東京から約290キロ離れた南の島、八丈島。東京から船に揺られて一夜を明かし、やっと到着するほど遠い。
しかし、この八丈島に行ったとき、不思議に思ったことがある。
チェーン店などほとんどないこの島に、「全日食チェーン」なるスーパーマーケットがあちこちにあるのだ。数えると、なんと4軒も存在した。
しかしフランチャイズのように画一的ではなく、それぞれの店は別に屋号を持っていて、独立している。
それでいて、値段も離島にしてはかなり頑張っていた。
さらに、八丈島ならではの海産物や特産物も豊富に置いている。
いったい、この全日食チェーンとは何なのか? 調べてみると、伊豆七島のうち6島も店がある。チェーン店が出店しても割に合わないとされる離島において、驚異的だ。
奄美大島はもちろん、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島などにも店がたくさん。さらには台湾との国境に近い西表島にまで店舗が2軒もあるという。
ますます、この「全日食チェーン」への興味が湧いてきた筆者は、東京都足立区にある本部へやってきた。
出迎えてくれたのは、全日本食品株式会社のIT·マーケティング本部副本部長の見村圭美さん、管理本部総務部部長の須藤靖雄さん、関東支社RS部東京担当主任の石井健介さんだ。
屋号がバラバラなのは「ボランタリーチェーン」だから
「全日食チェーンは、いったいどんなチェーンなんでしょうか?」
「簡単に言えば、地域のお店を支えるチェーンです。出資金を払って各地区の協同組合に加盟していただければ、小さなお店でも大手に負けません。1600店舗分の数をまとめることでのコストを抑えた仕入れや、小規模店では難しい設備やサービス、ノウハウが使えます」
「全日食の看板は同じものの、それとは別で個々の看板もあって、屋号がバラバラだったんですが……?」
「それは『ボランタリーチェーン』だからです。あくまでも主体はお店側で、私たちが行うのはそのサポートですから」
加盟店は全国に12ある全日食が運営する協同組合に入り出資することで、事業活動のサポートを受けられる。フランチャイズとは違うボランタリーチェーンのシステム
「大手は軒並みフランチャイズチェーンですが、主体がお店にあるボランタリーチェーンなら、『自分オリジナルの店』として大手と戦えるんですね。フランチャイズのコンビニのように、店の利益に比例して払う『ロイヤリティ』はありますか?」
「全日食は商品の供給とシステムや物流のサービス提供と経営・販売支援がメイン業務でして、ロイヤリティはいただきません」
「最初に払う分、稼いだだけ利益は自店に返ってくるんですね。そんな全日食チェーンは、いつ始まったんですか?」
「『ヨーカ堂(現:イトーヨーカドー)』さんが千住にできたことがきっかけです。大型安売りスーパーとして脅威の存在でしたので、対抗すべく27の中小の小売商が集まって設立されました」
福井県民に愛されるフード系コンビニ「オレンジBOX」。2024年9月に全日食チェーンへの加盟を発表し、約4,500商品の多くが平均15~20%の値下げ(Photo by SONIC BLOOMING)
離島支援は「実は採算が取れる」
「全日食チェーンはどのように離島へ物を持っていくんですか?」
「伊豆七島の場合は東京の竹芝か芝浦の港に商品を持っていき、東海汽船の客船と一緒に島へ届けます。港からは島の運送会社さんを経由して各店舗に配送します」
「離島にはるばる出ていって、採算は取れるものなんですか?」
「実はちゃんと採算が取れています」
「ええ?」
「全日食の仕組みをそのまま離島へしっかり展開すると地域の一、二番店になることもありますから。とても仕入れが多くなりますし、まとめて一括でトラック輸送もできますので」
東京の式根島にある「ファミリーストアみやとら」。魚のたたきを使ったたこ焼きのような「たたき丸」が名物
「意外だ……!」
「ただし、離島の場合は梱包の手間がかかるし、スーパーバイザーが離島に行くときの費用もかかります。島によってはオーナーさんが港まで商品を取りに行く必要もありますし、お店側で輸送コスト分を価格に少し転嫁せねばならない部分もありますね。それでも収益は確保できているお店も多いと思います」
「すごい……! 北海道を支えるセイコーマートさんも同じくへき地や離島にお店を出していて、『そこはトントンでよくて、全体で利益を出せばいい』という考え方らしいんですが、ある種それを超えるかも……?」
「はい、うちも全国津々浦々の加盟店さんや地域のお客様の生活を支えるやりがいを感じています」
限界集落を救うマイクロスーパー
「限界集落にも出店して、しかも経営を軌道に乗せているそうですが……!?」
「はい、例えば島根県雲南市で、人口300人に満たない波多地区にある『はたマーケット』では……
・コミュニティ協議会に施設を提供していただく
・品出しを自治体に受け持ってもらう
・協議会の方にレジ業務を兼務してもらう
という工夫をして、営業的にも成り立っています。諸々の調整で開店まで4年かかりましたが」
「持続可能な協力と、たくさんの調整を経て生まれたわけですね。普通の全国チェーンじゃマネできません」
「収益が維持できるところであれば、自治体さんなどと一緒にやらせていただきたいです。また、納品も1品あたりをまとめて発注してくだされば、少量でも配送できます」
「なぜ可能なんですか?」
「本部は物流が維持できる範囲内のコスト意識でやっていますから。大量の単一仕入れ単位だと、小規模なお店はパンクしてしまうので」
全日食のSNSが面白いぞ
「あと、SNSでの店舗紹介の充実ぶりがすごいんですが……!?」
「全日食チェーン加盟店は個性がありますし、また、小型店やご高齢の方のお店は自分から発信が難しいこともありますので。代わりに加盟店さんの良いところや注目ポイントなどを本部の公式SNSで紹介しています」
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写真をスワイプするたびに食べたくなる、公式インスタ。この記事の前後にある紹介画像もインスタからのもの
「他人視点で紹介しているから、見やすい部分もありますし」
「普段、密に接しているスーパーバイザーがお店に出向いたときに取材したり、公式アカウントの担当社員が何度もやり取りをしてSNSに載せています」
「個人的におすすめの加盟店さんも伺えますか?」
「私が転勤時に担当していた北海道釧路市の『あいちょう』さんは、釧路市内で一番古いスーパーマーケット。北海道ならではの魚など、生鮮食品の売り出しがすごいですね。『釧路のさかなクン』が大活躍です」
「他にも、田舎の方の加盟店さんは特色があって面白いですよ。洋服のクローゼットのように魚を陳列するお店もあります」
岩手県宮古市のスーパーマーケット玉木屋。毎日並ぶ魚が違う鮮魚・珍魚であふれる
「今X(旧Twitter)で『セイコーマート全部行く』というアカウントがバズっているんですけど、『全日食チェーン全部行く』っていうアカウントができたらとんでもないことになりそうですね?」
「実はSNSでそういう企画を考えてはいるのですが……ただ1600店舗ですから、全国でやるのは厳しいと正直思っていて、お遍路を回るより大変なはずです。お店に行く公共交通手段がないことも多々ありますから」
加盟店同士で仲間になって生き残る
「全日食と加盟店さん同士がつながるオーナー会があるそうですが、どんなことを語り合うんですか?」
「チェーン施策や運営に関わる伝達事項や実績共有、今売れている商品や各地区の販促企画から、地域により台風など災害に対する情報交換まで行います。オーナー会の中でのグループLINEもあり、プライベートのことも含めて密にやり取りされています」
「独立店だからこそ話し相手は重要ですね」
「仲間と一緒に戦って生き残るわけです」
佐賀県東松浦郡玄海町の「ファミリーショップやまぐち」の手書きポップ。他の全日食加盟店にも共有する
「加盟店さんで一緒になって、スタンプラリーなどのイベントをやっているとも聞きます」
「はい、共同チラシを地域のお店で集まってやるとか、加盟店さんも会合で企画を提案できます。九州で北海道フェアをやったり、逆に北海道で九州フェアをしたりしていますよ」
「共同仕入れできるから、持っていきやすいですもんね」
「やっぱり遠い地域の食べ物って魅力的みたいで。北海道フェアは九州が一番反応はいいんですよね」
個人店の魅力と生き残る道
「大きい資本がさらに大きくなって、個人店が生き残るのが難しい時代です。その救世主的な存在である全日食チェーンは、これからをどう生き抜いていくのか、教えていただければ」
「個性を殺さずに生かしつつ、それでいてチェーンとして、加盟店さんの横の繋がりでより一層密にまとまることで、生き残る道はあると思います」
「イオンも便利ですけど、全部イオン系になるのも味気ないですからね」
「国語の教科書にも載っていた「スイミー」が全日食チェーンを表しているなって。1匹では小さい小魚でも、集まれば大きい魚に負けない」
「ちなみに全日食の平野社長が言うに、食品スーパー業界は『年商100億円以下の店の経営が厳しく、身売りか廃業するか』らしいですが……?」
「はい、今はますます厳しい状況です。ただ全日食チェーンで補えるものは多いですし、適度な大きさで、安定的に供給できる体制を作るのもこれからの生き残る道だと思います」
「大きなショッピングセンターがあっても、たどり着くために何十キロもあったら、免許返納しちゃった人はなかなか通えませんもんね」
中には移動販売まで行う加盟店も。愛知県豊橋市のスーパーよしかね
「最後に。加盟店さんたちと付き合っていて、うれしかったことは何ですか」
「私が転勤先の中京営業所から本社に戻ることになった際、加盟店のスタッフさんがご家族全員で見送ってくれたことです」
「おお……! 人生のハイライトになりそう」
「他にも、店に行くと『ごはん食べてきな』とはよく言っていただけます。『食べられてるの?』って、親みたいに心配してくださいますし」
「アットホームすぎますね! 実際に食べたことはあるんですか?」
「もはや、お店を回る社員の多くは加盟店さんのおうちでごはんをごちそうになっているかもしれません。お腹いっぱいだから結構ですって言っているのに、延々と料理が出てくることもあるとか……」
「実家がいろいろなところにできるぐらいの感じですね。そこにも小規模店の魅力が垣間見えます」
「お店の惣菜を手土産に持たせてもくれますし、今でも果物を送ってくださることもあります。何より、その気持ちがうれしいですね」
伊豆諸島の三宅島にある正大ストア。地元で作る野菜やパンなどを生産者に持ち込んでもらい営業する
「どの会社にもあるように泥臭くてつらい部分もありますけど」とも包み隠さず話していた見村さん。
大きいものがさらに大きくなり、小さいものが苦しむ。その流れは小売業においても顕著ですが、小さいものゆえの魅力を伝え、事業の継続を支える全日食チェーンの取り組みは、「ちょっと応援したくなる」ものでした。
☆そんな全日本食品では、レジスタッフや倉庫内の仕分けスタッフ、フォークリフトオペレーターなど様々な職種でスタッフ募集中です!
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この記事を書いたライター
卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。