人間工学とは
人間工学の概説
人間工学は、エルゴノミクス(Ergonomics)やヒューマンファクター(Human Factors)とも呼ばれており、私たちの生活の中に定着しています。人間工学は、働きやすい職場や生活しやすい環境を実現し、安全で使いやすい道具や機械をつくることに役立つ実践的な科学技術です。
人間工学の起源は1850年代のヨーロッパに遡りますが(詳しくは[人間工学の歴史]を参照)、いまではアジア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、オセアニアなど多くの地域で人間工学は活用されています。
日本人間工学会は、1965年に国際人間工学連合(IEA) に加盟しました。IEAには、世界各地域から約50学会がメンバーとして参加しており、途上国支援をはじめとした人間工学を社会に役立てるための活動を行っています。
IEAでは人間工学を“システムにおける人間と他の要素との相互作用を科学的に理解する専門分野”と定義しています(下記)。
国際人間工学連合(IEA)による人間工学の定義
(The Discipline of Ergonomics)人間工学とは、システムにおける人間と他の要素とのインタラクションを理解するための科学的学問であり、ウェルビーイングとシステム全体のパフォーマンスとの最適化を図るため、理論・原則・データおよび手法を設計に適用する専門分野である(2021.9.15,国際協力委員会試訳)
(Ergonomics (or Human Factors) is the scientific discipline concerned with the understanding of the interactions among humans and other element of a system, and the profession that applies theory, principles, data and methods to design in order to optimize human well-being and overall system performance.
人間中心設計原理(ISO11064-1(JIS Z8503-1)
「人間工学-コントロールセンターの設計
-第1部:コントロールセンターの設計原則」より一部抜粋)
人間は、例えば単調・繰り返しの作業は苦手ですし、重量物を頻繁に持ち上げたりすることも得意ではありません。一方で、コンピュータは膨大な演算処理は得意ですが、状況判断に応じた意思決定や課題解決、創造的な仕事はコンピュータ自身では行うことはできません。このように、人間には人間が得意とする能力、機械が得意とする能力があります。人間の身体的・認知的・精神的特性を理解し、人間とシステム要素を等距離に捉え、仕事、機械・道具、環境、組織、社会システム、組織文化との相互作用の適正化を図る実践科学が人間工学といえます(右図)。そのために必要となる人間工学の理論・原則、各種データや設計・評価手法など、学際領域にわたる学術成果と実践活動を人間工学は対象としています。まさに、人々の安全・安心・快適・健康の保持・向上に貢献する実践科学であり、安全で安心できる健康な社会を実現するために、人間工学は役立ちます。