東邦ガスは7月、飲食店支援サービスの統合ブランド「1ドリンクサブスク」を公表し、事業者募集を本格化した。ユーザーは月額定額制(サブスクリプション)で、店舗1軒につきドリンク1杯が毎日無料になる仕組み。自社では「フラノミスタ」の名で展開する。OEM先の東京ガスは昨年12月から自社ブランド「よりみちパスポート」を開始。金沢エナジーは今年10月に「Nom—Tok(のむトック)」として提供する予定だ。各サービスは交通系ICカードのように相互利用できるため、全国に広め地域活性化ひいては日本全体の活性化につなげる。6月中旬に3社の担当者が金沢に集結し、座談会を開催。各社代表の3人が取り組みについて語った。
——1ドリンクサブスク誕生の経緯と仕組みは。
東邦ガス・臼井健二課長当社は新型コロナウイルス感染症拡大で打撃を受けた飲食店を応援するため、1ドリンクサブスクの基盤になったフラノミスタを2020年10月から開始した。政府は緊急事態宣言を発令し、飲食店は休業や時短営業に追い込まれ、街から活気が消えた。飲食店は人と人を結びつける場。コロナで失われた「乾杯」の価値をもう一度見いだし、多くの乾杯の声で街を元気にしたいという思いから開発した。おかげさまで好評で、東海エリア(愛知県、岐阜県、三重県)の加盟店は現時点で374店になった。
仕組みは、ユーザーがLINEの公式アカウントにあるアプリから会員登録し、月額550円の利用料を支払う。加盟店でアプリ上のクーポンを提示すると、1100円以上の注文を条件に店舗1軒につき毎日1杯無料になる。ユーザーにとっては月1回の利用で元が取れる。現在地付近の加盟店が地図上に表示されるため、探す手間もかからない。ふらっと1杯飲みに行くのに効果的だ。しかも、交通系ICカードのように相互利用が可能。例えば、東海エリアのフラノミスタに加入していても関東エリアのよりみちパスポートとして使用できるため、出張や観光で使いやすい。
一方で、加盟店は登録料や利用料不要で集客ができ、売り上げ増加が見込める。店の情報は、店舗名と住所、電話番号、営業時間等の基本情報のみのため、申し込みは5分程度で完了する。また、ユーザーがアプリ上のクーポンを提示するだけというのは店内オペレーション上の導入ハードルも低い。
——東京ガスがOEM第1号に。導入したきっかけは。
東京ガス・山本洋介主任コロナ禍で苦境に立たされる飲食店をなんとか支援したいという思いから、20年夏に飲食代を前払いする他社サービス「さきめし」のプロモーション支援を行い、手応えがあった。そんな中、社内でフラノミスタの話を聞き、飲食店支援という理念が一致していたことから、導入できないかと問い合わせた。
臼井課長フラノミスタはあらかじめ、OEMできる仕組みとして開発した。表示デザインなどを各社仕様に変更するだけ。もちろん独自のプラン追加などカスタマイズもできる。コールセンター業務も共通で利用することで金銭的および人的リソースの節約も可能。事業者にとって「楽」であることを重点に置いて開発した。
山本主任実際に楽だったので、検討からサービス提供までが早かった。よりみちパスポートは20年12月に導入検討を開始し、21年5月にリリースできるよう準備を進めていたが、新型コロナの状況を見極めつつ同年12月にリリースした。早ければ、検討開始から2~3カ月で導入できると感じた。
——金沢エナジーは第2号となる。導入経緯や不安は。
金沢エナジー・針原剛副主任当社は金沢市企業局からガス・発電事業の譲渡を受け、今年4月に事業を開始した。5月27日に発表した「22年度事業計画」において、民間企業ならではの付加価値サービスとして五つの新サービスを提供すると表明した。その一つが金沢エナジー版1ドリンクサブスク、Nom—Tok(のむトック)だ。
2月に導入検討を始め、6月から加盟店舗の募集を開始した。10月にはサービス提供を開始する予定になっている。会社が立ち上がったばかりのため、限られた期間と人数で導入できるか不安があったものの、東邦ガスの全面的なサポートにより、非常にスピーディーに進んでいる。自社開発すると時間や人手、そして費用がかさむが、そういった点を大幅に抑制できる。さらに、加盟店開拓に関しても2社からノウハウを共有してもらえることも大きく、サービス開始に向けた準備は順調に進んでいる。
山本主任これまで蓄積してきた情報を共有し、エネルギー事業者ならではのアドバイスができるので、困ったことがあれば何でも相談してほしい。当社も関東エリアの加盟店は当初、緊急事態宣言もあり170店程度だったが、現時点で338店になった。伸び悩んでいた頃に、東邦ガスが酒造メーカーのネットワークを活用することを教えてくれた。この情報を基に、飲食店と広い接点を持つ酒屋へアプローチしたことも、加盟店が増えた一つの要因だった。
臼井課長酒屋との連携については、逆に当社が東京ガスからノウハウをいただき、助かった。1ドリンクサブスクが集客できるツールだということを知ってもらうと、協力企業が増える。酒造メーカー、酒屋のほかに厨房機器メーカーや人材派遣会社などからも営業のきっかけとして活用してもらっている。
さらに今、フラノミスタではホテルとの関係強化を進めている。ホテルがフラノミスタのライセンスを買い取り、フラノミスタ付きの宿泊プランを提供する取り組みが始まっている。出張者や長期宿泊者を狙った取り組みとして有効だ。
●ガス需要増の足掛かりに、SDGsにつながるメニューも
——1ドリンクサブスクで、どのような効果が得られるか。
臼井課長事業者はOEMのため、初期開発や運営にかかるコストを抑えられる。収益はユーザーが支払う月額費用から得るが、1ドリンクサブスクを窓口に飲食店やホテルなどのガス・電気の需要家獲得や、既存需要家との関係強化につなげられるため、エネルギー会社として本業の収益増にもつながる。
針原副主任金沢エナジーは、ガス需要拡大に向け、新サービスによる需要創出を期待している。そのために、Nom—Tokを足掛かりにしたい。全社員営業マンをモットーに、行きつけの飲食店から地道に開拓していき、金沢市、野々市市、白山市エリアでの加盟を目指す。ユーザーには10月のサービス提供に向けて、夏ごろから周知活動を行う予定だ。
山本主任よりみちパスポート加盟店である飲食店との関係強化に手応えを感じている。また、ユーザー視点も取り入れ、社会課題の解決に貢献したいという若者の声を反映した独自メニュー「SDGsトッピング」を展開している。月額利用料金に1コースにつき50円をプラスするとフードロスや環境保護、障害者支援など社会貢献に資する取り組みを行うNPO法人等に寄付できる。身近な飲食を通じてSDGsの広がりにも貢献したい。
——今後の全国展開に向けた展望は。
臼井課長1ドリンクサブスクは、各地域に根差した企業との連携で拡大を図りたい。連携先はガス会社に限らず、業界の垣根を越えて拡大していきたい。実際に電力会社からも引き合いがあり、現在協議中だ。コロナからの復興に向け、サービス提供側と受け手側の双方にとってプラスになるよう、全国の事業者とともに日本にもっと乾杯の声を増やし、全国を活気付けたい。
◇◇◇「売買関係から共存共栄へ」フラノミスタ加盟店の声/SORAGROUP渡辺浩司管理本部本部長
名古屋市を中心にイタリアンやラーメン、居酒屋等さまざまな様式の飲食店を展開する飲食法人「SORAGROUP」は、10店舗以上でフラノミスタに加盟する。同社の渡辺浩司管理本部本部長は「飲食店の負担がほぼ無い仕組みの中で、顧客送客まで手伝ってくれるのはありがたい」と話す。
さらに、東邦ガスとの関係について、「エネルギーを供給・消費するだけの関係であれば、東邦ガス以外でも可能。事実、コストメリットを求め過去には他の新電力とも契約していた。しかし、顧客送客までサポートしてくれる現在の関係はビジネスパートナーであり、今後も関係は強まっていくと実感している」と語る。
単なる売買関係でなく共存共栄であり、現在はガス・電気・フラノミスタの3種類の契約で結びつく。両社は今後も長期的な付き合いが続く見込みだ。