三菱UFJ国際投信が2018年度上半期にインターネット経由で投資信託を直接販売するとの報道がなされています。
これは一見すると、投信会社が販売会社(銀行や証券会社)を中抜きすることにより安いコストで商品購入者に商品が届くため、購入者にとってメリットがある良い取り組みだとお感じになる方も多いのではないでしょうか。
確かに良い取り組みですが、この投資信託の直販という動きは見た目ほどには単純ではありません。
今回は投信会社によるインターネットでの投資信託の直接販売について考察します。
報道内容
三菱UFJ国際投信が2018年度上半期にインターネット経由での投資信託を開始する見込みです。
日経新聞の記事によれば三菱UFJ国際投信では「投信を直接売ることで顧客にどんな需要があるのかや、投資行動を把握することで商品開発に生かしたい」としています。
また、投信の手数料水準を抑え、若年層の資産形成をサポートし、将来は投信を長期保有した顧客に手数料引き下げなどのメリットを提供することを検討しているようです。
この動き自体は、商品購入者にとってもコストメリットを享受可能であり、投信会社にとっても販売会社に頼り切っていた販売を自社が行うことになるため、良い動きであるといえるでしょう。
金融庁長官の発言にみる問題点
上述の通り投信会社の投信直販の動きは非常に良い動きであるようにみえます。
それ自体を筆者は否定するものではありません。
ただし、この動きには裏があるものと想定しています。
以下は、金融庁長官の講演の抜粋です。
少々長いですが引用します。
我が国にも、この基準を満たさなくても実績の良い投信が存在することを否定するわけではありませんが、資産運用の専門家が、個人の安定的な資産形成に資すると勧める特徴を持った投信がこれだけ少ないという事実は、我々も業界も深刻に受け止める必要があると思います。
では何故、長年にわたり、このような「顧客本位」と言えない商品が作られ、売られてきたのでしょうか?
資産運用の世界に詳しい方々にうかがったところ、ほぼ同じ答えが返ってきました。日本の投信運用会社の多くは販売会社等の系列会社となっています。投信の運用資産額でみると、実に 82%が、販売会社系列の投信運用会社により組成・運用されています。
系列の投信運用会社は、販売会社のために、売れやすくかつ手数料を稼ぎやすい商品を作っているのではないかと思います。
これまでの売れ筋商品の例をみても、ダブルデッカー等のテーマ型で複雑な投信が多く、長期保有に適さないものがほとんどです。こうした投信は、自ずと売買の回転率が高くなり、そのたびに販売手数料が金融機関に入る仕組みになっています。
(中略)
本年2月の我が国における純資産上位 10 本の投信をみてみると、これらの販売手数料の平均は 3.1%、信託報酬の平均は 1.5%となっています。世界的な低金利の中、こうした高いコストを上回るリターンをあげることは容易ではありません。日本の家計金融資産全体の運用による増加分が、過去 20 年間でプラス 19%と、米国のプラス 132%と比べてはるかに小さいことは、こうした投信の組成・販売のやり方も一因となっているのではないでしょうか。
「日本の資産運用業界への期待」 日本証券アナリスト協会 第8回国際セミナー
「資産運用ビジネスの新しい動きとそれに向けた戦略」における森金融庁長官基調講演
2017 年4月7日http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf
以上の講演録は金融庁のホームページに掲載されています。
これをご覧になると投信会社がこのタイミングで投信の直販に参入した理由が少しみえてくるのではないでしょうか。
投信会社がネット直販参入を目指す理由
投信会社がネット直販により顧客の需要・動向を調査することは何ら問題もありませんし、むしろもっと実施していくべきでしょう。商品購入者の実際の反応を確認することは商品開発のスピードが上がるとともに、より消費者目線での商品開発・組成が可能となります。
しかし、投信会社の目的は他にもあるのです。
上記の金融庁長官の講演にあるように、金融庁は投信会社についても顧客本位を求めてきています。
金融庁は、独立系ではない投信会社は系列会社・親会社である銀行のために商品を作っており、顧客を向いていないのではないかと問題視しているのです。
特に三菱UFJ国際投信は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)の連結子会社であり、MUFGの銀行・証券・信託銀行で商品を販売しています。
しかし、今後はグループでの販売が厳しくなる可能性が高いのです。
まず、三菱UFJ国際投信側からすると金融庁の意向もあるため、販売会社にとっては販売インセンティブが低い販売手数料の低い商品開発に力を入れざるをえません。
一方、販売会社にとっても系列の投信会社の商品ばかりを販売することは顧客本位ではないと金融庁から突っ込まれてしまうでしょう。もっと幅広い、系列外の商品も含めた商品ラインナップの中から顧客にとって最も適切な商品を勧めるべきだと指導されかねないのです。
すなわち、投信会社と販売会社はある意味で利益相反の関係にあるのです。そして、それは系列内の企業同士であっても同様に顧客本位を求められるようになってきたということなのです。
今回の三菱UFJ国際投信の動きは、将来の有形・無形の規制をもにらんだものです。
系列外での販売を増やすことにより顧客本位を徹底するとともに、商品開発にも活かす動きとなります。
そして、系列の販売会社での販売が減少することを見越し、落ち込みが想定される分を先手を打って直販という形でカバーしにいった動きだともいえます。
今回の投信会社のネット直販開始は上記のような背景があるのです。
決して単純なものではないということです。