不動産の証券化投資スキームでは、不動産アセットマネジメント業務を行うアセットマネジャーを活用することが非常に多くなっています。
少なくとも10年前には、不動産アセットマネジャーは不動産証券化スキームに組み込まれていませんでした。この不動産アセットマネジメント業務の委託が行われるようになった背景について、今回は考察することにします。
不動産アセットマネジメント業務とは
アセットマネジメント (以下AM) とは、投資用資産の管理を実際の所有者・投資家に代行して行う業務のことです。よって、株式・債券・投資用不動産、その他金融資産の管理を代行する業務一般を意味します。
投資用不動産を当初所有者(オリジネーターといわれます)、投資家に代行して管理・運用する業務を、AMの中でも不動産アセットマネジメントといいます。
具体的な業務は以下の図の通りですが、この中の全てを行っているかは不動産AM会社によるかもしれません(オリジネーターが実態上は担っていることもあり得ます)。
金融商品取引法の制定
不動産証券化スキーム(仕組み)、不動産AM業等を規制する法律に金融商品取引法(以下金商法)があります。
金商法は、金融・資本市場をとりまく環境の変化に対応し、利用者保護ルールの徹底と利用者利便の向上、「貯蓄から投資」に向けての市場機能の確保及び金融・資本市場の国際化への対応を図ることを目指し、「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)及び「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同第66号)が可決・成立し、 2006年6月に公布されました。(金融庁ホームページ、一部抜粋)
この金商法施行により、2007年9月30日以降、新たに、いわゆる集団投資スキームの持分(ファンド)の自己募集や出資・拠出を受けた財産の自己運用を業として行う者も規制の対象となりました。
ここで集団投資スキームの仕組みについても確認します。
以下の図は不動産証券化の一般的なスキームです。合同会社(GK)を「器(SPC)」とし、匿名組合(TK)出資と借入を組み合わせて資金を調達し、不動産受益権を購入するスキームです。略してGK-TKスキームといいます。
(図出典 三井不動産投資顧問ホームページ)
当該スキームの流れは以下の通りです。
①合同会社はAMに受益権の投資運用業務又は投資助言業務を委託する。
②合同会社は匿名組合契約に基づき投資家からエクイティを調達する。
③合同会社は金融機関から借入れ(デット)を調達する。
④合同会社はオリジネーター(売主)から信託の受益権を取得する。
⑤合同会社はオリジネーターに対し信託の受益権取得代金を支払う。
⑥合同会社は信託の受益権の対象となる不動産の賃借人から得られる賃料収入を原資とした信託配当を得る。
⑦合同会社は金融機関に元利金を支払う。
⑧合同会社は投資家に配当を支払う。
このスキームで法的に中心的な役割を果たす合同会社はSPC(特別目的会社)です。
従業員も存在しませんし、オフィスも当然なく、会社としての実態はありません。
証券化をするためだけに組成された「器」なのです。
ところがこの実態のない合同会社=SPCについて金商法施行により規制がかかることになりました。
SPCの法的位置付け
金商法では、「信託受益権」や「集団投資スキーム持分」などの権利者から出資・拠出を受けた財産を、主として(出資総額の50%超)有価証券等に対する投資として運用する行為を「投資運用業」と位置づけています(金商法2条8項15号、金商法28条4項)。
不動産証券化スキームで一般的に使われるGK-TK型の証券化におけるSPC (匿名組合の営業者)も、「匿名組合出資」を受けて「みなし有価証券」である「信託受益権」を取得、保有、売却するので、基本的には「投資運用業(自己運用業)」を行っていることになります。
よって、SPCは原則として、投資運用業の登録をする必要があります。
しかしながら、投資運用業登録のためには 金商法の求める人的要件、財務的要件(5000万円の最低資本金など)があり、証券化を行うための「器」としての機能しか持たないSPCにとっては、投資運用業の登録要件を満たすことは困難です。
また、GK-TK型の証券化でSPCとして最も多く用いられているのは合同会社ですが、金商法では投資運用業の登録要件は「株式会社」となっています。これも問題となります。
(金融庁のホームページ:登録に関する説明ページ)
ファンド関連ビジネスを行う方へ(登録・届出業務について):金融庁
そこで、SPCが投資運用業の登録をしなくても、スキームが構築できるようにする必要が出てきました。
SPCが投資運用業の登録を免除されるための対応
金商法では、投資家保護に問題が生じないと認められる場合には、金融商品取引業の登録を免除する規定を設けています(金商法2条8項)。
SPCが金融商品取引業(=投資運用業)の登録をしなくても良くなる場合は以下の3通りです。
①SPCが第三者であるアセットマネジャー(=投資運用業者)へ運用権限の全部を委託する場合
②SPCが適格機関投資家等特例業務を行う場合(金商法63条1項)
③2層構造ファンドの特例を活用する場合(※)
※2層構造ファンドとは、投資者が、親SPCにまず匿名組合出資をして資金をファンド化し、親SPCが、その資金を複数の子SPCに出資し、子SPCが不動産信託受益権その他の資産を取得して運用を行うというように、資金を集めるSPCと資産を保有するSPCとに分けたスキームの不動産投資ファンドのことをいいます。(出典 不動産適正取引推進機構)
この3つの中で最もスキーム上の汎用性があるのが①です(②は単純にいえばプロ向けです)。
不動産証券化スキームで不動産アセットマネジャーが活用されるようになったのは、このような理由があるからなのです。
まとめ
不動産証券化スキームで、なぜ不動産アセットマネジメント業者への委託が増えてきたのか、その理由はまとめると以下になります。
- 不動産証券化スキームではGK-TKスキームが(その機能から)一般的
- GK-TKスキームにおけるSPCは法的には投資運用業に該当する
- SPCが投資運用業の登録を免除されるためには、アセットマネジャーに運用業務を全部委託する必要がある
- これにより不動産証券化スキームで不動産アセットマネジメントの委託を行っているスキームが一般的に
銀行員は今後も私募ファンドでの不動産投資スキームへのファイナンス等が発生してくる可能性があります。
不動産アセットマネジャーを選定する理由についは上記を覚えておけば良いでしょう。
単純に言えば、法対応でSPCが求められる投資運用業登録を回避し、コストを削減するために選定されているということです。