が育んだ昔ながらの食品保存法です。酢で「締める」、塩や醤油に「漬ける」。現代の食生活でも大活躍してくれること間違いなしの方法を、ここで一部紹介します。

酢で締める

酢には強い殺菌効果があることが知られています。酢は微生物の細胞膜に浸透しやすく、微生物内のpHを下げて不活化させ、ほとんどの微生物を死滅させることができます。そのため酢は食用に使うだけでなく、野菜や魚を酢水で洗って微生物の増殖を抑えたり、調理道具にスプレーして殺菌したりすることにも使われます。

酢で締める保存食でなじみが深いのは、「シメさば」「あじの酢締め」などの魚介類を使った料理など。野菜は、砂糖と塩を合わせてさっぱりと漬けた「甘酢漬け」や、ローリエ、粒黒こしょうなどと一緒に漬ける「ピクルス」など、和洋のレシピで保存食を作ることができます。

塩・砂糖に漬ける

食品を高濃度の塩や砂糖に漬けると、食品の周りの環境の浸透圧が高まります。すると食品中の水分が塩や砂糖側に流れ出ていき、微生物にとって必要な水分が減って増殖を抑えることができます。

肉の塊をスパイスなどと一緒に塩漬けにして火に通すと、うまみたっぷりの「コンビーフ」や「塩豚」、「鶏ハム」が完成します。また、キャベツの千切りを塩やローリエ、赤とうがらしなどと一緒に保存容器に詰めておくと、ドイツの伝統的な保存食「ザワークラウト」ができあがります。

醤油・味噌に漬ける

醤油も味噌も、食品を長くおいしく保てる理由は塩・砂糖と同じ。食品の水分を減らして、保存性を高める作用があります。

刺身が食べきれず余ってしまったら、醤油に漬ける「ヅケ」にして「漬け丼」にすると、翌日もおいしくいただけます。また、味噌・砂糖・みりんと合わせた「味噌床」に肉やゆで卵を漬け込むと、ほのかな味噌の風味が移り込んだ「味噌漬け」ができあがります。味噌床にガーゼなどを挟んで食品を漬けると、味噌と食品が直接触れないので、味噌床を再利用することもできます。

オイル・アルコールに漬ける

オイルに食品を漬けると、食品と酸素が触れなくなるので、酸化や微生物の侵入を抑えてくれます。特にオリーブオイルは酸化しにくいといわれており、オイル漬けの材料にぴったり。またアルコールは、消毒用にも使われるように殺菌作用があるため、保存食づくりの材料に向いています。

マグロやいわしなどの魚介類を長く楽しみたいなら、一度火にかけてオイル漬けにすると約1週間おいしく食べることができます。アルコールに果実や野菜などを漬け込めば、果実酒やコンポートなどになります。

(ひとくちメモ)

・昨今の健康志向から減塩が推奨されていますが、保存食を作る時は、微生物の増殖を抑えるためにある程度の塩分濃度が必要です。また、アルコール漬けを作る際は、ホワイトリカーやブランデーなどアルコール度数の高いものを選ぶようにしましょう。

参考文献
植木幸英・野村秀一編(2016)『栄養科学シリーズ NEXT 食べ物と健康、食品と衛生 食品衛生学 第4版』 講談社
魚柄仁之助(2008)『冷蔵庫で食品を腐らせない日本人』 大和書房
黒田民子(2017)『やさしい保存食と自家製レシピ』 主婦の友社
今泉久美(2018)『浸して漬けて「作りおき」』 文化出版局

※本記事が掲載されていたモッタイナイキッチンは2022年10月にワケルネットへ統合されました。本記事は統合される前にモッタイナイキッチンで公開された情報となります。