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おやつってだいすきです。ごはんと同じくらい、生活に彩りを与えてくれるもの。旅行もすきです。自分の知らない食文化を知ることができるから。
きっと、全国にはまだまだ知らないおやつがたくさんあるはず。ネットで検索するだけでは出てこない、土地に根付いたおやつも食べ尽くしたい……。
そんな食いしん坊な視点で、ローカルプレイヤーの皆さんにおすすめおやつを聞いてみると、おいしさが増すエピソードと共に教えてくれました。
日本各地のおやつを集めていつか図鑑をつくりたい、そんな連載です。
今回、おやつを紹介してくれるのは、沖縄のパン屋さん「宗像堂」の店主・宗像誉支夫さん。パン屋として駆け出したばかり、不安を抱える宗像さんの心を温めた、優しいお饅頭の話です。
おやつを紹介してくれた人:宗像誉支夫(むなかた・よしお)さん
琉球大学院で微生物を研究し、陶芸家の弟子となる。その後、自宅で焼いた天然酵母のパンが評判となり、「宗像堂」を開業。人と人との繋がりが醸し出すものも広い意味である、という考えから、2017年より「宗像発酵研究所」をオープン。所長として、多様な試みに取り組んでいる。
HP:https://munakatado.com/
Instagram:munakatado
沖縄県・首里の名物「のまんじゅう」
首里に店を構えるぎぼまんじゅう。「のまんじゅう」は、沖縄では知らない人がいない看板商品。粒あんの入った白い大きな蒸しまんじゅうで、のしを意味する「の」の字が書かれた縁起物だ。
「生地はあんまんに似ているけど、もうちょっとふわふわ優しい感じ。かなりボリュームがあるんですけど、ぺろっと食べられちゃいます。月桃の葉の上に並べて蒸すから、葉の香りが饅頭に移って、それがまたいいんですよね」
ぎぼまんじゅうに並ぶ商品は、「のまんじゅう」1点のみ。宗像さんは、そんなお店のスタイルにある種の憧れを抱いている。
「1アイテムだけで県民から愛されているって、お店としてすごくかっこいいじゃないですか。ああいう商いができたら素敵だなと思いますね」
全国にファンがいる人気のパン屋「宗像堂」。しかし、宗像さんは元々、パンづくりに興味がなかったという。
「以前は、微生物の研究をする仕事をしていたんですが、体調を崩して続けられなくなってしまったんです。その後、陶芸家に師事しました。当時は陶芸で生きていくんだと考えていましたね。でも、どうしてもつき詰めるタイプの人間なので、つくらせてもらっているものと、つくりたいもののギャップに苦しんでしまって。ストレスで喘息を発症し、働けなくなってしまったんです。長女が生まれたタイミングだったので、出産祝いでなんとか食い繋いでいました」
そんな時、宗像さんを心配した研究職時代の先輩から連絡があった。
「『あなた、食えてないらしいね』と、唐突にある人を紹介されたんですよ。それが、奈良にある楽健寺の、パンを焼くお坊さんでした。その方の講習会に参加したのがきっかけで、僕はパンを焼くことになったんです」
その先輩、通称「おばぁ」が、宗像さんの人生の軌道を大きく変えていく。
「パンを焼きはじめた当初は、おばぁからオーブンレンジを借りて焼いていました。今思うと、よく貸してくれたなって。僕がパンを焼いて、おばぁがお客さんを探してくるんです。しかもね、売れ残ったパンはおばぁが全部買って、配って宣伝してくれていた。とんでもない人でしょ(笑)。
そんなおばぁが時々買ってきてくれてたのが『のまんじゅう』。僕の体調を気にしてか、食紅の『の』が書かれていない白いお饅頭を買って来てくれました。それが、体も心もあたたかい気持ちにさせてくれたんですね。
あの頃は、僕も苦しかったけれど、それ以上におばぁは、色々と大変なことが重なって人生で一番きつかったんじゃないかと思います。そんな時期に、パンを買い取ったり、いつもご飯を食べさせたりしてくれて。僕たちにとっては、本当にスーパーマンみたいな人ですね」
おばぁは、時折「用事のついでに買ってきたさー」と言って『のまんじゅう』を持ってきた。そして、繰り返し宗像さんを励まし続けた。
「『食えてない時期が一番楽しかった、って、そう思える時がいつか必ず来るから』。呪文のようにそう唱えてくれていました。宗像堂は、おばぁに幾度となく背中を押されてはじまったんです。そんな風にめちゃくちゃ応援された経験があるから、僕らも、後輩たちをできる限り応援していこうと思っています。
おばぁが『のまんじゅう』を買って来てくれた時のこと、久しぶりに思い出しました。なぜだか、自分で買うよりも、おばぁに買ってもらうほうが美味しく感じるんですよ。だから食べたくなったら『さいきん食べてないなあ』っておねだりする。そしたらおばぁが『ついでに買ってきたさー』って持って来てくれる。僕たちにとって『のまんじゅう』は、おばぁの思い出と繋がっている、特別なお饅頭なんです」
ぎぼまんじゅう
沖縄県那覇市首里久場川町2-109 1F
イラスト:植田まほ子