ジャパンネット銀行の住宅ローン参入にかかる裏の理由 - 銀行員のための教科書

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ジャパンネット銀行の住宅ローン参入にかかる裏の理由

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ヤフー傘下のジャパンネット銀行が住宅ローンに参入すると報道されています。

新たな新業務参入には、ヤフーが持つビッグデータ解析技術を活用し、将来的にはAIを審査に活用するとされています。

一方で、住宅ローンは金利の低下が激しく、住宅ローンから撤退する銀行も出てきています。

なぜ、競争が激しい住宅ローン分野にジャパンネット銀行は参入するのでしょうか。

今回は、ジャパンネット銀行の住宅ローン参入について考察します。

 

報道内容 

まずは今回の報道記事を確認します。以下日経新聞の記事を引用します。

ジャパンネット銀、住宅ローンを来夏参入 AIで適切融資
2018/08/21 日経新聞

 インターネット専業のジャパンネット銀行は2019年夏にも住宅ローン事業に参入する。将来は人工知能(AI)を審査に活用し、顧客の属性に応じた適切な融資につなげる。住宅ローンの提供で貸出金を伸ばすほか、顧客のメインバンクにしてもらうことを目指す。
 ネット銀行は店舗がなく、経費率は一般的な銀行に比べて低い。住宅ローンの最低金利も低く抑えやすく、地方銀行やメガバンクから借り換える顧客が多い。
 ただネット銀行で住宅ローンを借りている顧客は信用力の高い人に偏っており、顧客の裾野を広げることが課題だった。将来的には融資の審査にAIを導入し、給料や勤続年数などによる画一的な審査ではなく、幅広いデータから返済能力などを見極めて融資を判断する。親会社のヤフーがもつビッグデータ解析の技術を顧客情報の分析に活用する。
 住宅ローンは金利の引き下げ競争が激しいが、金融機関側のメリットも大きい。住宅ローンを通じて顧客のメインバンクになれば、デビットカードの利用や投信の販売が見込める。こうしたプラス効果を重視し、ジャパンネット銀は住宅ローンの参入を決めた。

以上が今回の報道内容となります。 

ジャパンネット銀行は「住宅ローンの提供で貸出金を伸ばすほか、顧客のメインバンクにしてもらうことを目指す」とされています。

同行の強みの一つはヤフーの技術を活用できることでしょう。データ解析技術の活用によっては今まで住宅ローンを借りることができなかったような顧客に対して住宅ローンの提供ができるようになる可能性はあります。

また、顧客のメインバンクになれば他の商品販売にもつながるかもしれません。

しかし、今回の住宅ローン参入は、そんな理由ばかりではないのではないかと筆者は想定しています。

以下で、同行が住宅ローンに参入する要因について見ていくものとしましょう。

 

ジャパンネット銀行の決算状況

ジャパンネット銀行の住宅ローン参入理由を推測するには、同行の決算状況を確認しておくべきです。

以下、同行の決算時点における各項目の残高推移について見ていきましょう。

<預金残高推移> 

  • 2014年3月 542,737百万円
  • 2015年3月 569,011百万円
  • 2016年3月 611,891百万円
  • 2017年3月 684,730百万円
  • 2018年3月 750,322百万円
  • 2018年6月 771,236百万円 

<貸出金残高推移> 

  • 2014年3月 34,381百万円
  • 2015年3月 42,204百万円
  • 2016年3月 51,398百万円
  • 2017年3月 62,039百万円
  • 2018年3月 73,847百万円
  • 2018年6月 75,301百万円 

<有価証券残高推移> 

  • 2014年3月 461,875百万円
  • 2015年3月 352,045百万円
  • 2016年3月 356,577百万円
  • 2017年3月 355,253百万円
  • 2018年3月 262,526百万円
  • 2018年6月 280,429百万円
<現金・預け金残高推移>
  • 2014年3月 54,970百万円
  • 2015年3月 180,702百万円
  • 2016年3月 215,307百万円
  • 2017年3月 224,766百万円
  • 2018年3月 298,142百万円
  • 2018年6月 296,968百万円

この推移を見れば、なぜジャパンネット銀行が住宅ローンに参入するかが分かります。

同行は、預金が継続的に増加しています。

この預金は、従前は主に有価証券によって運用されてきました。個人向けのフリーローン等もありますが、残高としてはわずかといえます。

近年では、同行は買入金銭債権(いわゆる運用商品)やコールローン等での運用もしてきましたが、こちらも預金との対比で見た場合には残高はわずかです(2018年6月時点:買入金銭債権=53,584百万円、コールローン=63,000百万円)。

しかし、足元では、マイナス金利政策導入もあり有価証券残高は急減してきています。有価証券に投資しても儲からないのです。

結果として、現金・預け金が増加してきています。いわゆる運用ができない資金です。

この状況は、誤解を恐れずに言えば、地方銀行に近い悩みと言えるかもしれません。

預金は集まってきても「運用ができない」のです。

従って、同行は新たな運用手段・運用資産を探すことになりました。追い込まれたと言っても良いかもしれません。

これが、同行の決算動向を見た住宅ローン参入の理由なのです。

 

所見

筆者は、銀行が住宅ローンを提供しても顧客のメインバンクになることは難しいと経験則上考えています。銀行は、ずっと前から、顧客の「囲い込み」「クロスセル」を目指してきましたが、特に個人分野においては成功しているとは言い難いのではないでしょうか。

従って、ジャパンネット銀行が目指すべきは、他行とは可能な限り競合しない住宅ローンの借入人発掘です。他行が狙っていない取引先(貸出先)の拡大こそが同行が行うべき戦略であり、そのためのヤフーとの協業なのです。

ヤフーの保持するデータや、そのデータ分析を通じて新たな貸出先を獲得することを主眼とすることが必要な戦略ではないかと筆者は想定しています。

相応に貸出金利が確保でき、一方で信用力は相応にある個人を見極めることができるのであれば同行にある程度の利益をもたらすのではないでしょうか(言うは易し、行うは難しですが)。