多くの人が悩まされている腰痛。日常生活の姿勢や筋肉のバランス不良といった肉体的な原因のほか、ストレスがその要因となるとも言われています。
そんな腰痛を予防・改善するためには、ストレッチを継続して行うことが効果的です。
今回は、鍼灸按摩マッサージ指圧師の資格を持つスポーツトレーナー・齋藤大輔さんに、腰痛に効くストレッチを教えていただきました。
自宅やオフィスで簡単にできるストレッチを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
株式会社ウィンゲート
齋藤大輔さん
鍼灸マッサージ師の資格を取得後、独学でトレーニングを学ぶ。School of movementの朝倉全紀氏の「ムーブメントファンダメンタルズ」から大きく影響を受け、ストレングストレーナーとしても活動。2018年よりメディカルとフィジカルの両方の観点から女子100mハードルの寺田明日香選手のサポートを始め、目標であった東京大会の出場を果たす。現在は、板橋区志村3丁目にある「ウィンゲートトレーニングセンター」で、一般の方から市民ランナーや実業団所属ランナー、陸上短距離選手、マウンテンバイク、実業団柔道選手、スノーボード(アルペン競技)日本代表など、幅広いカテゴリーのクライアントを指導。
腰痛になる原因とその対処法とは?
――腰痛に効くストレッチを紹介する前に、そもそも腰痛になる原因を教えてください。
齋藤:老若男女問わず約8割の方が、人生で腰痛になると言われています。腰痛にはケガや病気で腰痛になる「特異的腰痛」とそれ以外の「非特異的腰痛」があり、この非特異的腰痛は診断名がつかない腰痛で約8割の方が経験する悩みです。
その原因としては姿勢が起因しているものが多く、腰に負担がかかる姿勢はもちろん、長時間同じ姿勢でいることによる血行不良などが挙げられます。
あとは繰り返しの動作による筋疲労。農作業や草取りなど、中腰になって行う動作により腰痛が引き起こされます。
――8割の人が腰痛になるということは、日常生活の動作に原因が潜んでいるのでしょうか?
齋藤:例えばデスクワーク時の姿勢です。猫背が腰に良くないのは当然ですが、浅めに座って背もたれに寄りかかる姿勢も良くないですね。骨盤が後傾して背中が丸まるので、こういう姿勢は腰痛や肩こりになりやすい。
女性に多いのですが、腰にクッションを挟んで座るのも、反り腰になって筋肉が固まりやすいので注意が必要です。
――前傾で猫背になるのも良くないし、反るのも良くないと。
齋藤:真っ直ぐ座るのが理想ですけど結構難しいですよね。車の運転も肘をついていると、片側の坐骨に体重がかかってしまうので腰痛になる可能性があります。
また、立っている姿勢でも腰痛になりやすい方は、かかと重心になっていることが多い印象です。かかとに体重が乗ると足の指が浮くので、そういう方は気を付けてください。やはり足裏全体で真っ直ぐ立つのが理想です。
ネガティブ思考だと腰痛になりやすい!?
齋藤:いわゆるギックリ腰は急性腰痛、3ヶ月以上痛みが続いているものは慢性腰痛と言います。この慢性腰痛の方は痛みに敏感になっていて、それほど痛くなくても体が「痛い」と思ってしまうことがあるんです。
――腰痛は思い込みということですか?
齋藤:はい、思い込みという場合もあるかもしれません。人間の脳の認知部分が関係していて、慢性腰痛になりやすい人は不安や恐怖がある人が多いですね。腰痛の経験に引っ張られて、「また腰痛になるんじゃないか」と不安になるんです。
腰痛の原因の多くが心因性によるものとも言われていて、極端に言うとネガティブ思考だと腰痛になりやすいというか、痛みを感じやすかったり、痛みが出やすかったりするんです。
――腰痛になったことがない人は、腰痛を意識していないのでなりにくい。腰痛になったことがある人は、同じ動作でもネガティブに考えるからなりやすいと。
齋藤:最近の研究では脳の問題とも言われています。きっかけは心の問題かもしれませんが、人間の神経回路として、少しの痛みでも脳が勝手に「強い痛み」と認知してしまうようです。
例えば、手を同じ強さでつねったのに痛い人と痛くない人では、痛い人のほうが敏感ですよね。これは脳が痛いと思ってしまうため。そういった認知系の影響で腰痛になるのではないかと言われています。
体を動かすことが一番の腰痛予防
齋藤:その認知系の腰痛の人に対して、対処療法で良いと言われているのが有酸素運動です。有酸素運動をすると脳にも心にもポジティブな影響が出て、腰痛の患者が減ったという研究もあります。
――安静にするのではなく、体を動かすほうが良いと。
齋藤:腰痛サポーターなどは、実は腰痛予防に関しては一致した見解がないそうです。本当に痛くてどうしようもないときは装着したほうが良いと思いますが、何か作業する際に腰痛予防として装着するのはやめたほうが良いですね。
サポーターは腹圧をわざと高めて腰部を安定させて、動かないようにすることが目的ですが、腰痛のエビデンスでは“活動したほうが良い”と実証されています。
そのため、痛みがひどいときはサポーターをしても良いのですが、活動は維持するのが望ましいです。家でずっと横になっているのではなく、サポーターを巻いたままでもいつも通りの生活をしたほうが治りは早いと思います。
そう考えると、体を動かして活動性を維持することが、おそらく一番の腰痛予防になるのではないでしょうか。
腰痛予防にはストレッチが効果的
齋藤:そのなかでもおすすめなのが「ストレッチ」です。ストレッチは腰痛予防のエビデンスもあり、慢性腰痛には最も疼痛(とうつう)を軽減すると言われているので非常に有効なんです。
――ストレッチはあくまでも予防というニュアンスでしょうか?
齋藤:そうですね。痛みがある場合、例えば前屈動作で痛いときはやめたほうが良いです。でも、立ち仕事の後ちょっと腰がだるく感じる場合や、運動をして少し腰が痛いくらいのときは、ストレッチをやったほうが良いですね。
今回紹介するストレッチは、腰を直接伸ばすのではなく、腰を動かしやすくするために、脚やお尻を伸ばして体を柔らかくするためのストレッチです。
これにより骨盤の後傾などを防ぐことができ、姿勢改善につながります。血流も良くなるのでおすすめです。
――やはり体が柔らかいほうが腰痛にはなりにくいですか?
齋藤:はい、柔軟性はあったほうが良いですね。僕自身、椎間板ヘルニアに2回なったことがあります。体が硬かったので、それからしっかり柔軟性をつけました。
今回のストレッチも体を柔らかくするために行います。やりすぎも良くないので、1日1セットでも良いので、“痛気持ち良い”くらいのストレッチをぜひ続けてみてください。
オフィス向けストレッチ①:大臀筋のストレッチ
まず、椅子に座って行う「大臀筋のストレッチ」を紹介します。これは大臀筋と呼ばれるお尻の大きな筋肉を伸ばすストレッチです。
(左脚を伸ばす場合)椅子に浅めに座り、左脚を持ち上げて脚を4の字に組みます。足首は膝の上くらいに乗せ、左手で左膝を押して開きます。余裕があれば、その状態から左脚の足首を少し持ち上げ、てこの原理のように脚を開いていきます。
さらに伸ばす場合は、この姿勢を保ったまま体を前に倒していきます。骨盤を起点にして、背すじを真っ直ぐにしたまま前に倒れると、お尻をしっかり伸ばすことができます。
基本的には、このまま10~20秒キープ。無理をせず、気持ちの良いところで伸ばしていきます。反対の脚でも同様に行います。
オフィス向けストレッチ②:ハムストリングスのストレッチ
「ハムストリングスのストレッチ」も腰痛予防におすすめです。これは太ももの裏の筋肉=ハムストリングスを伸ばすストレッチになります。
(左脚を伸ばす場合)椅子に浅めに座り、左脚の膝を伸ばします。右脚は膝を直角くらいに曲げて座ります。
そして、左脚のつま先を上に向けた状態で、いけるところまで両手で触ります。腰から曲げるのではなく、お腹から曲げるイメージで前屈するのがポイントです。
体が硬くて届かない人は、膝を曲げてもOK。つま先を両手で持ち、徐々に膝を伸ばしていきます。痛くて届かないところで手を止めるよりも、膝を曲げても良いのでしっかり前屈するほうがハムストリングスを伸ばすことができます。
ゆっくり呼吸をしながら、この姿勢を10~20秒キープ。右脚も同様に行います。
自宅向けストレッチ①:中臀筋のストレッチ
次に紹介するのは、テニスボールを使った「中臀筋のストレッチ」です。中臀筋は、お尻の横にある筋肉で、ここが硬くなると腰痛になりやすいとされています。
(右側の場合)まず横になって肘をつき、テニスボールがお尻の外側(右の中臀筋)に当たるように置きます。中臀筋に当たっていれば痛みを感じるはずなので、その場所が目安です。
そして右脚は寝かせたまま膝を曲げ、左脚は膝を曲げて立たせてバランスを取ります。この姿勢で20~30秒ほどテニスボールを中臀筋に押し当てて圧迫します。
余裕があれば、この状態で少し前後に動くと刺激が強くなります。左側の中臀筋も同様に行います。
自宅向けストレッチ②:大腿四頭筋のストレッチ
横になって行う「大腿四頭筋のストレッチ」もおすすめです。太ももの裏の筋肉=ハムストリングスと合わせて、太ももの前面の筋肉=大腿四頭筋もしっかり伸ばしておきましょう。
(左脚の場合)左脚が上になるように、右向きで横になります。右手は顔の下を通して真っ直ぐに伸ばします。
左脚の膝を曲げて左手で足首をつかみ、グーッとお尻に近付けます。右脚は寝かせたまま膝を曲げ、体が倒れないようにバランスを取ってください。
これだけでも十分ですが、右足のかかとで左脚の太ももを押すことで、より大腿四頭筋を伸ばすことができます。余裕があれば、ぜひやってみてください。右脚のストレッチも同様に行います。
自宅向けストレッチ③:広背筋のストレッチ
最後に紹介するのは、床に座って行う「広背筋のストレッチ」。広背筋は、背中から腰や腕へとつながっている大きな筋肉です。
(左側の場合)背すじを真っ直ぐにしてあぐらで座り、左手を右方向にしっかり伸ばします。このとき、左手を真横に伸ばすのではなく、やや斜め上に伸ばすのがポイントです。
ストレッチは、筋肉の方向に沿って伸ばすことが重要になります。広背筋は斜めについている筋肉なので、手の位置が低すぎても高すぎても広背筋に作用しません。手を伸ばす角度がとても重要です。
また、手を伸ばすだけでも十分効果はありますが、テーブルの脚をつかむことでより広背筋を伸ばせます。テーブルの脚をつかむと体が安定し、しっかりとストレッチができます。
腰痛は適度な運動とストレッチで予防
今回、スポーツトレーナーの齋藤大輔さんに、腰痛の原因と対処法を教えていただきました。
腰痛を改善するためには体を動かすことが大事で、特に有酸素運動は心身共にポジティブにしてくれる効果が期待できます。そして、ストレッチも効果的なことが分かりました。
腰痛になってからではなく腰痛にならないために、適度な運動とストレッチをぜひ日常に取り入れてみてください。
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