ホットレポートリユースカップシステムは小規模でも使い捨てより環境負荷が低いことが明らかに             

2024年03月22日グローバルネット2024年3月号

グリーンピース・ジャパン 広報
平井 ナタリア 恵美(ひらい なたりあ えみ)

コーヒーをテイクアウトして持ち歩くのがオシャレ、というトレンドが変わりつつある。テイクアウトに使われてきたプラスチックや紙の使い捨て飲料カップが、1日約100万個も廃棄されていることがわかり、問題視されるようになってきたからだ。大手カフェチェーンのスターバックス、タリーズ、プロントを月2回以上利用する方を対象に行った意識調査(2022年)でも、「使い捨てカップを減らすべき」と答えた人は8割を超え、使い捨てカップを使用する利用客のうち約68%が「店側の勧めがあればリユースカップをもっと利用したい」と答えている。

2022年、グリーンピース・ジャパンは、カフェチェーンごとの使い捨てカップ消費量を調査し、大手9チェーンが1年間に3億6,950万個もの使い捨てカップを排出し、そのうちスターバックスがその他8社の合計よりも多い2億3,170万個を排出していることを発表した。使い捨てられるカップごみを減らすためには、店内ではマグカップやグラスでの飲料提供を徹底したり、テイクアウトには洗って繰り返し使えるタンブラーや返却式リユースカップを利用してもらうなどして対策できる。しかし、チェーンや店舗によって施策の程度が異なり、特にテイクアウトにおいては、持ち運びが面倒なタンブラーの利用が伸びず、返却式リユースカップは小規模でサービスがスタートしたばかりで、使い捨てカップ排出量の大幅削減につながっていないのが現状だ。またリユースカップが本当に環境に良いのか、科学的なデータが不足していることも、リユース推進が遅れている理由の一つであった。

リユースカップは本当に環境に良いのか?

そこでグリーンピースは2023年、リユースカップシステムと使い捨てカップシステムのライフサイクルにおける環境負荷を分析・比較する調査を行い、報告書『リユースが拓く未来』にまとめた。本調査では、CO2排出を含む16の環境影響項目でライフサイクルアセスメント(LCA)分析を行い、その結果、リユースシステムの環境性能は、低い使用頻度であっても、ほとんどの影響項目において使い捨てカップのシステムを上回ることなどがわかった。ここではその調査方法や結果の詳細について説明したい。

今回の調査では、釜山・香港・台北・東京で実際に返却式リユースカップのサービスを展開している事業者のデータをベースに東アジアの分析モデルを作り、LCA分析を行った。使い捨てカップのシステムとも比較するため、それぞれのライフサイクルを資源採取や原料生産から、流通、消費、廃棄やリサイクルに至るまでと設定し、調査項目も気候変動への影響をはじめ、健康を害する可能性のある物質の排出や、海や川の汚染物質など、多角的に設定した。

また、リユースカップシステムの前提条件を「3年間で1万個のリユースカップが、40ヵ所の店で使われる」「洗浄設備とリユースシステム提供業者が各1ヵ所ある」「カップの紛失や破損に伴う損失率は7%と仮定」と定めた。

リユースカップの使用頻度での違いも比較するため、1人当たりの使用頻度を「年間20回(低頻度)」、「40回以内(中頻度)」、「60回以内(高頻度)」と3パターンの条件で数値を出している。

小規模展開でも環境負荷が低い結果に

調査の結果、リユースカップシステムの環境影響は、事業規模がまだ小規模で、さらなる効率化の余地が大きい現時点においても、温室効果ガスの排出を含むほとんどの影響項目で使い捨てカップシステムより優れていることがわかった()。

数値は、使い捨てカップを1回使用する場合と、リユースカップを1回リユースする場合で、排出量や影響がどれだけ異なるかを示している。例えば20という数字は、使い捨てカップを選択した場合と比較して、リユースカップを選択した場合はその影響項目が20%低減することを表す。

薄いグレーのマスは、すべてリユースカップシステムの環境影響が使い捨てよりも低いという結果を示している。地域や、使用頻度にかかわらず、ほとんどの項目において使い捨てカップのシステムよりもリユースカップシステムの環境影響が低いことがわかった。また、この結果から、より多くの人がリユースカップを使えば使うほど、リユースカップの仕組みが大きく広がれば広がるほど、環境負荷は低くなるということが読み取れる。

日本のカフェ、ファーストフードチェーン、コンビニエンスストアでは年間39億個の使い捨てカップが消費されている。仮にこれらすべてをリユースカップのシステムに置き換えた場合、270万本の成木が1年間に吸収するCO2の量に匹敵する6,030万㎏以上のCO2を削減することができる。

現時点でわかったリユースカップシステムの課題

ライフサイクルの各段階別にみると、それぞれのシステムの課題が浮かび上がってきた。まず使い捨てカップシステムのライフサイクルで最も環境負荷が大きいのは製造段階であったため、生産自体の抑制が環境と人間の健康に最も大きな利益をもたらすといえる。一方、リユースカップシステムにおいては主に、洗浄工程、そして輸送段階に環境負荷が高い結果が出た。今回の調査では現状の社会の状況に即した条件設定を採用していることが影響しているため、改善策を提示することが可能だ。

例えば東アジア全体では、大気質に影響を与える「光化学オキシダントの生成」や洗浄による環境負荷を示す「淡水の富栄養化」において、リユースカップシステムの方が環境負荷が高い結果となった。

これらはカップの輸送に使われるスクーターがEVに移行することや、リユースカップの洗浄プロセスにおいて、より環境にやさしい洗剤を使用するようになればそれぞれ改善が期待できる。

東京の分析においては、「化石燃料の枯渇(化石燃料の使用量)」の項目の低頻度と中頻度において、使い捨てに比べてリユースカップシステムの環境負荷の方が高いという結果が出たが、これは調査の前提条件に使い捨てカップのPET素材は100%リサイクル原料であることが影響している。実際には、すべての使い捨てカップが100%リサイクル素材を使用したカップになる状況は今後も考えづらい。さらに、リユースカップの使用頻度が高くなれば、たとえリサイクル素材100%の原料で作られたリサイクルカップであっても環境負荷が低くなることがわかっている。

多くの可能性が秘められているリユースシステム

以上の結果から、リユースシステムを拡大できれば、より環境負荷を軽くしつつ、脱プラスチック、脱使い捨てを進めていくことが可能になることがわかった。また今回は、すでに存在するリユースカップシステムのデータを基にしたが、これらは主に実証実験段階や小規模展開のデータであったため、今後大規模にリユースシステムが社会実装されればさらに環境影響が軽減できることが予測される。洗浄施設の拡充を含め、リユースの分野では多くのイノベーションや効率化など可能性が秘められている。すでにリユース推進の政策を進めている台湾やフランスなどの例に倣い、日本でもリユース政策を打ち出していくべきだ。そしてそのために、私たち市民からもその声を上げていきたい。

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