服部 哲弥 - 教員インタビュー - 慶應経済について - 慶應義塾大学経済学部・大学院経済学研究科
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教員インタビュー
服部 哲弥 写真1

教授 服部 哲弥
確率論,数理物理学

研究者という生き方のいくつかの側面

人類の知恵の最先端を勉強すること,それがそのまま社会参加になっていることが,社会的立場として見たときの研究者の特典と思います.人という生物の種が世界をどのように理解するかということには,人類の発展段階という時代の制約もあるので,現在の最先端は人類が種として滅亡する前に最終的に達する世界についての理解よりは解像度の小さい貧弱な水準でしょうが,それでも多くのことを勉強できたと思います.

人工知能研究の行き詰まりなどを見て育った世代なので,人の情報処理能力が人の理解を超える深遠な現象か否か,なかなか予想できませんでしたが,今となっては前世紀の計算機が貧弱だっただけでした.現在では開発者が見通してない出力という意味で,人の特徴とされてきた種々の知的能力が計算機も肩を並べあるいは凌駕しているので,人の知性やものごとを理解する力も人に理解可能な現象の範囲にすぎないことが見えてきたと感じます.

生物の中で格段に優れてもいない肉体的な限界をものともせず,はるかに大きな力を有史以前から次第に手なずけてきたように,仮に人の生身の知的限界が人類の優越感をくすぐる水準に比べて小さいとしても,たとえば計算機をあやつることで,将来の世代にも知的な進歩と勉強や研究の楽しみが続くと思います.理解ということの意味合いは変わるでしょうから,楽しみ方も社会参加としての研究者の意味も変わるでしょうけれども.

個人的には貯金の取り崩し生活の開始に合わせて日本社会はデフレが終わるらしいので,蓄えがなくなるのに合わせて人生から退場するという,経済学の大学初級の教科書にありそうな「わかりやすい設定」がそのまま実現しそうです.もう少し精密に考えると,余命の分布が短いほうに裾の厚い年齢に入ったので,高い確率で使い残す将来設計で倹約しないといけません.余命のような,将来設計の際にだいじなことがわからないのは,そのほうが人類の進化で有利だからでしょうか.それとも将来設計という問題の立て方が悪いのでしょうか.

生活における定年の不連続性は明らかですが,さいわい科学研究費が定年後も4年間あります.金額的には研究費などという贅沢な呼び名は誤解を招きますが,審査採択という形で近接分野の匿名の研究者諸氏がチャンスをくださったことが本質と心得ています.社会の中で居場所を確保すべき若い研究者には勧めにくい,流行から遠い題材を引き続き全力で探します.もっとも,この記事執筆時点では制度的理由で科研費継続が未確定です.ここでも将来についてだいじなことがわからないのは,そのような社会のほうが安定だからでしょうか.それとも問題の立て方が悪いのでしょうか.

幼少期には研究内容は理解できないので,わかりやすい名誉やご褒美は,分野への勧誘に有効でしょう.しかし,研究に限らずですが,成功した人の周囲にいる無名のどなたかの大きな負担といった,釣り合いが取れていない話を長じて聞くようになると,若い頃の夢や憧れは「わかりやすい設定」に過ぎなかったと気付かされます.研究者という生き方もまた,個人の側面も社会の側面も,将来についてだいじなことがわからない,変化するもののようです.

プロフィール

服部 哲弥 写真2

1980年

東京大学理学部卒業

1982年

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了

1985年

東京大学大学院理学系研究科博士課程修了 理学博士

学習院大学理学部,宇都宮大学工学部,立教大学理学部,名古屋大学大学院多元数理科学研究科,東北大学大学院理学研究科を経て2009年より現職

※プロフィール・職位は取材当時のものです

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