銀行の休業日緩和と共同店舗運営は、結果的に自らの首を絞めるのでは? - 銀行員のための教科書

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銀行の休業日緩和と共同店舗運営は、結果的に自らの首を絞めるのでは?

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(写真は本文とは関係ありません) 

銀行の平日休業が可能となる銀行法施行令等が8月16日に施行されました。

銀行の休業日は規制されていましたが、今後は柔軟な店舗運営が可能となります。

この休業日が中心に報道されていますが、今回の規制緩和は共同店舗運営にも注目すべき内容となっています。

今回は、この銀行の休業日規制緩和に加えて共同店舗運営について簡単に確認しておきます。

 

報道内容

まず、全体像を確認するため、以下記事を引用します。

金融庁 銀行の平日休業が可能に 16日に施行

毎日新聞2018年8月15日

銀行法施行令を改正

金融庁は15日、銀行や信用金庫といった金融機関が平日に休業できるよう改正した銀行法施行令などを16日に施行すると発表した。

 地方銀行や信用金庫、信用組合などは少子高齢化で地域の店舗網の維持が難しくなっているが、隔日での営業も可能になり、少人数で店舗を運営できる。人件費などのコスト削減にもつながる。

 銀行などの休業日は、個人や企業の経済活動に影響を与えないように原則として土曜や日曜、祝日、年末・年始に限定すると定められていた。(共同)

以上が報道内容です。

この報道では銀行の休業日に焦点が当てられており、共同店舗運営については特段触れられていません。

 

銀行の休業日に関する法規制

先ほどの報道記事に述べられている通り、銀行の休日は法律で規制されています。

銀行は休日が法令で定められている数少ない業態です。参考までに根拠法の該当条文を確認しましょう。

<銀行法>
(休日及び営業時間)
第一五条 銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る。
2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。
(臨時休業等)
第一六条 銀行は、内閣府令で定める場合を除き、天災その他のやむを得ない理由によりその営業所において臨時にその業務の全部又は一部を休止するときは、直ちにその旨を、理由を付して内閣総理大臣に届け出るとともに、公告し、かつ、内閣府令で定めるところにより、当該営業所の店頭に掲示しなければならない。銀行が臨時にその業務の全部又は一部を休止した営業所又は代理店においてその業務の全部又は一部を再開するときも、同様とする。

このように銀行法では休日が決められていること、加えて勝手には休業できないと定められていることが分かります。
では銀行法15条1項を具体化した政令についても確認しましょう。

<銀行法施行規則>
(休日)
第五条 法第十五条第一項に規定する政令で定める日は、次に掲げる日とする。
一 国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日
二 十二月三十一日から翌年の一月三日までの日(前号に掲げる日を除く。)
三 土曜日

この施行規則では、銀行の休日は土日・祝日、12月31日~1月3日となっていることが分かります。
この法令のため、銀行は土日、祝日、年末年始に休んでいることが多いのです。
これが銀行の休日に関する基礎的な理解です。

この休業日の規定が緩和されたということです。 

(銀行が休祝日に営業可能か、銀行の営業時間は規制されているのかについては以下の記事をご参照下さい) 

www.financepensionrealestate.work

 

今回の改正のもう一つのポイント

金融庁が発表した今回の一連の改正では、複数の銀行が共同で店舗を運営しやすくなるように従業員が他行の業務を兼務できること等を監督指針で明確にしました。

例えば、持株会社傘下の兄弟銀行や経営統合が決まった銀行同士で導入が進むとみられています。

この監督指針の内容について以下確認しておきましょう。以下は中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の新設項目です。

中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針

Ⅱ-3-2-2-2 主な着眼点

(以下新設項目)

銀行の店舗戦略や業務運営の見直しが進められている中、例えば、過疎地にある営業所を住民等のニーズに基づき維持する場合や、経営統合の結果として生じた同一地域に所在する営業所について、複数の銀行が共同で営業所を設置することが考えられる。運営形態としては、複数の銀行が共同して営業所を設置する場合のほか、例えば、一方の銀行が他方の銀行から委託を受けて銀行代理業や登録金融機関業務などの業務を行う場合や、複数の銀行が同一の者に銀行代理業を委託する場合などが考えられる。
このように、複数の銀行が、同一建物、同一フロアに共同の営業所を設置して運営する場合、必ずしも、当該銀行自身の業務のためのスペースと、他の銀行の業務のためのスペースとの間に、いわゆる遮断壁を設ける必要はないものの、顧客の誤認防止等の観点から、特に以下の点に留意すること。

① 銀行が、その営業所を他の銀行等の金融機関の本支店等と同一建物、同一フロアに設置してその業務を行う場合には、以下の点について、顧客に対して十分な説明を行っているか。

イ.当該銀行と当該金融機関は、別法人であること。

ロ.当該銀行が提供する商品・サービスは、当該金融機関が提供しているものではないこと。

② 銀行の営業職員が、他の銀行等の金融機関の営業部門と兼職をしている場合には、顧客の誤認防止の観点から、以下のような措置が適切に講じられているか。また、銀行における報告態勢、指揮・命令系統を明確にしているか。

イ.営業職員が同一の営業所内で取り扱う商品・サービスの内容及びその提供主体である法人名を、当該営業所に掲示することなどにより、来訪した顧客が容易に認識できるようにすること。

ロ.当該職員が、顧客に対し、その兼職する銀行等の金融機関の範囲を分かりやすく明示すること。特に、例えば窓口業務のように、不特定多数の顧客を相手にする業務を行う場合は、当該職員が取り扱う主な商品・サービスの範囲や当該職員の兼職の状況について、当該窓口への掲示等により、顧客に対し常時明示されていることが望ましい。

ハ.特に、当該職員が新規顧客に対し勧誘を行う場合や、顧客に対し新たな商品・サービスの勧誘を行う場合には、その兼職状況及び取り扱う商品・サービスの範囲について、十分な説明を行うこと。

ニ.顧客と契約を締結する際には、書面等による確認を行うなど、当該契約の相手方である法人名を顧客が的確に認識できる機会を確保すること。

共同の営業所を運営する他の銀行等の金融機関の業務に顧客情報が顧客の同意なく流用されることのないよう、顧客情報の適正な管理のため、Ⅱ-3-2-3を踏まえた対応が適切に講じられているか。 

以上のように監督指針は改正されました。

複数の銀行が共同店舗を運営する等の対応が可能になるようにして、少しでも店舗網の維持・金融インフラの維持を行いたいというのが金融庁の狙いでしょうし、特に地銀では、いわゆる過疎地での共同店舗運営のニーズ等はあるでしょう。

しかし、共同店舗については、上記監督指針の通りに運営をするのであれば、銀行側からみれば使い勝手の悪いものであることは否めません。

また、パブリックコメントでも以下のやり取りがなされており、運営が難しいことが十分に想定されます。

<コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方>

▼中小・地域金融機関等向けの総合的な監督指針Ⅳ-4-2

<コメント概要>
監督指針「Ⅳ-4-2-5-2」において、「銀行代理業者が二以上の所属銀行等から銀行代理業を受託している場合は、(中略)顧客情報を適正に管理するための方法や体制(例えば、 組織・担当者の分離、設備上・システム上の情報障壁の設置、情報の遮断に関する社内規則の制定及び研修等社員教育の徹底等の顧客情報管理体制)の整備が行われているかどうかについて十分に検証する」とある。 今回明確化された共同店舗運営の留意点は、銀行代理業者が二以上の所属銀行等から銀行代理業を受託している場合も該当すること、および上記の組織・担当者の分離や設備上の情報障壁の設置等はあくまで例示であって、 適切な措置を講じていれば必ずしもこれらの体制整備を行わなければならないということではないことを確認したい。
<金融庁の考え方>
本改正では、複数の銀行が共同で営業所を設置する場合における留意点を示しており、その運営形態としては複数の銀行が同一の者に銀行代理業を委託する場合も考えられるところです。 この場合、少なくとも監督指針Ⅳ-4-2-5-2が挙げる点については十分に検討の上、顧客情報を適正に管理するための方法や体制を整備する必要があると考えられます。

ただし、共同店舗は「銀行だけ」を想定する必要はありません。

以下の通り、パブリックコメントのやり取りにおいてコンビニと銀行の共同店舗が想定されており、その共同店舗の構想自体は金融庁も否定していません。

<コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方>

●監督指針関係
▼中小・地域金融機関等向けの総合的な監督指針Ⅱ-3-2

<コメントの概要>

監督指針「Ⅱ-3-2-2-2」において、「銀行が、その営業所を他者の本支店等と同一建物、同一フロアに建造する場合には、顧客の誤認防止、顧客情報の保護及び防犯上の観点から、適切な措置が講じられているか」とある。 例えば、銀行がコンビニ等の他業界の事業者と共同で店舗を設置する場合、「顧客の誤認防止、顧客情報の保護及び防犯上の観点」から各行が適切と考える措置を講じていればよいと理解してよいか。

<金融庁の考え方>
本改正では、複数の銀行が共同で営業所を設置する場合における留意点を示していますが、お尋ねにあるように、銀行が銀行以外の事業者と共同で店舗を設置することも想定されるところです。 なお、銀行以外の事業者との共同店舗の設置に当たっては、顧客の誤認防止、顧客情報の保護及び防犯上の観点に加えて、他業禁止の趣旨等についても留意が必要であると考えられます。

https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180815-1/01.pdf

銀行とコンビニが店舗の共同化を図っていく可能性はあり得るということです。

今回は銀行の休業日に焦点が当たっているようですが、共同店舗運営の緩和・明確化というのも十分に重要なテーマでした。

 

まとめ

いずれにしろ、今回の法令改正は、銀行の規制を緩和するものです。

「休業日の緩和」「店舗の共同運営」、いずれにしろ銀行の存続可能性を高めるために銀行のコスト削減を可能にするものなのです。

ここに利用者目線という視点はほとんどありません。

銀行は自分達のコスト削減・会社存続のために、キャッシュレス化を進展させていくことになるのでしょう。そして、店舗では運用商品・住宅ローンのセールス、事業承継・相続のサポート等の機能を拡充し、従来のキャッシュを扱う機能は縮小させていくのでしょう。

それは結果としては、「キャッシュがあるからこそ、近くに店舗がありATM網が充実している特定の銀行を利用者は選択する」という、従来の銀行(特に地方銀行)の強みを手放すことになるのではないかと筆者は想定しています。 

キャッシュレス化が進展していくと、預金者に対する地銀の強みは縮小していくことが容易に想定されます。筆者は、キャッシュレス化時代(おそらくキャッシュレスの時代は日本にも来るのでしょう)の地銀の戦略について今後注目しています。