こんにちは! ライターの社領エミです。
みなさん、ひよこ鑑定士という職業をご存知ですか?
私もよくは知らないのですが、ひよこ鑑定士とはひよこのオスとメスを鑑別するお仕事だそう。
家畜である鶏は、オスとメスで違った育て方をするため、生まれたてのうちに雌雄を鑑別してよりわける必要があります。ですが、ひよこの見分け方って超難しい……!
その見分け方を熟知し、オスとメスを的確に鑑定してより分けるお仕事がひよこ鑑定士と呼ばれるらしいのです。
世の中にそんな仕事があったとは! と驚きなのですが、驚くべきはその収入!
一説では、弁護士より稼げるんだとか……!?
ま、マ〜〜〜ジで〜〜〜!?!?
ひよこのオスとメスを分けるだけで、弁護士より稼げる!? そんな素敵なコトってあるの……!?
誰か! この仕事の詳細を、詳しく教えてくれ〜!
というわけで一路、愛知県の高浜市へ!
今回お話をお伺いするのは、ひよこ鑑定士の神谷佳臣さん。ひよこを鑑別して25年のベテラン鑑定士さんです。
ひよこ鑑定士ってどんなお仕事なの?
本当に稼げるの……!?
『知られざるひよこ鑑定士の秘密』について、ジャンジャンお聞きしたいと思います!
「ひよこ鑑定士」って、どんなお仕事なんですか?
「神谷さん、今日はよろしくお願いします! ひよこ鑑定士ってどんなお仕事なんですか?」
「よろしくお願いします! そうですね、まず『ひよこ鑑定士』っていうのは間違った名称で、正しくは『初生ひな鑑別師』です。仕事の内容は、ひよこのオスとメスを分ける、ほとんどそれだけ」
「えー! ほんとにそれだけなんだ!」
「はい。卵をふ化させる『ふ化場』でオスとメスを鑑別します。ケースに入ったひよこさんが山盛りいるので、それをひたすら鑑別するという感じですね」
「結構シンプルな仕事ですね……! ひよこのオスとメスはどうやって見分けるんですか?」
「ああ。それはね、実物をお見せしますよ」
「え!? ひよこ、今日いるんですか!?」
「いますよ、ほら。名古屋コーチンの雛です」
▲ひよこさんだ〜〜〜!!
「うおお、ひよこだ〜〜〜!!! 生のひよこなんて初めて見ました! めちゃめちゃ動く!! ピヨピヨ鳴いてる!!」
▲寄り添ってうとうとしてるヒヨコちゃんもいます……。可愛すぎるやろ!!
▲ひよこが入っているケース、よく見たら「ヒヨコ」と書いてあります。ふ化場にはひよこが沢山詰まったこのケースが山積みだそう。
「鑑別方法は鶏の種類によっても変わってくるんですが、僕たちは主に肛門鑑別という手法を使っています」
「こ、肛門……!? ひよこさんの!?」
「そうです。ひよこさんのお尻の穴を見て、その形でオスかメスかを判断するんです」
▲えんぴつで指した先、赤い粒がひよこの肛門です。直径2〜3ミリくらいで、めちゃめちゃ小さい!
「こいつはオスですね」
「わー、突起があるんですね!なるほど、オスの肛門はこんな感じなのか」
「はい。で、メスはこんな感じ」
「……一緒ちゃいます!?」
「いやいや、結構違いますよ! オスの突起はほら、光沢があって、芯が中に一本入ってる感じがするでしょう。メスの突起は細長くて、赤みがぼやける感じというか……」
「さっぱりわからない……! 鑑別、めちゃめちゃ難しいじゃないですか!!」
「これを実際に鑑別していくと、こんな感じですね」
「早すぎるでしょ〜〜〜!!」
「一般的なひよこの鑑別なら、1時間に1000羽以上、だいたい3.5秒に1羽以上のペースで鑑別しています」
どうやって、ひな鑑別師になるの?
「ひな鑑別師って、どうやったらなれるんですか?」
「まず、『初生ひな鑑別師養成所』という学校に入って5ヶ月間勉強をします。それからふ化場で実践を積んで、試験を受けて、受かって初めて資格が取れる感じですね。全部で1〜2年くらいかな」
「鑑別師を育てる学校があるんだ!」
「はい、小さな学校ですけどね。助成金の問題で、年間数人しか受からないんです」
「狭き門なんですねぇ」
ひな鑑別師が儲かるって本当!?
「さて神谷さん、今回一番聞きたい質問なんですが……。
ひな鑑別師って、めちゃめちゃ儲かるんですよね〜!? 一説によると弁護士より儲かるとのことですが、実際どうなんでしょう!?」
「……それよく言われるけど、嘘なんだよなぁ……」
「嘘!?」
▲嘘なの〜!?
「いや、昔はわりと本当だったんですよ! 実際、僕の親の代とかは半年で家が一軒建つくらい儲けてましたし」
「いや、大富豪じゃないですか!」
「そうなんです、でも僕らは全然。今は月に平均7日間働いて、収入は平均20万円くらいです」
「なるほど……って、月に7日? それって、単純にもっと働けばいいって話じゃなくて?」
「いやそれが、中部地方のひよこ鑑別師の仕事がどんどん減ってきてるんですよ。 そもそも鑑別師って『ふ化場の都合に合わせて仕事が来る』っていう他力本願な職業なので、自分から仕事を増やすこともできなくて。僕は別で本業があるので、そこまで困ってはないですが……。
ただこの仕事、働く場所によっては全然稼げると思います。 国内だと岡山なんかは養鶏が盛んですし、ニュージーランドは世界で一番鑑別師が儲かりますよ!」
「え!? 海外でも働けるんですか!?」
「もちろんですよ。ひな鑑別師の需要は、基本的に海外にあるんです。僕は20代の頃、イタリアで4年、ドイツで3年働いてました」
海外でのひよこ鑑別師のお仕事
「ナポリで働いてた時は楽しかったですよ! よく晴れてるし、食べ物も美味しいし!」
「へ〜……! 神谷さんが、ナポリ……!」
▲そう言われれば、ピッツェリアのシェフっぽさも感じるぞ!
「特にヨーロッパなんかは、農業先進国が多いからね。日本人のひよこ鑑別師が重宝されるんですよ」
「知らなかった……。しかし、どうしてわざわざ日本人の鑑別師が必要なんでしょうか? 海外に鑑別師っていないんですか?」
「というよりも、アジア人が必要とされてるかな。単純に欧米人は手が大きいからひよこ鑑別師になれないんですよ。手とひよこのサイズが合わない」
「そうなの!?」
「実は、ひよこ鑑別師にとって『手が大きい』っていうのはかなりのデメリットなんです。大きいだけで作業のしやすさが全然変わってくるので。日本人でも、手が大きい方には不向きな職業ですね」
▲神谷さんの鑑別の様子。確かに、神谷さんの手は小さくてひよこの収まりがいい!
「ちなみに、海外ではお幾らくらい儲かったんでしょうか?」
「当時は遊ぶのに忙しくて、考えたこともないんですよね……。生活するのに困らないくらいは十分もらっていましたけど」
「そんなもんなんですねぇ。親世代とのギャップがすごい……!」
「というか、うちらの親の世代は強烈に円安だったから儲かったんですよ。僕の代はちょうど、バブルが弾けてドカンと円高になった時期だから……」
「そうか。海外だから、経済の状況によって儲かるかどうかが変わるんだ」
「ただ、それとは関係なしに、海外での暮らしはすごく楽しかったですよ。シーズン中は物凄く忙しくて、ふ化場に20時間こもって2万羽のひよこを鑑別し続ける……みたいなヤバイ仕事もあったんですけど」
「に、2万羽!? え〜!? 想像がつかん!」
「今はそんな仕事ないと思いますけど(笑)、 当時のイタリアは失業率が高かったから、雇い手が強くて。
でもイタリアって、夏と冬に1ヶ月半ずつバカンスを取るんです。そのために一生懸命頑張ってましたね。バカンスになったら、イタリア人たちのツアーに混じって旅行したりして……楽しかったですよ。一生に残る思い出です!」
高齢化が進むひよこ鑑別師
「ただ、今は鑑別師のなり手が少ないのが現状で……。高齢化が進んでて、養成所もどんどん縮小してくから、面白い職業なのにもったいないなぁと思いますね」
「そうなんだ……。私自身、この職業があること自体全然知らなかったので、みんなに知られてないのかもしれないですね。ひよこ鑑別師に向いてる人って、どんな人なんでしょうか?」
「そうですねぇ。その場で何を求められているか、ある程度感じ取って仕事ができる人かな。ひよこってピンキリで、1羽100円のもいれば、ブランド鶏だと1羽数万円するものもあるんですよ。時間とノルマと求められてるクオリティを、きちんと見極められる人が向いてると思いますよ」
「うわー! 数万のひよこを見分けるの、プレッシャーすごそうですね……!」
「いやほんと、いまだに鑑別って難しいですからね! 同じひよこは二羽いないし、見分け方もどんどん変わってきたりもするので、とにかく必死。還暦を超えたような熟練のお師匠方でも、まだまだ『難しい、わからん』と言いながら鑑別されてます。
ただ、難しいから面白いんですよ。簡単なことは飽きるけど、難しいことって飽きない。僕はそういう意味で、この仕事が大好きです」
「なるほどなぁ。それだけ長いことやってもまだまだ極められる職業って、貴重かもしれないですね。神谷さんは、今後も鑑別のお仕事を続けられるんでしょうか」
「はい、今後も続けていきますよ。
また、鑑別師は海外でかなり人手不足で、特に日本人が必要とされてるんですよ。日本は鑑別師協会がしっかりしてて、一定のクオリティを保てる腕がいい人しか海外に送り出さないから。なので、もっと国内でひよこ鑑別師というお仕事をアピールしていきたいですね。
あと、海外で働くのって観光とは全く違って、面白いんですよ! その場に根付いて仕事をするので、その国ってのがわかってくる。汚い部分も見えてきたりして、島国にはない面白さがありますよ。海外で働いてみたいって人も、ぜひ鑑別師という仕事を視野に入れてもらえると嬉しいです!」
「いやぁ、ひよこ鑑別師のお仕事について色々知れてとても面白かったです……! 神谷さん、本日はありがとうございました!」
というわけで、ひよこ鑑別師さんへのインタビューでした!
みなさん、いかがでしたか? いや〜、世の中には知らない仕事がたくさんありますね……まさか、ひよこ鑑別師の需要が海外にあったなんて!
私たちが普段食べている鶏肉も、もとをたどれば鑑別師さんの鑑別を受けていると思うと感慨深いです。
いや、もしかすると、スーパーに並んでいる外国産の鶏肉も、日本人鑑別師さんの手にとられたひよこかもしれません。そう思うとすごい……!
ちょっとスーパー行ってきま〜す!
社領エミでした。
写真撮影:まーさんぽちゃん
写真界のニュースター、まーさんぽちゃんです★
人の笑顔を最も美しく撮る事が人生の至高。
WEBや企業写真のフォトグラファーとしても活動中です。
Twitter:maasanpochan
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この記事を書いたライター
1990年生まれのアホなフリーライター。取っつきにくいことをわかりやすく噛み砕いたり、みんなが気になることをインタビューしたりしています。 HP|http://sharyoemi.hatenablog.com/