今回の記事でご紹介するのは島崎藤村の小説『夜明け前』のあらすじです。
本作は近代日本文学を代表する小説の一つとして国内外で高い評価を受けており、主人公・青山半蔵のモデルは藤村の実父、島崎正樹とされています。
1953年には吉村公三郎監督が映画化を手がけました。
幕末・明治の宿場町を舞台にした重厚な群像劇は、文学史に偉大な金字塔を打ち立てました。
※本稿は作品のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。
『夜明け前』のあらすじ
主人公の青山 半蔵(あおやま はんぞう)は中山道(なかせんどう)の木曾馬籠宿(きそまごめしゅく)で生まれ育ちました。
ゆいしょ正しい本陣・庄屋の跡継ぎでもある彼は、平田派の国学に夢中になり、王政復古の思想を深く学ぶため、江戸で開塾していた平田 鉄胤(ひらた かねたね)の弟子となります。
平田の指導のもと勉学に励む半蔵ですが、家業を継ぐために故郷に戻らざるを得なくなり、断腸の思いで江戸を離れました。
昔のままで少しも発展がない藩体制と貧しい故郷に幻滅しました。
半蔵は皆が身分を問わず山林を使えれば生活が楽になると考え、伐採に制限を課す尾張藩(おわりはん)を批判しました。
大政奉還の噂が流れ始めると村人たちは「ええじゃないか」の音頭に合わせて踊り歩き、お祭り騒ぎの熱狂に包まれます。
中津川の友人から王政復古のしらせを聞いた半蔵は、一切を神の御心に委ねる恩師・平田の言葉を頭の中で繰り返し、自分にできることを模索し始めました。
その予想は裏切られ、大政奉還後の日本には欧米の価値観が流れ込み、凄まじい勢いで近代化がおし進められていきます。
追い討ちをかけるように村人たちが働く山林が藩に没収され、官有林に定められます。
生活が立ち往かなくなった平民に泣きつかれた半蔵は、尾張藩あてに異議申し立ての嘆願書を書いたものの、藩は半蔵を解雇して強引に事をおさめました。
失意のどん底の半蔵は、理不尽な縁談を苦にした娘・お粂の自殺未遂を知り、これからどうすればいいのか打ちひしがれます。
そんな時、明治天皇が行幸で馬籠宿に通りかかりました。
半蔵はこれを直訴の機会と見込み、扇子に憂国の短歌を書いて明治天皇に駆け寄りますが、護衛の役人に阻まれ罰金刑に処されます。
この事件以降、半蔵は村人たちに避けられ、天皇陛下に楯突いた厄介者として、馬籠宿での居場所を失ってしまいます。
求職のため江戸に旅立ったもののうまくいかず、屋敷に引きこもったのちは酒に溺れ、かつて栄えた青山家は衰退の一途をたどりました。
そして晩年、酒毒に侵された半蔵の被害妄想はエスカレート。
近所の寺に放火する事件を起こし、座敷牢に幽閉され……。