こんにちは! 社領エミです。
『働き方』について様々な人が意見を交わし合うようになった昨今、こんな言葉をよく耳にしませんか?
「アメリカは有給消化率100%らしいよ! それに比べて、日本はさぁ……」
「アメリカって女性でもバリバリ働いて重役になれちゃうらしいよ! それに比べて、日本はさぁ……」
「アメリカって組織の風通しが良いから、誰もが正直に意見を交わせるらしいよ! それに比べて、日本はさぁ……」
「アメリカに比べて、日本はさぁ〜……」
「アメリカに比べて、日本はさぁ〜……」
「アメリカに比べて、日本はさぁ〜……」
うるせ〜〜〜〜〜!!!!!
そもそも、有給全部取れるって本当の話?
女性でもバリバリ働けるの?
上司と正直に意見交わせるって、さすがにウソなんじゃ……?
というわけで、アメリカの働き方の実情ついて、実際に就労経験がある人に聞いてみることにしました!
Aさん(左)
日本の会社のアメリカ法人立ち上げで2年間アメリカで働いた後、シンガポールとアメリカの会社の日本法人立ち上げに関わる。今回は匿名での参加をご希望とのこと。
小野寺 聡さん(右)
2016年春から2017年秋まで、アメリカ・ロサンゼルスにIT系の管理職として赴任。現在は独立し、日本とアメリカを行き来している。
※今回の記事はあくまでお二人が経験した範囲内のお話です
アメリカは「フェア」
「こんにちは、今日は『アメリカの働き方』について聞きに来ました! さっそくですが、twitterや 安いBARなんかでよく出回っている『アメリカの働き方は最高!』という説、あれって本当なんですか~!?」
「ある意味では本当ですね」
「えー! 本当なんですか!? アメリカって本当に働きやすいんだ……!?」
「でも、そういう『働きやすい会社』って、アメリカの中でも良い会社に限った話だと思いますよ」
「ですね。あと、アメリカの社会には、良い面もあれば、悪い面もちゃんとあります」
「悪い面というと?」
「アメリカ社会の大きな特徴として、とにかく『フェア』であることが挙げられます。働いた人にはその分ちゃんと払うし、無駄な残業をせずに帰れる雰囲気もある」
「えっ、それって悪い面なんですか……? むしろ良い面なのでは?」
「フェアっていうのは、仕事ができる人には優しい反面、できない人にはとことん厳しいって意味なんです。例えば……会社に合わない人は、上司の一存で即日クビにできます」
「……え? えぇ~~~!!?」
「なんですかそれ!? えっ、急に『今日から来なくていいよ』ってクビにされるってこと……!?」
「はい。基本的に、クビは当日に通告されます。アメリカでは、法律的に”クビにするのに明確な理由が要らない”ので、上司に『コイツ会社に合わないな~』と思われただけで、その日のうちにクビになったりします」
「なので、多くのアメリカの社会人は、上司にめちゃめちゃゴマをすります」
「全然 風通しよくないじゃん!」
「ある日突然、『あれ? 会社のシステムにログインできないぞ』と思ったら、上の人に呼ばれて『もう来なくていいです、荷物まとめて出てってね』って急にクビになる……ってことがよくありますからね。怖いですよ!」
「そんなの、怖すぎて私なら一生ペコペコしそうです。日本だとせめて一ヶ月前には教えてくれると思うんですが……」
「なぜ当日のクビ通告が多いかというと、辞めるまでに猶予があると、データを抜き取られたり悪用されたりする恐れがあるからなんです」
「あと、アメリカ人に一ヶ月の猶予を与えちゃうと、一ヶ月間仕事しないと思います(笑)。辞めると決まった状態で会社に貢献するのは、メリットがないので」
「会社も社員もドライすぎる。アメリカだと、クビってそんなに当たり前なんですか?」
「わかりやすい例として……そうですね、例えば営業10人・マーケター2人の会社があったとします。ところが、会社の方針として『マーケティングだけに注力しよう!』ということになった。さて、どう対処するかというと……」
「日本だと、『営業にマーケティングの勉強をさせる』が一般的なんですかね。まさかアメリカでは……」
「営業8人をクビにします」
「ひ、ひええ〜! ということはもしかして、アメリカには『窓際族』が居ない……?」
「絶対いませんね」
「で、でも〜! 窓際族の中に、昔すごく頑張って会社に貢献した人がいたとしたらどうですか? 今の会社があるのはその人のおかげかも……」
「過去に貢献してくれた人だとしても、いま仕事をしないなら、会社にいる意味がないという考え方です。そのかわり、過去に貢献した人には、その当時にきっちり大きな報酬を払っているはず。そういう社会なんです」
「会社としてはかなり合理的だけど、なんか……情はゼロですね!」
「厳しいように見えますが、『フェア』ってそういうことなんです」
雇われ側もフェアである
「たとえば、よく聞く『定時にちゃんと帰れる』っていうのは本当なんですか?」
「本当です。……が、イコール『仕事をしない』というわけでもないです。だいたい家に帰ってからも仕事してましたよ」
「帰ってからも仕事するんだ!」
「アメリカ人、めっちゃ仕事しますよ! 帰って家族でご飯を食べたりして、それから仕事の続きをします」
「あと、管理職とかアッパークラスの人は残業しますね。管理職になれるような人って、とことん仕事する人なので。つまり、仕事をする人が出世できる仕組みになってるんです」
「アメリカ人がそんなに働くとは……」
「全員が働きまくるわけではないですよ、自分に任された仕事以外はとことんやらないという人も多いです。一度、現地の部下に『もっと頑張ったら昇給するよ』と伝えた時、『昇給なんていいから早く帰らせてくれ』と言われたこともあります」
「なんか、両極端ですね」
「頑張る人はお金とか能力を発揮するために働くし、頑張らない人は家族との時間やゆとりのために働く。どちらにしても、会社に対する帰属意識やサービス精神は、あんまりないですね」
「そもそも、アメリカ社会全体に『意味なく頑張る』って概念がないです。仕事がないのに残業したりしないし、大雪だと絶対出社しない。停電したら即『仕事できないから帰りま~す!』ですよ」
「それに関しては羨ましいな。日本だと『意味がなくても頑張ってるフリをしなきゃいけない』っていう文化がありますよね、大雪だけど無理して出社して帰宅難民になったり」
「そうですね。アメリカでは有給も当たり前に消化できますし、権利を使わないまま失くす、ってことがありません。意味があるなら全力でやるし、意味がないなら絶対やらない」
「日本だと、正しい権利を使うことすら、いちいち苦労するんだよなぁ……」
まだまだある、アメリカのフェアな仕組み
「日本とアメリカの違いで言うと、アメリカでは交通費が基本的に出ない、というのがありますね。遠くに住むのは個人の勝手なので、それを会社がどうにかしてやる理由は無いっていう」
「ええ~!? でも会社って大体オフィス街にあるから、近くに住もうと思ったら家賃高いじゃないですか!」
「でも、ある二人の社員がまったく同じ能力だとして、住んでいる場所が違うからという理由で待遇を変えるのはおかしいじゃないですか。あと、法律的には育休もないです」
「なんっじゃそれ! 国は何してんの!」
「国としては、子供がいる・いないは個人の勝手じゃんって考えなんでしょうね。まあ、それもフェア……なんですかね」
「アメリカって働き手を守る法律があんまりないんですよ。大きい会社なら、育休などしっかり社員を守る制度を作れますが、中小企業は待遇が整ってないところも多いです」
「ただ、アメリカは性別や年齢に対してもフェアなので、老若男女問わず働きやすいですよ。会社の重役でも男女は関係ないですし、履歴書には年齢・性別・写真は掲載せず書類審査をします。差別はかなり厳しくバッシングされます」
「うーん……そういう意味ではフェアなほうが良いのか。難しいなぁ」
「あと、大きい会社なら育休もあるという話をしましたが、そういう会社では育休からの復帰もしやすいです。アメリカには専業主婦文化は残っておらず、共働きがスタンダードなので、女性が働くのは当たり前。すなわち、育休して復帰するのも当たり前なんですね」
「ブランクが空いても日本ほど問題視されませんし」
「は~。日本だと育休からの復帰が難しい会社も多いし、職歴に穴があるとなんだかんだ言われますよね。これは、羨ましいと感じる日本の女性は多そうだなぁ」
「フェアなことや合理的なことって、アメリカが色んな人種や民族で構成されてるからっていうのはありますか?」
「あるでしょうね。みんなが違って当たり前だと考えられている。だから、『部下を叱る』って文化もないんですよ。他人は変えられないから叱っても意味がないって思想が根っこにある。だからすぐクビにしちゃう」
「あと『育てる』ってこともないですよね。最初から出来ないやつには任せない。僕がいた会社の同僚なんかは、仕事で使うソフトの使い方をYoutubeで学んでました(笑)」
「日本の『教えて育てる』文化って、実はすごい優しいのか……!?」
「そうですね。自分で動いて勉強して努力するってことを、できる人とできない人がいますから。できない人にとっては、めちゃめちゃ良いシステムだと思いますよ」
アメリカのもうひとつの側面、「格差社会の地獄」とは
「ここまで聞いてしみじみ思うんですが、アメリカの働き方って……『仕事できる人にとっては天国』だけど、『仕事できない人にとっては超大変』じゃん……!」
「おっしゃる通りです。良い会社に入社できて、実力があって、すごいポストに就ける人にとっては、かなり良い社会だと思います。良い会社には良い保険があって、良い待遇が受けられますから」
「その反面、良い会社に入社できなかったら粗悪な保険にしか入れないし、失業したらマジで大変ですよ。しかもアメリカは最近まで国民保険がなく、民間しか保険がなかったので、保険に入ってない人も多かった」
「えー! 失業したら保険なしってこと? クビになったらやばいじゃないですか!」
「地獄ですよ。いまサンフランシスコでは、失業した路上生活者がものすごく多いんです。さらに言えば、アメリカは健康保険料も『フェア』なので、収入にかかわらず、年をとるにしたがって保険料だけは上がっていく。当然、払えない人も出てくる」
「じゃあ、お金がないまま年老いた人って……」
「病院には行けないですね」
「ひえ~~~! めちゃめちゃ格差社会じゃん!」
「実は、かなり前からそういった格差が問題になっていて。例えば教育。富裕層が集まる地域の高校は、寄付が集まるから良い教育を受けられ、良い大学に行けるんですが……」
「お金のない家庭の子どもは……?」
「そういう家庭が集まる地域は、寄付が集まらず国からの予算も少ないため、教員が減り、良い教育が受けられない。つまり良い大学へ行けない」
「そして、学歴社会であるアメリカは、卒業した大学によって入れる会社が決まるので……良い会社には入りにくい」
「つまり、生まれる場所によって人生に差がついてしまうんです。ここまでの話で、アメリカの働き方のことを色々言いましたよね。頑張ればフェアに給料が上がっていくという話もしました。でも、頑張ろうとしても最初から無理な子どもたちがいるんです」
「うわ〜……! 今 日本で盛り上がってる『アメリカの働き方最高!』って意見は、アメリカの陽の部分なのか……。 アメリカに比べると、日本ってかなり弱者が守られている社会なのでは……?」
「ほんっとそうですよ! 日本、良いところいっぱいありますよ!」
日本とアメリカ、結局どっちが最高なの?
「いやー、すごい勉強になりました。アメリカの良い面ばかりを見てしまっていましたが、思ったより根深い問題があったんですね……。そんなお二人にとって、アメリカで働いて良かったと思うのはどういった点でしょうか?」
「やっぱり国そのものかなぁ」
「国ですね。とても魅力的な国だと思います」
「結局、アメリカは良い国ってことか!」
「自由なんですよね。いろんな人がいるのが当たり前なので、誰が何してようと関係ないって空気がすごい良かったです」
「あと、みんなハッキリしてるから、仕事の進め方や給料の交渉はすごくスムーズに感じました。何より『断りやすい』のが良かった!『それはやりたくない』って伝えることは、当たり前のことだから」
「断るといえば、サービス残業とか飲み会とか?」
「めちゃめちゃカジュアルに断れます。飲み会に関しては、そもそもあんまりないし、行っても行かなくても特に何も言われません」
「『断りやすい』ってすごい良いな……。では対して、日本の良いところはどこだと思いますか?」
「治安がすごく良い。夜でも安心して歩けるって、実はものすごく素晴らしいことなんだけど、日本に住んでると当たり前だから、わかりにくいですよね」
「ご飯が安くて美味しいってことは、もっと誇っていいと思う」
「それはホントそう! 日本はご飯のレベルが高すぎる。なのに安い! この間ニューヨークでランチした時は、たいして美味しくないパスタが、2人分でチップ合わせて60ドルしましたからね」
※60ドル…2019年1月現在で約6,587円
「会社や働き方に関するものは何かありますか?」
「アメリカは優れた人はどんどん上に行けるけど、優れていなければ大変な生活を強いられる。対して、日本だと優れていなくてもある程度快適に生きていける。保険とか法律とかね。弱者が生きられる権利が守られていると感じます」
「どっちが自分に合うかっていうのは、人によるということですね。でも、『優秀』な人って、一握りしかいないからなぁ。ほとんどの人は『平均』……もしくはそれ以下なわけで。私は日本のシステムのほうが安心かも」
「仕事の面で言うと、会社で育ててもらえるっていう日本のやり方は、とても人間的だし、優れたシステムだと思います。アメリカには無いんじゃないかなぁ」
「……ん? じゃあもしかして、日本の会社で育ててもらって、実力をつけてからアメリカで働くのが一番良いのでは……?」
「それ、絶対いいと思います!」
「良いとこどりしちゃってください」
「わかりました! お二人とも、今日はたくさんお話をお聞かせ頂きありがとうございました!」
アメリカにも日本にも、良いところと悪いところがある!
いや〜〜〜! アメリカの働き方、めちゃめちゃ面白かったですね〜!
実力派社会なのも、ストレートな態度なのも、国民性が前面に表れているな〜と感じました。私もわりと、感情を隠すのが苦手だったり、上手いことやれないところがあるので、日本のみんながこれだけストレートだったらもっと過ごしやすいのかも……と思ったりもしたのでした。
とはいえ、アメリカめちゃめちゃ広いですから!
今回は西海岸・東海岸で働かれた方のご意見を伺いましたが、真ん中の陸地どんだけあるねんと! 今回取り上げられへんかったアメリカの話どんだけあるねんと!
アメリカの良いところだけ取り上げて「だから日本は……」となるのではなく、アメリカにも日本にも私たちが知らないいろんな面があって、それぞれ良いところ・悪いところがある……ってことを、しっかり覚えておきたいなぁと心にきざんだ次第であります。
とりあえず私は……アメリカは、旅行で十分かな〜!
社領エミでした。
※今回の記事はあくまでお二人が経験した範囲内のお話です
この記事を書いたライター
1990年生まれのアホなフリーライター。取っつきにくいことをわかりやすく噛み砕いたり、みんなが気になることをインタビューしたりしています。 HP|http://sharyoemi.hatenablog.com/