「カカオショック」のリアルをガーナで体験した話
チョコレートバイヤーみりです。
今年に入ってからカカオがえらいことになってきました。業界がざわつく中。ガーナに行ってきました。今年2024年3月の話です。
「幸福(しあわせ)のチョコレート」のLOVE&THANKS基金でお世話になってるNPO法人ACE(エース)さんの活動や、サステイナブルカカオに対するいろいろな団体の活動を視察するためです。
その活動視察の間、今のカカオの現状をガーナで実感することになりました。
2024年1月からカカオの値段が高騰して、半年で価格が3倍になっています。まだまだ天井を知りません。
カカオが上がるカカオが上がる。
いや、カカオがない。ない。
どんどん業界があたふたしていく。そんな入口のタイミングでした。
ここ数年、おチョコさまをめぐるお仕事は大変でした。
コロナやロシアとウクライナの戦争でいろいろなことが分断し、世界が安全で平和でなければ、このグローバルな食べ物は存在しないんだと思い知らされました。
そして、今回のこの事態です。
人に伝えるための情報は簡素化されていくので、分かりやすくはなるのですが、どんどん現状とかけ離れていくように思います。
だから私も、これまで業界人として“知ってるつもり”の情報は、もっとシンプルなものでした。
しかし、実際のカカオの話は複雑で、説明してもし切れず。“また今回も伝わらないな…”という思いを何度もしています。
「えー、異常気象ですね」 それだけじゃなく…
「貧困が原因ですね」 私がそう言ったのかな…
シンプルな理由だったら、そのことにだけ立ち向かったらいいけど。話が複雑なため、残念ながらすぐには収まらないでしょう。
そして、このカカオショックを乗り越えたとき、チョコレートの歴史は何かが以前と違っている気がします。
チョコの歴史は約5,000年前に中南米からスタートし、ヨーロッパに運ばれ、ヨーロッパの王室から一般市民に渡り、技術改良や大量生産によって、みんなのおやつになりました。
みんなが大好きチョコレート! がぶがぶ、むしゃむしゃ食べてたチョコレート。
それを支えてたのはアフリカの農家さんです。
世界のカカオ生産の約60%を作っているのはコートジボワール、ガーナのアフリカ勢です。
カカオは育てるのも収穫するのも人の手間がかかります。私たちが安くチョコが食べられているのは、アフリカの農家さんが我慢してくれてる部分も多かった。ほかの農作物よりはるかに手間のかかるカカオの栽培。
「もーイヤ。お金にならないから」ってカカオ農業を離れる人が増えてきました。適正価格でなかったことがカカオ農家をどんどん少なくしていきました。
お金がないということで、新しい苗を買うことができませんでした。だから、気が付いたらカカオの木は老朽化して実を付けなくなっていました。
すると、ますます農家さんの収入は減っていきました。「この仕事は子どもには継がせたくない」と。カカオ農家さんの仕事へのモチベーションが下がってることは聞いていました。
お金がないのはカカオ農家さんだけではありませんでした。ガーナ政府は今デフォルト中です。国が借金を返済できなくなっています。カカオは国の主要産物なので、国が肥料や農薬を配るのですが、それも滞ってしまいました。
カカオが弱っていく中で、そこに来て、異常気象です。やっぱり異常気象はここでも容赦がありません。
ガーナの農家の女性は言ってました。変な時期に雨が降ってしまって、カカオが実を付けない。できても収穫量は3分の1だ、と。
一部でカカオが病気になっているという話も出てきました。
カカオには嫌な前例があるのです。
1980年代、世界のカカオ生産量の第2位はブラジルでした。それが、「天狗巣病」によって、一瞬で国の主要農産物が壊滅してしまいました。(それが農業テロだという噂があります。天狗巣病になったカカオの枝を吊るしたら一瞬で国中に広がった、と。労働問題が原因と言われています)
カカオはほんとうに病気に弱いので、消毒や農薬もある程度必要です。
それだけでない問題がまた出てきました。
ガーナの大地を車で走っていたら、急に景色がグランドキャニオンのように真っ赤な土がむき出しに。
なんだこれは?この景色は?
現地の人は実はこれが一番の問題ですと言っていました。日本ではあまり知られていませんが。
金の不法採掘です。
ガーナでは今、金が発見され、どんどん勝手にカカオの畑も山も伐採して採掘されてしまいました。
すごい面積ではげ山です。金山は危険な水銀を使うそうで、そこでの児童労働も新たな問題になっています。
さまざまな問題が吹き出し、世界の60%のアフリカのカカオが急激になくなってしまったので、“カカオショック”が起こっています。
カカオの関係者は言っていました。お金を出して買えるんだったらお金は出す。でも、カカオがない、と。
実はこうなるんじゃないかと、ずっと何年も前から警告は鳴っていたのです。このままではカカオ農家が持たないと。でもその警告音に慣れてしまった時、一気にやってきてしまいました。
先行き不安な話はいっぱいほかの業界にもあるはず。
しかし、ほんとに一気に来るんです。その現実を見たのが今回だと思います。
こわっ。
私はカカオの状況で実感しました。
すぐにカカオに変わる代替カカオが注目されました。イナゴマメ(キャロブ)という、味がカカオとほぼ同じ植物があって、カカオアレルギーの方の味方にはなってくれています。が、生産量を考えるとまったく代替にはならないでしょう。
もちろん、アジアや中南米の国々もカカオを作っていますが。それこそ、まだまだアフリカの穴を埋めるくらいの量は作れません。そして、世界の大手企業はアフリカのカカオに合わせたレシピですので、産地が変わればチョコの味は大きく変わるでしょう。
このカカオショックが収まった時。
アフリカのカカオがちゃんと立て直せるか。
あるいはほかの地域のカカオが主流になってるかも知れない。
でも、どちらにも言えることが
サステイナブルかどうか。
持続可能なカカオかどうか。
それが問われることになります。
もう二度とカカオショックを繰り返さないために。
その証拠に、今までも契約農家さんや自社農園栽培、フェアトレードカカオでチョコを作ってるショコラティエは同じ異常気象であっても、今回そんなにどたばたしてません。
「みりさん、チョコの値段下げましょうか?」とまで言って来られて……。余裕ってかっこいい。
やっぱりチョコは高くなってしまうかも知れないけど。
クッキーやナッツを多めにするとかかなぁ?
ただただ、あるだけ、食べたいだけ食べていたけど、これからはいろいろ工夫しながらチョコを楽しむ時代が来たんだと思います。
私はこれはチョコと私たちの大事なスタートだと思います。
カカオ農家さんに真剣に目を向け、カカオの環境に目を向け、サステイナブルかどうかを確認しながらチョコを食べる。
ガーナでチョコの歴史の1ページにほんとに立ち会ってる気がしました。
ガーナに住む日本人の方が言ってました。「ガーナの人は前向き。うらやましい。こんな風に生きたいと思うくらい」と。
大丈夫、きっとうまくいく。と私もなんか根拠ないけど大丈夫な気がする。
チョコの大事さを見直す元年、それが今なんだと思います。
それを踏まえて、おチョコさま、やっぱり神っ! おチョコさま永遠なれ!
以上、ガーナ現地を訪ねたチョコレートバイヤーみりが考えるカカオのお話でした。
これからこのことをみなさんと一緒に考え、行動していきたいと思います。
フェリシモ「幸福のチョコレート」は、すべてのチョコに約1%の基金を付けて販売し、約14年に渡ってガーナのカカオ農園での児童労働をなくす活動を支援していますが、あともう一歩先へ……!
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チョコレートバイヤーみり
フェリシモでのチョコレートバイヤー歴28年。「チョコで世界中を笑顔にしたい」と世界各国のショコラティエをめぐり、数々のレアチョコを発掘。これまでに訪ね歩いたショコラティエは34カ国約400件。約590ブランド・約2,900種類のチョコレートを輸入販売した実績を持ち、その中でも日本に初上陸させたチョコレートは329ブランド。チョコのストーリーを語らせたら止まりません! まだ知られていない素敵なチョコを紹介するため、今日も世界の果てまでチョコ探し!
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