鴨川の橋の上からこんにちは、柿次郎です。
いきなりですが、京都には、僕が全国で最も通い詰めている、いや、通い詰めてしまう酒場があるんです。
そのお店とは、京都市河原町にあるイタリアンバール「IL LAGO(イルラーゴ)」です。
値段は立ち飲み感覚ながら、本格イタリアンさながらのクオリティ高いチケッティ(小皿料理)が楽しめる
イタリアンバールにもかかわらず、ワインに劣らずビールの注文が多いこの店
特徴的なのは入り口の大きなコの字型のカウンター。いわゆる「立ち飲み」の楽しみ方だけでなく、うなぎの寝床のように奥には腰掛けられるテーブル席も用意されている親切設計です。さらに気の利いたアテと美味しいナチュールワインやゴクゴク飲める生ビールがお手頃な値段で楽しめる。僕らのような酒飲みからしたら魅力的な要素です。
ただ、「IL LAGO」に通い詰める理由はそこだけじゃないはず…!
ジモコロ編集長として日本全国のローカルを飛び回り、数多くの酒場でローカルおじさんたちと盃をかわし、それなりにいいお店も行ってきました。京都に行ったら必ず立ち寄ってしまう引力…。
オープンから5年。通算で20回、いや30回は遠方から訪ねていて、後輩や仲間たちに奢った金額を入れたら30万円ぐらい使っている気がします。でっけぇテレビが買えるぐらい通ってしまう動機…一人でも…友だちとでも…わいわい楽しめる空気…。
「もしかして京都滞在の孤独をIL LAGOが埋めてくれている…?」
ひとつの仮説が生まれました。
取材を引き受けてくれたのは、IL LAGO店主の堀田 樹(ほった たつき)さん。
もともとは同じ場所にあった『IL LAMPO』という人気店の常連だった堀田さん。お店が閉店することを聞いて、当時働いていた長野から地元・京都にカムバック。約4年前に前オーナーから引き継いで『IL LAGO』をオープンしました。
気さくな堀田さんの人柄の元に京都の街のお酒好きが毎夜集い、今では前のお店に負けず劣らずの評判店に。
そんな堀田さんは介護士からキャリアをスタートし、IT企業、長野で赤字ゲストハウスの経営立て直し……といった、現在の飲食業とはあまり接点を感じられない経歴の持ち主。
お話を聞いてみたら…
目の前の困難にYESのアンサーで飛び込み続けた男の生き様がありました。
今回は、元介護職で働いていたという駆け出しライターの関戸ナオヒロ(酒好き)も同行しました
※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで行ない、撮影の際だけマスクを外しています
『IL LAGOはみんなの水飲み場』
「ここは堀田くんのオープンしたばかりの二店舗目?」
「そうです。シロトクロっていう串揚げとナチュールワインが楽しめる、スタンディングのお店ですね」
「IL LAGOも大繁盛なのに、攻めの姿勢がすばらしいね」
「おかげさまでなんとかやれてます。柿次郎さんはずっとウチに飲みにきてくれてますけど、今日はなんの取材なんですか?」
「実は、IL LAGOはおれにとって『全国で一番通っちゃう店』なのよ。京都に来たら絶対に立ち寄っちゃう。その理由を一緒に解き明かしたくて」
「へえ〜!ほんと長野に住んでるのに結構な頻度で来てくれてありがたいです」
「あのー、すいません。柿次郎さんに誘われたからなんとなく付いて来ちゃったんですけど、IL LAGOってどんなお店なんです?」
「アテもお酒もウマいし……って、おれじゃなくて堀田くん。新規のお客さんに説明してあげて」
「改まって言われると難しいなあ……。簡単に言うと『みんなの使い勝手の良いお店』です」
「使い勝手?」
「料理を楽しみながらガッツリワインを呑む人もいれば、ビール一杯だけで帰る人もいて、お客さんが自分の好きな過ごし方ができる。”LAGO=湖”っていう意味なんですけど、みんなが心許せる水飲み場みたいな場所になれたらと思って名付けたんですよ」
「お客さんがそれぞれ、好きな使い方で楽しめるお店ってことですね」
「使い勝手がいい理由として、お店の造りも関係してる気がしてる」
長いコの字のカウンターでは常連から新規の客、時にはスタッフも入り混じってお酒を楽しむのが『IL LAGO』のスタイル
「全国のいろんな酒場で飲んできたけど、長いコの字カウンターと奥にテーブル席も備わっている造りは珍しい気がして。こないだの大人数の打ち上げのときもそうだけど、いろんなシチュエーションで使える酒場よね」
「造りでいうと、僕がずっと気に入っているのが天井なんですよね」
「確かにかっこいい! あのレンガ造りの天井も他では見たことないかも」
少し湾曲した形で組まれているレンガの天井。10年前通っていたときから今も惚れ続けているという
「この場所はもともと、僕のいきつけだった『IL LAMPO』っていうイタリアンバールで、ぼくがお店を引き継がせてもらったんです。いろいろと改装しましたが、この天井とカウンターは当時のまま。一生カッコいいって思えるし、僕はこの空間が大好きなんですよね」
「空間への愛が伝わってくる」
「IL LAGOの場合、こういうお店の設えや立地っていうハード面が相性のいいお客さんを選んでいると思うんですよね」
「わざわざ」の立地とイケてる空間が、良質なお客さんを呼ぶ
「ハード面が客を選ぶ? それって例えば、通りすがりに変なお客さんがお店に入ってこないってこと?」
「言ってしまうとそうですね。このお店って繁華街から少し離れているし、通りすがりでフラっと入ってくる場所じゃないんですよ」
「まず、通りすがらないもんね」
京都河原町駅から徒歩10分。路地裏にあるため、観光客はあまり通らない立地
「ウチの店を気になって調べて、わざわざ足を運んでくれる人が多いからこそ、良いお客さんが集まっていると思うんですよね。だからこそお客さん同士の会話も多いし、常連さんのコミュニケーションもええ感じで」
「なるほど。確かに他のお客さんと話してみても自然体で嬉しいし、旅先の孤独が埋まる感覚あるなぁ」
「あーほんまですか(笑)。湖の水飲み場でいろんな動物が集まる感覚ですね。『今日は2軒目行かないぞ』って心に決めてても、居心地がいいから自然と足を運んでしまうっていうのがIL LAGOの目指す場所なんです」
「わかるわー。毎回楽しすぎて深夜になるもんな…。そして堀田くんたちも遅くまで付き合ってくれるよね」
「常連さんと一緒に飲んで僕も酔っ払うことが大半ですね(笑)」
夜になるとしだいに店前にお客さんの自転車が並んでいくのも、地元のお客さんに愛されている証。飲み歩きの終着点がこのお店というお客さんも少なくない
誰ひとりとして寂しい思いをさせない空間に
「柿次郎さんもIL LAGOの空間のカッコよさと料理と酒のコスパに惹かれて、ついつい通っちゃってるんですか?」
「コスパって言うのやめよう!お店側に失礼」
「うっ、すみません。つい…」
「正直、いい店は世の中に山ほどある。やっぱり一番は居心地の良さなんじゃないかなって思ってる。長野から来た余所者でも受け入れてくれる懐の深さを感じるんだよね」
「転勤で移り住んできた人とか、地元の人じゃないお客さんも多いですね。立ち飲みの洋食で、ウチみたいなテンションの酒場って珍しいと思います」
「常連をつくるために意識している特別なことってある?」
「特別ってほどでもないですけど…意識しているのは初めて来てくれたお客さんに対して、何人もスタッフや常連さんを紹介することですかね?」
「ん?そこは堀田くんとか、ベテランスタッフがガッツリ接客してあげた方が良いんじゃないの?」
「僕だけがベタ足で接客してハマってもらっても、僕が休みの日にそのお客さんがお店に来たらガッカリしちゃうじゃないですか。今だったら柿次郎さんも、僕がいない日でも来てくれるでしょ?」
「たしかに! 今だったら堀田くんがいなくても他のスタッフと気軽に話せる仲だし、全然行っちゃうなぁ」
スタッフのシモンさんも、カウンターに立ちお客さんを迎える
「やっぱり話せる知り合いが多ければ多いほど、気軽に遊びに行きやすいじゃないですか。だから、営業中にもスタッフのポジションを変えてたくさんの人とお話できるようにしたり。カウンターにもアルバイトの子を入れますからね」」
「一見、立ち飲み風だけど、接客の配慮とサービスの質はイケてるBARぐらいしっかりしてるよね。コの字カウンターの真ん中で全体を俯瞰して、対応してくれるから居心地が良くなるんだと思う。でも、大変じゃない??」
「大変は大変ですけど、そこは工夫してますね。ワインの裏に説明を貼っておいて、アルバイトの子でも『こんなワインですよ』ってカンペを見ながら話せたら、カウンターに立つリスクが減るじゃないですか。いろんな人が立ってる方が、お客さんも話したくなると思うんですよ」
「うんうん。関西特有のコミュニケーションと良い抜け感みたいなのが絶妙かもなぁ」
「僕が惚れたように、IL LAGOっていう空間自体のファンを作りたいんです。常連は多いけれど、その空間の中に新規のお客さんを混ぜて馴染ませる。とにかくお客さんに寂しい思いをさせないようにしたいんです」
「おれはひとり飲みが苦手だから、やっぱり旅先の隙間時間でIL LAGOに立ち寄りたくなるのはそこだな。昼から夜まで通しで営業してるから、夕方にふらっと入ることも多いもん。そしてIL LAGOに寄れば、次の予定が生まれやすいし」
「ぼく、柿次郎さんみたいにひとり飲みしている人は全員寂しがり屋だと思うんですよ。誰かと話したいし、構ってもらいたい。僕もそうだったから『IL LAMPO』に通ってたんです」
「孤独の案内所… IL LAGOってこと!?」
「そのコピーで孤独が集まり過ぎたら大変なのでやめてもらえます?」
お店が『IL LAMPO』だった時代も、カウンターで話すのが大好きだった堀田さん
「旅人視点だけど、京都のお店やコミュニティってどこか入りづらい感覚があるんよね。その点、IL LAGOは常に開いてるというか。それも堀田くんのキャラクターが成せることだとマジで思う。おれ堀田くんのこと好きだから」
「そこまで!ありがとうございます(笑)。通えば通うほど新しい出会いが生まれる場所になってますしね。これからも通い続けてくださいね」
「ここで仮説を広げるんだけど、堀田くんの高校野球→介護職→WEB制作会社→宿泊施設の店長の経歴すべてが現在のIL LAGOに全部つながってるのよ!」
「え、どういうことですか?」
飲食をやってみて気づいた、介護≒飲食説
「まず孤独に気づいて、適度な距離で接客をする。この原点は堀田くんが介護の仕事をしてたのが大きいんじゃないかなと。今回、新人ライターのナオヒロを連れてきたのは彼も介護出身だから」
「え、そうだったんですか? 飲食一筋かと思ってました」
「大学を卒業して介護士として就職しました。初年度は現場で、2年目からは老人ホームの相談員という役職で働いていましたね」
「それってどんな仕事だったの?」
「施設の利用者とそのご家族、介護職員の悩みの相談や困ってることを解決する。みんなの繋ぎ役のような仕事ですね」
「自分も相談員にはすごいお世話になった記憶があります。とにかく、働きやすい環境を作ってもらっていました」
「全員が過ごしやすい施設を作るのが仕事なので。目配りとコミュニケーションを取って、相手の想いを汲み取ってあげることが大事でした」
「その経験って『IL LAGO』でも生かされてる?」
「みんなが楽しい場所を作れたらめっちゃハッピーじゃないですか。特にスタッフが楽しそうに働いている姿を見ると、自分も嬉しくなります。そういう場所作りっていう意味では似ているかも」
「うんうん。生粋のサービス精神というか。高校野球の副キャプテンとして培ったチームビルディング的な気配りと任せる力みたいなのが発揮されてるよね」
「野球部では練習メニューも作ってましたからね(笑)。あとは介護的な目線で言うと、足の悪い利用者さんが立ちあがろうとしたら転倒を防ぐために補助しますよね。そのためには早め早めに様子に気づいて行動しなきゃいけない。行動するためにはまず、気づかないといけないし」
「気づく力はたしかに介護では最重要能力ですね。反応して身体を支えられる身体性も必要だし。ちょっと目を離したがために大事故になりかねないので……」
「ウチの店でも、『お客さんに何かお願いされる前に動いてね』ってスタッフに伝えています。飲み物が空になったタイミングで店員さんから『おかわりどうですか?』とか聞かれたら嬉しいじゃないですか」
「結果、気持ちのいい接客に繋がっていると……それにしても、堀田さんはなんで介護職から転職をしようと思ったんですか?」
「介護の仕事は利用者さんのセーフティーネットを広げる仕事で、新しいことにチャレンジすることはあまり求められていなかったんです。当時の自分は、『まだ若いし、ガンガン仕事で燃え尽きたい!』みたいに考えてたので……」
「エネルギーをもてあましてたんだ」
仕事以外で燃え尽きられる場所を求めて飲み歩くようになったという堀田さん。その時代にIL LAMPOに通うようになったそう
「そんな自分だから、介護のゆっくりとした働き方が合わなくて。転職を考えていると、たまたま友人が働いている東京のWEB制作会社に誘われました。それですぐ上京して…」
「堀田くんが上京して初日にたまたま俺がその会社に偶然居たんよね。同じ関西出身の上京のよしみだし、『週末、一緒に映画行かない?』って誘ったら本当に来てくれて。そこから堀田くんと縁があるっていう」
「え、初対面でいきなり堀田さんを映画に誘ったんですか? 怖いなーそれ」
「そういう癖があるのよ」
「あーはいはい。『ゼロ・グラビティ』ですよね(笑)。千葉のIMAXまで観に行ったなあ」
「ちゃんと行ったんですか!」
「めっちゃ緊張したけど、先輩からせっかく誘っていただいたので……って話がそれましたね。それで、上京して頑張ってたんですけど、わずか半年で長野に左遷されたんです」
「え、左遷ですか?」
長野へ来たばかりの頃の堀田さん。当時のことは、こちらの記事にも詳しく描かれています
人間不信になりながらも築いた経営者としての土台
長野県・野尻湖のほとりにあるゲストハウス『LAMP』。いまではサウナの聖地として、予約困難の超人気ゲストハウスだが、堀田さんが出向いたときは万年赤字状態だった
上京してわずか半年で長野に行くことになった堀田さん。命じられたのは、『万年赤字のゲストハウスの経営を回復すること』という難題です。
当時、アウトドアスクールが主な収入源でオフシーズンの売上は絶望的。スタッフの給料を払うために会社が社長に借金をして捻出するという泥沼の赤字経営を繰り返していました。堀田さんは業界未経験ながら、大改革のリーダーとして舵を取ることになりました。
「実はこのLAMPもリニューアル前から通ってた場所で、おれの長野移住のきっかけにもなったんよね」
「ほんま不思議な縁がありますね」
「ゲストハウス運営の経験もないまま、見知らぬ長野の土地でゲストハウスの再建はヤバそう……」
「とにかく今までの経営方針じゃ確実に潰れる未来が見えていました。レストランを大幅に見直したり、宿泊の集客に力を入れたりして、初年度で黒字経営に回復させることができたんです」
「初年度で万年赤字のビジネスを立て直すってすごいことだ。改革をする上でのトラブルはなかったの?」
「トラブルだらけでしたよ(笑)。ゲストハウス運営もアウトドア事業のことも何も知らない僕みたいな若造がいきなり東京から来て、ワーワー経営に口出しをしたもんだから、みんなから不満が集中して。全員から悪口を言われて人間不信になったりしましたね」
「人間は追い込まれたら、身近な人に感情の矛先が向いちゃうからね」
「長野に来て初めの半年間は再建するために無休で働き続けたので、身体もメンタルもボロボロで……。泣きながらお客さんを車で迎えにいったりしていました」
「映画のワンシーンみたい。そんな状態からよく諦めないでやりきったのは根性あるな…。高校野球、介護職で培ったパワーだ」
「仮説に無理やり結びつけるのやめてもらえます? ゲストハウスをマネジメントしたときに、一番大変だったことってなんですか?」
「やっぱり人間関係の問題がいちばんキツかったですね。苦労してやっと見つけたレストランの料理人が、料理長とケンカして仕事中に帰ってそのまま辞めてしまったりとか」
「初期のLAMPってそんなにカオス状態だったんだ」
2016年の写真。同じ移住者としてLAMPのカオス期を支えた仲間。写真右=現LAMP社長のマメくん、写真真ん中=店長の早紀ちゃん
「どこのお店も立ち上げや再建はカオスになりがちですよね(笑)。その後、人気メニューが生まれたこともあって、経営が上向き始めてからはだんだんとスタッフ間の風通しも良くなったんです」
「売上がすべてを癒す、はマジ!」
「そんな苦難のゲストハウス時代を経験して、堀田さんが得られたものってありますか?」
「諦めなかったら事業は上手く行く!っていう成功体験ですかね。現場の責任者として、会社と現場の板挟みの立場で辛いこともありましたが、うまく調整しつつ売上を上げるっていう、経営者として大事な土台を学びました」
ゲストハウスの3周年記念のパーティーには、今まででは考えられなかった300人近くの人が集まった。LAMPの3年間を振り返った記事はこちら
YESの言葉で道を拓いてきた堀田さんの人生観
「堀田さんの話を聞いていると、先輩の無茶振りに応えたり、環境に適応するためにまったく躊躇いがないですよね。普通、イヤじゃないですか」
「それは尊敬している先輩に言ってもらったある言葉が僕の金言になっているんです。だから迷わなかったなぁ」
「その言葉っていうのは……?」
「『堀田はYESで返事しているときが一番いい動きをするから、NOって言わない方がいい』。シンプルでしょ? だから東京にも長野にも、ゼロ・グラビティにも行けたし、無茶振りにも答えてこれたんです」
「YESの申し子!」
「IL LAMPOを継がせていただいたのも、実際に長野まで来てLAMPを観に来てくれて、『このお店を作った人なら任せられる』って感動してくれたのが大きいです。ハードな長野時代がなかったら、きっとお店を譲ってもらえてないですね」
「なんかRPGみたいだね。外の世界で経験値を貯めて、最初の街に戻ってくるみたいな」
「最近、20代半ばの子たちから仕事の悩みを聞くことが結構あって。話を聞いたら大体の人が『仕事が面白くないから新しいことをしたい』っていう悩み。でも、僕はそれは違うんじゃないかなって思うことが多いんです」
「と、いうと?」
「いま与えられている自分の仕事と向き合って、目の前の壁を超えてきたからこそいい流れが来るし、チャンスを生かせると思うんです」
「なるほど」
「ただ不満を言うだけだったらチャンスは生かせないし、いい流れが来たことすら気がつかない。長野のときも、今までに全力で動いてきたからやるべきことがわかったんです」
「目の前の仕事をおざなりにするなってことか」
「課題に全力で頑張りながらフットワークを軽くして、いつでも飛び込める状態に仕上げておく。そうすれば面白いことって必ずできると思うんです」
「めっちゃいいこと言うなあ。実践してきた堀田くんだから出てくる言葉だ。今の若い子全員に聞かせたい」
「すごい大事なことを教わった。胸に刻み付けます!」
いい流れのまま、何かを与える人になりたい
「結果、堀田くんの経歴は全部が繋がってたね。どれだけ苦労をしようとも、目の前に向き合えばすべてが糧になる軌跡がたくましい」
「振り返ればそうかもしれないですね」
「みんなが楽しく働ける環境づくりの気配りは介護職とゲストハウス時代のマネジメントスキルに繋がってるだろうし。その応用力が俺らみたいな旅人や地元の常連さんの寂しさを埋めてくれて、結果的に愛される酒場になる」
「変な言い方ですけど、人間は誰しも酔っ払ってデロンデロンになったら赤ちゃんに戻ると思うんですよね」
「赤ちゃん!(笑)」
「介護で学んだのは、かまいすぎてもいけないし、放置しすぎてもいけないこと。自分の意志で振る舞ってもらって、適度な距離感で支えてあげる。人間関係自体がそういうものかもしれないです」
「なるほどなぁ。“YES”で体当たりしてチャンスに飛び込み続けてきた堀田くんの経験と知見が、IL LAGOにはぎゅっと詰まって現れている気がするね」
「結果をどう手繰り寄せるかは自分次第ですね。これまでの仕事を経験してなかったら、今のIL LAGOみたいなお店は作れてなかったと思いますね」
「今年でIL LAGOも5周年だけど、ひとつの節目として今後の動きで考えていることはある?」
「IL LAGOは僕がいなくても仕事が回るから、若いスタッフに任せようと思っています。2店舗目『シロトクロ』もオープンしたので、とりあえず3店舗くらいは飲食店を回せるようにしたいですね」
京都の人気飲食店が名前を連ねる、酒飲みの新ランドマーク「どんぐり会館」。この中に、堀田さんの2店舗目となる串揚げとワインのスタンディングのお店『シロトクロ』が5/20にオープンした。ワインボトルを模した白黒のロゴが中央に掲げられている
新店舗で繰り出す串揚げは、高級な太白胡麻油など5種をオリジナルブレンドの油で調理。何本でもサクサク食べられるほど軽い衣が評判だ
「正直、新規出店の話が来たときはすごく迷ったんです。でも、コロナもあってあんまり動けていない自分にモヤモヤしていて。せっかく誘っていただいたんで、YESをとった方が面白くなるだろうなって」
「でた、YESの精神。でも、いい流れに乗っているときは動きを止めない方がいいからね」
「こないだふと思い出したんですけど、20代の頃は、30歳までに自分の会社を持ちたいって思ってたなって。結果、29歳でIL LAGOを構えて実現できてるんですよね」
「有言実行だ」
「まだ漠然とした目標ですけど、次は40歳までに人がやりたいことを何かで支援できる存在になりたいです。なんの確信もないですけど、今みたいにやることをやってればきっと実現できると思います」
「すごい刺激をもらえる一日になりました。自分みたいな若手こそ頑張らないと」
「ちゃんとやってる人のところにはちゃんといい流れが来るんで!」
おわりに
今回、「なぜ私がIL LAGOに足を運んでしまうのか」という長年の疑問を解決しようと思ってスタートした今回の取材。IL LAGOは料理が、お酒が、美味しいだけじゃない。
一人ひとりに寄り添った、誰ひとりとして人を寂しくさせない空間だったから。
そして、その空間を“YES”で作り上げた、堀田さんという人間に魅了されているから。
IL LAGOに通ってしまう理由は、人が集まる酒場の共通感覚なのかもしれません。
「ひとり飲みしている人はみんな寂しがり屋。僕もそうだったし」
構成:関戸ナオヒロ
撮影:小林直博
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この記事を書いたライター
株式会社Huuuu代表。8年間に及ぶジモコロ編集長務めを果たして、自然大好きライター編集者に転向。長野の山奥(信濃町)で農家資格をGETし、好奇心の赴くままに苗とタネを植えている。