辻村 和佑 - 教員インタビュー - 慶應経済について - 慶應義塾大学経済学部・大学院経済学研究科
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教員インタビュー
辻村 和佑 写真1

教授 辻村 和佑
経済統計
資金循環分析
金融政策

慶應義塾に感謝を込めて

私は1979年に、慶應義塾大学経済学部に助手として採用されました。まだ採用が決まって間もない頃、偶然に研究室棟の入口でお会いした当時の経済学部長、大熊一郎先生に初めてお声をかけていただきました。「学部長室へ行こう」ということでしたので、当然に経済学部長室だと思っていたところ、大熊先生がノックされたのは小島三郎先生が学部長をされていた商学部長室でした。実は私は義塾の商学部の出身で、初めて経済学部に教員として採用されたという経歴です。当時の商学部は幅広い分野の教育を特徴としていて、私自身も経済学系の科目はもちろん、経営学や会計学、そして民法・商法に至るまで、多彩な授業を履修していました。大熊・小島両学部長からは、狭い経済学という領域にとらわれず、この幅広さを生かした研究をするようにとのアドバイスをいただきました。このことを、お世話になっていた小尾恵一郎先生と尾崎巌先生にお話ししたところ、当時注目を集めていた資金循環分析の研究をしてはというご示唆をいただきました。この分野の義塾の先達には、経済学部の浜田文雅先生、商学部の井原哲夫先生があり、両先生の研究は世界的にも、きわめて水準の高いものでした。

この後、1983年から85年まで、義塾の福澤基金でオックスフォード大学への留学の機会を得ます。この出発直前に、名誉教授をされていた寺尾琢磨先生にご挨拶に伺ったところ、ご自身がドイツ・フランスに留学された経験を踏まえて、「学問を学ぶことはもとより大事だが、その学問を生み出した、文化的・社会的背景を学ぶことこそが、留学の真の目的である」という、お言葉をいただきました。これがきっかけとなり、留学計画を一から見直すことにしました。幸いなことに、当時LSEの教授をされていた森嶋通夫先生から、Wilson Reportの主要著者であるAndrew Graham教授をご紹介いただき、英国の金融制度を勉強することにしたのです。Graham先生からは、ケインズの貨幣論や北欧学派の理論など、いろいろ幅広く教えていただくことができました。それだけでなく、「金融の根幹は債権債務であり、これを真に理解するためにはローマ法を勉強する必要がある」とのアドバイスをいただき、Barry Nicholas教授のローマ法の授業を2年間聴講する機会を得たのも、大きな収穫です。しかしながら、これらの高度な知識は、一夜にして身につくはずもなく、留学の成果を『資産価格と経済政策』(東洋経済新報社)として出版できたのは、ようやく1998年のことでした。

ちょうどこの頃、経済学部長をされていた飯田裕康先生から、文部省(当時)学術教育データベースの資金を利用して、資金循環統計の整備と分析手法の開発をしてはという助言をいただきます。運よく、この申請は1999年に受理され、東洋経済新報社のご協力も得て、慶應義塾大学産業研究所に資金循環分析プロジェクトを立ち上げることができました。当初は日本銀行が作成した1954~1999年の資金循環統計を多部門化するという作業をしていましたが、2001年に日本銀行が世界に先駆けて量的緩和政策を導入したことから、資金循環統計をこの分野に応用するという研究を、同時並行で開始することになります。この研究は、量的緩和政策を理論的かつ定量的に分析した最初の論文として、2003年にEconomic Systems Research誌に掲載されたほか、欧米7か国で発表の機会が与えられました。日本銀行が発表している資金循環統計を利用したこの分析は、公開市場操作のオペ対象ごとに、その効果を分析できる点で、高い評価を受けましたが、その分析の及ぶ範囲が金融市場のみである点では不十分との指摘をいただきました。この点を改良して、実物経済への影響をも分析できるようにしたのが、2018年に同じESR誌に掲載された “A Flow of Funds Analysis of the U.S. Quantitative Easing” で、資金循環分析の名称の通り、家計・企業・政府といった制度部門間の資金の授受を描いています。この論文は、もちろん過去十数年の研究の成果なのですが、執筆にあたっては長年担当した「資金循環分析」はもちろん、晩年に担当させていただいた法科大学院の「金融論」など、義塾での授業の経験が大きく生かされています。量的緩和政策への移行前までは「資金循環分析」の授業で、日々の資金需給と金融市場調節の話をよくしていました。また古代ローマに遡る純粋信用経済における資金の貸借契約であるcreditumに関しては、「金融論」の授業での履修者の皆さんとの議論の成果がいかんなく発揮されています。義塾在任最後の年に、この論文が発表できたのは、決して偶然とは思われません。貴重なアドバイスをいただいた先生方、また良き討論相手になってくれた学生諸君に、心からの感謝を込めて、退任のご挨拶をさせていただきます。

(2018年12月取材)

プロフィール

辻村 和佑 写真2
                  

1976年

慶應義塾大学商学部卒業

1978年

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程学位取得修了

1981年

慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得終了

2009年

慶應義塾大学より博士(商学)学位取得

1979年~
1985年

慶應義塾大学経済学部助手

1985年~
1997年

慶應義塾大学経済学部助教授

1997年~
2019年

慶應義塾大学経済学部教授

※プロフィール・職位は取材当時のものです

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