教授
井手 英策
財政社会学
過去に学び、いまを見定め、未来の選択肢を作るための社会科学
研究テーマとその出会い
僕は、学部、大学院で財政学を学んでいました。でも、必ず原則論から入る教科書に何となく物足りなさを感じていました。そんなときに出会ったのがJ.シュンペーターの「租税国家の危機」という本です。財政危機と社会の大きな変動とを結びつけて歴史の変化を解き明かす「財政社会学」の存在を知り、僕はすっかり魅了されてしまいました。
研究テーマの魅力、面白さ
たとえば、日本の財政は危機的な状況にあるといわれますよね。実際、先進国最大の政府債務を抱えています。ですが、財政学の教科書を読んでも、支出を減らすこと、収入を増やすこと以外の解決方法はなかなか浮かんできません。
発想を変えてみましょう。貧しい人たちが受益者になっている日本のような財政のもとでは、取られっぱなしの中間層や富裕層が増税に反対するかもしれません。これを租税抵抗といいます。もしそうだとすれば、支出を削るのではなく、租税抵抗を緩和するための新しい支出の方法を考えなければいけません。つまり、「支出の削減」が財政赤字の「原因」になっているかもしれないということです。これが人間の目線をくわえた財政社会学の発想です。
学生へのメッセージ
誰もがよりよい未来を願います。でも、未来を変えるためには、まず「いま」を変えなければいけません。社会はさまざまな価値、さまざまな思想から成り立っています。この複雑な社会を変えることは決して簡単なことではありません。だから、自分の身近な世界を、いまこの瞬間に、少しだけでいいから変える勇気を持ってほしいと思います。
ですが、気をつけてください。そのわずかな変化は、どちらの方向への変化なのでしょう。そのちょっとした違いで何十年後かの未来は正反対のものになるかもしれません。みなさんが後悔のない方向へと進めるよう、多くの人たちの考えやありうる反論を知り、学び、考え抜くこと、それが「社会科学」のひとつである経済学を学ぶ意味だと僕は思います。
(2017年1月取材)
プロフィール
1995年 |
東京大学経済学部卒業 |
2000年 |
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学 |
2009年 |
慶應義塾大学准教授。2013年より現職 |
2015年 |
第15回大佛次郎論壇賞受賞 |
※プロフィール・職位は取材当時のものです |