RolandのGS音源であるSC-88ProとかSC-55mkII、YAMAHAのXG音源であるMU100やMU2000などを昔使っていた……という人は少なくないはず。DAW全盛の時代からすると、もはや過去の音源モジュールであって、いまさら使う必要はないのだけど、あの当時に作ったMIDIデータがあるので、久しぶりに再生してみたい……なんて思う人もいるのではないでしょうか? なかには最近のDAWやプラグインを使うDTMの世界はよくわからないけれど、MIDIの打ち込みを中心としたDTMはわかるので、それを今やってみたい……なんていう人もいるかもしれません。
そんな人たちにとって、かなり使えそうな音源アプリ、KQ Sampeiが、先日iPhone/iPadアプリとしてリリースされています。730円という安価なアプリではあるけれど、かなりパワフルなマルチティンバー音源でGM、GS、XGなどのパラメータをサポートしているのはもちろん、最新のMPEにも対応。また、SoundFontやCompressed SoundFont、そしてDLS(Downloadable Sound)にも対応しているので、これらの音色データを持っていれば読み込んで利用することも可能。またある程度音色パラメータをいじれたり、SMFプレイヤー機能を搭載しているなど、思いつく機能は何でも入っているかなりパワフルなアプリなのです。開発したのはフリーの日本人エンジニアである雲英亮太(きらりょうた)さん。実際に試してみたところ、かなり楽しく使うことができたので、紹介してみたいと思います。
iPhone/iPadで動作するGM/GS/XG対応のマルチティンバー音源アプリ、KQ Sampei
昔の音源モジュールを今も大切に持っている人もいるとは思いますが、「故障してしまった…」なんて話もときどき聞くし、ヤフオクなどで中古を入手するのもいろいろリスクがあります。そんな中、iPhone/iPadをMIDI音源モジュールとして使おうというのが、今回紹介するKQ Sampeiです。
このKQ Sampeiには、デモデータとして、ホルスト作曲の木星(ジュピター)のMIDIファイルが収録されているのですが、それを再生した動画があるので、まずはこれをちょっとご覧になってみてください。
いかがですか?結構よさそうな音源であることが感じられるのではないでしょうか?
以前、「Sound Canvas for iOS徹底活用術[基本編] ~ ついに発売!僕らのGS音源が帰ってきたぞ!」といった記事で、RolandがSound Canvas for iOSというものを出していたことを何度か紹介していました。これは、iPhoneやiPadをMIDI音源モジュールとして使うためのアプリであり、本家Rolandが出していただけに、音の互換性も完璧でよかったのですが、残念ながらiOS 14に非対応ということで、2020年に配信終了しており、もはや入手することができません。
その後継というわけではないですが、近い用途で利用できるのが、このKQ Sampeiなのです。これはiPhoneにもiPadにも最適化された画面で提供されており、ユーザーの好みに合わせて色を変えたり、テーマを変えることができるようになっているのも楽しいところ。
各パートごとにボリュームやエクスプレッション、PAN、チューニング、またエフェクト、カットオフなどの設定ができる
いわゆるマルチティンバー音源となっているのでMIDI 1~16chを同時に受信して、それを鳴らしていくことが可能です。デフォルトではGM/GS互換の音源となっており、259種類のインストゥルメントプリセットと、11ドラムキットを備えています。SC-88ProやSC-55mkIIと同じ音というわけではないのですが、先ほどのデモデータを聴いても分かるとおり、かなりいいサウンドですよね。
デフォルトで、GS互換の音源が入っており、259音色+11ドラムキットを収録
スペック的にみると、デフォルトでは同時発音数は64ボイスになっていますが、マシンパワー次第で最大1024ボイスにすることができるあたりもうれしいところ。その意味では、従来のMIDI音源モジュールのスペックを大きく上回っているわけですよね。
デフォルトでは64ボイスだが、iPhoneやiPadのCPUパワー次第で最大1024ボイスまでいける
では、これをどのように使うのか?iOS/iPad OS上のAudio Unit v3およびInter-App Audioに対応したアプリとなっているため、いろいろな使い方が可能になっています。もっとも簡単な使い方は、このアプリでSMF(MIDIファイル)を読み込み、内蔵のプレイヤーを使って再生するという方法。もし手元にGSやGM、XGに対応したMIDIファイルがあれば、それをiPhoneやiPadに転送した上で、読み込めばいいのです。
MIDIファイルの転送は、以前「iPhone/iPadとMac/Winの連携はiMazingが超便利。音楽、写真の管理はもちろん、DAW/DTMデータのやりとりも楽々!iTunesが消えても問題なし」という記事で紹介したiMazingを使うと簡単ですよ。
iMazingを使うことでMIDIデータなどをWindows/Macから簡単にコピーできる
2つ目は、GarageBandやCubasisといったiPhone/iPad上で動作するDAWアプリのプラグイン音源として使う方法です。使い方はDAWごとに違うので、ここでは割愛しますが、まさにプラグインのように利用することが可能です。
Cubasis 3のAUプラグインとしてKQ Sampeiを組み込むことができる
3つ目はWindowsやMacなどのDAWを起動し、まさに昔のMIDI音源モジュールと同じように外部音源として利用する方法です。この場合、まずWindowsやMacにおいて、MIDIインターフェイスが必要となります。といってもたとえばSteinbergのUR22cとか、ArturiaのAudioFuse 2などのようにMIDI入出力を持ったオーディオインターフェイスを使うのが簡単ですね。
オーディオインターフェイスのMIDI OUTをKQ Sampeiへ送る
一方のiPhone/iPad側にもMIDIインターフェイスの取り付けが必要となります。こちらもMIDI入出力搭載のオーディオインターフェスを使うのも手ではありますが、手軽で便利なのがIK Multimediaが出している小さなMIDIインターフェイス、iRig MIDI 2です。これならオーディオインターフェイスのように外部から電源供給する必要もなくMIDIの入出力が可能になります。この2つの準備ができたらWindows/MacのMIDI OUTをiRig MIDI 2のMIDI INに接続すればOK。あとは、DAWを再生すればいいのです。
iPhoneにiRig MIDI 2を接続してPCからのMIDI信号を鳴らすことができた
4つ目は、Bluetooth-MIDI(BLE-MIDI)を使う方法です。KQ SampeiはBlutooth-MIDIもサポートしており、簡単に接続することが可能です。たとえばWindowsやMacのMIDI OUTに以前「MIDIケーブルをワイヤレス化するmi.1 Cableが先行発売を開始。Bluetooth MIDIの元祖、日本のベンチャー、QUICCO SOUNDが開発」という記事で紹介したmi.1 IIや「現時点、最強のBluetooth MIDIかも!? 各種BLE-MIDI機器と自動でペアリングしてくれるWIDI Masterがスゴイ!」で紹介したCMEのWIDI Masterを接続することで、ワイヤレスでiPhone/iPadとMIDI接続が可能になり、DAWからコントロールできるのです。
KQ SampeiはBluetooth-MIDIにも対応しているので、ワイヤレスで各種プレイヤーなどと接続可能
この際、インターネットのAbility Pro 4をDAWとして使うと、これはレコンポーザ互換のUIとなっているだけに、昔ながらの数値入力などもできるので、懐かしく楽しむことができますよ。
Ability Pro 4の数値入力画面。レコンポーザ形式で打ち込みができ、これでKQ Sampeiを鳴らすことができる
ところで、このKQ Sampeiがすごいのは、単なるGS音源にとどまらないという点。実は、標準搭載のGS音源は雲英さんが作った音色というわけではなく、S. Christian CollinsによるGeneralUser GSサウンドセットというフリーで公開されているSoundFontを活用したものになっています。つまり、SoundFontを持っていれば、まったく違う音源に変身させることが可能なのです。
ファイルインポートを使うことで、SoundFontやDLSを読み込んで使うことができる
手元にあったE-MU PROTEUSのSoundFontライブラリを読み込んでみたところ、バッチリPROTEUSになってくれたので、これはこれで楽しいですね。「SoundFontって何だ?」という人も多いと思いますが、興味のある方は以前に書いた「改めて見直そうよ、SoundFont」という記事を参考にしてみてください。世の中には数々のSoundFontがあり、フリーで公開されているものもたくさんあるので、探してみると楽しいですよ。
以上、簡単にKQ Sampeiについて紹介してみました。これだけのアプリが、730円で入手できるのですから、持っておいて損はないと思います。なお、開発者である雲英さんから、DTMステーション読者向けにコメントをいただいたので、こちらもご覧になってみてください。
開発者 雲英亮太さんからのコメント
KQ Sampeiは、General MIDI音源がメジャーだった時代を懐古して作成した音源です。古い規格がどんどん廃れていき、かつて作成したSMF(Standard MIDI File)の再生環境を新しい環境で整えるのは難しくなりました。既存のiPhone/iPadアプリは少し使いづらかったので自分で作ることにし、できあがったのがKQ Sampeiです。このサンペイという名前は、サンプル再生音源、ということで安直に決めました。
GM音源を再現するにあたって、ちょうどいい音色セットがあったので、サウンドフォントを採用しました。今となってはこの形式も化石のような存在ですが、単体のファイルでカスタマイズ性も意外と高く、素晴らしい規格だと思います。KQ Sampeiの内部では、基本的にサウンドフォント完全準拠で、DLSv2ほぼ対応の拡張を入れています。サウンドフォント再生音源には、規格にあるいくつかを無視する作りになっているものが多いのですが、KQ Sampeiでは規格文書にあるほぼ全てを実装したつもりです。ただ、サウンドブラスターをもう所持していないので、オリジナル音源との違いは確かめていません。
添付してあるサンプル曲は、ホルスト作曲の木星(ジュピター)です。これは、OpenScoreのパブリックドメイン(著作権フリー)として公開されていたものを、私が少し編集したものです。もともと音の長さも機械的でベロシティーくらいしかパラメーターが無いので、RolandのSC-8850で聞くとしょぼいです。しかし、KQ Sampeiの内蔵音源で鳴らすと、それなりに聞こえます。
また、手持ちのSMFを片っ端から鳴らしてみましたが、出来が素晴らしいものが結構あります。ポートを複数使うSMFも、読み込むことができます。
昔のMIDI全盛期を懐かしく思う方、昔のSMFを再生したい方にはおすすめです。そうでない方にも、使い勝手の良い音源としてご利用いただけると幸いです。
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