大手資産運用会社の直接販売参入は、個人にとってはほとんど無意味 - 銀行員のための教科書

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大手資産運用会社の直接販売参入は、個人にとってはほとんど無意味

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資産運用会社が投資信託(投信)の直接販売を強化しています。

この資産運用会社の動きはどのような背景によるものでしょうか。

また資産運用会社の投信直販は我々、資産運用を行う個人にとってはどのような意味があるのでしょうか。

この投信の直接販売の動きについて今回は考察します。

 

報道内容

まずは直近の日経新聞記事を引用します。資産運用会社の動向がつかめるでしょう。

投信のネット直販参入相次ぐ 若い世代の「長期投資」後押しに期待
2019.3.20 日経新聞

 資産運用会社が投資信託のインターネット経由での直接販売を強化している。三菱UFJ国際投信は今月から参入。野村アセットマネジメントも参入を検討している。銀行や証券会社を通さないことで、手頃な価格で若い世代を取り込みたい考え。顧客の動向を直接把握し、サービス強化につなげる狙いもある。

 三菱UFJ国際投信は主に子育て世代に対し、低金利で運用商品としての魅力が薄れた学資保険の代替として、投信の積み立て投資を提案。国内外の株式や債券で運用する17本の投信から好みの商品を選び、最低5千円から投資できる。スマートフォンでも簡単に取引できるようにした。

 投信の直販についてはこのほか、野村アセットマネジメントも検討中だ。先行する三井住友アセットマネジメントは2月に品ぞろえを拡充した。各社の狙いは、顧客の動向を直接把握することで、販売会社経由も含めた全体の販売戦略に生かすことだ。

 背景には、「投信が売れない」という強い危機感がある。投資信託協会によると、1月の投信購入額(上場投資信託を除く)は1兆1132億円と平成21年以来、約10年ぶりの低水準となった。

 野村アセットマネジメントの調べでは、20歳以上の投信保有率は23年の17・0%から30年には13・1%に低下。特に20~40代の保有率の低さが目立つ。

 原因のひとつが、投資に慎重な国民性だ。日本銀行の資金循環統計によると、日本の家計の金融資産に占める投信や株式、債券の比率は16・2%に対し、米国は53・9%、欧州は31・3%に上る(いずれも昨年3月末現在)。

 商品や売り方にも問題があった。特に特定の業種や銘柄に投資する「テーマ型」と呼ばれる商品は銀行や証券会社の営業員が売りやすい半面、長期投資には向かないことや販売手数料が高いことから、金融庁が問題視していた。

 直販で販売手数料や信託報酬を抑えた投信を売ることで、投資初心者の開拓が期待されている。三菱UFJ国際投信の代田秀雄常務執行役員は「商品のことを一番よく知っているのはメーカーだ。『産直』ならではの価値を見いだしていただけるお客さまがいるはずだ」と意気込む。毎月一定額を長期で運用しやすくする制度「つみたてNISA」も投信拡販の追い風となりそうだ。

これが近時の動向です。

端的に言えば、投信の売れ行きが悪いために資産運用会社が個人への直接販売に乗り出したと言えるでしょう。

 

投資信託の販売動向

資産運用会社が投信の直接販売に乗り出す背景には、投信が売れないという強い危機感があるとされています。「投資信託協会によると、1月の投信購入額(上場投資信託を除く)は1兆1132億円と平成21年以来、約10年ぶりの低水準となった。」と記事には記載があります。

では、本当に投信は売れていないのでしょうか。以下は投資信託協会から発表されているデータです。

2 0 1 8 年中の投資信託概況

(1)総合計
2018年中の総合計は設定額が76兆3,322億円、解約額が66兆2,778億円、償還額が4,594億円で、差引き9兆5,950億円の資金純増となった。
純資産総額は前年末に比べ6兆327億円減少(うち、運用等減11兆7,348億円)し、年末には105兆1,592億円となった。
(2)株式投信
2018年中の株式投信は設定額が39兆7,809億円(対前年比1兆8,857億円減少)で、これに対し解約額が27兆5,774億円(同5兆4,211億円減少)であり、解約率は2.4%(前年3%)、償還額4,574億円で、この結果、株式投信は差引き11兆7,462億円(単位型1,846億円減少、追加型11兆9,308億円増加)の資金純増となった。
純資産総額は前年末に比べて3兆8,814億円減少(うち、運用等減11兆7,347億円)して、年末には93兆5,511億円となった。
(3)公社債投信
2018年中の公社債投信は設定額が36兆5,513億円(対前年比9兆6,292億円減少)で、これに対し解約額38兆7,004億円(同7兆3,389億円減少)償還額21億円で、差引き2兆1,512億円の資金純減となった。
この内訳は、長期公社債投信が604億円の純減、MRFが2兆856億円の純減となった。
純資産総額は前年末に比べ2兆1,513億円減少し、年末には11兆6,081億円となった。

(出所 投資信託協会/2 0 1 8 年中の投資信託概況

この統計データで言える2018年の投信にかかる動向は以下です。

  • 投信全体では資金流入額が資金流出額を上回っている
  • 株式投信は資金流入超であるが、運用が厳しく純資産額(≒時価)は減少した
  • 公社債投信は 低金利環境下で運用厳しく、資金流出超であり、純資産額(≒時価)も減少している

ただし、この投信への資金流入9兆5,950億円のうち、株式ETFに対しての流入が8兆145億円となっており、ETFへの資金流入に偏っていることが分かります。

なお、投資信託協会/2 0 1 8 年中の投資信託概況における商品分類別の年間動向は以下となっています。

  • インデックス型投信(日経225、TOPIX等)=資金流入額+9兆3,927億円、純資産42兆8,189億円(+3兆3,138億円)
  • ETF=資金流入+8兆145億円、純資産33兆5,631億円(+2兆7,686億円)
  • 毎月決算型=資金流入▲2兆8,081億円、純資産22兆6,771億円(▲7兆9,503億円)
  • ファンドオブファンズ=資金流入+8,226億円、純資産22兆8,784億円(▲3兆4,789億円)

以上の数字を見て言えることは何でしょうか。

何が資産運用会社を直接販売参入に向かわせたのでしょうか。

 

所見

資産運用会社のうち、大手銀行系、大手証券系の資産運用会社が直接販売に乗り出す理由は明確でしょう。

まず、上記投資信託概況にもあるように、資金はETFに向かっています。ETFは寡占化が進んでいく可能性があり、かつ報酬は低廉です。また、インデックス型の投信も増加しており、こちらも報酬率は低い状況にあります。

そして、銀行での売れ筋であり、ETFやインデックス型の投信よりは報酬率の高かった毎月分配型(毎月決算型)の投信は、金融庁の圧力(?)により販売が急減し、残高も減少の一途をたどっています。系列の銀行・証券を通じて毎月分配型を販売してきた資産運用会社にも大きな影響を及ぼしています。加えて、金融庁は顧客本位の業務運営として、銀行に系列の資産運用会社の商品をどの程度の割合で販売しているのかを開示させるように求めています(テーマ型投信も問題視しています)。

すなわち、大手銀行・証券系列の資産運用会社は、低い報酬率の投信しか売れない環境下において、さらに系列の銀行・証券での販売に頼ることが難しくなってきているのです。

(なお、投信の純資産額は減少しており、純資産額×報酬率で報酬を通常収受する資産運用会社にとっては損益状況は厳しいと思われますが、これは相場の状況次第ですので直接販売への参入を検討する際に大きな影響を与えている訳ではないでしょう。)

これが資産運用会社が直接販売に参入する背景です。

では、この直接販売は成功するのでしょうか。また、資産運用を考える個人にとって良いことなのでしょうか。三菱UFJ国際投信の役員が「商品のことを一番よく知っているのはメーカーだ。『産直』ならではの価値を見いだしていただけるお客さまがいるはずだ」と述べていることはどのように考えたら良いのでしょうか。

結論からすると、筆者は資産運用会社の直接販売参入は、あまり意味が無いと考えています。

まず、大手の資産運用会社は様々な投信を設定・組成してきました。しかし、サラリーマン組織であったこともあり、投信の運用成績は手数料に見合ったものではなかったと思われます(金融庁も同様の認識でしょうが)。正直に言って、インデックス型の投信の方がマシだったのです。この傾向は、大手資産運用会社の社風、人事・報酬制度等が抜本的に変わらない限り、そのままであると筆者は考えています。すなわち、日本においては大手資産運用会社が設定・組成する投信はインデックス型で十分であり、インデックス(例:日経平均やTOPIX)を上回る運用を期待しない方が現状では良いということになります。

インデックス型の投信であれば、基本的には少ないコストで運用出来るかだけの話であり、商品の横比較が容易です。すなわち、個人にとってみれば直販で購入するよりも様々な投信を比較検討可能なネット証券等で購入する方がよほど良いでしょう(ネット証券で販売手数料がかかり、資産運用会社の直販では販売手数料が無料であれば、直販での購入にも意味があるかもしれませんが)。また直販であれば、他社が組成した投信と比較が出来なくなってしまうため、むしろ競争が促進されない怖れもあります。

大手資産運用会社が直販をして意味があるのは、まさにさわかみ投信や鎌倉投信のような明確な投資哲学を持った投信(ファンド)を運用し販売する時でしょうが、人事異動が相応に存在し、名前の売れたファンドマネージャーが少ない大手資産運用会社において、そのような哲学・ストーリーを語ることが出来る投信を組成できるでしょうか。

以上より、筆者は大手資産運用会社が投信の直販に参入することはあまり意味が無いと考えており、かつ資産運用を行う個人にとっては特に意味が無いと考えているのです。